<準々決勝第2試合 胡ノ宮環 vs 芳乃さくら>  
「青龍の方角より、胡ノ宮環入場!!」  
 いまや専用戦闘服といった趣のある巫女服で環は粛々と入場してきた。  
「白虎の方角より、芳乃さくら入場!!」  
 一方のさくらも制服ではなく赤のワンピース風のドレスという出で立ち。  
「さあ、片や巫女部部長にして霊験あらたかな巫女さん、  
 片や大魔法使い”芳乃”の孫娘にして天才少女の魔女っ子。  
 いったいどんな試合を見せてくれますか。非常に楽しみです!!」  
「まさに和洋魔女っ子大戦!今から楽しみですね〜」  
「おまえら、魔法勝負になると思っているのか・・・」  
「えっ!?白河先生・・・魔法が得意なもの同士ですから・・・・・・」  
「魔法の能力だけ取ればおそらく芳乃の方が上だろう。自覚して勉強してきた  
 期間は胡ノ宮よりも上だろうから、引き出しの数も多いはずだ」  
「とすると、先生は芳乃さくら有利と見ますか?」  
「魔法勝負ならな。だが、この勝負は魔法大会ではない。いや、勝つためならば  
 相手を剥くこともOKな仁義無用な決闘だ。しかもかかっているのは男だ!!」  
「はっ・・・はぁ・・・・・・」  
「6年以上も離れてやっと会えた男を、簡単に逃がすようなことはお互いしまい」  
「ということは・・・」  
「つまり、相手の得意分野に付き合う義理も義務もないということだ」  
「・・・では、一体どのような勝負に?」  
「まもなく判るさ」  
「試合開始!!」  
ドーン!!!  
 太鼓が響く。  
 その瞬間、環はダッシュして一気にさくらに肉薄する。そして、足元をオープン  
スタンスで身体をひねりながらパンチを放つ。  
「あっ〜〜〜!胡ノ宮選手、格闘を挑んだぁぁぁぁぁ!!!」  
「身長差20cm、体重差10kg!それだけ差があればこうする!!」  
「握力×スピード×体重=破壊力!!」  
「芳乃選手・・・逃げない!いやっ、向かっています!!交錯しますッ!!!」  
 パンチを打ち下ろす環と懐に潜り込もうとするさくらが接近し、次の瞬間・・・・・・  
「吹き飛ばされたぁぁぁ!な、なんと!!胡ノ宮環が吹き飛ばされたぁぁぁ!!!」  
 二人が交錯した次の瞬間、環の身体は大きく吹き飛ばされていた。  
「さすがは環ちゃん!すごい馬力だねぇ」  
 誰もが予想しなかった展開に会場中が大きくざわめいた。  
「「な・・・何が起こったんだ・・・・・・」」  
「「ま、魔法よ。魔法・・・」」  
「せっ・・・先生!これは魔法の力ですか!?」  
「何でもかんでも魔法と言うな!これは”合気”だ!!」  
「”あいき”?」  
 吹き飛ばされた環は立ち上がり、再度攻撃に移る。  
「胡ノ宮選手立ち上がったぁ!そして再度突進する!!」  
 環はローキックでさくらに足払いをかける。さくらはそれをジャンプしてよけた。  
「よけられたぁ!しかし胡ノ宮、裏拳でさくらを捕捉するぅ!!」  
 さくらは環の裏拳を払いのけた。これにより二人は正面で向かい合うことになった。  
「胡ノ宮選手のすさまじい正拳攻撃!無呼吸連打だぁぁぁぁぁ!!  
 しっ、しかし・・・しかし、さくら選手・・・これを全て打ち払っているぅぅぅ!!?」  
 武術の心得の無い者ならば見ることすら適わぬ環の正拳の連打の全てをさくらは  
手で側面から受け流していた。  
「(ぜん〜ぶ、偽物だね)」  
「これだねっ!!!」  
 さくらは環の放った正拳を手で払わずにその手首をつかんで捻る。環はその動きに  
流されて前に転ばされそうになる。  
「胡ノ宮、転倒!・・・いえ、空中で回転したぁぁぁ!!」  
 前転で地面に転がされそうになった環はそのまま、空中で回転して着地。そして  
その勢いでさくらの腹目掛けて回し蹴りを行う。  
 
