「嫌ぁぁっ!止めてっ!離してぇぇっ!!」
哀願も虚しく組み伏せられた。少女の両の腕をがっちりと固定するのは筋肉質な男の手。
押さえつけられたままの少女にまた別の男が迫る。飢えた牙を剥き出しにして。
「い…や…許して…そんな……」
自分を待ち受ける悪夢に少女は戦慄する。ジジジとジッパーが開く音。姿を覗かせるグロ
テスクな肉塊。ただ怯えすくみ絶望する。獣に狙われた哀れな贄として。
「嫌ぁぁぁぁっ!!助けてっ!兄さん!兄さぁぁぁんっ!!!」
自分を喰らおうと群がる獣を前にして少女・朝倉音夢は最愛の兄に助けを叫び続けた。
「なんか嬉しそうだね。美春。」
「あはは♪いやですね音夢先輩ったら。そんなこと当たり前じゃないですかあ。」
軽く微笑みながら尋ねてくる音夢に美春は無邪気に返す。嬉しそう。そんなのは当たり前
のことだ。島を離れていた音夢が二年ぶりに帰ってきてくれたのだから。大好きな音夢の
帰郷に美春の胸は天にも昇るかのように弾んでいた。
「美春は相変わらずね。二年たっても。」
「あ〜ひどいですよぉ。音夢せんぱ〜い。美春だってちゃんと成長してますよぉ。」
まだまだ子ども扱いをするような音夢の口ぶりに美春は口を尖らす。だが天真爛漫な美春
の姿は音夢の目には二年前と変わらぬように思えた。音夢が島にいたあの頃と。
「ねえ…美春。」
「なんですかぁ?音夢先輩。」
ふいにどこか遠い目をしながら音夢は尋ねる。音夢の微妙な表情の変化には気づかずに無
邪気に聞き返す美春。
「ちょっと美春に聞きたいことがあるんだけど。」
「音夢先輩の頼みとあれば喜んで。さあさあ何でも美春に聞いてください。音夢先輩♪」
えへんと胸を張るように少し誇らしげな美春に音夢は苦笑する。知らないということは幸
せなことなのだろう。こんなにものんきでいられるのだから。自分も美春のようにいられ
たならばと思わないでもない。でも無理だ。音夢にとっては。苦笑いを美春には気づかれ
ないうちに聞き返すことにする。もう後戻りは出来ない一言を。
「……美春……兄さんとは寝た?」
「………はい?」
あまりにも突拍子も無い音夢の一言に美春は思わず硬直した。
それは美春にとっては想定外の問であった。というよりも美春の頭では意味をつかねかね
ている。『兄さんとは寝た?』この兄さんとは間違いなく純一のことだろう。寝る。小さい
頃に音夢と純一と一緒に三人で川の字になって寝たものだがそれとは違うのか。はて。
「どうせ小さい頃に一緒におねんねしてたとかそんなこと思い出してるんでしょ。」
「えっ?あ……あ…はい……」
つい図星を指されて気恥ずかしくなり美春は口ごもる。一緒に寝る。文字通りの意味以外
は考えもしなかった。考えたくなかったのだろう。男と女とで一緒に寝る。その意味を。
「はぁ、まったくしょうがないわね。もっと分かりやすく言おうかしら。」
そんな美春の様子に焦れて音夢は溜息づく。きょとんとしている美春に向き直り再び問う。
「美春は兄さんに抱いてもらったのかって聞いてるの。男女の仲になったかっていうこと。
それともエッチなことをしたかとかストレートに聞いたほうが早い?」
「え…ええええええっ!???」
流石に鈍感な美春でもそこまで言われれば分かる。純一と男女の一線を越えたのか。そう
いうことを音夢は聞いているのだ。何故?どうしてそんなことを?美春の頭は更に深い困
惑で包まれる。
「あのぉ…音夢せんぱ〜い…そういうご冗談はあまり…よろしくないかと……」
ぎこちない笑みを浮かべながらそう返すのが精一杯だった。何かの冗談だろう。そうに違
いない。音夢が本気でそんなことを聞いてくるはずが無いのだ。
「冗談……冗談ですって………」
「あのぉ…せんぱ〜い…もしもし?」
「冗談でこんなこと聞くわけないでしょうっ!!」
「ひっ!!!」
刹那、音夢は激昂する。目を剥いて怒りを露にした表情で美春に詰め寄る。驚き腰を抜か
