<二次予選第6試合 天枷美春 vs 朝倉音夢>  
「それでは、第5試合白河ことり不戦勝により第6試合を開始する!」  
「青龍の方角!天枷美春!!」  
 観客席からは拍手があがる。風紀委員として活躍する彼女は学園ではちょっと  
した有名人である。  
「白虎の方角!朝倉音夢!!」  
 音夢の登場に、観客席は大きく沸いた。学園アイドルの双璧にして優勝候補の  
筆頭である彼女の試合は最も注目されていた。  
「運命の女神のいたずらでしょうか!?まさかまさかの師弟対決です!!」  
 実況に暦は妹の方に視線を向けた。その視線に気付いた運命の女神は姉に  
対して「てへっ」という感じで舌を出して、微笑んだ。闘技場の中では二人は  
互いに目を合わそうとはせずにうつむいていた。  
「二人の頭には何が過ぎっているのでしょうか、まったく目を合わそうとはしません!」  
 やがて二人に試合前の注意を与え終えた審判が外に出て、試合開始の準備が  
整った。  
「試合開始!!」  
ドーン!!!  
 太鼓が響く。  
「美春・・・」  
 顔を上げた音夢が美春の方に向かって歩を進める。それに対する美春の反応は・・・  
「ああっ、美春選手!足を高々と上げて・・・ネリチャギだぁぁぁぁぁ!!」  
 高々と足を上げた美春の踵が闘技場の床に炸裂する。音夢は後方に大きく跳んで、  
間一髪難を免れた。  
「勝負の世界は非情だぁ!美春選手の音夢師匠に対する見事な挑戦状!!  
 逆にやりづらいのかぁ、音夢選手!!」  
「いや・・・えげつないのは朝倉音夢の方だ」  
「あっ、白河先生!どういうことで・・・」  
「天枷の左胸を見てみろ」  
「美春選手の左胸が・・・・・・少し破れています。何が起こったのでしょうか?  
 スローモーションで見てみましょう」  
 モニターには美春に近づく音夢の姿が再生された。  
「朝倉の右手に注目しておけ」  
「美春・・・」  
 そう言いながら美春に近づいていく音夢であったが、右手はモーションに入り、  
美春の左胸に向けて打ち放たれていた。  
「こっ・・・これは!?」  
「コークスクリュー。天枷の左胸・・・いや心臓へのハートブレイクショット!」  
「ハ、ハートブレイクショット・・・!?」  
「もし美春がのこのこと近づいていたりしたら、それが炸裂していただろう」  
「炸裂していたらどうなります?」  
「一瞬、心臓が止まる」  
「し、心臓!!」  
「朝倉の左手を見てみろ。拳が上を向いてモーションに入っている。  
 右のハートブレイクショットで美春の心臓を止めて動かなくさせて、左の  
 コークスクリューでかえしをいれる」  
「じゃあ・・・」  
「そう・・・試合は一瞬で終わっただろうな、天枷がネリチャギしなければ」  
 会場は暦の解説に動揺した。一方、闘技場の二人は落ち着いていた。  
「やるわね・・・美春」  
「そりゃぁ・・・音夢先輩の弟子ですから」  
 音夢はにっこりと・・・口をゆがめて微笑んだ。  
 
 両者は図ったかのように同時に動き始めた。  
「音夢・美春両選手、同時に走り寄りましたぁ!  
 そして闘技場中央で・・・足を留め・・・オープンスタンスで打ち合ったぁぁ!!」  
 二人は闘技場の中央部で足を留めて打ち合いを始めた。音夢が攻撃すると  
美春が反撃し、美春が打つと音夢が打ち返す。双方直撃はないものの皮一枚の  
ハイレベルな応酬を行っていた。その様子に観客たちは興奮し、席を足で踏み  
鳴らし始めた。  
「まったくの互角!見事な攻防!実況の声が聞こえるでしょうかぁ!?  
