ポク、ポク、ポク、ポク……  
のんびりとずれる木琴の音を、萌がさせていた。隣でふわふわな意識のまま、ゆらりゆらりと歩みを進めている。  
花の咲きつづける桜並木を、真っ直ぐ学園に歩きながら、二人の時間を満喫する登校をしていた。  
春と夏の季節の境目、この間の中間試験は少し奮発した点数を取ることができた。特別なにかをしたとかそういうわけではないが、かといって何かしなければ落ち着かなかったからなんだろう。  
何がそうしたかといえば、まあ「お姉ちゃんとくっつくなら、勉強はできなくちゃね。お姉ちゃんは病院の次期跡取なんだから」という眞子の言葉も引っかかりまくっていたんだが。  
萌も、あのときのようにスリープモードでテストをサボってしまうようなことはなかったと思うのだが、実際成績とかどうなんだろうか。  
やっぱり跡取になるっていうことは、医師になる、っていうことなんだと思うから、それなりに良くないといけないんじゃないだろうか。  
なんかかったるい。  
でも、成績がいいのは悪くない。  
 
教室の棟が違うので、昇降口の付近で萌と別れる。  
次に会うのはお昼くらいだろうか。  
「おはよっす♪」  
「おう、おはようことり」  
萌も含めて、やや早い時間に起きていたのは奇跡に近いんじゃないかと思っていたが、それだから普段なら珍しい相手に後ろから挨拶された。  
学園のアイドルで、その長い髪と天使の笑顔と学業も運動もできる優等生な中に、無邪気な性格を隠し持ったクラスメイトだ。  
音夢とことりといえば、昔は学園を二分するほどの男子の人気を持っていて、どちらにも非公式のファンクラブがあるとかないとかと聞いていたような。  
そんな長いことりの髪から流れる香りが、廊下を吹き抜ける風で送られてくる。  
「絶好調ですね、朝倉君。萌先輩と仲良さそうでこっちが妬けちゃいます」  
「別に、普通のカップルだろ」  
「そうですね、あんなに肩を寄せ合いながらは、カップルじゃないと」  
「……かったるい」  
「あ、とにかくがんばってくださいね」  
「ああ」  
ことりとはただのクラスメイト、くらいの間柄だが、クリスマスに呼び捨てをさせてもらってからはちまちまと、同じクラスになってからなんだかんだで話をする機会が増えた気がする。  
そういえば、じきに行われる本土の林間学校か何かで、杉並とかと一緒に同じ班だったような。  
俺の気分を察してか、ことりは俺を追い抜いて教室に向かった。  
ゴールデンウィークがあけたくらいのころはことり、やけによそよそしかったように思えたんだが、今はそうでもないようだ。元気になったことはいいことだ、と考えたい。  
 
ことりの後を追うような形で教室に入り、杉並とくだらないやり取りをして、しばらくたつと開始時間に。  
暦先生のホームルームから、その日が始まった。  
 
本校になって、付属と完全に様変わりした講師の面々の顔も見慣れた。  
誰で寝ていいか、誰で寝てはいけないかくらいの区別がついた。そんな、眠っていい講師の授業のとき。  
 
ふと、自分の意識が誰か別の人のものになっている錯覚を覚えた。  
うつつの中で定まらない意志を、手探りで掴み取ろうとしていると、不意に自分のイチモツが熱くいきり立っているのを感じた。はりつめたそれがめちゃくちゃせつない。  
”吸い出してあげますね”  
そんな言葉を耳元でささやかれた気がする。  
はっきりとしないけれど、聞きなれた人の声であることはわかる。たぶん、萌だろうと思った。  
でも。  
”朝倉君、おっきいね。ん、ちゅ……ちゅば”  
舌で舐め、口に含んでもらってるやや熱っぽく湿った、特有の心地よさを感じる。  
心までとろけそうになるくらいの甘さを下半身全体で味わっていた。  
でも、こんなしゃべりかた……萌はしない。  
”はむぅ……んぁ、いきそほなんだ……んちゅぅ……いいよ、このまま出して”  
じゃあ、俺をしてるのは、いったい……まさかことり?  
 
最後の射精の瞬間に目を覚ましてしまう。  
がばっと派手に体を起こしてしまったので、他のクラスメイトの視線が一斉に俺に向く。一部の眠りこけている連中を除いて。  
本気で、かったるい……目立ってしまった自分が嫌だ。  
萌とする回数そんなに少なくないと思ったが、ここのところ4日ご無沙汰していたせいか。  
授業の間の休憩時間にトイレで個室にこもって確認したが、明らかに夢精していた。たったこれだけの期間で夢にイカされるなんてと思ったけれど、萌に貞操立ててオナニーすらしなかったのが禍になっていたんだろうか。  
ここのところずっとしたくてたまらないのをこらえていた気がする。  
萌は「いつでもいいですよ」って言ってくれてるんだが、最近はほとんど帰りの時間を合わせられず、家にさそって吸い出してもらえてない。  
いや、機会はあるんだから俺がシャイなだけなのかもしれない。するだけなら別にお昼の屋上でもいいし学校のトイレでもいいし、帰りがけに公園よって茂みでというのも燃える。  
だが、なんかそれだと、獣みたいで気がひけたんだろうな。  
今日くらい、少し変わった場所でするのも悪くないんじゃないか……今やばいくらいに俺自身が暴れたがっている。  
 
