それは、一本の電話から始まった。  
 
義之「ん、電話か?」  
 
 特にする事もなく、ベッドの上で音楽を聞きながら横になっていた俺は、鳴り出した携帯電話に反応して身を起こした。  
 
 ディスプレイを確認すると、そこには音姉の名前が映し出されていた。  
 
 ピッ。  
 
義之「はい、もしもし・・・・・」  
 
 『あ、弟くん?』  
 
義之「ああ、俺だけど・・・・・どうした?」  
 
 なんて言うか、いつもの音姉ではないような少し違和感を感じる気がする。  
 
 ただ、多少いつもの印象が違うのは、その声がどこか神妙なものだったからかもしれない。  
 
 『実は・・・大切なお話があるの。今から枯れない桜の木の下まで来てくれないかな?』  
 
義之「枯れない桜の木の下に・・・・・今から?」  
 
 『うん』  
 
 音姉が改まって『大切』と言うくらいだ。掛値なしに大切な話なんだろう。  
 
 なら、俺の答えは・・・・・  
 
義之「分かった。今から行く」  
 
 『ありがと、弟くん』  
 
 どこか安堵したような音姉の声。  
 
 それから俺は電話を切って家を出た。  
 
 もう夕方だというのに一向に衰えようとしない暑さの中、音姉が待つ場所へ向かう。  
 
 色んな考えが交錯したが、結局それは俺の推測でしかない。  
 
義之「やっぱり・・・本人に会って聞かないと、な」  
 
 そして、俺はここにいる。  
 
義之「・・・・・で? こんな所に呼び出してどうしたんだ? 音姉」  
 
 音姉の待つ、枯れない桜の木の下に・・・・・  
 
音姫「電話でもお話したんだけど、大切なお話があるんだ」  
 
 夜風に髪を靡かせながら、憂いを含んだ表情で音姫が言う。  
 
義之「あぁ。だからその為に俺は来たんだ」  
 
 そして、ここにきてようやく俺は音姉の異変に気付いた。  
 
 確かにいつもと感じが違う。  
 
 強いて言うなら、それは決意。  
 
 音姉の瞳には揺ぎ無い決意が宿っていた。  
 
音姫「それもそうだよね・・・・少し緊張しているみたい」  
 
 思わず吸い込まれそうなほど澄んだ瞳・・・・・  
 
 そして、風に靡く艶やかな髪・・・・・  
 
 自嘲気味に軽く微笑んだ音姉の顔は、酷く魅力的だった。  
 
義之「実はな、俺もだ」  
 
 照れ隠しにそんな事を言ってみる。  
 
音姫「弟くん・・・・・」  
 
義之「音姉・・・」  
 
 思わず聞く手に力が入る。  
 
 そして、音姉の口から紡ぎ出されたその言葉・・・・・  
 
 それは・・・・・  
 

                 , -、 `ヾ  /^ヽ、  
                _/ /:.:.\ l:l/:.:.∧ \  
          ,. ‐ "´/′/:.:.:.__,、V _/:.ハ  `ト‐- ._  
         ./    ; イ / /:/ / ` :!  `ハ   i`ヽ. `  、  
      /     ./ .l.  /´::./ :′  .i:.:  ハ  i:.:..';    \  
      ヽ      | i   // :.:! !. |   .|: i :.ハ   :.: l.     〉  
       \    l i  | l |:| |: |   :ト.! :.| :|.ハ   i:.:.:!.   /  
         ヽ  .| .:!   l、|:. |:l:. |:| ! :.:l:.|:./!:.l:.:ハ.  i:..:.|  /  
          、. ! :l.   |.:ト`l.ト_l、ハ i:.:/>七リ´lハ   .:.ト./  
           .〉 :. i ト zッテ:::ミト ∨ .'「r:::テK'.∧  :.|: ,  「弟くんは女の子の・・・大きい胸をどう思う?」  
         /.| ::. l lY/ iっ;;l.|    iっ;;;リl/:.:ハ   :.|:.:l、  
        /  .| i:.:. i ト、 ゞ-┘  ,. └- 'ノイ:./! :.:.|:.:| \  
