DC陵辱 アイシア  −−魔法の恐ろしさ−−  
 
 
「ひ・・・!? いやっ、放して下さいっ・・・放してぇ!!」  
朝、いつもの場所でいつも通りにアイシアが一人で魔法の特訓をしていると  
いきなり変な男に押し倒された。  
 
 
初音島で魔法を学ぶために北欧からやってきた少女・アイシア。  
最初は右も左もわからない、知らない人だらけだったこの島も  
今ではすっかり増えた友人たちと少しばかり気になる人などに囲まれ、慎ましくも平和に暮らしていた。  
そこへ芳乃の血を色濃く受け継ぐ少女・さくらの突然の帰郷。  
当然アイシアは彼女に魔法を教えてもらえるように頼んでみたのだが、返ってきた言葉は冷たいもの。  
さくら曰く。  
魔法がどのようなものかを知ること。  
そして、魔法の恐ろしさに気付くこと。  
それができなければ、教えることはできない、と。  
 
アイシアは考えた。  
魔法とは、人を幸せにするためのもの。  
では、幸せとはいったい何なのか。  
純一、音夢、ことり。  
眞子、萌、ななこ。  
萌、アリス、環。  
彼らの、彼女らの幸せとは何か。  
純一の周りにいる少女たちは皆、彼に心惹かれるものたちばかり。  
だけど純一は一人しかおらず、結局彼は義理ではあるが  
妹の朝倉音夢を選んでしまった。  
純一と音夢は本当に本当に幸せそうで、いつも一緒にいて。  
だけどそんな幸せそうな彼らを見つめる他の少女達は、嬉しそうであり  
どこか悲しそうでもあった。  
以前、白河ことりに問うたことがある。  
このままで良いのか、と。  
本当に、純一に愛してもらわなくて良いのか、と。  
すると彼女はこう言った。  
純一と音夢、二人の幸せそうな姿を見ることが自分にとっての幸せなのだと。  
ウソだと思った。  
少なくとも、最初はそう思った。  
初め、アイシアには理解ができなかった。  
『みんなを幸せにする』  
これこそが彼女にとっての理想であり、願いであり。  
全ての人を笑顔に変えることこそが彼女の目指すところで、亡き祖母が魔法を使って皆を幸福にしてきたように  
自分も同じようになりたい。  
祖母のように魔法の力で皆を幸せにしたい。  
笑顔にしたい。  
病に倒れる人に薬を出したり、怪我に苦しむ人を癒したり。  
魔法とはそんな苦しむ人々を救うための偉大な力だと、彼女はそう信じていた。  
だけど先日、ことりや他の少女たちの様子を見て、彼女の言葉はウソではないのだと、  
愛する人を見守る幸せもあるのだと、アイシアは産まれてはじめて  
自分の考えていた『幸せ』とは違う形もあるのだということを知った。  
 
 
だけどやっぱり、心のどこかでは納得がいかなかった。  
それだけ彼女が純粋なのか、それともただ単に知らないだけなのか。  
自分の目指した幸せと現実との違いに、心悩ませるアイシア。  
だが価値観の水面にさざなみが立つなか、彼女に一筋の光が差した。  
はるばるこの島にやってきたのに出会えなかった芳乃のおばあちゃんの孫である  
さくらが帰ってきたのである。  
当然のごとく彼女に教えを乞うたのだが、残念ながら色好い返事は貰えなかった。  
それどころか、さくらは皆の願いを叶えるという桜の樹を自分で枯らしたと言った。  
わけがわからない。  
魔法は人を幸せにするもの。  
幸せになる手助けをするもの。  
だけどその魔法の使い手である彼女が、あろうことか  
皆が幸せになるためのものを壊してしまった。  
矛盾だらけの行動。  
まったくと言っていいほど、理解ができなかった。  
本当は、さくら自身の心の暗い部分がもたらした不幸な願いを消し去るために  
弱り行く少女を助けるためにしたことなのだが、それはアイシアの知らない話である。  
 
とにもかくにも、魔法の自己鍛錬だけは続けようと  
アイシアは今日も今日とて、人々を幸せにするためにがんばっていたのだが・・・  
「痛ぁ・・・! いやっ!!」  
気配と物音に気付いて振り向いたが、もう遅かった。  
アイシアは自分の倍ぐらいもある体格の男にのし掛かられ、ジタバタと藻掻いた。  
目の前に迫る髭面と興奮に狂った雄の体臭。  
ブチブチと、ボタンの弾け飛んだ音がした。  
引っ掻く、叩く、押し返す。  
しかし男は止まらない。  
逃れようと、離れようとするのだが、男はベッタリと張り付いてくる。  
引き剥がせない。  
芳乃のおばあちゃんに魔法を習うために習得したはずの日本語も、今はもうわからなくなっていた。  
 
