<本選組み合わせ>
会場はまだ二次予選の熱戦の余波が収まっていなかった。やがて闘技場の整備と
抽選の準備が追え、勝者たる8人の選手が現れた。
「皆様、ごらんください!いずれ劣らぬ美姫揃い!!」
「「うぉぉぉぉぉっ!!」」
会場の歓声と応援の声が盛り上がる。
「二次予選を突破し、明日の本選に出場する選手たちです!
第1試合不戦勝 芳乃さくら!
第2試合勝者 胡ノ宮環!
第3試合勝者 工藤叶!
第4試合勝者 彩珠ななこ!
第5試合不戦勝 白河ことり!
第6試合勝者 朝倉音夢!
第7試合不戦勝 鷺澤美咲!
第8試合勝者 水越眞子!」
「「ねーむ!ねーむ!ねーむ!!」」
「「こ・と・り!こ・と・り!こ・と・り!」」
「「さ・く・ら!さ・く・ら!さ・く・ら!」」
「「眞子さま〜〜〜!!!」」
「「巫女巫女環〜!」」
「「剥かれろ剥かれろ工藤!!」」
「「さいたま〜さいたま〜」」
闘技場に並ぶ8人の美少女のそれぞれに贈る声援は大きい。二次予選を
戦った5人は不戦勝で乗り切った3人に比べ、戦いの痕が目立っていた。
特に眞子はブルマ、音夢は裸Yシャツにブルマ、工藤に至っては裸Yシャツに
朝倉のトレパンという装いであった。この時、上から下まで純一衣装で身を
包んだ工藤に対する音夢の睨みつけるような視線は後々思い出すだけでも
戦慄が走るとまで言われるほどであった。
「それでは本選の組み合わせ抽選を行う。抽選の順番は試合順にて行う」
「第一試合勝者、芳乃さくらさん。抽選をお願いします」
さくらが箱に手を入れて、玉を取る。
「芳乃さくら、3番!第2試合A!!」
モニターにて第2試合の左側に芳乃さくらの名が現れる。続いて環が抽選を行った。
「胡ノ宮環、4番!第2試合B!!」
「「うおおおおおっぅ!!」」
「いきなり試合が決まったぁ!第2試合は芳乃さくら vs 胡ノ宮環だぁぁ!!」
「和洋魔女っ子大戦、か・・・」
理事長は呟く。次の抽選は彼女の孫娘であった。
「工藤叶、8番!第4試合B!!」
そして第4試合の勝者が前に出ると会場のざわめきが大きくなった。
「ななこだ・・・ななこ」
「アダルトななこだ・・・」
「相手が可哀想だ・・・」
「誰になるんだ・・・」
「芳乃と胡ノ宮は決定してるからなぁ」
「ななこだからまた7番とか・・・」
「7番・・・工藤か・・・・・・」
「ふんどし工藤・・・」
「「7番!7番!ななこ、7番!!」」
「ちょっと待て〜!!!」
工藤が叫ぶ。
「これが世論なのかしら・・・」
「工藤くん、がんばってね」
「ボクも応援するから・・・」
「いや、まだ決まっていないんだが・・・」
「「触手!触手!工藤に、工藤に、触手!!」」
「だからぁ!お前ら、何を期待してるんだぁぁぁ!!!」
少なからぬ期待を背負って、ななこは玉を取った。
「彩珠ななこ、2番!第1試合B!!」
「「え〜〜〜〜〜!!!」」
「「はぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」」
会場はため息と失望に包まれる。
「残念だな・・・せっかくいいものが見れると思ったのに・・・・・・」
「ほんとだな・・・」
「次に期待しようぜ」
「そうだな・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「「眞子1番!眞子1番!」」
「なんで、あたしなのぉぉぉ!!」
「これも世論かと・・・」
ホッと胸をなでおろす工藤とは対照的に眞子は不安に包まれた。
やがて観客の歓声や野次がおさまりはじめた。次の抽選は学園のアイドルの双璧に
して優勝候補の対抗馬、白河ことりであったからだ。
観客らが固唾を呑んで見守るなか、ことりは箱から玉を取った。そして、その玉を
見たことりの顔は・・・引きつっていた。
「白河ことり、1番!第1試合A!!」
「「え〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」」
「「うそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」
「なんとぉ!彩珠ななこの対戦相手は学園のアイドル、白河ことりだぁぁぁ!!!」
「やり直しだぁ!やり直しを要求する!!」
「そうだ!彩珠の相手は工藤か水越が相応しい!!」
「「やり直し!やり直し!やり直し!」」
会場は怒号に包まれ、座布団などのものが闘技場に投げ込まれる。
「「ちょっと待て!なんでことりがダメであたしらならいいんだぁぁ!!」」
「やっぱり・・・学園のアイドルとお色気担当の違いかと・・・・・・」
「「あたしらは色もんかぁぁ!!」
「いや・・・エロインかと・・・・・・」
工藤と眞子の叫びに冷静なツッコミが入る。その傍らでななこがいじける。
「むしろ、こういう扱いをされるあたしの立場は・・・・・・」
しばらくしてからようやく怒号が治まり、次の抽選に入った。その人物は学園の
もう一人のアイドルにして、優勝候補筆頭であった。
「(7番・・・7番・・・7番)」
音夢は兄のYシャツを着て、兄のトレパンを着用している工藤との対戦を望んで
いた。
「(あのアマァ〜わたしだけの兄さんのYシャツを着ただけでなくトレパンまで穿いて!!