       /  / .|.ハ:. | .:|.l ヘ.     ,.、     //:/ | i::ハ:.!   、  
      ./  /  |! ;.:|:.トl  > 、 ‘.′ ,. イ./イ   ! i:.l |:| 、  ヽ  
     /  /  .| ハ:. ! :.|.| / _,j斗ミ ー_,´ノI_|/'   | i:.| |:!.  ',   ',  
    ./  /    ,rハ: ; :.「 ̄ ヘ`ll | | 「r' i^l、 ̄`| :,:.′|   i   i  
    /  /'⌒ヽ /ヘ |ハ:ヽ|_,.. -―r‐ァー- | !   /: / \|___.|    l  
   .く   /  ./ - .|l::ト:. l___,::ィ´/ヘー、::__ヘ Y r‐ lィ┐ \  |   |  
    ー' /\'       |l::| ヽ!  // .//:;ヘ.. V‐-ヽl l ( .「 !   \!  /  
    /え、. \     |l::l  //..//:::+:;ヘ....l`ヽ. ゝヽ l'′!    ヽ、  
  ./(桜ソ l .\\   |l::| ///..//::::::il:::::l|:...ト、:;ヘ ``i   「 ̄`ー┐_ヽ. _  
 .くヽ.   _ノ   \ヽ! |l:: ///...:i !ニニll:ニl|:....! ヽ;:\.._  )   |:.||  ̄ `ヽ、  
_/ \ヽ       >| .l / l.....:| |:::::::::ll:::::||.....|  ヽ /|  フ    .|:.||        \  
l.    \ヽ、   / ハ.`   |......l 仁二llニ||......|.   /|. /  ≪テ.-┘        )  
ヘ      ` ー<´  /:.:.:.Y  .|... ..| |:::::::::ll::::|.!......|   | | /    ヾヽ         /  
/ヘ       V:/:.:.:.:.:.:L -|.... .「|:::..::: |l:.::[|....::.ト、. ! ーァ、_   ///___ /  
: :.;ヘ       V /:.:.:.:L__.|.......|´:.:.:.:::.ll.:.`ヘ...:::トr、.| /| :.:. \.//:ハ:.| ヘ:.ヽ  
 

義之「・・・・・はい?」  
 
 全くもって俺の予想外の言葉だった。  
 
義之「音姉・・・・・今なんて言った?」  
 
 思わずそう聞き返す。  
 
音姫「だから、大きい胸だよ。弟くんにわかりやすい言葉で言うと『巨乳』かな」  
 
義之「あぁ・・・はい、巨乳ね。巨乳・・・・って、巨乳っ!!?」  
 
音姫「はしたないよ、弟くん。大声でそんな事叫んで・・・・」  
 
 と、咎める口調で音姉。  
 
義之「誰のせいだ! そりゃ驚きのあまり大声も出るわい! てか、アレだけ引っ張といて結局はこれか!!」  
 
音姫「仰られている意味が分かんないよ」  
 
義之「えぇい! 神妙な声と表情で何を言うのかと思えば、てんで見当外れな事言われた俺の身にもなってみろ!!   
てか、何でこんな事聞くのにわざわざこんな場所に呼び出すんだ!? 普通に電話で聞けばいいだろ! もしくは家で!!」  
 
音姫「そんな・・・・弟くんはそんな恥ずかしい事を私にしろって言うんだ?」  
 
義之「・・・・・すまん。俺には音姉の恥ずかしさの基準が分からん」  
 
 言っちゃ悪いが呼び出して聞く分にも十分恥ずかしいと思うぞ。俺は。  
 
音姫「まぁ、強いて言うなら気分的な問題かな」  
 
義之「気分かよ」  
 
音姫「大事な問題だよ」  
 
義之「まぁ、それはそうかもしれないが・・・・・」  
 
音姫「そんな事より巨乳について忌憚のない意見を述べてくれるかな?」  
 
義之「いや、忌憚のない意見て言われてもな・・・・」  
 
 一体なんて答えればいいんだ?  
   