 
「胡ノ宮選手の回し蹴り!これは避けられない!!  
 ・・・いや、止まっています!寸止めです!いったい何が起こっているのかァ!?  
 魔女っ娘の戦いは難し過ぎるぅぅぅ!!!」  
「足元を見てみろ。芳乃が胡ノ宮の足を踏んでいるだろう。  
 あそこを踏まれたら、どうしようもない・・・」  
「ホイッ」  
 さくらは踏んでいる環の足を外す。静止画から一気に動画に移る。しかし  
さくらは振りぬいた環の足の下をかいくぐり背後に回る。環は背後のさくらに  
裏拳を放つ。  
「ダメだよ〜不用意な一発は〜〜〜」  
 さくらは不用意な環の手を掴み、反動を利用して投げ飛ばした。  
「胡ノ宮選手、また投げ飛ばされましたぁ!まったく歯が立ちません!!」  
「天才だとは思っていたが、実戦で合気を使える程とは思わなかったな・・・」  
 圧倒的な強さを見せたさくらは会場の歓呼に応えていた。  
「イエィィィ!!」  
「「さ・く・ら!さ・く・ら!」」  
「身長140cm、オッパイ68!小学生と言って差し支えのないボディですが・・・  
 少女はここまで他人を萌えさせることができるのです!!」  
「堪能しました・・・」  
 戦闘不能に陥っていたと思われた環は起き上がりながら呟いた。  
「相手の力に対して、自分の力を加えて反撃する・・・  
 10の力に対して、自分の力を加えて12か13に力で反撃ですね」  
「うん、よくできてるでしょ」  
「相手の力が大きければ大きいほど、その相手が受けるダメージは大きくなる。  
 なるほど勝てる道理はないですね」  
「そうだよ〜」  
「だけど・・・攻撃しなかったら、どうするのですか・・・・・・」  
 環は闘技場の真ん中に立った。  
「攻撃しません・・・」  
 会場中が環の真意を測りかねて戸惑う。さくらは何事か話しながら環の周りを  
歩き始めた。  
「攻撃しない・・・そこには争いもなく、誰もがお兄ちゃんを共有できる結末・・・・・・」  
「ハーレムED・・・それはまさに理想的なEDかもしれない・・・・・・」  
「でも・・・これはダ・カーポ・・・・・・」  
「ハーレムEDでいいというには・・・・・・」  
「音夢がいるっ!!!」  
 さくらは立ち尽くす環に突進していった。  
「(おっぱい!・・・いただき!!)」  
 攻撃に移る刹那、環は動き始め、突進してきたさくらに強烈な一撃を加えた。  
「あ・・・当たりましたっ!胡ノ宮環の強烈な反撃です!!」  
 さくらの身体は、それこそ闘技場の端まで飛ばされて行った。そして、そのまま  
動かなかった。  
「このダメージは強烈だぁ!立てるかぁ、芳乃さくら!?  
 そして・・・胡ノ宮選手が止めを刺しに向かう!!」  
 貴賓室で少女が微笑みながら呟く。  
「”環”の名は伊達じゃないわよ」  
 