 地鳴りの如く!ララパルーザだぁぁぁ!!!」  
 音夢と美春の打ち合いに呼応した観客らのララパルーザは文字通り、地下の  
闘技場を大きく揺り動かした。  
「すごいなぁ・・・」  
「何呆けている、朝倉。そろそろ均衡が崩れるぞ」  
「えっ!?どっちが押されてるんですか?」  
「それは・・・美春の方だ」  
 闘技場では音夢の手数の方が多くなり、美春の方はジリジリと後退し始めていた。  
「白河先生、これは・・・?」  
 実況が暦に問いかける。  
「技、力、スピード、それに身長とオッパイの大きさ・・・全て音夢が美春を一歩  
 上回っているからだ・・・」  
「いや、オッパイは関係ないかと・・・」  
 この時点で美春の劣勢は誰の目に明らかであった。もはや美春は防戦一方で  
両手で身体をガードしているだけであった。  
「先生、先生・・・」  
「なんだ、朝倉」  
 純一はヒソヒソ声で暦に話しかけた。  
「いや、ロボ美春の形態だったらいけるんじゃないんですか?  
 何も音夢に劣る能力の人型で戦わなくても・・・  
 ロケットパンチとかぁ〜ゲッタービームとかで・・・・・・」  
「朝倉・・・天枷研究所は何の集団だ・・・・・・」  
「いえ、研究所ではなくても先生だったら喜んで付けそうな気が・・・・・・」  
「死にたくなかったら、それ以上口を動かすな・・・・・・  
 まぁ・・・仮にそういう機能があってもロボ美春には根本的な問題があるからな」  
「どんなです?」  
「ロボ美春の動力は何だったかな?」  
「え〜と・・・確か、ぜんまい」  
「まぁ、そうだ。で・・・動力が切れた時、どうした?」  
「ネジ巻きました」  
「だろう。ここで問題だ!試合中に動力が切れたら対戦相手はわざわざ美春の  
 ネジを巻いてくれると思うか?」  
「・・・そうですね」  
「だから動力の問題がクリアされない限り、ロボ美春の形態を取ることはリスクが  
 高い行為ということになるな」  
 
 試合のほうは音夢の一方的なペースになっていた。ガードを固める美春に対し、  
そのガードの上からパンチを打ち込む音夢。  
「均衡は完全に崩れたぁ。天枷美春、サンドバック状態だぁ!!」  
「ガードの上から叩くことで美春の攻撃を阻止し、しかも心理的なダメージを  
 与える・・・完璧です、朝倉音夢!!」  
「最早、打つ手はないのかぁ!?」  
「ボクシングだったらな・・・だが、これは違う・・・」  
 叩き疲れたのか、少しペースの落ちた音夢に美春が反撃をしかけた。  
「あっ!美春選手、反撃に出たようです。音夢選手の腕に・・・関節技です!」  
 美春は音夢の手を掴んで、関節を極めようとした。音夢はその動きに驚き、手を  
引っ込める。  
「サブミッションは・・・教えてたかな・・・・・・」  
「基本的なことは・・・でも、これは美春のオリジナル・・・美春スペシャルです」  
 ここで攻守が入れ替わった。腕を取ろうとする美春に、取られまいとする音夢。  
今度は音夢がジリジリと後退をし始めた。  
「美春選手、ジリジリと迫りつつあります。恐るべき!天枷美春!!」  
「なるほど・・・朝倉音夢と同じ分野では圧倒されるからな・・・」  
「・・・でも、音夢に関節技は・・・・・・」  
 感心する暦に純一が疑義を挟んだ時、試合は動いていた。  
 優勢を確信した美春が大胆に音夢の手を取りに行った時、音夢がカウンターを  
取り始めた。音夢の反撃に驚いた美春が手を引っ込めようとするが、その手を  
逆に音夢に取られてしまった。そしてくんずほぐれつの攻防の末に・・・  
「おおっと!これはすごい!!朝倉音夢、見事な反撃を見せた!!」  
「初めて見ました・・・朝倉音夢の卍固め!!」  
 天枷美春は朝倉音夢によって、ガッチリと卍固めを極められていた。  
 極められた美春が音夢に問うた。  
「音夢先輩・・・どこで・・・こんな技を・・・・・・」  
 音夢は得意げに返答する。  
「毎晩、兄さんに布団の中で四の字とかタコ固めとか掛けられてたから・・・」  
「毎晩・・・」  
「兄さんに・・・」  
「布団の中で・・・」  
「四の字とか・・・」  
「タコ固めとか・・・」  
「・・・」  
「・・・・・・」  
「・・・・・・・・・」  
「皆さん、モノを投げないでください!モノを投げないでください!  