 音姉が俺に『巨乳マンセー!』とか、『俺おっぱい党、君なに党?』とか言う答えを求めているとは思えないし・・・・・  
 
 むぅ・・・・困ったぞ。  
 
音姫「どうかしたの? 弟くん」  
 
 ずっと無言で考えあぐねている俺を不審に思ったのか、音姉が心配そうに声をかけてくる。  
 
 だが、今の俺にはそれすらもプレッシャーだった。  
 
義之「なんて言ったらよいのやら・・・・・てか、本音を言うと言うのが恥ずかしいんだ」  
 
 むしろ、年頃の女の子を目の前にしてそんな事堂々と言える方がおかしい。  
 
 まぁ、渉あたりなら『最高っすよッ! 縦横無尽に揺れる乳!! そりゃアンサン女の乳は巨乳しかおまへん!! おまへんでェ!?』と、  
興奮気味に力説してくれるんだろうが・・・・・俺はそこまで人間を捨てる気はない。  
 
義之「それに、音姉だって恥ずかしいだろ? どう経緯でそんな事聞いたのかは知らないけど、ここは一つ穏便に________」  
 
音姫「穏便に・・・・・なんなの? 私の聞いている事が十分常軌を逸したものなのは承知の上だよ!  
 もしかして弟くんは私の事を恥も外聞もない尻軽な女の子だと思っているんだ!? もし仮にそうならひどいよ!!  
 私だって聞くのは恥ずかしいんだからね。しかし! これは決して避けては通れない道のりで、事態は緊急を要すの!!   
さぁ、答えを!! お姉ちゃんは弟くんの答えを切望しています!!」  
 
 俺の言葉を遮って、毅然とした態度で声を張り上げる音姉。  
 
 下手な返答は身を滅ぼす・・・・・そんな言葉が頭を掠めた。  
 
義之「わ、分かったよ・・・巨乳だろ? まぁ、悪くはないんじゃないかな。色々意見は分かれるだろうけど・・・・・」  
 
 音姉の勢いに少々気圧されながらも、とりあえず無難な返答を返しておく。  
 
 だが・・・・・  
 
音姫「弟くん・・・・・」  
 
義之「な、なんだ?」  
 
音姫「恥を知りなさい!!」  
 
義之「は、恥?」  
 
 音姉は酷くご立腹のようだった。  
 
音姫「情けない・・・弟くんは日本の女性の何たるかを理解してないね」  
 
義之「日本の女性の・・・・・なんたるか?」  
 
音姫「そうだよ。いい? 本来、日本の女性と言うものは謙虚でありながらも自分を持ち、  
何よりも身の周りに心配りの出来る奥ゆかしい女性なんだ。男性の影を踏まぬように後ろを歩くその慎ましさが武器と言っても過言ではないの。  
それを、体の一部の肉付きをもって優劣を決めるなどというのは愚の骨頂!  
年をとる事によって損なわれる外見など、死してなお残る精神のあり方から見れば、象と蟻! 新幹線と各駅停車!!   
シャア・ア○ナブルとバーナード・ワ○ズマンだよ!!!」  
 
義之「よく分からないが・・・・つまり、女性の良し悪しは胸の大きさじゃないと言いたいんだな?」  
 
音姫「その通りだよ。それなのに世の男性は皆口を揃えてやれ『巨乳』だの『爆乳』だの嘆かわしい・・・・・」  
 
義之「いや、でもそんなの人それぞれだから仕方ないだろう?」  
 
 てか、世の男の全部が全部巨乳好きってのは間違った見解だと思うぞ。  
 
 実際、この世には『ぺったんこ・ほそい・うすい』と言う絶対法を信条とした人々だって少なからずって言うか、かなりいるはずだ。  
 
 でなけりゃ昨今のPCゲーム界の風潮は説明できない。  
 
 まぁ、その辺の事情をを音姉に言うつもりは更々ないけどな。  
 
音姫「違うよ! 私が問題としているのは、『巨乳』と言うマジョリティーがマイノリティーである『スレンダー』を弾圧していると言う事実なの!」  
 
義之「スレンダー・・・・・あぁ、貧乳の事か?」  
 
音姫「それは差別だよ!」  
 
義之「さ、差別?」  
 
音姫「そうだよ! 『貧乳』などと言う言語はまさしく昨今の巨乳至上主義が生み出した悲劇の最たるモノだという事に何故気がつかないのかな!?  
  『貧乳』だよ!? 『貧乳』!! 乳が貧しいと書いて『貧乳』!! なんなの、これはアレかな、乳が貧しけりゃ心も貧しいとでも言いたいのかな!?   
下着売り場でAAカップのブラを探しても見つからず、泣く泣くオーダーメイドで高いお金を払って手に入れる女は惨めな女なんだ!?  
 そんな事より、貧しい事が罪だとでも言いたいのかな!? そうなんだ!?」  
 