非力にも抵抗を続けていた手足が、突然動かなくなった。  
何故、という疑問すらも浮かばないほど頭は混乱していて、それでも自由にならない四肢を懸命に動かそうと  
抱きついてくる男から逃れようと、さらに力を入れる。  
しかし上手くいかない。  
男はアイシアの抵抗が止んだことに気付いたのか、強い力で押さえつけるのを止め  
耳元に口を寄せてこう言った。  
身体、動かないだろ?  
魔法の力だよ、と。  
 
・・・・・・・・・・魔法?  
今、この男は「魔法」と言った。  
さらに男は付け加える。  
魔法の力がキミの手足の自由を奪っているんだよ。  
理解できなかった。  
魔法とは、人々を幸せにするためのもののはずで、決してこのようなことをするものではない。  
できるはずがない。  
恐怖と混乱が頭の中で渦を巻く。  
『ウソですっ、これは魔法なんかじゃありません!!』  
必死に反論しようとしたが、声が出なかった。  
男曰く、これも魔法の力なのだ、と。  
大声だけを出せなくしているのだと言った。  
 
 
いつのまにか上着のボタン全てが取り払われ、必要の是非を問われるような平坦な胸を覆う  
ブラジャーもズリ上げられて、男の獣臭い息が直にかかる。  
気持ちが悪かった。  
気持ち悪くて、怖くて逃げ出したくて。  
だけど身体は依然言うことを聞いてはくれず、敏感な胸の頂きに吸い付かれると  
全身に僅かのムズ痒さと、それを大きく上回る嫌悪感が走った。  
日の光を遮るように目の前を覆い尽くす男は、赤ん坊のようにそのまま乳首に吸い上げ  
出もしない母乳をねだるように甘噛みしたり、唇で挟んで吸ったりした。  
舌で乳輪を舐め回される感触に悲鳴を上げたが、やはり声にはならなかった。  
相手が動けないのをいいことに、男の行為はエスカレートする。  
スカートをめくり、今度は太腿を撫でてきた。  
皺だらけのゴツゴツした大きな手はじっとりと汗ばんでいて、生暖かくてベトベトしていて  
這い回るたびに怖気と虫唾が走る。  
男が耳元で臭い息を吐きかけながら言った。  
お嬢ちゃんの肌、スベスベで気持ちがいいね。  
柔かくてもちもちしてて、手に吸い付くようだよ。  
可愛いオッパイも美味しくて、ずっと吸っていたくなるね。  
何を言っているのか、よくわからなかった。  
 
 
魔法はね、こんなこともできるんだよ?  
パチンと指を鳴らす。  
するとアイシアの下腹部で、膀胱で何かがわだかまるような感触がしたかと思うと  
不意に履いていた下着に不快感を覚えた。  
股の間からジュワリと広がり行く生暖かさ。  
気持ち悪さ。  
小さな布きれはあっという間にズクズクになり、染み出た水気がスカートに地図を広げた。  
ここでようやく、アイシアは自分がお漏らしをしてしまったのだということに気付く。  
「ぁ・・・・・ぁぁ ぃゃ・・・」  
悲鳴は上げられないのに、何故だかか細い羞恥の声は出た。  
どうだい、魔法ってすごいだろ?  
さあ、下着がベチョベチョのままだと風邪を引いちゃうから、ぬぎぬぎしようね。  
そう言うと、恐怖とお漏らしの恥ずかしさとに震える少女のスカートの中に手を差し入れ  
ズクズクに湿った下着の両脇を掴んでゆっくりと膝下辺りまでズリ下げると、  
片方すつ足首から抜いて、アイシアの顔の上に持ってきた。  
ほ〜ら、こんなにたっぷりとオシッコを吸って・・・  
アイシアは、目を逸らさなかった。  
いや、逸らせなかった。  
逸らしたいのに、自分の意志とは裏腹にずぶ濡れの下着を凝視してしまう。  
これも魔法の力なのかもしれない。  
顔の上に堕ちてきた雫が冷たかった。  
 
見せつけるように顔の上にかざしていた下着を、雑巾を絞るようにギュッとねじる。  
ビチャビチャボタボタと汚れた水が垂れ落ち、人形のように愛らしい少女の顔を濡らした。  
落ちる滴を避けたかった。  
背けたかったが、やはり顔も身体も動いてはくれず  
落ちてきた汚れた滴が鼻や口に流れ込み、苦しさと嘔吐感と鼻孔を突くアンモニアの臭いにむせた。  
頬を伝って耳にも入り、目からは黄色い涙を流しているようだった。  
男はにっこりと笑って言った。  
自分のオシッコの味、どうだった?  
 
