「「あ………」」  
 またしても偶然(?)風呂場前で鉢合わせしてしまった朝倉姉妹。そし  
て浴室内からは相変わらず義之が入浴をしているらしい水音が。  
 「ゆ、由夢ちゃん? 今日は早く寝るんじゃなかったのかしら?」  
 「お姉ちゃんこそ、晩ご飯の片付けが終わったら帰るって言ってなかっ  
たっけ?」  
 仲良し姉妹らしく微笑みを浮かべながらも、互いを視線で威嚇して牽制  
し合う二人。もはや隠す気も無くなったのか、それぞれ持参した着替えと  
タオルをギュッと胸に抱きしめる。  
 「私はほら、純粋に姉として弟くんを労ってあげよかなって思っただけ  
だから。最近の弟くん、頑張ってるし、背中でも流してあげながら悩みを  
聞いてあげようかなって。」  
 「だったら私と一緒だね。一緒にお風呂に入って楽しくお喋りして、兄  
さんを喜ばせてあげようって思っただけだし。」  
 「由夢ちゃん……」徐々に声色が変わり始める音姫「……由夢ちゃんが  
押しかけたって、弟くんは困るだけなんじゃないかな? それにほら、こ  
の年で兄妹が一緒にお風呂にはいるっていうのも、お姉ちゃんはあんまり  
感心しないかなぁ?」  
 「それを言うならお姉ちゃんも一緒だよ。だってお姉ちゃんの方が私よ  
りも子供じゃないもん。」姉の迫力を眼力で押し返す由夢「いっそのこと、  
お姉ちゃんはこれを機会に兄さん離れを始めた方が良いと思うけどな、私  
は。お姉ちゃん、なんだかんだ言ったって兄さんには甘々だもん。」  
 「むむっ。」  
 「うぅ〜。」  
 と更に睨み合うこと数秒。  
 
 「ふぅ」と大きく息をついた音姫「この前も、こんなことしてる間に弟  
くんのお風呂が終わっちゃったんだよね。こうしてここで睨み合ってても  
不毛じゃないかしら、由夢ちゃん?」  
 「そ、そうだね。」とバツが悪そうに視線を逸らす由夢「こんなことで  
兄さんを逃したら、それこそ本末転倒だし、私とお姉ちゃんが啀み合って  
も一文の得にもならないよね。」  
 「でしょ?」と普段と同じ笑顔に戻った音姫「だから、今日の所は三人  
一緒に入るって言うのはどうかしら? 由夢ちゃんも、このまま時間とチ  
ャンスを無駄にしちゃうのは嫌でしょう?」  
 「微妙に騙されてるような気がしないでもないけど……お姉ちゃんの言  
うことにも一理あるのは確かだと思うし、お姉ちゃんと喧嘩してても全然  
楽しくないから、今日はそれでも良い……かな?」  
 「よしっ! じゃあ二人で一緒に弟くんを強襲しちゃうよ!」  
 「えへへ、了解っ!」  
 にこっ、と今世紀最大の悪戯を思いついた子供のような笑顔で笑い合っ  
た二人は、いそいそを服を脱いで風呂場に乱入する準備を整える。こうい  
う場面での連携の良さは姉妹ならではといったところか。  
 「それで、由夢ちゃん?」  
 「ん?」  
 「先に確認しておきたいんだけど、とりあえず今日の所は私が弟くんを  
洗ってあげるって事で……」  
 「それよりもぉ、お姉ちゃんが後ろで私が前って事で……」  
「ええっ!?」ぱさり、とスカートを落としたところで動きが止まって  
しまった音姫「ま、前って……そんなの駄目だよ由夢ちゃん! そんなエ  
ッチなことはいけませんっ!!」  
 「だ、だって兄さんの体は一つしかないんだから、二人で洗おうと思っ  
たら分け合わないと駄目じゃない! 此処まで来て独り占めなんて、お姉  
ちゃんズルい!」  
 背中のホックを外そうとしていた由夢も反撃を開始する。  
 「そんな言い訳をしたって駄目なのものは駄目です! 前って言ったら  
おち………由夢ちゃんにはまだ早すぎます!」  
 「うわうわっ! 私、そんなこと言ってないもん! イヤらしいのはお  
姉ちゃんの方だよっ!」  
 「それは由夢ちゃんが!」  
 「お姉ちゃんだってっ!」  
 
 「はいはぁ〜い、どちらさんも御免なすって御免なすってぇ♪」  
 と何処からともなく出現した小柄な陰が二人が散らす火花の下を軽い足  
取りで潜り抜け、ピョコピョコと大きなリボンを揺らしながら脱衣所へと  
突撃してゆく。  
 「や、あの………」  
 「あれれ……?」  
 その後ろ姿を呆然と見送る姉妹の前で、少女(?)はルパンダイブ並の  
素早さでポイポイポイっと服を脱ぎ散らかし、まるで何事もなかったかの  
ように無邪気な笑顔で何も持たずに風呂場の扉を開け放つ。  
 
(ガラガラガラッ!)  
 
 「やほ〜、よっしゆっきくぅ〜〜〜〜〜〜ん♪」  
 「って、さ………!  
   
 (バタン!)  
 
 『なななな、なにしてるんですかっ! そんな格好で!?』  
 『見ての通り、義之くんとお風呂に入りに来たんだよ♪ いやぁ〜、ほ  
んとに久しぶりだよね〜?』  
 『だ、だからって前が……せめてタオルか何か……!』  
 『気にしない気にしないっ。義之くんがこぉ〜〜〜んなに小さい頃はボ  
クがお風呂に入れてあげたことだってあるんだし、ボクは全っ然気にしな  
いから平気だよ〜。』  
 『おお、俺が気にしますから! っていうかお願いですからこっちに来  
ないで下さいって!!』  
 『うわぁ………暫く見ないうちに凄っごく逞しくなったんだ。ほらほら、  
おかーさんに良く見せてごら〜ん?』  
 『だから変なところを見ようとしないでくださいっ! っていうか、お  
母さんじゃないですしっ! 例え親でもこの年で一緒に入ったりはしない  
ですからっ!』  
 『あ…………あはは〜っ! 義之くん、照れてるんだ? ホントにかわ  
ゆいな〜もぉ。こやつめ、こやつめぇ〜〜〜〜♪』  
 『って胸がっ! うぷっ! 顔! 胸がっ!』  
 『にゃははは〜♪』  
 
 「あ………」  
 「ああぁ……」  
 すっかり取り残された朝倉姉妹は、文字通りの抜け殻と化してた。  
 

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