 だから、てめえら放送席にモノを投げるなぁぁあっぁあ!!  
 朝倉ぁぁぁぁぁ、貴様音夢ちゃんに何してるんだあぁぁぁ!!!」  
「音夢ぅぅぅ!”子供の頃”を入れろぉぉぉ!!」  
 そんな騒ぎをよそに闘技場内では美春がいまだ卍固めを掛けられていた。  
ミシミシという音が聞こえそうなくらいがっちりと掛けられた美春には最早ギブアップ  
しかないと思われた。  
「くくくくく・・・・・・」  
 美春は唸り声を上げる。それは苦痛の声でも音夢の力に抗う声でもなかった。  
 美春の目の前に何かが実体化してきた。  
「美春選手の前に何か現れました・・・あれは・・・・・・バナナ!?」  
 美春は口を開けて、それを受け止め、食した。  
 
「いきなり現れたバナナを・・・食べたぁ?!  
 美春選手、いったい何を考え・・・えっ・・・・・・  
 徐々に・・・徐々にですが・・・解けていっております!!」  
 闘技場では信じられないことが起きていた。ホールドされていた美春が徐々に  
極めていた音夢を力で解き始めていた。  
「な・・・なんだ・・・」  
「卍固めを力で・・・」  
「マ、マジかよ・・・」  
 音夢は美春を押さえ込もうと力を入れる、だが美春はそんなことはおかまいなく  
力を入れて押し返す。  
「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ・・・」  
 力の均衡は崩れ、少しずつではあるが美春が押し返しつつあった。  
「はぁっ!!」  
「「うぉぉぉぉっ!!」」  
 美春はついに卍固めを自力で解き、観客らは驚嘆の声を上げた。  
ピィッーーーーー!!!!!  
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」  
「美春選手、蒸気を上げて雄たけびだぁ!!!」  
 解かれた音夢は間髪をおかずに美春に打ちかけ、美春はそれに応戦する。  
「また打ち合いだ!しかし、これは美春選手の方が打ち負けていたぁぁぁ!!  
 いや・・・いえ、訂正します、互角です!互角に打ち合っています!!」  
 驚いたことに美春は音夢と互角に打ち合っていた。いやむしろ力と速度では  
美春の方が上回っていた。美春の力&速度vs音夢の技とキャリアの勝負に  
なっていた。互角の打ち合いを嫌った音夢が組み技に持ち込むべく、美春の  
制服をつかむ。だが美春の目に怪しい光を見た瞬間、イヤな予感に囚われ、  
掴んだ制服を離して後ろに引き下がろうとした。  
「光子力ビィィィィィーム!!」  
 美春の目から発せられた光線を音夢は間一髪よけることができたが、咄嗟の  
ことでバランスを崩し、後方に転倒し尻餅をついてしまった。予想だにしない  
展開でピンチを迎えてしまった音夢、しかし・・・  
「音夢選手、転倒!ピィィィ〜〜〜〜〜ンチっっっ!!  
 このチャンスに美春選手は・・・・・・バナナ、食ってるぅぅぅぅぅ!??」  
 美春は音夢への攻撃をせずに、バナナを美味しそうに食べていた。  
「な、何を考えている美春ぅぅぅ!!あっ、ポケットから何かを取りだした!?  
 あれはコンビニの袋だ!・・・バナナの皮をそこに入れてまたポケットに。  
 さすがは風紀委員、ポイ捨てはしません!!」  
 このすきに立ち直った音夢は美春に攻撃を仕掛ける。  
「出たぁぁぁ!朝倉音夢の旋風脚!!左足が襲い、続いて右足の攻撃だぁ!!」  
 これを美春は間一髪よける。外された音夢は美春のすぐ横に着地する。  
 
「ルストハリケーン!!!」  
「きゃぁっ!」  
「「おおぉぉぉぉぉっ!!!」」  
 美春の技で音夢のスカートは大きくめくれ上がった。音夢は慌ててスカートを  
抑えるが遅かった。  
「スカートがめくれましたぁ!見えましたぁぁぁ!白くて小さいパンツです!!  