それどころか、更衣室で兄さんの裸とかいろんな格好を見てたのかぁ!!)」
「あ・・・あのぅ、朝倉さん・・・・・・玉を握り潰さないでください・・・・・・」
半ば形の変わった玉を受け取った実行委員は音夢の番号を宣言する。
「朝倉音夢、5番!第3試合A!!」
その結果に音夢は失望を隠せなかった。
「鷺澤美咲、6番!第3試合B!!」
音夢の対戦相手はすぐに決まった。長期休学の病弱なお嬢様、鷺澤美咲。この
組み合わせに観客の大部分は音夢の勝利を予測した。だが、当の音夢はそうは
思っていなかった、何よりも楽勝であるはずの美春相手に苦戦したのであり、
ましてや相手のことはほとんど知ってはいなかったからだ。
美咲は音夢と目が合うとにっこり笑って会釈した。
「水越眞子、7番!第4試合A!!」
眞子は既に相手がわかっている玉を取り、抽選は終了した。
「本選一回戦の組み合わせを発表します!
第1試合 白河ことり vs 彩珠ななこ!
第2試合 胡ノ宮環 vs 芳乃さくら!
第3試合 朝倉音夢 vs 鷺澤美咲!
第4試合 エロイン頂上決戦 水越眞子 vs 工藤叶!」
「「なんで、あたしらだけ妙なキャプションが入るぅぅぅ!!!」」
「なお、この試合の勝者はまた抽選を行うので、このことを留意して戦って貰いたい!」
「トトカルチョの受付はこのあと、すぐに行います。窓口は5時までです。
なお、携帯やインターネットの受付は明朝9時までにお願いします」
嵐の予選が終わり、激動の本選が始まろうとしていた。
<本選当日>
決戦の朝を迎えた風見学園は萌えていた・・・
戦いの場となる地下闘技場は満杯、立ち見すら困難な状況であった。
溢れ出たものたちは体育館内の特設モニターの前に陣取る。
ひいき選手への応援や歓声で会場は空調が効かないほどの熱気に
包まれ、いまや最高潮に達しようとしていた。
そして9時半、本選の開会を告げる杉並が大歓声で迎えられた。
「風見学園最高の美少女を見たいかぁぁぁぁぁ!!!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」
「(そうだ、俺もだ!俺もだ・・・みんな!!)」
「全選手入場!!!」
実況のコールにより、本選出場の少女たちが入場を開始した。
「初音島の魔女は生きていた!!
更なる修練を積んで!小学生のボディそのままに
アメリカから帰ってきた!!!
金髪の小悪魔!!芳乃さくらだァ――――!!!」
「好きな男の取り合いならば
巫女さん衣装がものを言う!!
リーチ一発!巫女巫女スナイパー!!
胡ノ宮環!!!」
「夏休みの思い出にコミックマーケットとはよく言ったもの!!
同人の妄想が今 実戦でバクハツする!!
最強コミックマスター 彩珠ななこだ―――!!!
さいたま!さいたまぁ!!」
「純一はあたしのもの!
邪魔するやつは思いきり殴り思いきり剥くだけ!!
脅威のツンデレニコイチ娘!
水越眞子!!」
「好きな男の前でなら
私はいつでも恋する乙女!!
男装美少女 工藤叶
カミングアウトで登場だ!!!」
「超一流アイドルの超一流のファイトだぁ!!
生で拝んで萌え尽きやがれッ!
