<序章>  
「花見とは花を愛でるだけでなく、花を見て喜ぶ人々のエネルギーを  
 桜が取り込む効果があると言われている」  
「ほう、それは初耳だな・・・杉並」  
「ならば、その説について詳しく説明しよう!」  
「いや、それはいい・・・俺が聞きたいのはなぜ、俺が学校に拉致監禁されて  
 いるのかということだ・・・・・・」  
「それについては、私が説明しましょう、朝倉くん」  
「理事長!」  
「理事長・・・理事長がなぜ、こんなことを・・・」  
「さきほど杉並くんが言ったこと、この初音島の枯れない桜については  
 そのとおりです」  
「・・・よく分からないのですが」  
「まぁ、そういうことにしておいてください。この枯れない桜は毎年、花見の  
 季節にエネルギーを補充しているのですが、今年は予想外のことが  
 発生しました。そう芳乃さくらさんの帰還です」  
「さくらの来日に何の問題が?」  
「大魔法使い”芳乃”の帰還は桜のエネルギーの備蓄量に不確定な要因と  
 なります。なので更なるエネルギーの補充が必要となります」  
「・・・で、それが俺の拉致監禁と何の因果が?」  
「今の桜の木に必要なのは人々のエネルギー、すなわち”MATSURI”です」  
「だが、学園祭も体育祭も二学期。さしあたって夏休みの前に補充をして  
 おく必要があるが、いまはその手の行事がない・・・」  
「だから・・・それが俺の拉致監禁と何の関係があるのかと・・・・・・」  
「そのエネルギーの補充に朝倉くんも協力してほしいのです」  
「協力って、何を?」  
「”MATSURI”の景品、すなわち”朝倉純一と夏休みを過ごす権利争奪”  
 武闘大会の景品として。協力してくれるな、わが友よ!」  
「断る!!」  
「なお、断った場合には朝倉くんには期末テストの補習として夏休み中、学校に  
 出てきてもらうことになります」  
「・・・喜んで協力させていただきます」  
 
「ところでだ・・・なんで俺の夏休み争奪が”MATSURI”になるんだ?」  
「争奪戦に参加すると思われるメンバーが朝倉妹、芳乃さくらを始めとして  
 豪華なんだな、これが!白河ことり、水越姉妹、胡ノ宮環などなど。  
 これだけ華のあるメンバーが戦う姿はまさに美の極致!」  
「朝倉くんには夏休みの予定を立てないように取り合えず隔離しておこうと」  
「それはそうと・・・そのメンバーは納得するんか?」  
 
同日同時刻 朝倉家  
「そ、そんなの・・・勝手です!」  
「ですが、よくお考えください」  
「何を!」  
「貴女と朝倉さんは建前として兄妹ですが、実際にはそうではないことは周知の  
 事実。ならば、この権利を獲得して自他共に認めるものと・・・」  
「す、少し考えさせて・・・」  
 
同日同時刻 水越家  
「そんな話をわたしのところに持ってくるの!?」  
「そうですか・・・それは失礼いたしました。それでは・・・」  
「いや、ちょっと待って!わたしが朝倉を助けてあげるから。  
 誤解しないでね!わたしは友人として・・・」  
「素直じゃないですね、眞子ちゃんは・・・」  
 
同日同時刻 胡ノ宮家  
「貴女が一部の人から”出遅れ環”と呼ばれているのをご存知ですか」  
「・・・!!!」  
「ならば、この機会に一気に・・・」  
「みなまでいうことはありません!是非とも参加させてください」  
 
同日同時刻 芳乃家  
「というわけなんですが・・・」  
「ボク、そういうの嫌いじゃないよ・・・」  
 
同日深夜 工藤家  
「確認を取りましたところ、いずれの方も参加を熱望されております」  
「ありがとう。では杉並くん、予定通りに進めてください」  
「はい!明日、一般公募も行って幾人か集めるようにいたします。  
 これで”MATSURI”が行えるでしょう」  
「想定外のことが起きればすぐに連絡をちょうだい」  
「はい、理事長!それでは、これで失礼いたします」  
「期待しているわよ、杉並くん!」  
 杉並は計画書とポスターを持って理事長室から出た。これから彼には  
学校中の掲示板に告知のポスターを貼るという作業が残されていた。  
「聞いたとおりよ、叶さん」  
 理事長室内に存在する気配が震えた。  
「とっくにわかっていたわよ。咎めるつもりはありません・・・  
 ただ・・・我が工藤家の家訓を一つ、伝えておきます。  
 ”愛は惜しみなく奪え!”と」  
 その気配は嬉しそうな素振りを見せ、部屋から出て行った。  
 
