「充電完了!」  
義之君…大きくなったね。背中だけでもボクなんかよりよっぽど大きい…  
「…ごめんね」  
「さくらさん?」  
ごめん…ごめんね…  
「さくらさん?さくらさんってば!」  
義之君が何か言ってる気がする…ボクには聞こえないよ。ボクには義之君の声を聞く資格もない。ただ謝る事しか出来ないんだ。  
なんでだろう。絶対義之君の前で泣いちゃダメだって思ってたのに。涙が止まらない。  
ボクの涙が義之君の服を濡らす。気付かれてしまう。  
「…さくらさん」  
義之君は何も知らないんだ。だからこんなに優しい声でボクに話しかけてくれる。  
…なにか温かいものが、ボクを包んだ。  
「…!」  
「さくらさん…どうしちゃったんですか…」  
気がついたら。  
義之君は向き直ってボクを抱き締めてくれていた。とっても大きな胸に、ボクの体はすっぽり入る。  
いつの間にか男らしい、大きな胸。回された腕も暖かくって…お兄ちゃんみたい…  
…いけない。ボクは義之君のお母さんなんだ。  
胸がドキドキして来た。そんな感情は起きちゃいけない。  
「ちょ、ちょっとあくびが出ただけで…」  
「嘘です」  
真面目な声で言われた。そんな風に言われちゃうと黙るしかないのに。  
「だ、大丈夫…」  
はなれようとするボクを離してくれない。逆にもっと深く抱き締められてた。  
…ボクのドキドキが止まらない…  
「もっと…」  
「…」  
「もっと…色々話して下さい。もっと甘えて下さい。僕たちは家族でしょう?」  
「…義之君」  
「さくらさんがなにを思ってるかなんてわからないけど…頼ってくれないなんて寂しすぎます」  
義之君の方が泣きそうな声。男の子なのに、こんなに他人の事を思いやれて。  
いい子に育ったね。  
…本当に甘えたくなっちゃうじゃないか…  
「ごめん。言うことは出来ないんだ」  
「…」  
「だけど義之君の気持ち、ボクには嬉しいよ…」  
義之君の体温はまだボクを包んでいる。  
…今ボクが言った事。これは親子の言葉じゃないよね。愛してるトコは一緒だけど、ちょっと違う。  
顔を見上げた。  
義之君の瞳にボクが映る。  
距離がだんだん近付いて…そして…  
「義之君…」  
 
ボクは、過ちを犯した。  
 
 
とまらない…とまらないよ。義之くんが欲しくて仕方が無いんだ。  
こんな事しちゃいけないのに、こんな事しても、もうすぐお別れなのに…義之くんが欲しい…  
「さ…くら…さん」  
「よ…しゆき…くん」  
ボクを受け入れてくれてる。  
ちょっと唇を触れさせただけだったのに…今は舌まで受け入れてくれてる。  
ボクが義之くんの口の中を味わうと、同じように義之くんはボクの口の中を楽しんでくれた。  
 
…もっと好きにしていいんだよ…ボクは…義之くんならいいんだ…  
 
「ん…ふぅ」  
頭の中がぼうっとして、息もなんだか切なそうに聞こえてくる。  
口の回りはボクと義之くんの唾液でベタベタになっちゃった。でも、止まらない。  
ちょっとだけ唇を外すと、舌と舌が糸で繋がってた。ボクと義之くんの、愛の糸。  
少しだけ、見つめ合う。  
「さくらさん…僕は…」  
「いいんだよ義之くん…」  
嫌がる訳ないじゃないか。ボクはずっと…こうしたかったんだ。  
義之くんを愛してた。  
でもボクはお母さんだったんだ。だから、今まで考えないようにしてきたんだ。  
今はもう…無駄な努力だよね…  
「義之くん…」  
「はい…」  
「続き…しようね…」ボクから言ってはいけなかった筈。  
もういいんだ。義之くんと最後の思い出を作りたいんだ。  
 