 
「胡ノ宮選手、芳乃選手の前で拳を振り上げたぁ!  
 いや・・・芳乃選手飛び起きたぁ!!  
 そして・・・胡ノ宮選手の拳を掴んで!合気だぁ!!」  
 打ち放とうとした拳の威力そのままに環は会場の端まで吹き飛ばされた。  
「やるね・・・さすがは”環”ちゃん・・・・・・でもボクを倒すにはまだ足りないよ。  
 ボクは・・・”さくら”だから・・・・・・」  
「攻撃を一転、跳ね返された胡ノ宮選手のダメージは大きい!  
 なかなか起き上がれません。しかし・・・しかぁし!  
 一方の芳乃選手のダメージもまた大きい!反撃はできたもののまた膝を  
 ついてうずくまってしまったぁぁぁぁぁ!!!」  
 環もさくらも受けたダメージの回復を懸命に行っていた。そして両者ほぼ  
同じタイミングで身体を起こした。  
「両者、ほぼ同時に起き上がりましたぁ!そして、何やら唱え始め・・・  
 手が!手が輝き始めています!!いっ、一体何が!?」  
「いよいよ魔法戦でしょうか?」  
 二人は鏡で見合ったかのように拳を輝かせてジリジリと近づき始めた。  
「魔法戦?しかし・・・」  
「イメージには合わないでしょう、向坂さん。でも、この条件ではそうなります」  
「条件?」  
「そう、1対1の戦いであること。そして空間が狭いこと」  
「それが、どういう意味が」  
「はい。魔法とは発動するのに呪文とか印とかが必要となります。  
 それは大きな効果を発揮するものほど詠唱する時間や大掛かりな印が  
 必要です」  
「そういうものですか・・・」  
「はい、そうなのです。逆に小さな魔法はほとんど時間や準備は要りません。  
 この二人の場合は、小さな魔法くらいのものならすぐに発動することが  
 できます。しかし、二人とも結界を張っていますから小さな魔法では相手に  
 ダメージを与えることができません」  
「結界?」  
「盾みたいなものです。だから相手を魔法で倒そうとするにはそれなりの  
 大きな魔法が必要となります」  
「つまり相手の盾を打ち砕くにはそれなりの大砲が必要ということですね」  
「そうです。ここで問題になるのはさっきの条件です。詠唱とか印とかを準備する  
 にはそれなりの時間が必要ですが、この狭い闘技場では相手が自分の所に  
 来るのに時間なんてほとんど不要です。また1対1ですから詠唱している間、  
 自分を守ってくれる人はいません。つまり・・・」  
「呪文を唱えている間に相手が自分の近くまで来て殴り飛ばす・・・」  
「そういうことです。魔法の実戦化という点では能力をカードに封印して封印解除の  
 呪文で発動させた彩珠さんの方が上ですし、時間と威力を考えればサテライト  
 キャノンを発現させた白河さんの方が効率的です。いや、むしろ魔法戦という  
 ならば先ほどの白河−彩珠戦の方が相応しいでしょう」  
「しかし・・・魔法使い同士が素手の殴り合いというのは・・・・・・」  
「ガンダルフもオークの兵士を杖で撲殺しまくってたでしょう。  
 強い魔法使いは白兵戦も強いのですよ」  
「そういうものなんですか・・・」  
「そういうものなんですよ」  
 闘技場では二人の距離はいよいよ結界が触れ合うほどにまで近付いていた。  
 
 
「二人の結界が接しようとしています!接しました!!しかし・・・二人とも  
 なおも近付いていきます!!」  
「よっ・・・よくやる!!」  
「なおも距離が近付いて・・・まだ近付く・・・動きました!クロスカウンターだぁ!!」  
 二人が放った拳が互いにカウンターとして入る。それをきっかけに壮絶な殴り合いに  
なった。  
「すごい!すごい殴り合いです!!技は児戯に等しいですが、強力な殴り合いです!」  
「「うぉぉぉぉぉ!!!」」  
「「さ・く・ら!さ・く・ら!」」  
「「環!環!環!」」  
「これはっ!北斗神拳フェノメノン!!」  
「白河先生っ!それは一体!!」  
北斗神拳フェノメノン:道を究めた達人同士が戦うと互いに相手の技や奥義を知悉  
 しているがゆえに、ケンシロウvsラオウの戦いのように単純な殴り合いになって  
 しまう現象。  
「おおっ!まるで二人の姿が小学生の・・・低学年のころのような姿に見えてきます!!」  
「しかし・・・一体、何が二人をここまでさせるのか!?」  
「共に幼馴染!共に転入生!共に魔女っ子!そして共に朝倉純一へのアッタカー!!  
 そんな二人の大激突だぁぁぁ!!」  
「いきます、さくらさん!!」  
「ああっ!胡ノ宮選手、仕掛けましたァ!!」  
「撃壁背水掌!!!」  
 環はさくらの懐に潜り込み、奥義を放つ。そしてお互いが後方に弾け飛ばされた。  
膝をついたさくらの服がボロボロになり、砕けていった。  
「決まったようですね、向坂さん」  
「そうですね・・・残念ながら」  
 糸が切れた人形のようにフラフラする環と膝をついてうずくまるさくら、歓呼に沸いた  
会場も次に何が起こるかを固唾を呑んで見守った。  
 