 紐パンです!ローレグです!フリフリです!お尻が半分隠れていません!!  
 なんと御洒落で・・・なんとエロいパンツでしょうかぁぁ!!」  
「あれは勝負パンツですねぇ」  
「白いパンツと黒いオーバーニーソックスの生み出す絶対領域!!!  
 朝倉音夢、まさに人間凶器!!!」  
「「美春、GJ!」」  
「「GJ!GJ!GJ!」」  
 大歓声と賞賛に包まれる会場。  
「み・・・美春ぅぅぅぅぅ!!」  
 怒りと羞恥に顔を真っ赤にする音夢、だがそんなことに意を介することなく  
美春は攻撃に移る。  
「ブロークンマグナム!!」  
 美春の打ち出したパンチは音夢の胸にあたり、後方に吹き飛ばした。  
「先生・・・あれは・・・・・・?」  
「まぁ、なんだ・・・天枷研究所は何でも研究させてくれる真面目な研究所で  
 あってだなぁ・・・・・・」  
「先生、目ぇ見てしゃべってください・・・顔を後ろにむけず・・・・・・」  
 後ろに吹き飛ばされた音夢は体勢を大きく崩していた。そんな音夢に美春は  
追い討ちの攻撃をかける。  
「ボルテッカ三段返し!!」  
 音夢に向けて三発のボルテッカが襲い掛かる。  
「体勢を崩している!逃げられないぞ、音夢選手!!  
 あぁっ!マトリックス避けだぁぁぁ!凄いぞ、朝倉音夢!!」  
「見事だ・・・ここまで完璧なマトリックス避け、初めて見た・・・・・・」  
「・・・さっきの質問の答えはまだですか、先生・・・・・・」  
「だが、まだ体勢を立て直せていない朝倉音夢!!  
 この好機に・・・また、バナナ食ってるぅぅぅぅぅ!!!」  
 美春はバナナを食べ終えるとまたコンビニの袋にバナナの皮を捨て、ポケットに  
入れた。  
 
「ヘル・アンド・ヘヴン!!」  
「ギャラクティカ・ファントム!!」  
 両者の技が炸裂、闘技場が揺れて衝撃波が観客席を襲う。  
「「うわぁぁぁ〜〜〜」」  
「「す、すげぇーーー!!!」」  
 その衝撃波をかいくぐって、音夢が美春の懐に入る。  
「朝倉音夢、素早い動きで懐に入ってぇ!そして、ガゼルパンチ!!  
 ・・・いえ、入っていません!美春選手、上に逃げ・・・う、うえっ??!」  
 頭の上にプロペラを出して、美春は上に飛んでいく。  
「タケコプターだぁぁ!そして美春選手、お尻を師匠である音夢選手に向ける。  
 挑発かぁ!これは無礼だぁぁ!!いえ、違います。お尻から・・・  
 お尻からマシンガンゥゥゥゥゥゥ!!!」  
 バラバラとマシンガンが火を噴き、音夢は大急ぎで後ろに退く。それを見た  
美春はその場に着地して・・・  
「またバナナだぁぁぁ!美春、バナナにぞっこんだぁぁぁ!!!」  
 美春がバナナを食べている間に音夢は体勢を立て直す。  
「接近戦の音夢に遠距離戦の美春、両者自らの距離に妥協しません!!」  
「音夢選手には長距離砲が無いか、あるいは温存しているのか?  