その日のお昼の弁当に、ここ最近定番になってるカキフライが入っていた。しかも今日はいつにもましてだいぶ量が多い。  
栄養が豊富なんですよと、萌が俺のことを考えて入れてくれている。  
萌の料理の腕は鍋にこだわる分につられてか、非常に高い。家で誰かに手伝ってもらっていると考えるには、入れている材料やなんかにかけている気持ちの伝わり方が全然違う。  
でも、カキフライってなんか意味あったのか……?  
「ごちそうさま」  
「はい、おそまつさまでした」  
食費のことを持ちかけても、「材料費はいりませんよ。二人分でもそんなに変わりませんから」とやんわり断られたから、今は普通に萌の好意に甘えてる。  
ここ最近屋上に眞子の姿を見かけないのは、俺たちに気を使っているからなんだろうか。  
「純一くん……今日のお弁当、どうでしたか?」  
満腹の腹を屋上の地面に寝かせながら、心地よい季節の節目の風を感じつつ。  
「ああ、萌に毎日お昼食べさせてもらって腹も満足だ」  
「それはいつも聞いてます。そんなことじゃなくて」  
食休みをしようと寝そべってる俺の上に、萌がまたがっていた。  
「すごくせつないとき、ありませんか?」  
「せつないとき……?」  
短めのスカートの中がちらちらと覗ける。  
萌、今日の下着……黒い。  
「っ、萌、みえて、るって……」  
「純一くんから、誘って欲しかったです」  
「誘って欲しいって、あの、な、も……」  
そのまま、萌が俺の上にマウントポジションを取って座った。  
俺が意識するまもなく唇を奪われてしまう。  
萌の下着の布地の下の柔らかさが、ダイレクトに俺自身を押しつぶしてる。いやおうなしに俺の興奮した血が集まって萌を押し上げてしまう。  
萌の顔、完全に真っ赤だ。  
こんなに恥ずかしそうにするのって、いつぶりなんだろう。  
いつもはぼうっとしてるからか、こういうとき、熱っぽくなった萌の積極的なのをいまだに理解できない。それだけ本当は行動派なんだということなんだろうが……でも今はこの何枚もの布地が邪魔すぎる。  
 
「ん……純一くん、熱くて、固くなってます」  
「そ、そんな、の、萌が上から俺のを」  
「いいわけですっ」  
ずりずりと、萌が下着ごしに自分の敏感な部位を俺の熱いところに擦りつけてる。  
「っあっ」  
「ぅぁぁ……はぁ、気持ちいいところが、こりこり、純一くんのとこすれてます、はぁ、はぁぁ……」  
「ちょ、ちょっと待って、ここじゃ人が」  
「だめです、こんなに我慢して」  
「だから待てって」  
そんなふうにやけになってる萌のことをほうっておくなんてできなかったし……今日くらい、俺のペースでしたい。  
俺は体を起こして萌をしっかり抱きとめて、彼女にキスした。  
「んっ……!? ん……ちゅぅ」  
萌のとまどいが、熱っぽくなった彼女の体と両手から感じる。  
短くあっさりとまとめたキスを、名残惜しく離した。  
「んはぁ……、純一、くん?」  
「まったく……萌がしようとしたときの積極的で行動派なのにはいつも恐れ入るよ」  
「……」  
萌の熱、体のライン、柔らかな膨らみや体つき、それに、大事なところ。  
俺より、熱くなっているような気がした。  
唐突過ぎるひとつひとつをとりあえず整理して、落ち着いて考えてまとめる。答えがそれで出るとは思えなかったが……ずっと当たりっぱなしの俺のそれと萌のそこは、どれだけお互いを求めたいかを示してた。  
「ここじゃまずいから、裏にいこう」  
「はい……」  
そこに俺たちがいたことを示すための目印になりそうなものをすべて持って、物陰に向かった。  
 
壁に萌の背中を押し付けて、スカートの中に手を突っ込んで、するすると下着を足に通して脱がせた。  
左腕にかけた萌の右足にひっかかったままの下着の色は、さっきみたとおり、黒い。  
そんな扇情的なショーツに、たぎったものを取り出さずにはいられなかった。  
自分のそれは痛いくらいそり立って、自分のたまらなさのままに脈打っていた。  
すぐに、先走りがあふれてきて、先端に水玉を作った。  
「あ……純一、くん……」  
「萌に先取りされてすごく悔しかった。俺のほうが萌を襲いたいくらい興奮してたんだ」  
「はい……ごめんなさい」  
「いいって」  
萌の唇を奪い、右手で萌の胸をまさぐる。  
「ん、ぁ……んぅ……っ」  
冷めかけた熱を唇の間に交わらせながら、服の上からでも感じられる質量感を存分に堪能する。先を、萌の秘部の襞に密着させて、こねまわす。  
今すぐにでも萌の中にもぐりこみたかった。  
もぐりこんで中を堪能したかった。  
「はぁ……はぁ……萌、俺、入れたい」  
「はぃ……どうぞ……」  
萌が、俺が腰を押すだけで入れられるように、俺自身に手を添えて、自分の口に導いてくれた。  
そのまま、萌を上のほうに押しやるように、足に力をこめて、腰を浮かせ、自身を柔らかな蜜内に埋めていく。  
それはいつもよりもすんなりと収まって。  
あっというまに萌の中を自分自身で一杯にしてしまった。  
 