 
水気が搾り取られた下着を放り出し、小便にまみれた手でアイシアの両足を開かせた。  
そこはすでに十分に濡れていた。  
もちろんそれは、女性が性交のために分泌するものではなく、  
今し方、鼻と口から飲まされたものと同じ、汚れた排出物によるものだった。  
顔を近づけた男はフンフンと鼻をならし、お嬢ちゃんのおしっこって随分と臭うんだねと言って  
ペロリと秘部を舐め上げた。  
嫌悪感しか走らなかった。  
男はなおも秘裂を臭い臭いと言いながらも舐め、唾と尿液を敏感な粘膜へと擦り込んでゆく。  
アイシアは、何をされているのかわからなかった。  
彼女にはセックスについての知識がほとんどなく、ただただ怖くて気持ち悪くて、早く終わってほしくて。  
心の中で、声にならない声で、この島で知り合った友人たちに、亡くなった祖母に助けを求める。  
陰裂を舐め回していた男が顔を上げ、袖で口元を拭った。  
そして、幼い少女との結合を試みる。  
ジッパーを下げ、社会の窓に指をいれてゴソゴソとそれを取り出した。  
ビンビンに天を仰ぐ醜悪な肉の塊。  
アイシアには、それが何だかわからなかった。  
男性の排尿器官であるということはわかったが、それをどうするのかがわからない。  
男は勃起した剛直を見せつけるようにしごきながら、穢れを知らない花園へと近づける。  
一本のスジのような恥裂を指で左右に捲ると、赤とピンクの肉色をした花弁の中心に  
ピッタリと窄まった穴を見つけることができた。  
そこへいきり勃ったイチモツを宛がい、細くて折れそうな少女の腰を掴んで固定する。  
潤滑油は、アイシア自身が垂れ流した僅かばかりのお小水。  
男が力を込めて腰を押し進めると、肉の裂ける音がした。  
「・・・!?  っ!!  〜〜ッ! −! ――――!?!!」  
目を見開き、思いっきり叫んだ。  
しかし彼女の声は音にはならず、パクパクと口が開かれるだけ。  
端から見ると、金魚のようで滑稽だった。  
 
へへへ、入ったよ。  
アイシアの頬をペロリと一舐めし、生臭い息で話しかける。  
ボクは今とても幸せだよ、と。  
・・・・・・・・・ウソだ。  
こんなの・・・こんなの幸せじゃない。  
幸せなんかじゃない!!  
目尻に涙がジワリと浮かんだ。  
 
男はさらにこう言った。  
温かいよ。  
キミの中は熱く締め付けてきて、といも気持ちがいい。  
魔法は人を幸せにするために存在すると言われてるけど、それは本当なんだね。  
のし掛かる男は幸せそうに、本当に幸せそうにそう言った。  
・・・・・違う。  
違う、違う、違う、違う違う違う違う違う違うちがう違う  
違うちがうちがうちがう違うちがうちがうちがうちがうちがうっっ!!!  
こんなの間違ってる。  
楽しくない。  
嬉しくない。  
こんなの全然幸せじゃない。  
魔法は・・・・・魔法はこんなことをするためにあるものじゃないっ!!  
アイシアは心の中で声の限り叫んだ。  
 