した美春は容易に音夢の接近を許す。すると襟元をがっしりと掴まれた。
「あ……うぅ…音夢…先輩?」
「兄さんとそういう仲になったのかって聞いているのよ!私がいない二年の間にっ!!」
「……っ!?」
言葉も無い。音夢は美春と純一の間を疑っているのだ。音夢のいない二年間の間に二人が
男女の仲になったのではないかと。
「美春は兄さんに抱かれたの。兄さんに愛してもらった?私のいない間にっ!……答えて
…さっさと答えなさいよっ!!」
「あぅぅ…ぅ…ぁ…そんな…そんなこと……」
血走った音夢の瞳。美春が何を言ったとしても通じないだろう。そのことが美春にとって
はたまらなく哀しい。誰よりも大好きだった音夢に信じてもらえないのだ。
「うっ…っぐ…そんなこと…ないですよ…ひっく…朝倉先輩とは…何も……」
「本当?……本当に……?」
すすり泣きながら答える美春に注がれる音夢の視線は冷ややかだ。いかにも疑わしげに責
めるような眼差し。その眼光が余計に美春を追いつめる。
「うっ…っぐ…ひっく…酷い…です…音夢先輩……美春が音夢先輩のこと…裏切るわけな
んてないじゃないですか…なのに…うっ…ふぇぇぇっ…うあぁぁぁぁんっ!!」
とうとう堪えきれずに美春は声をあげて泣き出す。哀しかった。音夢にそんな目で見られ
ているということが。純一に対する好意は美春も自分で気づいていた。それが幼馴染に対
する親愛というよりも一人の異性に対する恋心であることも。だが同時に音夢の純一に対
する想いも知っていた。だから自分の想いを純一に打ち明けることはしなかった。そんな
素振りさえみせなかった。音夢と純一。大好きな二人に幸せになってほしいから。だがそ
んな美春の想いが音夢には欠片も通じていない。そんな事実が美春を絶望に追いやる。
そんな泣きじゃくる美春を音夢は冷めた瞳で見下ろす。何をこの程度のことで泣いている
のだろう?この娘は。そんな風にさえ思った。これからもっと泣きたくなるような目に遭
うというのに。否。あわせるのだ。自分が。美春を。
「美春…私に信じてもらいたい?」
「あぐぅ…うっぐ…ふぇ?」
「美春は私に信じてもらいたいの?そのためには何でもしてくれる?」
「当たり前ですよぉ!…っく…美春…音夢先輩に…そんな…っぐ……」
ポツリと囁く音夢に美春はすすり泣きながら答える。自分の潔白を音夢が信じてくれるの
なら。また大好きな優しい音夢に戻ってくれるのならば、それこそ何も厭わぬ気持ちであ
る。
「そう。それじゃあ確かめさせて。」
「へ…?」
にっこり微笑みながら音夢はそういった。思わず呆然とする美春。だがすぐに意識を引き
戻される。なぜなら音夢がまたしても美春に詰め寄り今度はその衣服に手をかけているの
だから。
「ちょっ…待ってくださいよ!そんな…音夢先輩っ!!」
「あらぁ?何でもしてくれるんでしょう。それともやっぱりやましいことでもあるんだ?」
「それとこれとは…ひっ…いっ…駄目ですぅ!!そんな…きゃぁぁっ!!」
「大人しくしなさいよ。まったくしょうのない娘ね。手間かけさせて。」
組み伏せて服を脱がしにかかろうとする音夢だが流石に美春も抵抗する。ジタバタ暴れる
ので一向に上手く脱がせやしない。音夢は毒づく。こんな出だしで躓いている暇はないの
だ。我慢を切らして懐から道具を取り出す音夢。金属の先端部分を美春に押し当てスイッ
チを入れる。
「〜〜〜〜〜〜!!!」
弾けだす衝撃に美春は声もなく倒れた。突き抜ける衝動は神経から脳にまで一気に貫く。
全身にびりびりと残る余韻。指さえまともに動かせぬ麻痺が美春の身体を包む。
「ふふ。面白いでしょ。こんな玩具も本土じゃ簡単に手に入るのよね。」
スタンガンを手に握り締めながら微笑んで言う音夢。
「もう。美春が悪いんだからね。抵抗しなきゃ優しくしてあげたのに。」
そう拗ねたように笑いを見せる。その笑顔の奥に悪魔を飼いならして。