「っあ……やば、っ」  
「はぁぁ……っ、純一くん……っ」  
萌がぐっと俺を強く抱きしめてくる。もっともっと深くでつながりたい……まるで俺の心を知っているかのように、萌もそれを望んでいた。  
とたんに、萌の膣内が俺の高ぶりを一気に吸い上げようと蠕動する。  
まるで振動したような動きに、思わず果ててしまいそうになった。  
気を紛らわせようと、入れたまま萌とまた唇を重ね、吸い付き、舌を絡める。  
「はぁ、ふぁぁ……はぁぁぁ……ぁぁっ」  
舌を交えるたびに、萌の声が長い頂のままに吐き出すような声を漏らしてた。  
「萌、もしかして……イッてる?」  
唇に話し掛けるままに、萌がうなづいた。  
「ごめ……俺、入れた瞬間にイキそうだったのに」  
萌が、首を横に振った。  
「純一くん、が、きもちよくなれるままに、動いていいです……はぁ……はぁ……」  
こんな献身的なところがとても嬉しくて、少しずつ、萌の中を味わうように、腰を揺らしてく。  
最初は、浅く、じわじわと。  
少しずつ、深く深く。  
それから、一気に仕上げるように、ペースをあげていく。  
萌の中が、一突き一突きするたびにぎゅ、ぎゅと俺を熱く迎え、締め上げてくれる。  
「ぁぁぁ、はぁぁ、純一くん、わたし、わたしぃ」  
萌は、俺にしがみついて、不自由な体勢を健気に揺り動かして、俺が感じやすいように腰を使ってくれてた。  
俺自身が、萌の中で精を膨らませてくる。  
「っ……もう、いきそう……」  
「きて、じゅんいち、くん、きて、ください……っ、はぁ、ぁぁっ、ぁぁ……」  
すぐ先までせりあがってきた快感を、抑えこむのはもう不可能だった。  
「はぁ、っ……ぅっ」  
思い切り、萌の最奥に自分の先を密着させて。  
「い、わたし、も、ぅ……っ」  
萌の中の圧搾が限界まで力強くなるのを感じながら、精液を……。  
 
「だれ?」  
 
びゅく、びゅく……っ  
萌以外の、誰かの女の子の声がした瞬間に、萌の中で俺の精液がはじけた。  
腰が崩れそうな快感に支配されてく……  
「っあぁ!ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」  
萌が絶頂の声を上げそうになっていたのを、俺が右手で制したが……遅かったかもしれない。  
萌、イク声がちゃんと出せないせいか、いつもより長く声を出しているし……  
足音が近づいてくる。一歩一歩。  
さっきの声の主だと思う。萌は紅潮したまま受け止めた精液の余韻にひたっているようだけれど、こんな状況を誰かに見られるのは面白くない……それに、せっかく一番の気持ちいいところを奪われた気がして、かなり腹立たしい。  
でも、逃げ回るには絶頂が高すぎて、俺も足が立たない。  
なんとか息を潜めてその相手が立ち去ってくれるのを待つしか、ない。  
頼む、なんでもいいから俺たちを見逃せる要因を作ってくれ……頼む。  
そう、天に祈り、運命を託すしかなかった俺たちだったけれど、その願いは聞き入れてもらうことも叶わず。  
「ぇ……」  
「ぅ……」  
「あ……こん、にちは……」  
足音が止まったとき、その足音の主を見る俺と萌、繋がったままの俺たちを見た、その人。  
まだイッたままで息の整わない萌が、ぽけぽけにその相手に挨拶をしていたんだけれど。  
「あ……ご、ご、ごめんなさいっ!!」  
視線を密着した腰にずらしたとたんに、その相手は足早に走り去っていた。  
見られた。  
そりゃまあ、俺が萌とこうして屋上でナニしてるかもしれないことは、学内でも話に持ち上がるんだろうけれど。  
聞くのと見るのとじゃ、違うわけで、現に俺たちの事後を見ていたそのこ、そう、女の子の声だったが、彼女は完全に顔を真っ赤にしていた。でも、声や背格好、どこかで見たことのある気がする人だった気がした。  
 
その日、ことりがやけによそよそしく見えたのは気のせいではなかった。  
あとで聞いたところ、カキは精力増進の食べ物だったらしい……萌に知らないうちにもられてしまっていた。  
 

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