風見学園のハマーン・カーン!!
白河ことり!!!」
「最強妹が現れたッ
一緒に住んでて何やってんだッ
俺達は君を待っていたッッッ
朝倉音夢の登場だ――――――――ッ!!」
「以上の8名によって本選が戦われます!!」
「「うぉぉぉぉぉッ!!」」
「「ありがとう〜!!」」
「「ありがとう理事長ォォォ!!!」」
会場のボルテージは最高に振り切れ、本選が開始される。
<本選準々決勝第1試合 白河ことり vs 彩珠ななこ>
風見学園のアイドルと呼ばれる白河ことりにとって、この観客席の雰囲気は
初めて経験する類のものであった。観客の大部分が対戦相手の彩珠ななこの
応援というアウェイ状態ということである。とはいえ、これはことりの人気がない
ということではない。むしろ逆に人気があるからこそ、そうなったと言える。なに
しろ大会の優勝は朝倉純一にGetされることと同義であり、それゆえ意中の
女の子には負けてもらいたいという逆転現象が生じているのである。もっとも
逆にことりが純一にGetされることでことり組の男子生徒が流出する可能性を
信じて彼女を応援するケースがあるから一筋縄ではいかない。これ以外にも
ななこvs工藤あるいは眞子というアダルト決戦を期待する層のいたりする。
もっともことり本人にとってはアウェイ状態ということは気になる要素では
なかった。ただ2002WCのイングランドvsデンマーク戦に匹敵するような
ホーム状態にあるななこが調子付くことは警戒していた。
「では、先手必勝といきますか・・・」
「あっ、白河選手・・・何やらお祈りをしているようですね」
「聖歌隊にいると聞きますから試合前の儀式なのかもしれませんね〜」
一方のななこの方は既に観客にヒカれながらも例のマジカルモードの衣装で
待機していた。
「試合開始!!」
ドーン!!!
太鼓が響く。
「行きます!レリーズ!!」
ななこはカードに記された機動歩兵スーツを実体化させる。しかし、ことりの方は
まだ祈りを続けていた。
「試合は始まりました!しかし・・・白河ことり、祈りを止めません!!」
「ああっ!あれは・・・なんでしょうか・・・・・・?」
「翼です!白河ことりの背中から翼が見えます!!
・・・そして・・・・・・天井から光が降りてきています!!
美しい!なんと美しい姿でしょう!!」
祈りを捧げることりの背中からは翼のようなものが見え、天井から降り注ぐ光に
映えたその姿に誰もが、観客だけでなく対戦相手であるななこですら見とれた。
「なんという美しい姿でしょう!これから一体、何が起こるのでしょうか!?」
次に何が起こるのか、いや、ことりが何をするのか観客らの誰もが注目した。
やがて祈りを終えたことりは、月面からのマイクロウェーブを背中の6枚の
リフレクターに受け完全に充填したサテライトキャノンの照準をななこの機動兵器に
設定し、発射した。
「わひゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
ななこの機動兵器はサテライトキャノンにより完全に破壊された。そしてキャノンの
射線はななこを追跡し、ななこはそれから逃れるために闘技場内を駆け回らなければ
ならなかった。
「こうなったら!スーパーモードで!!」
ななこはスーパーモードに変身し、ことりに接近戦を挑んだ。
「ななこ、スーパーガールに変身して突撃だぁ!そして、ことりは迎え撃つゥゥゥ!!」
「あのスタイルは・・・ヒットマンスタイルですね」
ななこが接近してくるのを知ったことりはサテライトキャノンをしまい、ヒットマン
スタイルで待ち構える。ことりの左手は振り子のように揺れ動いていた。
「たぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ことり目掛けて突撃するななこ、しかし変則的なことりのフリッカージョブに翻弄され
近づくことができなかった。
「うぶっ!くっ・・・くっ・・・くっ・・・・・・!!」
「見事なフリッカージョブだぁ!ななこ、まったく近づけません!!」
機先を制され、ななこは押し返される。フリッカージョブの軌跡を読むことができずに
押されているななこは再度突撃を敢行した。
「ななこ、フリッカーに耐えながら突撃する!痛くはないのかぁ!?」
フリッカーに耐えながら、懐に入ったななこであったが、そこで待っていたのは・・・
「ああっ!チョッピングライトぉ!!」
振り下ろしたことりの右拳がななこの頬を掠める。慌てて後ろに身を引いたななこを
ことりのフリッカーが追いかける。
「ひゃうっ!ひゃうっ!ひゃうっ!」
ことりのフリッカーに耐え切れずにななこは大きく逃げた。
「この手は使いたくなかった・・・」
ななこはそう呟いて、カードをきった。
「ななこ、アダルトモード!!」
「「おおおおおおおっ!!」」
会場が大きく沸き立ち、同時に戸惑いも見せた。
「ついに!ついに出ましたアダルトななこぉ!!