 
「芳乃選手の服が砕かれ、その下には・・・スクール水着だぁぁぁぁぁ!!!」  
「さすがだね、環ちゃん・・・この強化呪文コーティングのスクール水着でなかったら  
 今頃は全部剥かれていただろうね・・・・・・」  
 スクール水着姿になって立ち上がったさくらに対し、環は汗を流し立ち尽くしていた。  
「胡ノ宮さんは芳乃さんの服を剥きに、教育的配慮狙いで攻撃したけど威力が  
 スクール水着に跳ね返されてしまった・・・逆に同タイミングで放たれた芳乃さんの  
 拳は胡ノ宮さんに直撃していた・・・」  
「服を破かれたけど芳乃さんのダメージは軽微・・・だけど胡ノ宮さんの方は・・・・・・」  
「立っているのがやっとでしょうね」  
 さくらはふらふらになっている環に対し、止めをさすべく攻撃に移った。  
「うにゃうにゃうにゃぁぁぁ!!」  
「ふらついている胡ノ宮選手に対して情け無用の連打!しかし、倒れません!!」  
「勝負はついている・・・しかし、なぜ倒れない!!」  
「それは・・・彼女が”環”だから」  
「向坂さん・・・」  
「たとえ負けて堕ちようとも萎えさせない、それが”環”の名を持つ者の宿命・・・  
 だから、胡ノ宮さんは倒れません」  
「うにゃうにゃうにゃにゃぁぁぁ!!」  
「なおも続く連打!しかし、しかし、まだ倒れません!!」  
 ふらつきながらも連打を耐える環。  
「エロ・・・可愛い・・・乙女になれと・・・・・・」  
「環ぃぃぃぃ!うにゃにゃにゃにゃにゃぁぁぁ!!」  
 さくらの最後のパンチが命中した瞬間、環は立ったまま意識を失った。  
 
 エロ可愛い乙女になれと  
 願いに萌えて父さんが  
 つけた名前だ 胡ノ宮環  
 着けよ袴 萌え度全開  
 エロくみせるにゃ ちょうどいい  
 巫女舞踊る その日のために  
 向坂に 追いつき 追い越せ  
 オオ その名も環 巫女巫女ヒロイン  
 
「審判が入る、そして状態を確認した・・・・・・」  
「勝者!芳乃さくら!!」  
「芳乃さくら勝利!胡ノ宮環立ち往生!!幼馴染魔女っ子対戦は芳乃選手に軍配が  
 あがりましたぁ!!」  
 貴賓室では環が拍手を送っていた。  
「見事な・・・女立ちでした」  
 
本選第2試合 勝者:芳乃さくら  
 
 
<試合間>  
「ここまでの試合、いずれも予選不戦勝組が勝っていますね。  
 やはり、手の内を晒してしまっているのは不利に作用しているようですね」  
「おっしゃるとおりです。でも、それだけではないと思いますが」  
「他にも要因が?」  
「はい、向坂さんはあまりご存知ないでしょうが、勝者である白河ことり、  
 及び芳乃さくらの両名はいずれも優勝候補との下馬評が高かった  
 生徒たちです。いわば対戦相手よりも格上になります」  
「なるほど・・・では次の試合に出る不戦勝組の鷺澤美咲さんはいかが  
 なのですか?」  
「残念ながら、本選出場するとは予測されていなかったようです」  
「でも、実際に本選出場されているから実力はおありかと見受けますが」  
「はい。ただ、対戦相手が」  
「対戦相手はどなたなのです?」  
「対戦相手は、朝倉音夢。優勝候補の大本命です」  
 
