<試合間>
工藤叶はまだ闘技場で座り込んでいた。
敗北した月城アリスは工藤の攻撃をもろに喰らって床に叩きつけられていたが、
それに加えて、試合での心身の疲労が激しく保険医を始めとしたスタッフの多くが
そちらに割かれていた。
で、工藤が立たない理由と言えば・・・試合での疲労はあったが、それよりも深刻
なのがふんどしが緩んで外れそうなことである。有体に言えば立てば外れるので
ある。
サラシで作った応急のそれは一時的なものであり、試合が済んで緊張が解けた
瞬間に同時に解けてしまったのである。かといって、それを再度結ぼうとすると
両手を使わなければならず、そうすると隠している胸が晒されてしまうことになる。
モニターはなぜか自分の姿をアップに捉えており、工藤はどうも動くことが
できなかった。
恥ずかしくて動くことができない工藤に杉並がYシャツを持ってきた。驚いて
工藤は杉並の顔を見たが、杉並は放送席の純一を指差した。工藤の視線は
純一の方に向く。そこにはTシャツ姿の純一が工藤に手を振っていた。
工藤は顔を真っ赤にしながら、Yシャツに手を通してふんどしを締めなおした。
そして立ち上がると、純一の方を見つめながら退場していった。
それを見た杉並はポツリとつぶやく。
「あざといというか、そつがないというか・・・こういうことやらせたら上手いな、
朝倉は・・・」
その様子は観客席からも見えた。
「なかなかやるな、朝倉も・・・」
「ええ、自慢の兄ですから」
暦の問いかけに音夢は笑顔で答えた。
ベキッ!!
「あら・・・くさっていたのかな、この欄干・・・・・・」
「これ・・・鉄製なんだが・・・・・・」
音夢の手の中には鉄製の欄干が無残にもひしゃげていた。
「とりあえず・・・朝倉・・・・・・」
「ええっ、工藤くんにはYシャツを返してもらいます、絶対に!!」
「いや・・・試合が次の次だから準備を・・・・・・」
「大丈夫です!工藤くんには負けませんから!!」
「相手は天枷なんだが・・・」
<二次予選第4試合 彩珠ななこ vs 紫和泉子>
「朱雀の方角より、彩珠ななこ!」
朱雀の方の出入り口からななこが入場してきた。美少女の部類には入るが、
音夢やことりのような派手さがない分、今ひとつ目立たないメガネの少女と
いう出で立ちであった。だが、彼女の登場は工藤vsアリスの試合の熱気も
覚めやらぬ闘技場の雰囲気を一変させた。
「きゃの!」
ななこがそう言うと、手にしたGペンがステッキ状に変わった。
「レリーズ!マジカルモード!ななこフラッシュ!!」
そう唱えながら杖を振るななこ、そして一枚のカードを取り出して、杖で叩く。
ななこは光に包まれ、やがてブリブリのフリル付きのミニスカートで現れた。
「魔法の漫画家、コミカルななこ!只今参上!!」
ことりよりも二回りほど大きな帽子にフワフワモコモコでフリルの付いた
ミニスカート、そして大きなコッペパンのようなブーツを履いたななこの姿に
お祭好きの風見学園の生徒たちは・・・・・・ヒイていた。
「は・・・恥ずかしい・・・・・」
「い、痛いよ、ママン!」
「コミカルななこって・・・確かにコミカルだけどな〜」
会場がざわめく中、対戦相手の紫和泉子が入場してきた。
「玄武の方角より・・・紫和泉子!」
こちらの方も顔立ちは美少女なのだが、不思議と印象の薄い生徒であった。
無論、彼女がピンクのクマに見えるのは朝倉純一だけであったが。
彼女もまた会場を驚愕させた。
「ト、ト、トータル・リコール!!?」
観客からは美少女の、純一からはピンクのクマの、真ん中が開き始めた。
そして、中からは飛び切り小さい少女が現れた。
「な、な、な・・・中の人デタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」
「ロ、ロ、ロ・・・」
「ロシアン・ルーレット・・・?」
「ロリだ!ロリロリだぁ!!」
「あいっ!紫和泉子です!!」
「むしろ、こっちが魔女っ子だぞ!!!」
会場のざわめきはなかなか収まらなかった。
「第四試合開始!!」
ドーン!!!