学園アイドルが恥辱にまみれるのかぁ!!」
「淫獣召喚!!」
空間からヌトヌトギトギトのいかにもと言った獣が現れる。それは触手を動かしながら
一目散にことりへと向かっていった。
「ああああ危ない!ことりピーンチ!!」
一歩も動こうとはしないことり、そして間近に迫った淫獣によって凌辱されるのかと
誰もが思った。しかし、その瞬間にことりの姿は消えた。
「消えたぁ!?ことりはどこへ??あっ!ななこの後ろにいます!?」
ななこの背後に回ったことりは後ろから彼女を羽交い絞めにする。スカを喰らった
淫獣はゆっくりと振り返る。そこには二人に増えた獲物がいた。
「淫獣が振り向いて〜ことりとななこに突進だぁぁぁ!!」
「わひゃぁぁぁぁぁ!!!」
ななこは淫獣の召喚と召還はできるが支配はできなかった。そのため、このままで
行くとことりもろとも淫獣の餌食になる可能性がでてきた。いや、ことりの前にいる
状況ゆえに先に襲われるのは自分の方であろう。
「も、戻れ!!」
ななこは淫獣を元の世界に戻した。それを見たことりは羽交い絞めにしたななこを
離して後方にずれる。
「強い!白河ことり強い!!彩珠ななこ、まったく歯が立ちません!!
実行委員長、この展開はいかがですか?」
「同じ手は二度と使えない・・・少なくとも昨日の試合は本選出場選手は全員見ている
と思っても間違いではあるまい」
「なるほど。ではななこ選手の方が不利ということで?」
「うむ。それはななこに限らず、昨日に戦った全員にとって言えることだ。
だが・・・ななこもこれでネタ切れということではあるまい」
離れて振り子のリズムを取ることりを悔しそうに睨むななこ、やがて次の行動に
出た。
「まだまだぁ!これからが本番よ!!
こっちには今日のために徹夜で描き上げたカードがある!レリーズ!!」
ななこの身体にキャノンやらシールドが実体化して張り付く。
「おおっ!ななこ選手の身体に色々なウェポンがっ!!」
「新兵器!スーパー・フリーダムななこ!!これでお相手するわ」
「ななこ選手、新兵器だぁ!!」
「略して、スーフリななこ!!」
「略すなぁ!!」
会場の驚きとは逆にことりの方は冷静であった。
「そちらがそうなら、こっちも・・・行け、ファンネル!!」
ことりの背中の翼から何個のビットが飛び出した。
ななこはことりに一斉射撃を行う。
「当たらなければ、どうってことはないっ!!」
ことりは射撃を回避し、ファンネルの攻撃をよけるのに難渋しているななこに肉薄
する。二人はビームサーベルでせめぎ合う。
「何というプレッシャー!!これが白河ことりの力なのか!?」
「落ちなさい!メガネっ娘!!」
「MS少女の激しい戦いだぁ!すごいぞぉぉぉ!!」
その頃、暦は貴賓室で試合を観戦している理事長に呼ばれていた。
「白河です。入ります」
「忙しいところ、ごめんなさい。ちょっと尋ねたいことがあってね」
「なんでしょうか」
「貴女の妹さん、白河ことりさんのことだけど・・・彼女、物真似は上手いかしら?」
「・・・?・・・・・・いえ」
「そう・・・では、何か特筆するようなことはありますか?」
「う〜ん・・・強いて言えば、勘が鋭いところがあります」
「そう」
「あの・・・それが何か・・・・・・」
「いえ、白河さんの戦い方についてなんですけどね。
白河先生も気付いていると思うんだけど・・・さっきの変な獣から逃げる時に
用いた”空間転移”は紫さんの能力、フリッカージョブの時は叶の”能力強化”、
そして大砲と今戦っている武器は”妄想具現化”能力によるもの。これは
対戦相手の彩珠さんのね」
「はい」
「もしかしたら・・・白河さんの能力は相手の思考を読むことではないかしら」
「!!」
「それも相手の印の内容を知り、そして実際に自分のものにできる・・・」
「ですが・・・印の能力はその人物に最適なもの。いくら自分のものにできても」
「そうですね、紫さんや彩珠さんの着る服が白河さんに合うかどうかは別ね」
「はい。その陥穽に陥っているのかもしれません・・・」
闘技場ではななこがことりの操作するファンネルに翻弄されていた。
「くうっ!ならば!!伝説巨神ななこ!!」
ななこは何度目かになる武装チェンジを行った。
「全方位ミサイル発射!!」
ななこの全身からミサイルが発射され、その飽和攻撃によってファンネルが次々と
撃破されていった。
「イ○オン・ソード!!」
ななこは両手からビームを出して、ことりを挟み込もうとする。だが、そこには
ことりの姿は既になかった。
「何!実体を持った残像なの!?」
「白河ことりぃ、巧みに攻撃を避けたぁ!!」
「ならば、ハンムラビの海ヘビ攻撃!!」
ななこから”海ヘビ”が何本か、ことりに向かって飛ぶ。ことりはそれを回避した
が、運悪く一本に絡み取られてしまった。
「ああっ!!」
”海ヘビ”はことりの身体に巻きつき電流を流す。
「ついに、ことり緊縛だぁ!しっ、しかし!しかぁし!!電流が少ない!!
