看護士になろうと、島を出て本島に渡った音夢であったが
初音島とは違い何かをお金がかかる。
そして音夢は本島の看護学校で出来た友達に誘われるまま夜は如何わしいお店で働いていた。
普通この手の店で働く場合は、源氏名が必要であるのだが、
音夢という珍しい名前だからか、音夢はそのままの名前でお店に出ていた。
この店の人気を支えているのは女の子の水準の高さもあるが、
この店の特徴である、お客の要望に余すところ無く答えるイメクラがなによりの人気の秘訣である。
「音夢たん…ハアハア」
今日もまたこの店のお客となった男が部室の戸を開ける。
顔を油でテカテカさせ、寂しくなった頭部に汗をかいた小太りの如何にもキモオヤジといった容貌の30前半の男。
これが今日の音夢の相手である。
この男は音夢にしても厄介な客である。
里から一人出てきて心細いドジっ子ナースとお医者さんごっこしたいとか、
物静かに見えて実はエッチな委員長設定で罵られながらエッチしたいと、変な性癖を持った客を数々相手してきたが、
音夢的には自身の環境もあり、この男の性癖は実に困ったものである。
「音夢たん…元気にしてたかい?」
やに臭い口を厭らしく歪める男。
「ええ、おかげ様で」
「そうかい、それはよかった…」
そう言いながら音夢の腰の辺りに手を回し、さわさわと撫で上げる。
その行為に一瞬顔を顰めながらも、すぐさま笑顔になる。
「じゃあラブホテルまで行こうか?」
「うん、楽しみだね兄さん」
兄さんべったりの義妹設定で道端を腕を組んで歩きながら時折一緒に写真を撮る。
まことに変な性癖と持った男と音夢の二人は店を出てゆっくりとホテル街の方へと向かっていった。
「あぁ……ね、音夢たん音夢たん、ハァハァ」
「………………」
音夢はさきほどから憂鬱だった。
ホテル街へと向かってるあいだ、この男がずっと腰の辺りを撫でてきていたからだ。
しかもその手は徐々に下へと降りていて、かすかにスカートごしの尻にまで触れてきている。
いくら『ラブラブな兄と妹』という設定とはいえ、こんな街中で臀部を撫でられながら歩くというのは音夢にとって不快きわまりないものだった。
「も、もう兄さんったら、エッチなことはダメですよ?」
心とは裏腹に、音夢はニッコリとした笑顔で男の手を払いのける。
しかしそれはあくまでもやんわりと、大好きな兄を叱るつける妹のように。
「ご、ごめんね……音夢たんの体があんまり柔らかいからさ、ハァハァ」
「まったくもう、ほんと兄さんったらエッチなんですから……」
ようやく男の手が離れたことに安堵する音夢。
しかしその直後、ふたたび下半身にモゾモゾとおぞましい感触が走る。
優しく叱られたのを気に入ったのか、男はまたもや音夢の尻を撫で回してきたのだ。
しかも今度はスカードの上からではなく、パンティごしのむっちりとした尻を鷲づかみにしてくる。
「あ……に、兄さん」
「ハァハァ、ね、音夢たんのお尻たまんないよぉ、柔らかいよぉハァハァハァ……」
男はそのままグニグニと手を動かし、音夢の尻肉を遠慮なく揉みしだく。
「ああ…い、いやいやぁぁぁ……」
好きでもない男の手がグイグイと食い込んでくる感触に、音夢は何ともいえない気持ち悪さを感じた。
しかしそれでも体の方は本気には抵抗できない。
なぜなら音夢にとって、この男は最も金払いのいい客だったからだ。
純一や両親に迷惑をかけないよう、自分の稼いだ金だけで学費を払うと決めている彼女にとってこの男は最高の客なのだ。
だからこそこんなことをされても文句も言わず、客の要望とはいえ『兄さん』などと呼べるのだ。
「ハァハァ……あぁ、さ、最高……音夢たんのムチムチしたお尻最高だよぉ」
「ん、んん、ん……も、もう兄さんたらぁ」
腕を組んで仲睦まじくラブホテルまでの道を歩いていく。
端から見ればラブラブカップルに見えたりするのだろうか――などと馬鹿な事を考える。
そんな事は無論無いだろう。
30のおじさんに自分でいうのも何だが10代の美少女だ。
奇跡的に良く見られて異常に仲のいい親子。
悪く、というより普通に見られて危ない関係――詰まるところ援助交際だ。
しかし実際にはどちらも違う。
部分的には確かにそう言えなくもないのだが。
私達の関係は義理の兄妹。
ホテルに行って……そういう事をして、別れるまでは確かに兄妹なのだ。
周りの人にそこまで分かる訳もなく、私達の関係は『有り触れた』援交関係の一つに過ぎない。
それにしても、と思う。
周りを見渡すと、私達と同じような人達ばかり。
さすがに私達くらい複雑な関係――正確には設定、そんな人達はいないだろうけど。
こういう光景を見ると、改めて自分が初音島にいないという事を実感する。
初音島だったら、年頃の女の子とおじさんがこんな遅い時間に腕を組んで歩いてたりなんて、
まず見られない光景だから。
そんな光景が当たり前のように見れる土地に、
ましてやその光景の一部に自分がなっているということに思うところがないわけではないけど
こんな土地だからこそ、こんな堂々と私達が歩いていても見咎められないわけだから返ってよかったのだろうか。
「音夢たん、ここで一枚撮ろうよ」
「分かったよ、兄さん」
私の取り留めもない事を考える時間は、兄さんによって遮られた。
周りを見渡すと、そこにあったのは一つの像。
私達のような関係の人が待ち合わせに使いそうな。
実際何人かそういう人が時計を気にしながら誰かを待っていた。
「じゃあ撮るよ、音夢たん」
兄さんがシャッターを押す音が辺りに響く。
「現像したら音夢たんにもあげるね」
「……うん」
それからも記念になりそうなところで写真を二人で撮る。
周りから見たらおかしな二人組に見えるだろうけど、兄さんはそんな事を気にする人じゃない。
私は少し恥ずかしいけれど。
そうこうしていると、今日利用するホテルに着いた。
今日のデートの最終目標地点のラブホテルだ。
例によって入口の前で一枚写真を撮って、中に入る。
割と女の子好みしそうな可愛いらしい内装のホテルだった。入口がこうなのだからきっと部屋もこうなのだろう。
そこでまた写真をいっぱい撮るんだろうなと考えて、少し憂鬱になる。
「……夢たん、音夢たん」
「……へっ!?」
突然顔を覗き込まれて、頬を指で突っつかれる。
考え事をしながら兄さんに付いていってるうちに部屋の前まで来ていたみたい。
「どうしたの?」
「何でもないよ」
ならいいけどと言って、部屋に入る兄さん。
私もそれについていく。
部屋の内装は思った通りの可愛い感じだった。
そんな部屋の中で特に目立っている、いかにも西洋のお姫様を連想させる
きらびやかな装飾のされたベッドに自然と視線がいく。
兄さんもやはりそのベッドを見つめていた。
そのベッドの前を始め、お洒落なライトの前等の一通りの装飾品の前でお決まりの記念撮影をする。
「音夢たん、そろそろいい?」
「……うん」
兄さんはシャワーを浴びずにするのが好きらしく、
今日も撮影を一通り終えると、私の身体をゆっくりとベッドに押し倒した。
続く