「いまや、地下闘技場は興奮のるつぼ!観客たちはみな、美少女たちの試合に  
 大いに熱狂しております!!」  
「当然だ。この杉並に齟齬などない」  
「さて、次の試合にはいよいよ本命の朝倉音夢選手が登場いたします!」  
「これは興味がありますね〜」  
「一方、相手の鷺澤美咲選手ですが最近まで復学してきたばかりだそうです」  
「そうですか〜では朝倉純一くんとはどのような接点で?」  
「なんでも自室の窓から見掛けていただけとか・・・」  
「想う恋ですね〜」  
「朝倉音夢選手が一つ屋根の下であるのとは好対照です」  
「ここまで、昨日の不戦勝組がいずれも勝ち上がってきております。  
 鷺澤選手もこれに続くのでしょうか、はたまた音夢選手が本命の貫禄を見せるか。  
 実に楽しみな試合ですね〜」  
「まったく、そうですね」  
 
 
 
<準々決勝第3試合 朝倉音夢 vs 鷺澤美咲>  
「朱雀の方角より、朝倉音夢入場!!」  
「お聞きください!この大歓声!!  
 さすが、風見学園二大アイドルの一人です!!」  
 大歓声の中、制服姿の音夢が闘技場に入場する。  
「玄武の方角より、鷺澤美咲入場!!」  
 こちらの方は、音夢ほどの歓声はなかった。音夢が純一のものになることを  
嫌がる音夢ファンの熱い応援の声は存在していたが、むしろいきなり音夢と対戦  
することになったクジ運の悪さを同情する声の方が大きかった。  
「下馬評では朝倉音夢選手の勝利が圧倒的なのですが、いかがでしょうか?」  
「朝倉妹の方が優勢なのは間違いないと思うが、鷺澤嬢の実力も未知数である」  
 観客席はその熱気によってクーラーを全開にしなければならないほどであったが、  
闘技場内はひんやりと冷えていた。  
 
 
 美咲は羽織っていたカーディガンを脱ぎ、試合開始に備えようとしていた。  
「「あっーーーーーーー!!!」」  
 会場がざわめく。美咲は何事かと振り向いた瞬間・・・  
「朝倉音夢、鷺澤美咲襲撃だァ!!しかし、試合はまだ始まっていない!!」  
 背を向けてカーディガンを脱いだ美咲を音夢が襲撃、二の腕で首をギリギリと  
締め上げた。  
「おいおい・・・普段は風紀委員で、ルールを守れって言っているくせに・・・・・・」  
「こっ、これは卑怯だぞ・・・」  
「失格だ、失格!!」  
「しっ、白河先生・・・・・・」  
 騒然とする観客に恐れをなした審判役の生徒らは審判団長である暦の方を見る。  
だが、この判断は彼女の手に余った。  
「理事長!」  
 暦は理事長に判断を仰ぐ。理事長は立ち上がり決済を行う。  
「常在戦場!ヨーイドンが無ければ戦えないとはこの風見学園では通用しないっっ!!  
 試合開始の合図をっ!!!」  
 理事長の一喝に会場は鎮まる、そしてここでようやく試合開始の太鼓が鳴った。  
「前代未聞だぁ!合図を待たずに試合開始ぃぃぃ!!」  
 そうこうしている間にも、音夢によって美咲の首はギリギリと絞められていく。  
「ここにいるのは風紀委員ではなく、一人の女としての朝倉音夢・・・  
 悪く思わないでね」  
「機先を制せられた鷺澤美咲、この鉄の絞め技をどうやって逃れるのか・・・  
 な・・・なんと鷺澤選手、音夢選手を背負ったまま・・・壁に向かって走ったぁぁぁ!!」  
 美咲は首を絞めている音夢を背中に背負ったまま、壁に向かって走り出した。  
そして、壁を駆け上って空中に舞った。  
「これはぁぁぁ!すごい跳躍力!!鷺澤美咲、朝倉音夢を背負ったままジャンプ!!  
 そして、空中で蹴りが交錯する!!」  
 空中で支える点を失った音夢に美咲は蹴りを入れようとする、が音夢もまたこれに  
反応して蹴りを放つ。二人の蹴りは空中で交錯し、互いを弾き飛ばした。二人は  
反対方向にバランスを崩すことなく着地した。  
「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」  
「二人とも見事だぁ!まさに史上最大のバトルだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」  
「見事です、鷺澤美咲さん・・・まぐれではなさそうですね」  
 体勢を整えた音夢が美咲に向かって歩いていく。  
「何を考えている、朝倉音夢!無防備に鷺澤美咲に近づいていく!!」  
「いやっ、あの歩行は・・・」  
「知っているのか、雷電・・・じゃなくて、杉並!!」  
 会場中が実況の予想外の反応に驚いた。  
 