義之「あ、いや・・・そんなことは・・・・・」  
 
音姫「弟くんは私の胸を指差して『大草原の小さな胸』とでも揶揄するつもりなんだ!? そんな ひどい・・・・・」  
 
義之「誰もそんなこと言わせるつもりもないし、からかったりするか! とりあえず落ち着け! 音姉!!」  
 
 一瞬、俺の頭の中を『被害妄想』という言葉が高速で過ぎったが、そんな事・・・・口が裂けてもいえる訳がない。  
 
音姫「・・・ごめんね。少し取乱しちゃった」  
 
 コホンと一つ咳をすると、いつも通りの口調で音姉。  
 
義之「で? 巨乳がいつスレンダーを弾圧したって言うんだ?」  
 
音姫「・・・・弟くんはパソコン持ってるよね?」  
 
義之「あ、あぁ・・・持ってるけど・・・・・」  
 
音姫「インターネットにも接続してるよね?」  
 
義之「まぁ、な。でも、それとスレンダー弾圧とどう関係が?」  
 
音姫「じゃあ、約13900000件と約1510000件・・・・・この数値が何を表しているかわかるかな?」  
 
義之「いや? 全然」  
 
音姫「なら教えてあげるよ。この数値は『YAH○O!JAP○N』で、『巨乳』および『貧乳』をキーワードにして検索した結果だよ」  
 
義之「・・・・・てか、ここでは『スレンダー』ではなく『貧乳』なんだな」  
 
音姫「甚だ不本意だけど、『スレンダー』では正確なデータが取れないからしょうがないの」  
 
義之「嫌な話だな」  
 
音姫「とにかく、『巨乳』が約13900000件の巨大シェアを獲得し、貧乳・・・じゃなくて、  
  スレンダーは約1510000件とまるで日陰者のような扱いなの。わかったかな? 私が弾圧と言ったその意味が」  
 
義之「いや、ただ検索に引っかかった数が少なかっただけじゃないのか?」  
 
音姫「それは巨乳派の人間が仕組んだ巧妙なトリックだよ。まずは公の場から『スレンダー』を排除、  
  しかる後に個としての『スレンダー』を根絶やしにするつもりなんだ。巨乳派らしい卑怯な手だよ」  
 
義之「・・・・良く分からんが具体的に音姉はどうしたいんだ?」  
 
音姫「私の目的・・・・それは、私たちスレンダーが天下を取り、主流となる事・・・・・つまり、巨乳弾圧だよ」  
 
義之「それじゃ音姉の言う『巨乳派』って奴らとやってる事が変わらないような気もするが・・・・・」  
 
音姫「それは違うよ、弟くん。今の日本は病んでいるの。古き良き価値観を蔑ろにし、進む道を間違えてしまった愚かな大和の民・・・・、今  
  こそ誰かが目を覚まさせてやらなければならないんだ。そういう意味でも、これは必要な淘汰なんだ」  
 
義之「いや、淘汰って言われてもな・・・・・」  
 
音姫「弟くんは楽観が過ぎるよ! 今の現状を把握してよ。今こそ変革の時なんだよ!!」  
 
義之「楽観って言うか・・・これが普通だと思うぞ」  
 
 むしろ、普通であってくれ。  
 
 俺以外の人間が全員こんな事考えて生きてるなんて想像もしたくない。  
 
 『スレンダー派、巨乳派弾圧に強硬姿勢。武力行使も示唆』なんて知り合い連中の顔写真入りで放送されたら確実に人間不信に陥ること請け合いだ。立ち直れない。  
 
音姫「それが楽観だと言うんだよ! スレンダーは満足させられない? 冗談じゃないよ!   
  胸が小さくったって現代の女性は様々な技術を駆使して満足させられるんです! 胸なんてものは飾りです! 偉い人にはそれがわからないんです!」  
 
義之「え、偉い人って?」  
 
 キシ○ア少将閣下か?  
 
 てか、満足って・・・・あんたは一体何をどう満足させるつもりなんだ?  
 