「じゃあ。はじめましょうか。美春。ふふふ。大丈夫よ。そんなには酷いことしないから。」
口でそうは言いながらも美春を嬲り者にする意思が音夢からはありありと感じられた。狩
人に狙われた哀れな獲物。今の美春を表すならばそんなところだろう。
(どうして……どうしてなんですか……音夢先輩……)
自分の知っていた姿とはあまりにもかけ離れて変わり果てた音夢。そんな音夢を前にして
美春は深い絶望に身を堕とす。それが美春にとって悪夢のほんの入り口に過ぎないという
ことをいまだ知らずに。
「クスクスクス。いい格好よね。美春。」
「…うっ…っぐ…えぅ…ひっ……」
軽く笑いながら見下ろす音夢の視界には美春のあられもない姿が映し出されていた。衣服
の上下を引っぺがされ下着だけを身に包む姿。少女から女へと色づき始める頃合の熟しき
っていない身体が露になっている。羞恥から顔を朱に染めすすり泣く美春を音夢は楽しげ
に眺める。
「あはははは。駄目じゃない美春。そのぐらいで泣いてちゃ。」
「…っぐ…えぐ…許してください…もう…許して……」
嘲り笑う音夢に対して美春は涙ぐんでただひたすらに許しを乞う。自分に対する音夢の余
りの仕打ち。それが現実とは到底受け入れられずに。
「あら、駄目よ。だってここからがいいところなんだから。ふふ。じゃあ下着も脱がして
あげるわね。」
「うっ…ぐ…や…め…うっ…ふぇぇぇぇん!」
また泣き出した美春は無視して脱がしにかかる音夢。するりするりと容易くも健康的な白
色の下着が引き剥がされて放り出される。薄い布地に覆われていた美春の秘肉。それを包
み隠すものはもうない。生まれたままの姿にされただ泣きじゃくる美春を見つめ音夢は楽
しげに頷く。
「うっ…っぐ…ふっ…ぅ…酷い…です…ふぇぇぇ…ふぇぇぇっ…っぐ…ひど…い…」
「あらあら泣き虫なのね。美春は。いいじゃない。別にこのぐらい。」
しれっとした顔で音夢は答える。美春にはいまだに信じられなかった。音夢が自分にこの
ようなことをするのが。全裸にされた羞恥心以上に音夢からの加虐に美春の心は傷つけら
れていた。
「あら、美春。ひょっとして……」
「…ひっぐ…うぇぇっ…っく…っ!?……ひゃいぃぃっ!!」
「やっぱり思ったとおりね。二年前より少しは育ってきてるじゃないの。生意気ね。」
「ひっ…ひぃっ…掴んじゃだめですぅ!…ひやっ…やっ…はぁ…あっ……」
両の手に伝わる柔らかな感触を音夢は確かに感じた。まだ成長段階の未成熟な胸ではある
が二年前当時よりは幾分か乳肉は厚みを増していた。元が元だけにさほどの大きさという
わけではないがそれでも今の音夢よりは育っている。忌々しい。そう思うと美春の胸を揉
みしだく手にも力が入る。
「痛いっ!痛いですっ!…ぁ…ぅ…ひきぃぃぃっ!!」
「本当に生意気ね。すくすく育っちゃって。二年前は私より小さかったくせにっ!」
美春の双丘に食い込むかのように音夢は指先に力を込める。乳肉を握り潰される痛みを美
春は涙をポロポロ流しながら堪える。ジリジリと響く肉を摘まれる苦痛。拷問のような責
め苦の時間が美春には長く感じられた。そんな美春の反応を心底楽しみながら音夢は続け
る。泣き喘ぐ美春の姿に酔いしれながら。
「…うっ…っぐ…ぅぅ………」
泣きはらした赤い瞳。握り潰され続けた胸にはくっきり音夢の指の痕がついていた。拷問
からようやくに解放された美春は憔悴した表情でただ弱く泣く。
(音夢先輩…どうして美春にこんな…美春のこと…嫌いになっちゃたんですか…)
これが現実とは美春は認めたくなかった。音夢が自分にこんな仕打ちをするなど。あの優
しかった音夢が。大好きだった。姉のように慕っていた。その音夢にこのような虐待を受
けている。どうしてなのだろうか。自分は何か嫌われることをしてしまったのだろうか。
音夢に嫌われる。美春にとってはそのことが何よりも辛い。身を裂かれるばかりに。
「ふん。まあこんなところかしら。」