 
「(知っています・・・あれが何かは・・・・・・でも、退く訳にはいきません!)」  
「あっと!美咲選手、音夢選手に正拳攻撃!!  
 なっ・・・音夢選手、これはなんなく防御し・・・投げ飛ばしたァ!!  
 これは・・・これもまた”合気”なのかぁ!?」  
「いや、これは”題鈍手”だッ!!」  
「”題鈍手”ッ?!」  
 題鈍手:  
   鈍手とは”鈍い者でも分かる手法”のことであり、転じて王道のことを指す。  
   題鈍手はメインヒロイン中のメイン、すなわち単独で表紙やパッケージを飾る  
  ことができる所謂”看板娘”クラスのヒロインにのみ許された鈍手のことである。  
   そのストーリーは王道中の王道であり、よって突っ込むスキは皆無。それゆえ  
  無粋なツッコミは”萌え”により完膚なきまでに反撃されてしまう恐るべき技である。  
   なおストーリーが予測しない方向にいかないこと、すなわち王道から外れる  
  ことを”鈍手をひっくり返す”といい、どんでん返しの語源と言われている。  
    − 民明書房刊 「ギャルゲーにおけるマキャベリズム 実践編」より  
「ううっ・・・・・・」  
 投げ飛ばされた美咲は苦悶の声を上げながら立ち上がった。  
「看板娘のストーリー、一度身を持って味わいたかった」  
「一度と言わず、何度でもどうぞ」  
「いや、味わうのは一回でいいです」  
「鷺澤美咲選手、立ち上がった!そして・・・あの構えは何だぁ!!」  
「あれは・・・コンプリの構え!そうか、その手があったかぁ!!」  
「音夢選手、再度題鈍手で近づく・・・そ、そして・・・・・・」  
「見事です!美咲さん!!」  
「音夢選手が先に攻撃したぁ!だが、美咲選手的確な反撃だぁ!!  
 正拳が1、2、3、4、5発入ったァ!!!」  
「解説が必要なようだな・・・朝倉妹の題鈍手に対して鷺澤嬢が取った構え、  
 あれはコンプリの構えであり、すべてを見たことの証である。故に些細な  
 ツッコミでは的確に反撃されてしまう絶対防御の型である。  
 この二つの技が交差した場合、先に攻撃した方が圧倒的に不利!  
 しかし、制空圏に入ったときに朝倉妹の嫉妬心が炸裂し攻撃する。  
 鷺澤嬢に取って、完全に予想できたパターンだろう」  
「五発もの鉄拳を喰らった朝倉音夢、立てるでしょうか!?」  
「立ってください・・・朝倉さん。暗黒五人妹の一人に数えられる貴女が  
 これしきのツッコミで屈する訳などないでしょう」  
「なんと!朝倉音夢、何事もなく立ち上がったぁぁぁ!!」  
「貴女の言うとおり・・・ならば、妹の持つ暗黒面をたっぷり味わってもらいましょう」  
「音夢さんの持つダークフォース、この場にて封じさせていただきます」  
「朝倉音夢、猛ラッシュ!だが、これを鷺澤美咲、巧みに避ける!!」  
 音夢の目にも留まらぬパンチのラッシュをスウァーなどを利用しながら巧みに  
避ける美咲。それでも美咲を追い詰めていく音夢であったが、不意に予期せぬ  
方角から殺気を感じた。  
 