音姫「大体、今の日本が不景気なのも巨乳のせいだよ!! 胸にばかり栄養がいって頭に栄養が足りてない愚かな巨乳派がこの日本に台頭し、  
  そのような禍々しきモノに現を抜かしている人間がいる限り、今の平成不況からの脱却は到底不可能!!   
  なればこそ、私たちスレンダーが人類を正しい道に導かないといけないの! 頭の悪い巨乳派の徹底排除! それが今の日本に必要な構造改革なんだ」  
 
義之「う〜ん・・・でもな、そうでもないぞ」  
 
音姫「何がかな? いくら弟くんでも巨乳派を擁護する様な発言をするんなら・・・・・」  
 
義之「違う! ただ、『胸にばかり栄養〜』の件に異論があるだけだ」  
 
音姫「異論・・・・・?」  
 
義之「あぁ。例えば茜を見てみろ・・・・89cmと俺の知り合いの中でトップレベルの胸の大きさを誇る茜だが、頭は悪くない。  
  86cmの小恋にしたってそうだし、83cmの水越先生は・・・・・言わなくても分かるよな? でも、音姉や由夢みたいに小さくても頭が良い奴もいるだろ?   
  この場合『脳にばかり栄養がいって胸に栄養が足りてない』っていうのか」  
 
音姫「や、脳にばかり栄養がいって胸に栄養が足りてないのはお姉ちゃんだけですから! ・・・ぁっ!」  
 
沈黙  
 
義之「ちょっと待て・・・・・あんた・・・・・音姉じゃないな?」  
 
音姫(仮)「な、何を言うのかな!? 弟くんは! 私は正真正銘、100%、頭の頂上から足の先まで朝倉音姫だよ!?」  
 
義之「あ! あそこに見えるのは癒されてゆっくりと入浴幸せ気分!!☆ナチュラル度100%和の香り100%あったかほんわか度100%癒され度100%の  
  幻の入浴剤!”白紅○草湯”!!」  
 
音姫(仮)「や、だめです!! それはこの朝倉由夢がいただきます! 何人たりとも手を出してはいけません!!」  
 
義之「ほぅ・・・・『この朝倉由夢』?」  
 
音姫(仮)「あ・・・・・それは・・・その・・・・こ、言葉の綾香・・・じゃなくて、綾だよ! 幻聴だよ!! きっと、お風呂好きの由夢ちゃんの霊が・・・・・」  
 
義之「ンな訳あるかっ!!」  
 
音姫(仮)「きゃっ!!」  
 
 ビリィィィッ!!  
 
由夢「もう・・・3時間もかけてした特殊メイクがパァじゃないですか!!」  
 
 案の定と言うか・・・・・  
 
 悲鳴をあげる音姉(仮)を余所に、勢いに任せて引っ張った顔(皮?)下から出てきたのは、紛れもなく『朝倉由夢』その人だった。  
 
義之「特殊メイクねぇ・・・・声はどうした?」  
 
由夢「それはこの超小型ボイスチェンジャーで・・・・『えっちなのはだめだよ、弟くん・・・・・』・・・・・どうです?」  
 
 成る程・・・電話の時に感じた違和感はこれだったんだな・・・・って、感心してる場合じゃないか。  
 
義之「えぇい・・・・無駄に力を入れおって・・・・」  
 
由夢「や、それほどでもないよ」  
 
義之「褒めてない!! てか、なんでこんな真似を?」  
 
由夢「今日のお昼休み、兄さんが板橋先輩と女の子のスタイルについて話していたのを盗ちょ・・・いえ、偶然聞いてしまったんです」  
 
義之「今日の昼休みって言うと・・・・・ぐぁ・・・アレか・・・・・」  
 
 確かに今日の昼休み、俺と渉でそんな話をした気がする。  
 
 渉があんまりしつこく『巨乳』について熱く語ってくるから、話半分で適当に相槌を打って聞き流していたんだが・・・・まさかそれを聞かれていたとは・・・・  
 
由夢「はい。ですから、兄さんにスレンダーの魅力を理解して欲しかったんです」  
 
義之「・・・なぁ、由夢。有難迷惑って言葉を知ってるか? それに、前にも言ったが素直に貧乳と言えんのか?」  
 
由夢「貧乳じゃなくてスレンダーです!!」  
 
義之「やかましい! それなら何で音姉に変装したりする必要があったんだ?」  
 
 由夢の伝家の宝刀も、今の俺には通用しない。  
 
由夢「や、自分の姿でこんな事したらわたしの清楚で可憐なイメージが台無しになっちゃうじゃない。  
  で、どうせなら他の女の子に比べていささか胸の小さなお姉ちゃんがするほうが説得力があると思ったんですよ」  
 
 ぼかっ!  
 
