工藤叶は激しく悩んでいた。その原因は学校行事にあった。
叶の前には「風見学園水上運動会」の告知プリントがあった。相変わらず
イベント好きな学校であるが、そこに挟まれた「水着は自由」の一文が生徒
たちを熱狂させていた。一部の、いや、少なからぬ女子生徒らが意中の男子
生徒らを振り向かせるために熾烈な駆け引きが水面下で行われていたので
ある。
叶は今まで水泳の授業はずっと見学でいた。今回もそうしようと考えていた
が、情勢はその選択を許そうとはしなかった。叶の意中の人、朝倉純一には
ライバルが多く、そのライバルたちがその駆け引きに参戦していたのである。
ことりに付き合って水着を買いに行った時のこと、店で同様に買い物に来て
いた音夢と美春、そして水越姉妹に会った。そして音夢が白の超ビキニを、
萌が黒のブラジル水着を購入しているのを見てしまったのである。それに
影響されて姉の選択に文句を付けていた眞子もしっかりと超ビキニを購入し、
ことりでさえも購入予定のパレオ付きワンピースのセレクトを変更しようと
したことを。
家に帰った叶は、その日悪夢に襲われた。大胆な水着で迫るライバルたちに
よって純一が陥落する悪夢を。そして翌日、音夢の超ビキニの噂が流れて
スナップショットの予約で競っていたことりに差を付けていたこと、そして萌の
予約が急激に増加していることを知り、ついに参戦を決心した。
とはいえ今まで男装美少女であった彼女にファッショナブルな水着など持って
いようもなく、その知識もなかった。また今まで男装を可能にしてきた彼女の
スタイルは音夢やことり、萌に大きくヒケを取っていることは容易に想像できた。
同じような水着では見劣りがしてしまう・・・何か音夢や萌に負けない方法は
ないか、思い悩んだ叶は尊敬する祖母の言葉を思い出した。
「温故知新」
名家である工藤家には古文書などの資料が多く、彼女は夜を徹して調べ上げた。
そして望みうるものを見つけた彼女はネットでそれに類似したものがあるかを
ググる。
あった!彼女は翌朝、店の開く時間を待って購入した。
購入した水着はセパレートタイプ、ブラは普通のショルダーレスのバストに自信の
ないものでは着用に耐えるもの、だが特徴はパンツの部分にあった。
パンツの部分は”ふんどし”であった。隠しているのは大事なところだけでお尻は
完全に露出していた。いや、却って彼女の男好きする、男装時には最もウホッ!な
尻として風見学園でランキングされていた叶の尻を強調していた。
かなり恥ずかしい水着であった。しかし、純一を振り返らせるためには、音夢や萌に
対抗するにはこれくらいしなければ!叶は決意を固めた。
だが彼女は「水上運動会」のプロデュースが杉並であること、そして「水上運動会」の
ニュースがネットに流れ、多くのカメラ小僧が初音島に来襲しようとしていることを
知らなかった。
遂に「水上運動会」の日を迎えた。
風見学園の生徒らは期待と不安と思惑と陰謀が入り混じらせながら、開会の
時を今や遅しと待っていた。
「杉並よ、ちょっと聞いていいか・・・この水泳大会なんだが・・・・・・」
「水泳大会ではない、水上運動会だ!朝倉よ、実行委員が間違えてどうする?」
「どっちでもいいんだが・・・」
「どっちでもいいことない!そもそも・・・」
「分かった、分かった!この水上運動会なんだがな・・・」
「なんだ」
「なんで、会場は学校のプールじゃなくて海になってるんだ!?」
「初音島の環境を利用しただけのこと!いいか、朝倉よ!!
我ら若人の熱き血潮をたぎらせるには学校のプールなど小さ過ぎる!!
実行委員のお前はそんなことも知らなかったのか!?」
「おかげ様でね・・・昨晩、白河先生に言われるまで実行委員になっていたとは
知らなかったからな」
「お前は二つ返事で了承したではないか!?」
「そりゃ、夏休み全期間の補習と引き換えならばな・・・」
「まあ、お前が競技者の方にいると何かと差し支えがあってな・・・」
「そいつはどうも」
「そうだな、新参のお前に水上運動会について少し説明しておく必要があるな。
基本的には秋にやる運動会と同じ、クラス対抗方式で行う。優勝クラスには
ご褒美がある」
「かったるい・・・」
「そして、この水上運動会には練りに練った競技が用意されている。
例えば、水上騎馬戦!これはクラスの男子が全員参加だが、特別ルールが
ある。それは各クラス5名の女子が全て騎手となり、この鉢巻を奪われると
負けというルールだ。他の騎馬は全てこの女子を守るか、他のクラスを
攻撃するためだけに存在するという訳だ!!駆け引きが見ものだぞ!!
ポロリもありだ!!」
「そうでっか・・・」
「これなんぞ、自信作だぞ!!」
「えっ・・・借り物競艇?なんだ、こりゃ?」
「詳しく説明しよう!まず出場選手は封筒を取り、その中に記載された女子生徒を
ボートに乗せ、あの島まで漕ぐ!」
「結構、距離があるぞ・・・しかし、あそこは無人島で借り物なんか・・・?」
「前もってあの島には様々な物品が置いてきているのだ。そこで物を確保してきて
またここに戻ってくる。そして、ここでお披露目・・・」
「ちょっと待て!お披露目ってなんだ!?」
「ふふふ、あそこにあるのはスク水やビキニ、レオタードから褌まで様々な衣装が
隠されている。選手らは女子生徒に何を着せるかコーディネートするんだ!!
そして、ここに帰ってきてから”お披露目”し、採点するのだ!!」
「双○島かよ・・・で、誰が採点するんだ?」
「ネット」
「ハァ?」
「既に審査員は選択し終えている。彼らはネットの向こうで評点を付ける手筈だ」
「あっ・・・頭痛くなってきた・・・ところで褌って何だよ!?」
「褌は褌だ」
「それは分かっている!なんであるんだ?着るやつはいるのか!?」
「そこに一人」
杉並に指差す方向には工藤がいた。褌によって隠されていないキレイなお尻は
既に男子生徒や観客の目を釘付けに、いや視姦されていた。
「他にもいろいろあるぞ、例えばだなぁ・・・」
「いや、もういい・・・」
そして、水上運動会がいよいよ始まろうとしていた。