…ボクも実は経験が無いんだけどね…  
 
ぽかぽかの居間じゃなくて、やっぱり…ちゃんとした場所で…  
「さくらさん」  
「…ん?」  
「僕の部屋で…」  
ボクの、わがまま。  
「義之くんがお姫様抱っこして連れて行ってくれたら…いいよ?」  
「…」  
黙って、ボクの体を持ち上げる。ボクには大きすぎる、義之くんの腕の中。  
…見下ろしてくれてる目も…優しいんだ…  
 
そのまま廊下に出て、階段を上っていく。一段一段、義之くんが自分の部屋に近付いていくと、ボクのドキドキもおかしくなって…  
 
 
 
ベッドの上に下ろされた時…ボクは…興奮しちゃってたんだ…  
 
 
 
ベッドに置かれたボク。見下ろす義之くん。さっきのキスの続きがしたくて、ボクは目を閉じる。  
…してくれた。  
ボクの唇に、何度も義之くんの柔らかい唇が触れる。  
…すごく幸せだって思う。ずっとひとりぼっちだったボクを、救ってくれたのは義之くんなんだ。  
それだけで、そばにいられるだけで充分だって、思ってた。  
でも今は…ボクは続きがしたいって言ったんだ。恋人同士がするようなコト。  
何をするかなんて、ボクにもわかってる。わかってるから今、ボクはドキドキしてるんだ。  
 
「そろそろしよう…義之くん…」  
義之くんにも経験は無いんだ。ちょっと不安だけど、ボクから誘ってみる。  
「あっ、あのっ!」  
「うん?」  
「…その、僕、経験が…」  
「知ってるよ…ボクは君の保護者だもん…」  
「…はい」  
「さあ…ボクの言うとおりにするんだ」  
本当なら好きな所を触って、好きにしていいよって言いたいけど、義之くんには分からない。  
ボクが…頑張らないと。  
「脱がなきゃできないよ?」  
「え?あの…」  
「昔は裸くらいみせてくれたよね?…それに」  
「?」  
「義之くんがどれくらい成長したのかも、見てみたいんだ」  
「…はい。わかりました」  
 
隣で衣擦れの音がする。ボクは深呼吸して、頭を冷やす。  
できるわけ…ないんだけどね。  
胸に手を当てて、天井を眺めてみた。蛍光灯の光が明るくて、義之くんの部屋はその光で真っ白だった。  
衣擦れの音が、消えた。  
「さくらさん?いいですよ…」  
覗き込んで来た、義之くんの体。いつの間にかお兄ちゃんみたいな、カッコイい体になっていたんだね。  
ボクの方は…全然成長してないのに。  
「くす…」  
「な、なんですか?」  
「義之くんも成長したんだね。昔はボクの指を握って音姫ちゃんちに行ってたのに」  
「あ、あたりまえですよ!」  
「ゴメンゴメン、なんか、自然に笑えちゃって…」  
少しだけいつもの空気かな。ちょっとリラックスできたよ。…こういう所も、義之くんの良いところなんだね。ボクや、音姫ちゃんや、由夢ちゃんを和ませてくれる、そんな雰囲気。  
気づけなくて、ゴメンね。義之くんの成長に。  
ボクも、準備しなくちゃ。  
「義之くん」  
「はい」  
「ボクも…脱いでいいかな?」  
「…この場で脱ぐんですか?」  
「構わないよ。それに、しっかり義之くんを感じたいんだ」  
「わかりました。じゃあ…」  
 
ここで背中を向けてくれるところも義之くんらしいなあ…。  
ボクは見られてもいいんだよ?義之くんにも慣れて欲しいし。…いつか、ボクよりずっと素敵な女の子と、するために。  
 
「義之くん?」  
「さくらさん?…ってうわっ!」  
後ろを向けてベッド際に座っていた義之くんに、ボクが飛びついた。  
大きな背中。  
「あはは。やっぱりびっくりした?」  
「さくらさんったら…」  
「ちょっとこのままで…いてもいいかな?」  
「…はい」  
ボクの体を、目一杯押し付ける。  
堅い義之くんの体。柔らかいボクの体。温かな義之くんの体温が、ボクに流れ込んでくるみたいだ。  
…背中だけじゃ終われない。  
「義之くん」  
「…」  
「ボクの体、見る?」  
「…はい」  
「こっち向いて、いいよ…」  
ボクが一旦手を離すと、義之くんはこっちに向き直った。  
ボクは、体に自信がない。おっぱいだってちっちゃいし、体も痩せっぽっちなだけなんだ。  
義之くん…どう思うんだろう…  
 