由夢「いたっ!? に、兄さん、いまわたしの頭を無言で殴りましたね!? しかもグーで! 人の頭はデリケートなんですよ!?   
  脳に障害が起こったらどう責任をとってくれるつもりなんですか!」  
 
義之「黙れ! そんなアホらしい理由でハリウッドもビックリな変装しやがって・・・・・」  
 
由夢「兄さんもやってみる?」  
 
義之「やるか!」  
 
由夢「そんな・・・兄さん、『姦る』だなんて・・・・」  
 
義之「それは当て字だ!!」  
 
由夢「じゃあ、『犯る』の間違いでしたか?」  
 
義之「だ・か・ら!! どうしてお前は人の話をそういう方向にもっていきたがるんだ!?」  
 
由夢「それは・・・・一言で言うと『愛』でしょうか?」  
 
義之「知るか! てか、そんな愛はいらん!! こっちから願い下げだ!!」  
 
由夢「そんな・・・遠慮しなくてもいいんだよ?」  
 
義之「するか! んなもん!!」  
 
由夢「そんな事より・・・・今、ふたりきりなんだよね」  
 
義之「俺の意見を鮮やかに無視して先に進めるなよ・・・・・」  
 
由夢「幻想的な枯れない桜の木の下にふたりきり・・・・なんかロマンティックだね」  
 
義之「由夢・・・・頼むから俺と会話をしてくれ」  
 
由夢「知ってた、兄さん? わたしがいつも見ているドラマが今日、似たような状況で主人公とヒロインがお互いの気持ちを告白しあってキスをするんですよ?」  
 
義之「そうか。んじゃあ、帰ってそのドラマをじっくり楽しんでくれ」  
 
由夢「ドラマのようなステキなキス・・・・・わたしの夢だったんだよ」  
 
義之「渉にでも頼んでみろ。きっと快くOKしてくれるぞ」  
 
由夢「わたし、後悔したりしないから・・・・・ごっついの一発ぶちかましちゃってください」  
 
義之「人の話を聞け。そして目薬で泣き真似しながら目を瞑るな」  
 
由夢「だめだよ、兄さん。キスのときは目を閉じるのがマナーです」  
 
義之「なぁ、俺もう帰るぞ? って、由夢! 首を掴んで引き寄せるな!」  
 
由夢「ふふふ・・・逃がさないよ・・・逃がすものですか! この場でキスさえしてしまえばこっちのものです。隠してある赤外線カメラでバッチリ激写、  
  しかる後に服を破いてさもシた後のような演出を施します。ポケットの中のカルピスの原液を塗す事も忘れません。  
  これで家に帰ればなし崩し的にこのわたしが兄さんを・・・ぽっ(はぁと)」  
 
義之「えぇい・・・黙れ! そんな行き当たりばったりな作戦で人生狂わせてたまるか!!」  
 
由夢「そんな事言っていられるのも今のうちだよ・・・・兄さん」  
 
 そう、ニヤリと不吉に笑うと、更に距離を詰めるべく腕に力をこめる由夢。  
 
義之「くぅっ!? その華奢な体のどこにそんな腕力があるんだ!?」  
 
由夢「愛だよ・・・・兄さんへの愛がわたしを強くしたんです」  
 
 更に力を篭める由夢・・・・  
 
 俺の人生の終焉まで後10cm・・・・・  
 
義之「そ、そんな漫画みたいな理由で・・・・・」  
 
 後5cm・・・・・  
 
由夢「さぁ・・・・・The endだね。・・・・・いえ・・・むしろこれは始まりですね。これからはじまるふたりの愛の生活の・・・・・」  
 
 後1cm・・・・・  
 
 もう、駄目______________  
 
 
 