 
「(後ろ!?)」  
 音夢は背後に気配を感じた。そして、その感覚は誤っておらず、背後から攻撃を  
され、間一髪よけた。  
「なんだぁ!?これは分身の術か、鷺澤美咲選手が二人に見えるぞぉ!!」  
 観客らからも音夢が二人から攻撃されている様が見て取れた。  
「ちぃぃぃぃぃ」  
 二人に攻撃されているという感覚は戦っている音夢が最も感じていた。だが、  
その攻撃は二人とも思えないくらい息が会い過ぎていた。  
「(これほどのの体術の持ち主なのか!?どこかにスキはないの?)」  
 音夢は攻守を変え、スピードを増す美咲の攻撃を避けるのが精一杯であった。  
このままではジリ貧と懸命に相手を観察していた音夢は微妙な違いを発見した。  
「(ネ・・・ネコ耳??!)」  
 それを確認するために音夢は転倒の振りをして、闘技場の砂を一握掴んだ。  
そして、接近する美咲に目掛けて投げつけた。  
「わっ!」  
「頼子!」  
 音夢はこの瞬間を見逃さず、足払いをかけ転倒させた。  
「攻防が止まった!えっ・・・ふ、二人ぃ!?二人いる??」  
「「ざわざわ・・・ざわざわ・・・」」  
「鷺澤美咲が二人いる?こ、これは一体どういうことだぁ!?」  
 鷺澤美咲が二人いることに会場は騒然となった。その姿はクローンのように顔や  
身長はおろか、スリーサイズまで寸分たがわず一緒であった。ただ一点、片方の  
美咲のみネコ耳がついていた。  
「ストップ!!」  
 審判団長である暦は試合を一旦中断させた。  
「鷺澤選手、事情を説明してもらいたい!」  
「はい。こちらにいるのは私の友にして、愛猫の”頼子”です!」  
「ニャア」  
 その瞬間、片方の美咲は一匹の猫となっていた。  
「我らは一心同体、二人で一つです!!」  
 この言葉に暦はしばらく考え込んでいたが。理事長が目配せしていることに  
気付いて判断を下した。  
「鷺澤頼子は鷺澤美咲の能力とみなし、有効と判断する!試合続行!!」  
 この判断に会場は沸いた。  
 
 
「「では音夢さん・・・行きます!」」  
「二人で一つ・・・つまり半人前ってことね・・・・・・来なさい!!」  
 音夢と美咲&頼子は対峙し、互いに駆け寄って戦闘を再開した。  
「2対1の変則勝負!再開だぁ!!」  
 事実は分かったものの2対1の勝負を強いられている音夢の形勢は明らかに  
不利であった。  
「2対1か・・・予期せぬ状態だな、朝倉。もしかしたら妹の敗退は有り得るかも  
 しれんぞ」  
「そいつはどうかな」  
「ほう、それはどういうことかな」  
「いや、正体がバレた以上は対処のしようがあるのは今まで見てきたとおりだし・・・  
 それに・・・・・・」  
「それに・・・?」  
「音夢は猫好きだからな」  
 闘技場では目を疑うような光景が展開していた。  
「そらそらそらそら」  
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」  
 音夢によってマタタビの洗礼を受けた頼子は酔っ払ってネコジャラシに反応していた。  
「そ〜ら、これをどうぞ」  
 ほどよく酔いが回った頃、音夢は巾着袋から毛糸の玉を取り出して観客席に  
投げ込んだ。  
「にゃぁぁぁぁぁぁ!!」  
 頼子はそれに飛びつき、それをキャッチして観客席に着地してしまった。  
「あぁぁぁぁぁ、これはっ!?観客席に入ってしまったぁ!!」  
「ルールにはありませんが、結界の特性から判断して事実上の戦線離脱ですねぇ〜」  
「な、言ったとおりだろ」  
「・・・所詮は畜生ということかな」  
 ここでようやく我に帰った頼子は激しく焦った。  
「もっ、申し訳ございません、お嬢様!!」  
 泣き叫びそうな頼子に美咲は優しく声をかけた。  
「大丈夫。貴女を読んだのは勝利をより確実なものにしたかったから。  
 私一人でも勝てますから」  
「おおっ!なんと、美咲選手の口から出たのは勝利宣言だぁぁぁ!!!」  
「言いますね・・・」  
「そのとおりのことですから」  
 音夢の猛ラッシュが再度始まった。  
 

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