「さくらさん」  
「なに?」  
「抱きしめて…いいですか?」  
ちょっと、予想外の言葉。  
ボクは、拒まない。  
「…いいよ。ぎゅっとしても…」  
義之くんの手が、こっちに伸びてくる。ボクの腕の下を通って、背中に回って、ボクの背中に手が触れて。  
 
義之くんの手に、力が入る。  
次の時には…  
「義之くん…あったかいね」  
「さくらさんも…あったかいですね」  
優しく、抱きしめてくれてた。ボクが、絶対苦しくないように。  
ボクの頭が、真っ赤に染まっていく。何も考えられなくなる。裸で、義之くんと抱き合っている。  
夢にまで見ていた事。  
 
ボクがベッドに横になると、義之くんは横に座ってボクを見下ろす。  
ボクの体は全部、義之くんが見られるようにしてあげた。  
ちょっとだけ脚を広げて、繋がる所も隠さないように。  
義之くんも顔が真っ赤だけど、ボクの言うことはしっかり耳に入ってるみたいだ。  
「にゃはは…あんまり、可愛い体じゃないよね…」  
「いえ、僕には…凄く可愛く見えます」  
不意打ちのキス。義之くんの方から、してきてくれたんだ。  
ボクはしっかり、義之くんの舌に応えてあげる。  
「ぷ…は」  
 
もしかしたらもう、言葉はいらないのかも知れないね。義之くんが自由にボクを抱いてくれたら、ボクはそれでいいんだ。  
義之くんが、触りたいって言えば触って良いし…繋がりたいって言えば…ボクは、乙女を君に捧げるよ。  
義之くん。ボクを、女にして。  
 
 
キスばっかりし続けた。ボクはそれだけ義之くんが欲しかった。何回しても、次の唇が恋しくて…口寂しいって、こんな感じかな?  
きっとお兄ちゃんと音夢ちゃんも、こうしてたんだね。50年も前に。  
…ボクも待ってたんだから、いいよね。少しだけ妬けちゃうよ。  
「あ…」  
「さくらさん…好きです」  
ボクの首筋に、義之くんの唇が落とされていく。少しずつ増えていくキスマーク。それよりボクはぞくぞくして、頭がぼうっとして、義之くんに抱き締められてた。  
 
一度、義之くんが離れた。上体を起こしてボクを見下ろす。  
「胸…触ってもいいですか?」  
「にゃはは…ボク、ちっちゃいよ?義之くんは大きい方が…」  
「さくらさん」  
「…うん…いいよ」  
哀願してるって言うより、ボクを気遣ってくれてる様な声。ホントに、胸には自信が無いんだ。義之くんの友達の中に、ボクよりちっちゃいコはいないんじゃないかな?…それでもいいなら…  
 
始めて、ボクの胸に他人が触れた。相手は義之くん。…凄く…嬉しい。  
プニプニのボクのボクの胸に、被せるような手。  
「あ…ひゃ」  
「柔らかいです…」  
凄く、切ない感じがしてきた。  
 
ボクも、女の体をしてたって感じる時。おっぱいが男の子の手に反応して、…硬くなる。  
「義之くん…」  
「は、はい?」  
「先っぽ…触ってくれるかな?」  
「え?…はい」  
よ、義之くんがボクのおっぱいを…愛撫してる。反応しちゃったボクのおっぱいを、義之くんは優しく撫でたり、こすったりしてる。  
…切ない…よ…  
「ひゃあっ!」  
義之くんがボクのたっちゃったトコを口に含んだ。さっきまでキスしてた口で。  
もう片方の手は、もう一つのたっちゃったトコを触ってる。  
もう…前置きはこれくらいにしよう…  
 