 
翌日朝 学校掲示板前  
 掲示板の前に黒山の人だかりができていた。理由は前日の晩に杉並が  
貼ったポスターである。  
「朝倉純一争奪武闘大会・・・優勝者には朝倉純一と夏休みを過ごす権利が  
 与えられます・・・?なんだこりゃ!?」  
「今週の金曜日に何か大会をやるみたいだぜ。賞品は朝倉らしいが・・・」  
「妹ならともかく、誰が出るんだよ!」  
「出るらしいぜ・・・何でも、白河ことりが朝一で参加申請したらしい」  
「マ、マジかよ!あの学園のアイドルが!?」  
「ああ!他にも水越とか芳乃とかも。あっ、朝倉の妹も当然参戦だ」  
「おいおい、何であんなヤツのために・・・」  
「でも、あいつ学園の”彼氏にしたい男子ベスト10にランク入り”してるぞ」  
「あれ、本当にしてたのか?」  
「してたしてた。ミスのあれとは違って公にされてなかったけど女子の間でな。  
 確か、真ん中くらいだった」  
「それでか・・・」  
「何がだ?」  
「申込場所に女子がいっぱいいたこと」  
「し、信じられん・・・」  
「でもな、あのベスト10、いや20位までの男連中のほとんどが彼女持ちだし、  
 というか、あの中で彼女いないのって工藤と朝倉くらいだぞ」  
「・・・ふうん」  
「でも、これはチャンスかもしれんぞ!」  
「なんで?」  
「いや、これでな、白河か朝倉のどちらか、あるいは両方がフリーになるんだぜ。  
 俺らにもチャンスの目が出てくるってもんよ!」  
「しかし、あの二人以外を朝倉が選ぶかな?」  
「ココ見ろよ」  
「どれどれ・・・『なお、朝倉純一に拒否権はありません』?」  
「つまり、白河か朝倉以外が勝てば・・・」  
「なるほど!」  
「お〜い、それの観戦チケットの前売りが始まってるぞ〜」  
「な、何!?」  
「急げよ〜みんな並び始めてるぞ!」  
「こ、こうしちゃおれん!!」  
 
同日同時刻 申込場所前  
「はい、参加の登録をいたしました。注意事項をよく読んでおいてください。  
 当日はクリーンファイトでいきましょう!ご健闘を!!」  
「登録終わった?」  
「うん、終わった」  
「朝倉くんって何かかっこいいよね」  
「うんうん」  
「ところで・・・この勝負ってどういう意味なの」  
「お答えしよう!」  
「す、杉並くん!」  
「実行委員長として疑問に答えるのは義務の一つである。  
 この勝負は一種の念の戦いともいえる。すなわち朝倉純一への想いを力と  
 して、それを武器に戦うのである。どのような形を取るかは想いの力と各自の  
 ポテンシャルによって異なる」  
「う〜ん、なんか魔法みたいなもの?」  
「どっちかというと”幽波紋”かな?」  
「まあ、そんなものかな。その使用説明書を読んで印を結べば早速現れてくる。  
 その効果は今週一杯まで。大会までに練習しておけば、大きな力になろう!」  
「ミスコンテストじゃないから、朝倉さんや白河さんにも勝てるかもしれないわね」  
「そ、そうよね・・・早速教室に行って読みましょう」  
「うむ、それがよかろう」  
 二人の少女は説明書を抱えて教室に帰っていった。列の中では大会について  
かすまびしい。  
「朝倉くんって・・・ラブレター出したんだけど返してくれなかったんだよね」  
「ああ、それ無理」  
「なんで」  
「朝倉さんがね、兄さんの下駄箱覗いて手紙を取って破ってるそうよ」  
「えー、うそー!?」  
「ほんと」  
「そうよ、私みたんだから。コンマ2秒の早業よ」  
「だからなの・・・」  
「”鉄壁ネム”とか”朝倉純一のイゼルローン要塞”とかね」  
「でも、ラブレターくらいならまだね」  
「?」  
「ほら、転校生で許婚者の・・・」  
「あぁ、”出遅れ環”」  
「あの子なんか、朝倉くんに近づくことすらできなくて・・・」  
「噂をすれば・・・」  
 参加申請を終えた環に新聞部員が近づいた。  
「胡ノ宮さん、新聞部です。何か一言お願いします」  
「ただ一つ、誰が朝倉純一の妻に相応しいか、それを見せます」  
「おおっー、強気の発言だぁ!!」  
「猛ってる、猛っているぞ、胡ノ宮環!!」  
 