音姫「ふ、ふたりとも、一体何してるの!?」  
 
由夢「え?」  
 
義之「お、音姉・・・・・か?」  
 
 俺を救った声の主・・・・・それは、誰であろう本物の朝倉音姫その人だった。  
 
音姫「・・・・・?」  
 
 俺たちを見てキョトンとする音姉を余所に、俺はそっと安堵した。  
 
義之「・・・・・って言う訳なんだ」  
 
音姫「ふ〜ん・・・大体のことはわかったよ」  
 
 由夢の暴走から20分後、ようやく音姉は『先程の事は全部不慮の事故』として納得してくれた。  
 
 諸悪の根源である由夢には一切口を出させず、俺が単独で説得に当たったのが功を奏したと言っても過言ではない。  
 
義之「音姉・・・あんまり由夢を怒らないでやってくれよ? 性格はアレだが基本的にはいいヤツなんだ・・・・・多分」  
 
由夢「ひどいよ兄さん! それじゃあまるでわたしが心を病んでる人間みたいじゃない」  
 
義之「えぇい黙れ! 人がせっかく平和的解決の糸口を見出したってのに全部台無しにするつもりか!!」  
 
由夢「平和なんて退屈の言い訳だよ。そんなもの・・・わたしには必要ないよ」  
 
義之「屁理屈ばっかり言いやがって・・・・お前はそれで良いかもしれんがな! 少しは他人の幸せも考えろ!!  
  俺はもう少しで人生の終焉を迎えるところだったんだぞ!?」  
 
由夢「そんな・・・・他人の幸せを見せ付けられるくらいなら、他人の不幸を嘲笑う方がましです!!」  
 
義之「・・・・・」  
 
 母さん、ピンチです。  
 
 俺は今、生まれて初めて『殺意』と言うモノを心から感じました。  
 
 『憎しみで人が殺せたら・・・・・』そんな考えが思考の約99%を占領して、脳内がお祭り騒ぎで年中無休です。  
 
音姫「弟くん。気持ちはわかったから堪えて。と言うか、弟くんにはお母さんっていたっけ?」  
 
義之「俺・・・声に出してたか?」  
 
 もっとも、今の場合は逆に好都合だが。  
 
音姫「出てたよ。小声で・・・だけど」  
 
義之「そうか・・・・・ちなみに母さんはいないぞ。アレは演出だ」  
 
音姫「そっか・・・」  
 
由夢「もう! ふたりともいい雰囲気作らないでよ!」  
 
義之「どうしてそうなる! お前の目は節穴か!!」  
 
由夢「や、女子アナです」  
 
義之「つまらん! くだらん!! 訳分からん!!!」  
 
由夢「さ、三通りのバリエーションで否定しましたね!? そんな高等技術を一体どこで・・・・・!?」  
 
義之「案ずるな、お前が下等なだけだ]  
 
由夢「わ、わたしがそんなに安っぽい人間ですか!?」  
 
義之「あぁ〜安っぽい安っぽい! 一円払ってお釣がくるわ!!」  
 
由夢「い、言ったわね! 謝るならright nowよ!」  
 
音姫「right now・・・和訳すると『ちょうど今』だね・・・って、ふたりともいい加減にしなさい!」  
 
義之「む?」  
 
由夢「むーーー」  
 
音姫「子供の喧嘩じゃないんだよ? もっとお互いに冷静になりなさい」  
 
義之「でもな・・・」  
 
音姫「『でもな・・・』じゃありません。腹立たしい気持ちはわかるけど、この程度のレベルの人間をいちいち相手にしていたら埒が明かないでしょ?   
  もう少し大人になりなさい!」  
 
 と、何気に酷い事をさらりと言ってのける音姉。  
 
由夢「そうだよ、兄さん。お姉ちゃんの言う通__________」  
 
 幸いと言うかなんと言うか、由夢は見事に音姉の台詞に気付いていない。いや、気付けない。  
 
音姫「由夢ちゃんもです! 仮にもあなたは年頃の女の子なのよ? だからと言って他人に迷惑をかけていいわけじゃないでしょ?  
  もっと常識の範囲で行動するべきだよ。いい? そもそも私たち淑女と言う者は・・・・・」  
 