「よ、義之くん…」  
「は…い」  
「も、もう義之くんは、準備できてるよね…」  
「はい…」  
大きくなった、義之くんのソコ。ボクと繋がる、オトコノコの場所。  
…普通なら、ボクのオンナノコも可愛がって欲しいんだけど…バレたらいけない。乙女だって。  
きっと義之くんは気づいて、遠慮しちゃうから。  
だから…  
「ボ、ボク、もうぬるぬるしちゃってて…」  
「…」  
「…いいよ義之くん…来ても…」  
義之くんはボクの脚の間に、腰を割り入れる様にして、オトコノコをあてがう。  
義之くんは経験が無いはずだから、ボクがオンナノコを合わせてあげる。  
 
「ちょっと、約束して欲しいんだ」  
「なんですか?」  
「ボクの顔を見ながら…入れてくれるかな?」  
義之くんは、コクリと頷く。  
ちゃんと理由があるんだよ?一つは、血が出る所を見られない為。きっとばれちゃうんだろうけどね。  
もう一つは…お兄ちゃんから完全に離れる為。ボクが乙女を捧げた相手は義之くん。それをはっきり感じたかったから。  
 
義之くんと…一つになれる。繋がる場所を合わせて、ボクは義之くんの首に腕を絡めた。  
…お母さんのつもりだったのに…君を愛してしまった。君が応えてくれたのは嬉しいけど、いけない事だったんだ。  
今は、辞めよう。義之くんとボクは、男女の契りを交わす。  
ボクは純潔を捨てて、君に愛される事を望んだんだ。  
義之くん…  
「さくらさん…いいですか?」  
「う…うん…」  
少しずつ感じる異物感。まだそんなに痛くない。  
義之くんは一定のペースでボクの中に入ってくる。  
最後の…膜まで…もう少し…ソコを貫いて…  
「ひゃうっ!」  
声にしないには、耐え難い痛み。  
「さくらさん…入ったみたいです…」  
「うん…動いて…」  
ボクの涙を、義之くんは捉えてた。  
 
「さくらさん…もしかして?」  
「にゃはは…もしかして?」  
バレちゃった。  
義之くんの目が、急に泣きそうになる。  
「だ、大丈夫だよ…ほら…義之くん…動い…」  
ボクの唇が、また塞がれた。痛みはまだ残ってるのに、ボクの目はトローンとしてしまう。  
「義之くん…」  
「ボクが…さくらさんの…」  
「そうだよ…ボクの…始めてのヒト」  
繋がった場所はまだ熱をもってた。  
動いたら義之くんは快感を得られるのに、動かない。  
「だから…義之くんを気持ちよくさせてあげたいんだ。今のボクは、君を一番愛してるから」  
「…わかりました」  
義之くんがゆっくりと腰を動かす。それでもボクは始めての経験で、今までに無い快感を掴んでいく。  
義之くんがボクの中に、入ってる。ボクの血とエッチな液で汚れちゃったけど、義之くんの動きはだんだん激しくなっていく。  
「あんっ…あん」  
こんな声、ボクには似合わないのに…感じてしまう。  
「さくらさん、気持ちいいです…」  
「あ…ありがとう…」  
男の子の本能で、動きの激しさは増していく。  
ボクもきっと、本能で義之くんに快感を与えてるんだと思う。  
「さくらさん…俺、出そうです」  
「義之くん…中でいいから…最後まで止めないで…」  
部屋に響く、いやらしい水音。その中心は、ボクと義之くんのつながる場所。  
「あっ…あっ」  
「本当に…中で?」  
「うん…義之くんの赤ちゃんなら…できちゃってもいいよ…」  
きっと…その頃にはボクはいないだろうけどね。  
それでも今だけ、義之くんと恋人なんだ。オトコノコとオンナノコを重ねてるんだ。  
ボクの中に…義之くんが欲しいんだ…  
「さくらさんっ!」  
「義之くんっ…出してぇ…ボクの中に…」  
 
ボクの中に、義之くんの精が放たれた。  
 
 
 