そう音夢は軽く鼻息をたてる。美春の胸を嬲るのも飽きてきた。手っ取り早く次の作業に
取り掛からなくてはならないのだから。それにしても忌々しい。まさか美春に発育段階で
抜かれるとは思ってはいなかったから。
「本当にいやらしいわよね。何よ。すくすく育っちゃって。いつのまにそんなにエッチな
娘になったの?美春は。」
口元を歪めて囁く。刺々しい悪意を溢れさせて。鋭い音夢の眼光は涙目の美春を視線で威
嚇するように射抜く。
「っぐ…そんな…美春…エッチなんかじゃ…ないです……」
「へぇ。そうなんだ。じゃあ試してみようかしら。」
するとおもむろに音夢は美春に接近する。反射的におののく美春だったが満足に動かぬ身
体では抵抗すらできない。容易に組み伏せられ足を開かされる。開脚された股の間。それ
こそが音夢が狙いをつけた箇所。
「ひやぁぁぁっ!止めてくださいっ!そこだけはっ!そこだけは見ちゃだめですっ!!」
「あら、駄目よ。だって確かめないといけないんですもの。美春が本当に兄さんとは何も
なかったのかどうか。」
「本当になにもないですっ!信じてくださいっ!音夢先輩っ!!」
「だからそれを確かめるんでしょう。わからない娘ね。」
必死の静止も虚しく音夢の視線は美春の秘部へと注がれる。ほんのりとしたピンク色の秘
肉が貝殻のように合わさっていてそれを覆うはずの毛すら生え揃わぬ肉蕾。そのあどけな
さはまるで美春自身を表しているかのようにも思える。無邪気で無垢。穢れを知らぬ清純
さを。その花弁を一枚音夢はめくる。途端、美春から悲鳴が上がる。音夢の細い指先が捉
えるのは陰唇。ぴったり合わさった貝殻を開いて中を覗き見る。包み隠された美春の膣内
が音夢の視界に現れた。
「ふぇぇぇっ…ふぇぇぇぇんっ!あぅぅぅ…あぅぅ…うっ…ぁぅ……」
「何よ。いいじゃない少しぐらい。減るもんじゃないんだし。」
「っぐ…うぐっ…恥ずかしい…です…美春…恥ずかしくて…死んじゃいます……」
「あらそう。じゃあ勝手に死ねば?」
羞恥の余り泣きじゃくる美春。音夢は冷たく突き放して美春の膣肉の検分に集中する。視
認する限り美春の膣内は外側と同じく清純な色を保っていた。これは処女の肉だ。男根に
汚された経験のない乙女のみが持つことを許される。美春はいまだに処女。純一とは一線
を越える関係にまでは至っていない。予想通りの結論だ。予想通り過ぎて面白くもないが。
まあいい。どっちにしろ変わらないのだ。自分がやることには。
「あらあらまだ処女だったのね。美春。」
「…うっぐ…言ったじゃないですかぁ…だから…もう……」
「駄目よ。今はまだでも将来兄さんとそうなる可能性は0じゃないんだから。」
「…そんな…そんなぁっ!…っ!…っひ…いっ…いひゃぅぅぅ!!」
刹那、濡れたものがピチャリと触れる感覚に美春は悶える。美春の秘肉に触れる桃色の物
体。それは音夢の舌先。
「ひゃひぃぃぃ!駄目です。そんなところを舐めたりした…ひゃぅぅぅぅ!!」
「あら。感じやすいのね。でも駄目。許してあげない。」
薄桃色の秘肉を舌でなぞる様に音夢は愛撫する。幼さの残る肉のクレバス。濡れた舌先で
執拗につつき続ける。唾液にまみれた舌が這いずり回るたびに美春の脳には刺激がはしる。
「ひゃふぅぅぅぅっ!…もう…やめ…あひぃぃぃっ!いひぃぃぃぃぃっ!!!」
愛撫を続けながら音夢はもう一箇所標的を責める。包皮に包まれた可愛らしい肉芽。性感
帯の集中する敏感な部位を音夢は指先で捉えていた。摘む。擦る。しごきたおす。
「あひやぁぁぁっ!!ら…らめぇぇぇっ!やめっ…あひっ…くひぃぃぃっ!ひぃやぁぁぁ
っ!!!」
ピンポイントで与えられる責めに美春の心と体が共に果てるのには時間はかからなかった。
「クスクスクス。あはははは。何?こんなに早くいっちゃったの?本当にエッチね美春。」
嘲り笑う音夢の声。それが美春の鼓膜を叩いていた。奥に響いて余韻を残す。同情の色な