 
やがて、少女の温もりを堪能していた男が動き始める。  
腰を引くときに小さな秘洞の肉壁をカリ首で引っ掻き、亀頭が見えるまで引きずり出すと  
今度は再び閉じ合わさった膣をこじ開けて埋めてゆく。  
ギリギリまで引き抜いては、また腰を進める。  
慣れない場所への慣れない痛み。  
「っ!! ―ッ! ―っ――っっ!!」  
繰り返し襲い来る痛さに悲鳴を上げるが、やはり声にはならない。  
覆い被さる男はアイシアの耳元で「キモチイイよ 幸せだよ」と壊れたテープのように繰り返す。  
違う。  
ぜんぜん幸せなんかじゃない。  
こんなの誰も喜ばない。  
こんなの・・・・・・・・・・・魔法じゃない。  
アイシアも心の中で、壊れたテープのように繰り返す。  
男は腰を振りながらなおも言った。  
キミはどうか知らないけど、ボクは幸せだよ。  
魔法の力のおかげで、ボクは今とても幸せなんだよ。  
ねえ、痛い?  苦しい?  逃げ出したい?  
でもダメ、絶対に逃がさないよ。  
この後キミを家までお持ち帰りして、お風呂に入れて色々なお洋服を着せて  
口移しでご飯を食べさせて、トイレもしっかり躾けしなきゃね。  
家にはね、いっぱい服を用意してあるんだ。  
ブルマ、スク水、セーラー服に園児服。  
浴衣からナース服、巫女服、チャイナトレス、でもやっぱりキミに似合うのはゴスロリ系かな。  
あ、でも化粧はダメだよ、肌が荒れちゃうからね。  
しゃべりながらも、少女の幼い恥裂を犯すことは忘れない。  
やがて高まり来る射精感。  
腰の動きが早くなった。  
ズグズグと柔らかな粘膜を、熱くて固くて血管の浮き出た肉の塊で味わう。  
アイシアは心の中で否定の言葉を繰り返し続けた。  
 
耳元の臭くて荒い息使いが早く、小刻みになった。  
お腹の奥への打ちつけも間隔が短くなり、今までベラベラとしゃべっていた男は急に押し黙る。  
ガクガクと腰を揺らし、最後の一撃は恥骨を押し潰さんばかりの勢いだった。  
顔のすぐ横で上がる獣のような、少し高めの間の抜けた声。  
次いでお腹の奥で広がる、火傷しそうな程の熱い奔流。  
何をされたのかわからなかったけれど、悲しくて悔しくて  
苦痛に歪められた瞳の端から小さな滴が流れ落ちた。  
 
暗い瞳でブツブツと何事かを繰り返すアイシアから自身を抜き取ると  
額の汗を拭い少女の頬を伝うものを舐めて感想を述べた。  
キミの涙はしょっぱくておいしいね、今度はオシッコも飲みたいな。  
さあ、それじゃあ家に行こうか。  
楽しいものがたくさん待ってる、キミもきっと気に入ってくれるよ。  
その後、アイシアは男の部屋に持ち帰られ人形のように犯された。  
逃げることも抵抗することもできず、指一本動かす自由すら与えられず。  
ただただ出来の良いダッチワイフのように。  
男が愉しみ、満足するために。  
射精の度、男が幸せを得る度にアイシアは苦しみを、悲しみを与えられる。  
相手が幸福の絶頂に至る度に、自分は不幸のどん底へと叩き落とされる。  
辛くなる、悲しくなる。  
そしてこの男にとっての『幸せ』は、幾日も幾日も繰り返された。  
 
――――――――――――――――――――  
 
 
アイシアが監禁されてから、数ヶ月が過ぎただろうか。  
男にとっては相も変わらず幸せの日々が続き、  
それに相反するように  
少女にとっては相も変わらず苦痛に満ちた日々だった。  
――――死にたい。  
何度もそう思った。  
こんなことが続くのならば、いっそのこと死んでしまいたい。  
そう願った。  
だけどそれすらも叶わない。  
舌を噛み切ろうとしても、できなかった。  
生きることへの未練もあっただろうが、なにより男の魔法の力がそれを許さなかった。  
この数ヶ月でアイシアはようやく魔法の怖さと、人によって幸せには違いがあるのだと  
ある人物の幸福が別の人物の不幸に繋がることがあるのだということが、ようやくわかった。  
身を持って理解させられた。  
 
今日もまた、膣奥深くまで貫く男が幸せの証を胎内で撒き散らした。  
少女のお腹は、少しばかり不自然な膨らみを見せていた。  
アイシアは、自分が妊娠していることを理解していた。  
何も知らない彼女に、男が性教育を施したからである。  
懐妊して隙間なく閉じ合わさった子宮の入り口を思いっきり突き上げられると  
嘔吐感が込み上げてくる。  
もうここ数ヶ月のあいだ、嫌というほど繰り返されてきたことだった。  
欲望の丈を出しきった肉棒が引き抜かれると、口に手を当てて吐き気を堪え  
捲れ上がった股の間から濁液を垂らしながら、よろよろと洗面所に向かう。  
淵に両手をついて顔を排水溝に近づけて、思いっきり胃の内容物をブチ撒けた。  
タパタパと酸っぱい粘液と半ば以上溶けた今朝のご飯を吐き出し、  
荒い息をはきながらグッタリとその場にくずおれた。  
側まで来た男が生気の失われた少女の背をさすりながら言った。  
妊娠おめでとう。  
この年で女の幸せが掴めるなんて、そうそうないことだよ。  
よかったね、アイシアちゃん。  
 
