「「あ……!」」
と偶然(?)にも風呂場の前で衝突しそうになった二人。
「ど、どうしたのかな? 由夢ちゃん?」
と目の端を微妙に震わせながらも小首を傾げ、さりげなく長女の威厳を漂わ
せながら柔らかく微笑んでみせる音姫。
「えっと………もうシャンプーがないんじゃないかなって思って見に来たん
だけど、お姉ちゃんは?」
こちらは眉をしかめつつも、負けじと微笑み視線を押し返す由夢。ちなみに
眼鏡はしていない。
「わ、私はほら、弟くんがバスタオルを忘れたんじゃないかなって。」
「ふ〜ん?」と大きな目を細める由夢「じゃあどうしてタオルを二枚も持っ
てるの?」
「ゆゆ、由夢ちゃんこそ、後ろ手に何を隠したのかな〜?」
「む……!」
「うぅ〜……!」
バチバチバチ、と姉妹の視線が絡み合って目には見えない火花を散らす。風
呂場の方からはシャワーを使っているらしい水音が断続的に届いている。つい
でに居間の方からは時計が時を刻む音も。
「えっと……」やがて苦しげに口を開いたのは音姫「……シャンプーなら私
が見ておくから、由夢ちゃんはそろそろお部屋に帰って宿題をした方が良いん
じゃないかしら?」
「宿題なら先に終わらせたから大丈夫だよ。お姉ちゃんこそ、朝ご飯の用意
とかで明日も早いんだし、タオルなら私が兄さんに渡しておくから先に帰って
良いよ?」
「で、でも……えっと………そ、そう! 実はお姉ちゃん、弟くんにちょっ
と大事なお話があって……その、クリパの事で注意を……」
尤もらしい言葉を並べてみても、視線を泳がせ大粒の脂汗を浮かべながらで
は説得力の「せ」の字もない。考えながら喋ってますよと言わんがばかりに引
き攣っている口元。
「そ……それなら私だって、そのぉ……クラスの出し物もあんまり忙しくな
いから、良かったら兄さんのクラスを手伝ってあげようかなって思って折角だ
から今の内に兄さんに直接話を聞いてみようって……」
焦りの余りにか頭に血が上って紅潮してしまう由夢の頬。こちらもこちらで
思考と喋りが上手く連携できていない所為で不自然なほどの早口になってしっ
ている。
「由夢ちゃん? それは明日でも良い……よね?」
「お姉ちゃんこそ、お風呂場まで押しかけてお説教するよりもクリパの当日
に監視してた方が良いと思うけどっ。」
「そんな事言って、お姉ちゃんがいなくなったら一緒にお風呂に入るつもり
なんでしょう! 駄目だよ、もう子供じゃないんだから!」
「お姉ちゃんこそ着替えも持ってこないで何しにきたのよ! 兄さんを独り
占めするなんてズルイよ!」
「お、お姉ちゃんは………お姉ちゃんだからいいの! 弟くんはお姉ちゃん
の弟くんなんだから……」
「だったら私は兄さんの妹だもん! お姉ちゃんだったら、ちょっとくらい
は妹の私に譲ってくれても良いじゃない!」
「それとこれとは話が別です! 我が儘言ったら駄目でしょう!?」
「我が儘じゃないもん当然の権利だもん! こんな時だけ『お姉ちゃんだか
ら』だなんてズルイ!」
「それは由夢ちゃんが!」
「お姉ちゃんだってっ!」
「あ〜良い湯だった………って二人で何してるんだ?」
「あ、お……!」
「ににに……」
「へ?」
「兄さんっ!」「弟くんっ!!」
「な、なんだなんだっ!?」
「なんで弟くんのお風呂はそんなに早いの!? 折角のチャンスが台無しじ
ゃない!」
「そうだよ兄さん! ちょっとくらいは私の身にもなってよね!!」
「いや、だから話が全然見え……」
「もう我慢の限界だよ、兄さんなんてっ!」
「弟くんなんて、こうしてやるんだからっ!!」
「ちょ、ちょっと二人とも何を………あ、アーーーッ!!」