 しかし、このままではチクチクと美春選手に削られるだけですね〜」  
「おぅっと!音夢選手、突撃を敢行したぁぁ!!」  
「相手の至近距離に入らないと話になりませんからねぇ〜」  
「そして美春選手は・・・必殺の中華キャノンさみだれ撃ちぃぃぃ!!」  
 音夢は連射される中華キャノンの弾幕をかいくぐりながら接近した。  
「スマッシュっ!いや、これはフェイントだ!チョッピングライト!!」  
「これは避けることができない」  
 その刹那、美春は自分の制服の前を引き裂いた。  
「おっぱいミサイル!!」  
 美春の胸から発射されたミサイルは音夢を直撃、大きく吹き飛ばした。  
その威力に彼女はすぐに立つことができなかった。  
「音夢選手、うずくまってなかなか立ち上がれません。追い討ちの絶好の  
 機会・・・しかし、やっぱりバナナ食ってるぅぅぅぅぅ!!!」  
 美春がバナナを食っている間に、なんとか音夢は立ち上がることができた。  
 
「しかし・・・なんでバナナ喰うかな、試合中に・・・・・・」  
「やはりな・・・」  
「ん?先生、何か?」  
「天枷は大体一分前後の間隔でバナナを食っている」  
「それが何か?」  
「さっき言ったことを思い出せ、朝倉」  
「えっ?」  
「おそらく天枷はバナナをエネルギー源にしているんだ」  
「バナナを!?」  
「バナナは消化にいい!そして天枷はバナナ一本で約一分戦うことができる」  
「あ・・・ありそうなことだな」  
「バナナ一本で一分の戦闘!美春アイアンショックだ!!」  
「ところで先生・・・」  
「なんだ、朝倉」  
「あのおっぱいミサイルは先生の趣味ですか?」  
「いや、あれは前の主任の趣味で・・・  
 私はブロークンマグナムとファントムだぞ、それも試合とは関係なしに。  
 ちなみに今の主任が付けたのはボルテッカで・・・」  
「・・・さいですか」  
 闘技場では音夢がダメージの回復に努めていた。  
「音夢先輩、今度はこっちから行きます!」  
「トマホゥゥゥークブゥーメラン!」  
 叫びながら、美春は肩からトマホークを出して音夢に投げる。  
「超電磁ヨーヨー」  
 更に間髪を入れず、次の攻撃に移る。しかし、音夢はこれらを皮一枚で  
避ける。  
「ならば、必殺の・・・グラビトン!!」  
 音夢の周囲に強力な重力場が現れる。それに引き寄せられそうになった  
音夢は制服を脱いでそれに投げつけて爆発を起こさせた。  
「やるわね、美春!もう・・・手加減はしないから」  
「(手加減してたの?思い切り殴っていたような気が・・・)」  
 誰もがそう思ったが、あえて突っ込もうとはしなかった。  
 下着姿の音夢は巾着袋から兄のYシャツを取り出すとそれを着用した。  
「美春・・・わたしは貴女を獣のように攻撃する」  
「おおっと!音夢選手の口上だぁぁぁ!!」  
「・・・音夢、その言い方だと俺が獣みたいに聞こえるんだが」  
「どっちかというと朝倉はケモノというよりケダモノに思えるんだが」  
「受けて立ちます、音夢先輩!!」  
 美春はまたバナナを出現させた。しかし音夢は脱兎の如く近寄るとそれを  
奪い取った。  
 
「音夢選手、美春選手のバナナを奪ったぁ!!」  
「なるほど・・・兵糧攻めか」  
 再度バナナを出現させる美春、そしてそれを奪う音夢。三度バナナと出す  
美春に奪う音夢。それを何度も繰り返して音夢の手の中には指と指の間に  
挟んだバナナが8本あった。  
「くぅぅぅ・・・先輩とはいえ、この暴挙!許してはおけません!!」  
「じゃあ、どうするの美春?」  
「うぅぅぅ・・・ごぉぉぉど・ら・むぅぅぅ!!!」  
 音夢は衝撃波をさけるために大きく横に逃れた。  
「きゅぅぅぅ・・・バナナ、バナナ・・・・・・」  
 目を回しながらも美春はこの隙にバナナを出現させた。  
「ようやくバナナを食べることができる美春選手!  