ど微塵もない。楽しんでいるのだ。美春を嬲り者にして。
(…どうして…音夢先輩…どうして……)
憔悴しきった心でまたしても問いかける。これは悪い夢だ。そうとしか思えない。音夢が
自分にこんなことをするはずがない。音夢はいつだって優しい。美春にとって誰よりも心
通わせられる存在。それが音夢だ。
(美春…待ってたんですよ…ずっと待ってたんですよ……)
音夢が帰ってくればまたあの楽しい日々が戻ってくると信じていた。音夢と共に過ごす時
間。今の友人達と過ごす日々も決して悪いものではない。むしろ幸せな日常ともいえる。
でもそこに音夢がいてくれたならばもっと素晴らしい、もっと楽しい毎日になるに違いな
い。そう信じていた。そう信じていたのに。
「淫乱よね。このドスケベ。どうせ人のいない間に兄さんを掠め取る魂胆だったんでしょ。
この泥棒猫。あ〜あ最低。」
容赦のない言葉。耳に馴染んだ声。音夢の声。それを発する顔も音夢の顔。聞き間違える
わけがない。見間違えるわけなんてないのだ。そのことが哀しい。
「音夢先輩………」
ポツリと虚ろな瞳で洩らしたその声には
「どうして…こんなことを……」
哀しみの色が織り込まれて
「美春のこと嫌いになっちゃったんですか…音夢先輩は美春のこと…」
吐き出すたびに心に影が満ちてゆく。光を多い尽くす深い闇が。
「そうね…憎いわ。」
「………っ!?」
すると一言で音夢は切り捨てる。躊躇いは微塵もない。当たり前のことのように。
「そ…そんな………」
刹那、音を立てて美春の世界は崩れていく。音夢に嫌われた。音夢に憎まれた。その事実
を音夢自身に肯定された。声も出ない。泣き声さえも。いっそのことこのまま心臓が止ま
ってしまえばいいのに。終わったのだから。美春の中で世界は終わってしまったのだから。
「美春だけじゃないわよ。」
そんな美春の様子を見てかは知らないが付け加える音夢。ただ口をパクパクさせている美
春。なにがそんなにショックなのだろう?自分に嫌われた?その程度で?何を考えている
のだろうこの娘は。音夢には理解できない。
「美春だけじゃない…白河さんも…眞子も…兄さんの周りにいる女の子達はみんな憎い。
私の敵よ。」
「違いますっ!!美春は音夢先輩の敵なんかじゃないですっ!」
「どうかしら…だって美春も兄さんのこと好きじゃない。」
「っ!?……ぅ…でも…でもぉっ!!」
「どうせ私がいなくてせいせいしてたでしょ。うるさい小姑が消えて喜んでたんじゃない
の?本当は。」
「違いますぅぅ…違いますぅぅぅぅ!!」
どうして自分の思いは伝わらないんのだろう。自分が一番好きなのは誰でもない。音夢な
のに。それが伝わらない。その程度の存在なのだ。音夢にとって自分はその程度の存在な
のだ。それを思い知らされる。どうしようもなく。
「…っく…ぐ…美春は…美春はずっと…音夢先輩のことを……」
大好きなんです。その言葉が繋げられない。拒絶されてしまうだろうから。音夢の手によ
って。そうなったらもうお仕舞いだ。音夢とは終わってしまうのだ。こんな形で。
「どうしてって…聞いたわよね?」
「……へっ!?」
「どうしてこんなことするのかって聞いたわよね?」
ふいに音夢から発せられていた刺々しい空気が和らいだのを美春は感じた。少し優しげ、
いやむしろ哀しげな瞳。ほんの少しだけ美春の知っている姿の音夢がそこにいた。
「教えて…くれるのですか…?」
つい聞き返す。音夢はこくりと頷く。音夢がこのような蛮行に至った理由。音夢がこんな
にも変わり果ててしまった理由。それを音夢自身が語ってくれるというのだ。知りたい。
知るのが怖い。二律背反した思いが煩悶する。だがそんな美春を無視して音夢の言葉は吐
き出される。
「私ね…レイプされたの…本土で……」
「……………………!!!!!!!」
音夢の口から洩れだした短い言葉。その簡潔な響きが耳に入った瞬間。美春は自分の目の
前が真っ暗になるのを感じた。