由夢「むぅ」  
 
 流石の由夢も音姉の迫力になす術もなく説教を受ける。  
 
 これで由夢が落ち着いてくれれば言う事はないんだが  
 
音姫「・・・・・それに、私たちの行動を事実と歪曲して伝えられたら困ります。そもそも__________」  
 
義之「・・・・・ちょっと待て音姉」  
 
音姫「ん? 何かな? 弟くん」  
 
義之「『私達の行動』ってなんだ?」  
 

             ‐- 、  
               ヽ  
              ヘ. ヾ、 /::\  
            //:.:.:\}:V:.:.∧ ヽ、  
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    く    | : | ,':| ,' : i |   |:. :|:.:.'ハ. :::.::|   /  
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       \:| : | |ィ´|:从ハ :./|ハ从ハ> : :.',/  
        | : | |     V    レ'∧ : ::|     
       /|: :. | |ト. - -‐''    ''ー -‐/イ : ::|\ 「何って・・・・・決まってるじゃない。『巨乳弾圧』だよ」  
     / /|ハ:.: |:|トヘ. :::::  `   :::: /j:∧ : :.:|ヽ \  
    /  /: || |:. |:|:| ヽ、 ` ´  / // | : :| ヽ  ',  
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義之「あ〜・・・な〜る。巨乳弾圧ね・・・弾圧・・・弾圧・・・・・」  
 
「「って、巨乳弾圧!!!!?」」  
 
 計らずとも、俺と由夢の声がハモる。  
 
音姫「何ですか、ふたりして・・・・大声をだしてはしたないでしょ」  
 
義之「いや、てか・・・あぁ、分かった! それはアレだろ? 所謂一つの『音姉ギャグ』ってヤツだろ?」  
 
音姫「? 言ってる意味がわかんないよ」  
 
由夢「じゃ、じゃあ・・・まさか本当に・・・・・?」  
 
 取り敢えず、由夢には『お前も知らなかったんかい・・・』と、心の中で突っ込み。  
 
音姫「当然だよ。巨乳派と私たちスレンダー派の確執は大正時代にまで遡るの。知らなかった?」  
 
義之「いや、知らなかったって言うか・・・・・」  
 
由夢「普通は知らないような気がするんだけど・・・・・」  
 
音姫「いいよ。これも何かの縁だし。私たちの戦いの歴史・・・お話しするね」  
 
義之「え゛!?」  
 
由夢「や、出来れば遠慮したいんですけど・・・・・」  
 
音姫「駄目。特に由夢ちゃんにはしっかりと理解してもらわないといけないし・・・・・」  
 
由夢「でも・・・・」  
 
音姫「駄ー目」  
 
由夢「あの・・・・」  
 
音姫「駄目です」  
 
由夢「・・・・はい」  
 
義之「お、俺は?」  
 
音姫「もちろん問題ないよ。弟くんも間違った知識をそのままにしておくのは不本意だしね」  
 
義之「いや、どっちかって言うとあんまり聞きたくないって言うか帰りたいんだけど・・・・・」  
 
音姫「それじゃあ、まず創立の切っ掛けからお話しするね」  
 
義之「いや、あのな、話聞いてくれよ」  
 
音姫「何か?」  
 
義之「いえ・・・もうなんでもないです」  
 
音姫「では早速・・・・大正11年4月22日・・そう、この日はちょうど健康保険法が公布された年でもあるんだけど、  
  私たちの初代リーダーである鏑木ヨシ江さんは・・・・・」  
 
 それから音姉の説明は時に何処から出したのかフリップやスライドを使ったり、VTRを使ったりと、  
   
 様々な趣向を凝らし2時間たった今も少しも終わるそぶりを見せない。  
 
 てか、今ようやく大正時代の説明が半分終わったところだった。  
 
由夢「兄さん・・・・・」  
 
義之「・・・・・聞きたくないが、一応なんだ?」  
 
由夢「これぞまさしく嘘から出た真・・・・だね」  
 
義之「黙れ。諸悪の根源が何を偉そうに・・・てか、よくもまぁ抜け抜けと・・・大体、お前が__________」  
 
音姫「ちゃんと聞きなさい!! 今がこの時代で一番重要な所なんだよ!?」  
 
「「はい・・・・」」  
 
音姫「ここは・・・そうだね1932年だから『いくさに(1932)発展スレンダー一揆』と語呂合わせで覚えるといいよ。  
  この時の一揆で私たちの存在は一気に知れ渡り、時の政府は・・・・・」  
 
「「・・・・・」」  
 
 『日本人の正しい座り方だから』と、音姫に言われて(命令されて)正座をさせられた上に不毛な説教を受ける二人・・・・・  
 
 もう金輪際、音姫の前で胸に関する話はするまいと、心に固く誓う二人であった。  
 
END  
 

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