「義之くん…」  
「なんですか?」  
「話さなきゃならない事があるんだ…」  
柔らかなベッドに包まれてボクは話す。義之くんに、真実を。  
義之くんの生まれの秘密、ボクの秘密、そして…動機。  
「結局、お兄ちゃんと音夢ちゃんがうらやましかったんだ…ボクが気が付いたら付き合ってて、結婚して、子供が出来て、音姫ちゃんたちも生まれて…」  
今考えると音夢ちゃんへの嫉妬だった。お兄ちゃんを取られちゃって、ボクは時代に取り残されて…  
それで、ボクは思ったんだ。家族が欲しいって。だから君と言う、義之くんって言う罪のない命を生み出したんだ。  
結局、ボクの償罪が義之くんの命を奪ってしまう…。  
「ごめん…ごめんね…」  
罪は償わなければならない。ボクの願いは罪だったんだ。  
「本当に…ボクは…願う事も許されなかったのに…」  
また、涙が落ちていく。その涙は義之くんの肌を伝う。  
「さくらさん…」  
ボクを、ボクの全身を、義之くんはそっと抱き寄せてくれていた。  
 
ちょっと寝不足だね。義之くんが側にいるとぐっすり眠れると思ってたんだけど、逆効果になっちゃった。  
「ん…」  
「…もう朝ですよ」  
「…そうだね」  
この眠気が心地いい位。ちょっと疲れてるのは自分でもわかる。  
 
義之くんが一晩中、慰めてくれたから。ううん…こういう言い方はいけないよね。  
一晩中…愛してくれたから…  
昨日まで乙女だったのが嘘みたいだよ。心が溶けるってこんな感じなのかな。義之くんにも恥ずかしい声たくさん聞かせちゃったし。  
なにより淋しくなかったんだ。始めて、ボクが望んだ人と結ばれたから。  
「ね?義之くん?」  
「な、なんですか?」  
「なんでもないよ〜♪」  
「…」  
時間は迫って来てる。ボクの最後の仕事、ボクがボクでいられる時間。義之くんとの別れまで。  
儚い望みだけど、叶わないだろうけど、ボクは願う。義之くん「との」幸せな未来を。それが叶わないからボクは代わりに、義之くん「の」幸せを願う。  
…時間が惜しくなって来ちゃった。  
「義之くん?」  
「…なんですか?」  
「もう一回しない?」  
「…いいですよ」  
「それでこそボクの義之くんだよ!」  
こんな日やこんな時間が、ずっと続けばいいのに…  
 
 
ご飯も食べずにいたら、日は傾き始めてた。  
「…そろそろ着替えないと」  
「…何にですか?」  
「う〜ん…死に装束?」  
「せめて戦装束くらいに言って下さい…」  
「にゃははっ!」  
ベッドから抜け出そうとするとき、大きな腕にボクの自由を奪われる。  
 
後ろから聞こえてくる、未練のある声。  
「…どうしても帰って来れないんですか…」  
「うん…ごめんね」  
義之くんの手に触れると、義之くんは腕をどけてくれた。  
 
振り返って、最後のキスを交わして。  
 
ボクは部屋を出ていく。  
 
 
さようなら。義之くん。  
 
 
今日の桜は、いつもより綺麗に見えた。夜桜だからかな?月に映えて、花びらを螺旋に舞散らせていた。  
これがボクの罪。ボク=桜。ボクは、罪だ。  
両手を琥珀色の幹につく。ボクの意識を送り込む様に…  
…まるで逆に吸い取られてるみたいだ。ボクの意識はまだあるけど、正直最後にボクが残るかはわからない。  
 
…ダメ…かな…諦めたくないけど…でも、最後までやるよ。義之くんの為に…  
 
思考がとぎれて…闇が見えて…  
 
何故か無意識の内に見える、今までの出来事。走馬灯って奴かな?そのほとんどはお兄ちゃんじゃなくって。  
 
義之くんで埋め尽くされていた。  
 
ボクの愛しい子供で、ボクの恋人。  
 
ボクは、この桜と永遠を過ごす。  
 
どうせ永遠を過ごすなら、義之くんの思い出の中ってのも悪くないよね。義之くんの命の源になって…  
 
 
そうしてボクは、眩しくて孤独な世界へ旅立った。  
 
 
 

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