サービス不足だ、彩珠ななこぉ!!!」
”海ヘビ”はことりの制服を多少焦がしただけで電力を使いきり、壊れてしまった。
「どうやら・・・白河さんの方の引き出しは彩珠さんに比べて少ないみたいね・・・・・・」
「ことり・・・」
暦は妹の戦うさまを不安げに眺めていた。
「チェンジ、ゲッター2!スイッチ・オン!!」
「ことりをドリルが襲うっ!しかし、間一髪よける」
「チェンジ、ゲッター3!スイッチ・オン!!」
よけていたためにことりは絶好の機会に攻撃をすることができなかった。
「大雪山おろし!!!」
「きゃぁぁぁぁぁーーーーー!!」
「ななこ、ことりを大回転ののち、放り投げたぁぁあ!!」
ことりは受身が取れずに地面にたたきつけられた。
「もう一度、アダルトモード!淫獣再訪!!」
「ことりピ〜ンチ!そして、ななこGJ!!」
先ほどのように空間転移をする余裕がないことを悟ったことりは予期せぬ
行動に出た。
「とち狂ったのかぁ、白河ことりぃ!スカートを自らめくったぁぁぁぁぁ!!
パンツです!パンツを見せています!!よりによって淫獣に!!
誘っている!誘っているぞぉ、白河ことり!!」
「誘う女の本領発揮ですねぇ〜」
淫獣はパンツに誘われたのか、一直線にことりに向かっていった。
「朝倉くんもこれくらい反応してくれたら・・・」
そう呟きながら、ことりは突進してくる淫獣の眉間目掛けてビームサーベルを
突き立てる。断末魔の淫獣の叫びが会場に響くなか、ななこの攻撃が冴える。
「日輪の力を借りて今必殺のサンアタック!!」
ななこは必殺のサンアタックで淫獣もろともことりを吹き飛ばそうとした。既に
ことりのビームサーベルによって致命傷を受けていた淫獣はななこの攻撃に
よって完全に吹き飛ばされていた。だが、ななこは攻撃の手を緩めない。
「バスターランチャー!!」
射線はことりのいた辺りへと伸び、大爆発を起こした。
「ななこ、オーバーキルだぁ!さすがの白河ことりもこれでは・・・む、無傷・・・!?」
「あっ、あれは呼吸のコントロールにより、あらゆる攻撃に耐えると言われている
守りの型、三戦(サンチン)!!」
「説明的なセリフ、ありがとうございます!」
「・・・・・・ビーム攻撃は対象外と思うのだが」
闘技場内ではことりがななこに微笑みつつ語り掛ける。
「すごいっす!あんまりにもすごい攻撃なので、つい本気出しちゃいました!!」
ビキッ!と音がするくらいにななこの顔が変わった。
「・・・これほどの攻撃をくらっていながら、まだ本気を出していないと!?」
「杉並、ことりは本気を出していない・・・少なくともこの試合は」
「ほう・・・何を根拠にそう言うのだ、朝倉」
「パンツが黒じゃない・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「詳しく理由を訊きたいところだが、取り合えず今は避けよう・・・」
「そうしてくれると有り難い・・・・・・」
「兄さん・・・・・・」
闘技場ではななこが闘気を纏った。
「ならば・・・本気を出させてあげる!!」
「ほいっす!!」
「ななこ、バスターホームラン!!」
ななこの猛攻に対して、ことりは回避し続け、注意をもらわない程度に攻撃を
実行した。
「さすがは風見学園のおたく女王!攻撃の引き出しは無限に近い!!」
「ですが、決定打はないですね。今のところ・・・」
だが勝負は意外にもあっさりと決まった。
「ななこ、破れたり!」
「な、なんとぉ!白河ことり、勝利宣言だぁ!!」
「♪サクラサクミライコイユメ〜」