太鼓が響く。
「パステル ポップル ポッピンパ」
ななこはそう叫び、杖を振って臨戦態勢に入った。対する和泉子もまた態勢を
整える。
「蒸着!!」
和泉子がそう叫ぶと闘技場の中の空間が歪み、それが現れた・・・
「局地制圧用重火力機動兵器パトラッシュ!パイルダーオン!!」
和泉子は無骨な大砲を抱えた金属製の大型の機械の中に吸い込まれていった。
「ストーーーーーップ!!!」
審判団は試合を中断して協議に入った。
「どう見ても・・・兵器だよな・・・・・・」
「う〜ん・・・」
「どこから持ってきたんだ?」
「アメリカ軍かぁ?それともオムニ社製かよ・・・」
「いや、それよりも認めていいんかい・・・」
「あっ、でも空間転移で持ってきたものらしいですよ」
「どこから!?」
「ちょっと待ってください。えーと・・・約820光年彼方から・・・・・・です」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・聞かなかったことにしよう・・・・・・」
「・・・そうだな」
「取りあえず、印の効果だからルール上は問題ないということで」
「そうしようか・・・細かく言うとなんか、ややこしそうだし・・・」
審判の一人が観客に説明しはじめた。
「・・・というわけで印の効果によるものなので、ルール上認められます」
ウォォォッ!!
「お聞きください、この大歓声!機動兵器対魔女っ子!
こんな組み合わせは滅多にみることはありません!!」
「いや・・・頻繁に見れるところはないだろ・・・・・・流石に・・・」
審判団は大慌てで闘技場から外に出だした。
「試合続行!!」
試合続行の合図と同時に和泉子の機動兵器のガトリングガンが火を
噴いた。ななこは和泉子の攻撃に慌てず・・・に対応できず、大慌てで
逃げ出した。
「わひゃあ!」
ななこは前日にパワードスーツを描きあげ、試合の際にはそれを着用して
相手を圧倒しようと目論んでいたが、その対戦相手も同じことを考えていた
ようである。しかも、その武装の規模と能力においてはどうやらななこのそれを
上回っていたようである。
その充実した武装に思わずビビったななこは前日に懸命に描きあげ、わざわざ
パウチまでしたパワードスーツを着ずに全力でその場所から逃走した。しかし、
その行動は賢明なものであった。和泉子のガトリングガンの砲火はななこの
用意したパワードスーツを一瞬にして、只の鉄塊に変えてしまった。
なおも唸りをあげるガトリングガン、ビビってななこは逃げ出したもののさすがに
闘技場から逃げ出しはせずにその周囲を全力で疾走していた。
「パステル ポップル ポッピンパ」
ななこは咄嗟にステッキで盾を描いた。瞬く間に実体化する盾、されどそれも
和泉子のガトリングガンの前にベコベコにされた。
「レリーズ!!」
ななこはミサイルランチャーのカードを実体化させる。16連装のミサイルが
和泉子の機動兵器に向かって打ち出された。
「ECMオン!」
機動兵器から出た波動によりコントロールを失ったミサイルがあてどなく
飛び交う。
「結界の出力を最大になさい!!」
理事長が叫び、闘技場と観客席の間の結界が最高レベルにまで上げられた。
ミサイルはその結果にぶち当たって爆発したが、数発が観客席に着弾した。
「「うわぁぁあぁ!!」」
「「ケホッケホッ・・・」」
ミサイルが着弾したあたりの生徒は爆風により真っ黒になる。それでもけが人が
出ていないのは結界のおかげである。
試合の方は今度は和泉子がミサイルランチャーの一斉射撃を行った。
「うひゃぁぁぁぁぁっ!!!」
ななこの周辺に次々と着弾し、爆風が彼女を襲う。
「ATフィールド展開!」
ななこはATフィールドを前面に展開する。ミサイルはそれに当たり大爆発した。
「荷電粒子砲、照準!」
和泉子の機動兵器は上面の両サイドに取り付いた大きな砲身をななこの方に
向ける。粒子が充填されていく。
「ファイエル!!」
粒子の固まりが赤い軌跡でななこに向けて飛んでいく。だがそれもまた
ななこのATフィールドを突破できずに四散する。
なんとか和泉子の猛攻をしのいだななこではあったが、ATフィールド展開の
ために攻撃に移ることができずに双方にらみ合いになってしまった。
「彩珠選手、紫選手の猛攻をなんとか凌ぎました。
しかし・・・しかしっ!双方決め手がありません!!」
このにらみ合いの隙に和泉子は弾丸やエネルギーを補給していた。ななこの
方はこの局面を打開する術を懸命に考えていた。そして、局面は動き始めた。
「紫選手、動きましたぁ!ミサイルを発射!・・・いえ、ミサイルが消えました!?」
和泉子はミサイルを全力発射したが、それはななこに向かっては飛ばずに
一斉に消えてしまっていた。会場中が目の前で起きた現象に戸惑っていたが、
その回答はすぐに判明した。
「おわっ!ミ、ミサイルが・・・!?」
ミサイルはななこの背後に突如現れた。
「こ・・・これは・・・デスラー戦法だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
小ワープしてななこの背後に現れたミサイルが次々と着弾していく。
「わひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
爆煙の中、ななこの悲鳴が闘技場に響く。やがて煙が晴れると、そこからは
真っ黒になったななこの姿があった。
「かっ・・・かくなるうえは!!」
ななこは新たなカードを出した。
「スーパーモード!ななこフラッシュ!!」
ななこは再び光に包まれた。そして「ななこS・O・S、ななこS・O・S!」の
掛け声と手拍子の中から新たなコスチュームに身を包んだななこが現れた。
「ななこ・ザ・スーパーガール!只今見参!!」
そう叫び、ポーズを取るななこ。
ピンクのレオタードの白手袋、白ブーツ、腰にはチャンピオンベルトのような
特大のベルト、更には目にも鮮やかな原色の赤いマントを翻したななこの姿に
お祭好きの風見学園の生徒たちは・・・・・・更にヒイた。
レオタード姿のななこ目掛けてガトリングガンが火を吹く。自動射撃の威力は
すさまじく、巻き起こる砂煙はななこの姿を完全に覆い隠した。しかし晴れた
煙の跡には何もなかった。
「うふふふふ、私はこっちよ!」
ななこは空中に静止して、機動兵器パトラッシュを見下ろしていた。
「あややややや!!」
和泉子がガトリングガンを空中に向けて射撃する。だがななこは空中を飛び、
それを回避する。
「ななこ爆弾パ〜ンチ!!」
急降下、ななこがパトラッシュの先端を叩く。
ズガーン!!