 あっ、何をするのか音夢選手!せっかく盗ったバナナを!?」  
 音夢は手にしたバナナを全て美春の方に投げた。  
「あっ!バナナ!!」  
 美春は9本のバナナを全てキャッチし、美味そうに食べ始めた。  
「・・・バカ」  
 暦がボソッと呟く。嬉しそうにバナナを食べている美春だったが、やがて  
ブスブスと煙があがり、そして大爆発を起こした。それを見て暦は呆れた  
顔をして頭を抱え込んだ。  
 煙が晴れるとそこには真っ黒になった美春がおり、まもなく闘技場に顔から  
倒れ、そのまま動かなくなった。  
 しばらくすると審判が闘技場に入り、美春の様子を確認し、そして試合の  
終了を告げた。  
「美春選手、試合続行不能!勝者、朝倉音夢!!」  
「先生、これは一体!?」  
 何が起こったのか、分からない純一は暦に問いかけた。  
「オーバーヒート」  
「オーバーヒート?」  
「そうだ。朝倉、なぜ美春はバナナを一本ずつ食べたか判るか?」  
「え〜と・・・」  
「おそらく美春のタンクにはバナナ一本分程度しか備蓄できなかったんだろう。  
 そうでなければ再三再四のチャンスにバナナを食って潰すことはなかった  
 だろうな」  
「はぁ・・・」  
「可能だったら数本食えばいいのに、それをしなかったのは備蓄できないからに  
 違いないだろう」  
「・・・」  
「つまりだ、1リットルしか入らないタンクに9リットルも注ぎ込んだら当然  
 溢れるだろう。それに引火して・・・」  
「ドカン!・・・ですか」  
「そのあたりが妥当なところだろう」  
「じゃあ美春は・・・」  
「そう、美春はバナナにショートしたんだ。  
 つまり天枷美春は朝倉音夢ではなく、バナナに敗れたんだ!!」  
「・・・難儀ですね」  
「・・・・・・まったくだ」  
 呆れかえる二人の近くでは、ゲームメーカーの白河ことりが物思いに耽って  
いた。  
「(う〜ん、善戦はしたんだろうけど期待してたほど音夢の戦闘力を見せては  
 くれなかったわね、美春ちゃん・・・まあいいわ、私もまだ手の内を見せて  
 ないから・・・・・・)」  
 ことりは含みのある笑みを浮かべ音夢コールに答える裏モードの朝倉音夢の  
姿を見ていた。  
 
 
<試合間>  
 裏モードで音夢コールに答えた音夢は一礼をして闘技場を後にした。  
 出入り口のあたりで、ことりと目があったが睨みつけることはせず、かといって  
逸らすこともせずに立ち去った。  
 ライバルである白河ことりの観戦は気にはならないわけはなかったが、なにしろ  
自他共に優勝候補の本命と認められる彼女の試合は全選手の注目の的であるに  
違いはなかった。現にことり以外にも試合中にさくらと工藤の姿を認めていた。  
おそらく他の選手も、どこかで彼女の試合を観戦していたに違いないだろう。だが、  
音夢のこの予測は二人の選手に関しては外れていた。  
 その二人の選手は同じ控え室で口論していた。  
 
「えっ?眞子ちゃん、何を言ってるの?」  
「だから・・・お姉ちゃんには棄権してほしいの」  
「そうですか〜」  
 萌は眠たそうに答える。  
「だから、お姉ちゃんに怪我をさせたくないし・・・姉妹で戦うのはよくないことだし」  
「眞子ちゃんは、わたしに勝つ自信がないみたいですね〜」  
「勝つ自信って・・・あたしはねぇ!!」  
「勝つ自信がないのでしたら、棄権してくださいな」  
「お姉ちゃん!あたしはお姉ちゃんのことが心配で・・・」  
「でしたら、勝ち残れる方が残るべきじゃないでしょうか〜」  
「だから、お姉ちゃんには棄権を・・・」  
「眞子ちゃんは私に勝てると思ってるのですか〜?」  
「えっ・・・?」  
「わたしが〜眞子ちゃんに負けるとは思えないんですけど〜」  
「・・・お、お姉ちゃん・・・・・・」  
「だから、棄権するのは眞子ちゃんの方で・・・」  
「もういい!どうなっても知らないからね!!」  
「あの〜、そろそろ準備を・・・・・・」  
「判ってるわよ!!」  
 眞子は萌の控え室を荒々しく出て行った。  
「困りましたね〜眞子ちゃんにも・・・」  
 萌は木琴を叩いて精神集中をし始めた。  
 

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