そして今日、アイシアにはもう一つわかったことがあった。  
相手から見る幸せと本人にとっての幸せとは、また別物であるということ。  
虚ろな瞳で自分のお腹を見てみたが、よくわからなかった。  
これから、どうなってしまうのだろうか・・・・  
という僅かばかりの不安と、  
もう、どうでもいいや・・・・という心の大部分を占める諦め。  
すでに涙は出なくなっていた。  
 
 
―――――そろそろ、理解してもらえたかな―――――  
何も考えられなくなったアイシアの心に響く、どこか懐かしい少女の声。  
―――――ボクがアイシアに知ってもらいたかったこと。  
     魔法の恐ろしさと、『幸せ』の意味―――――  
少し舌っ足らずで、幼さの残る声。  
急に辺りが暗くなった。  
男も、今まで居た洗面所の床すらも消え失せ、アイシアは一人  
闇の中に立っていた。  
―――――ちょっと荒治療だったけど、これでわかってもらえたかな・・・・?―――――  
にゃははと苦笑いを浮かべ、頬を掻いた。  
―――――安心していいよ、アイシア。  
     これは、夢の中の出来事だから―――――  
申し訳なさそうに、でもどこか慈しむような声で。  
―――――目を覚ませば、全てが元通り。  
     この辛かった記憶もなくなる。  
     でも、心のどこかでこの夢を覚えていたなら、キミが現実の世界で魔法や  
     人の幸せのあり方について学ぶための手助けになるんじゃないかな―――――  
純粋な彼女に、願いを込めて。  
芳乃さくらは、まだまだ人としても魔法使いとしても未熟な少女にそう言った。  
声の輪郭がぼやけてゆく。  
―――――さあ、そろそろ起きる時間だよ。  
     寝ぼすけなお兄ちゃんに、逆に起こされるなんてことのないように、ね!―――――  
声が遠ざかる。  
最後に、酷い夢を見せて本当にごめんね、という言葉を残して。  
一人暗闇に佇むアイシア。  
急速に身体が浮上する感覚に襲われた。  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・  
・・・・・  
・・・  
薄く、目を開けた。  
見慣れた天井。  
白いレースのカーテンを通り越して差し込んでくる、朝の光。  
窓の外から聞こえる小鳥の囀り。  
枕元を見やると、目覚まし時計の針が6時前を差していた。  
・・・・・・・  
・・・・・・・  
・・・・・・・  
大きく息をつく。  
なんだか、とても怖い夢を見ていたような気がした。  
すごく早いという程でもないが、力強く脈打つ心臓。  
雑巾のように搾れてしまうのではないかという程に寝汗を吸ったパジャマ。  
夢がどのような内容だったのかは、覚えていない。  
もう一度、大きく息をつく。  
安心すると、素肌にベッタリとへばりつく寝間着に気持ち悪さを覚えて、急いで着替えた。  
朝起きて、着替えてトイレで用を足して、洗面所で顔を洗う。  
身支度を軽く整え、魔法使い必須のアイテムであると信じる黒いマントを羽織った。  
音夢は台所。  
純一は案の定、まだ夢の中だった。  
玄関口で靴を履き "よ〜し、がんばるぞ" と気合いを入れる。  
さくらの言っていた言葉。  
それがいったいどういうことなのか、まだよくわからなかったが  
今日はなんだか、違う何かが見えそうな気がする。  
音夢に朝練に出かけるむねを大きな声で告げ、ドアを開けた。  
目が眩みそうなほどの日の光に手でひさしを作り、空を見上げる。  
これから日中にかけて強くなるであろうことを予感させる日差し。  
彼方には大きな入道雲。  
夏の空だった。  
 
 
まだ早朝だというのに、元気に鳴き始めるセミの声に見送られて  
この島に魔法を学びに来た少女は、もう一度 "よ〜し、がんばるぞ" と気合いを入れて歩き出す。  
目指すはいつもの練習場所。  
今日も、熱くなりそうだった。  
 
END  
 

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