勝利宣言の後、いきなり歌いだしたことりに観客らは大きくどよめいた。だが、
それに最も深刻な影響を受けたのが対戦相手のななこであった。
「う・・・動けない・・・・・・!?」
「彩珠ななこ、動きません!いや、動けないのか!?」
まるでブロンズ像のように動かないななこに、歌い続けることり。闘技場の
中では不思議な光景が現れていた。やがて、ななこは一つの事実に気付いた。
「・・・マクロス・・・・・・」
やがて、エネルギーの充填を終えたサテライトキャノンがななこを照準に捉え、
射撃する。
「プロトカルチャァァァァァァァァ!!」
ななこのその言葉を最後に試合は終了した。
「勝者、白河ことり!!」
「どうやら、陥穽に嵌ったのは彩珠さんの方でしたね」
「はい、引き出しの中に致命的なものが入っていたみたいですね」
貴賓席では理事長と暦が試合を総括しているのと同じく杉並もまた試合を総括
していた。
「敵を知り、己を知らば百戦危うからず・・・彩珠嬢は敵をよく知らなかったようだな。
しかし、当て身で十分なのにサテライトキャノンをぶち込むとはな。まじで鬼だな・・・」
「杉並・・・試合の総括もいいが、何かこっちが総括されそうな雰囲気が・・・・・・」
「兄さん、ことりの黒い下着について少々訊きたいことが・・・」
「言っておくが・・・次の試合までには元の場所に戻して置くように」
「ラジャー!」
「ちょっと待て、杉並!ちょっと待て・・・いや、音夢さん・・・それはそれで・・・・・・
おい、杉並!杉並ィィィィィ!!!」
純一が音夢により観客席の裏に引きずり込まれているさなか、勝ったことりが観客席の
歓呼に応えていた。
「こ・と・り!こ・と・り!こ・と・り!」
「ブイっす!!」
<試合間>
「見事な試合です。わがままを言った甲斐があったというものです」
「喜んでいただけましたか」
貴賓室にて理事長と語らう彼女は音夢らと年齢の近い少女である。その美貌は
洗練されているとは言い難い制服を着ていても十分目立つもので、特に高校生
ばなれしたバストと短めのスカートとオーバーニーソックスの間の絶対領域は
朝倉音夢に匹敵する代物であった。
彼女はとある街の名家の出身であり、風見学園理事長の工藤家とは親交が
あった。今回の大会のことを聞き及び、是非とも観戦したいと熱烈に希望した
のである。
「これほど素晴らしいものでしたら、私どもでも行いたいくらいです」
「それはそれは。あっ、でも貴方方は9人とお伺いしていますが・・・」
「双子が一組いますのでセットにすれば8組になります」
「でも2対1になると大変なのでは?」
「いえ、相手が誰であろうと最後に勝つのは私ですから」
その少女は自信たっぷりに答えた。
「そういえば次の試合、”彼女”が出ますね」
「ええ、今回の最大の目的です」
「胡ノ宮選手。そろそろ入場の準備を」
「判りました」
胡ノ宮環は緊張し、同時に猛っていた。貴賓室に”彼女”がいることを環は知って
いた。それゆえに彼女にはブザマな戦いはできなかった。環はブザマな少女の
ことを知っていた。それゆえにその名前に不名誉な接尾語がついていることを
環は理解していた。
「では行きます!」
「御武運を!!」
巫女部の部員らが出陣する環にお祓いをして見送った。
「芳乃選手、入場準備を」
「うにゃっ、ちょっと待って」
「お早くお願いします。胡ノ宮選手は既に準備を終えています」
さくらは準備しながら、実行委員から環の様子を探る。やがて実行委員が
準備完了を告げに部屋を出たときポツリと呟いた。
「所詮は・・・追加キャラということか」