 環の強気な発言と漂うオーラに新聞部員は気おされた。  
「あっ、ありがとうございました」  
 新聞部員は次に参加申請を終えた生徒の元にインタビューに向かった。  
「本命:朝倉音夢、対抗:白河ことり、ダークホース:胡ノ宮環との下馬評ですが  
 自信の方はおありでしょうか」  
 美少女だけど印象に残らない、その実ピンクのクマの着ぐるみを着た生徒は  
悠然と応えた。  
「あいっ!朝倉純一さんに誰が一番相応しいか、それを見せたいと思います」  
 自分の言葉を援用された環が和泉子を睨む、一方の和泉子も負けていない。  
双方の間の空気が歪みはじめ、挟まれた新聞部員がたまらずに逃げだした。  
「自信がお有りのようですね。でもポッと出の方が勝てるかしら」  
「あいっ!周回遅れは自覚してます。だけどこれで一気においつきますから」  
 にこやかに微笑む環、だが周囲の空気はあきらかに冷えていった。  
「いい・・・言いますわね・・・え〜と・・・紫さんかしら?」  
「あいっ!負けませんから、朝倉さんにも、白河さんにも、芳乃さんにも。  
 今までの年月が決定的な差でないことを教えてあげます、胡ノ宮さんには」  
 ビキッ!環にそんな擬音が相応しいうような血管が浮き出していた。環は  
制服の襟を掴んで引っ張る。そこには巫女服を纏った環の姿が。  
「少々悪い気が漂っています、祓ってあげましょう」  
「できます?胡ノ宮さん」  
 和泉子は両手を拡げた。指の間からは爪がウルヴァリアン並に延びた。  
対峙しあう環と和泉子を周囲は止めることができなかった。  
 ジリジリと円に動き始める二人、かすかに、ほんの少しずつではあるが  
その距離は縮まりつつあった。  
 杉並はその様を楽しげに見ていたが、実行委員から止めるようにつつかれた。  
このまま推移していくのを見る方が面白そうだったが、実行委員長という立場  
ゆえに止める必要があった。しぶしぶと二人の間に割って入ろうとした、が。  
 カッカッカッ!!  
 どこからともなく飛んできた数本のナイフのようなものが二人の間に突き刺さった。  
「二人ともルールの規約を読んでないのですか?競技場以外での私闘は失格と。  
 失格したいというなら私は止めませんが」  
 メガネをかけた少女は自信ありげに止めた。気勢を削がれた二人は周囲に謝辞を  
述べ、和泉子は教室に、環は着替えるために女子更衣室に向かった。  
「礼を言おう、彩珠くん。だが・・・」  
「なぜ、止めたか?ですか。こんなところで騒ぎを起こして大会が中止になっては  
 たまりませんから。それに・・・」  
「それに?」  
「私が勝ちますから。それと私のカードはまだ見せていません。Gペン投げが  
 私の能力ではありませんから・・・では」  
 一礼して、なな子は立ち去った。  
「今年の夏は一緒にビックサイトで」  
 とつぶやきながら。  
 普段はおとなしい彩珠なな子の自信にあふれた姿を見た杉並はつぶやいた。  
「面白くなりそうだな」  
 

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