パトラッシュが地面に叩きつけられる。
「あやーーー!!!」
叩きつけられた和泉子の悲鳴が上がる。ななこ更にパトラッシュの足を持ち
上げてひっくり返す。
「強〜い!彩珠ななこ、何て強さだぁぁぁ!!」
「ななこキーーーックっ!!!」
ななこはひっくり返ったパトラッシュ目掛けて空中からキックをお見舞いする。
だが和泉子は急ぎ体勢を元に戻し、ホバリングをして逃げる。ななこのキックは
機動兵器にではなく、床に炸裂した。
「もう一度、全弾射撃!!」
和泉子が所持している全兵装の一斉射撃をななこに敢行する。ななこはそれ
らのある物はよけ、ある物は打ち落としてパトラッシュに猛接近!
「あやっ!」
パトラッシュが迫りくるななこに対して腕を振り下ろす。だが、ななこはその腕を
乗り越えてパトラッシュ本体に肉薄した。
「お〜っと!ななこ、腕を踏み台にしたぁぁぁぁぁ!!!」
パトラッシュの機関部の真上に乗ったななこは必殺技を放った。
「私の右手が光ってうなる!
純一Getと輝き叫ぶ!
愛と○技と○○○○の
必殺!シャァァァァイニング フィンガァァァァ!!
面! 胴! 突きぃぃぃ!!」
ななこの右手がパトラッシュの機関部に炸裂し、大爆発を起こさせた。
「やったぁぁぁ!!」
勝ち鬨をあげるななこ、しかし勝負はまだ終わってはいなかった。
「脱出!!」
爆発直前に射出された和泉子はまだ降参をしていなかった。彼女は降参を
宣言せず、更なる戦いを宣言した。
「赤射!!」
和泉子が叫ぶと背後の空間が歪み、パトラッシュより二回り小さいな機動兵器が
現れた。
「戦略対応人型決戦兵器ラスカル!フェードイン!!」
和泉子の身体は機動兵器ラスカルの中に吸い込まれていった。
着地したラスカルにななこが攻撃をする。
「ななこ爆弾パ〜ンチ!!」
だが、ラスカルはななこのパンチを受け止めるとそのままななこを放り投げた。
「うひゃぁぁぁぁぁぁ・・・」
「なんとぉ!パンチが効かないぞ!!」
空中で静止したななこは、しかし追ってきて目の前にいるラスカルに驚いた。
「わ、わ、わ、輪が三つぅ!!」
ラスカルはななこを叩き落した。
「つ、強い!紫選手、強すぎます!彩珠選手が相手にならない!!」
地面にめり込んだななこがなんとか立ち直った。
「こ・・・このままでは・・・負ける・・・
だがぁ!ヒーロー、いやヒロインは不退転!!」
ななこは新たなカードを取り出すと叫んだ。
「アダルトモード!ななこフラッシュ!!」
ななこは三度光に包まれる。
「ななこ・ザ・ボンテージ!フォーーー!!」
そう叫び、ポーズを取るななこ。
黒い革製のレオタードに手袋とブーツ、そして網タイツ。ムダにオープンされた
胸元や深い切れ込みを黒い紐で編み上げたスタイルに身を包んだななこの姿に
お祭好きの風見学園の生徒たちは・・・・・・完全にヒイた。
「こ、これは!アダルトななこ!!」
「アダルトななこの特徴は!18禁マンガが描ける!!」
「いや・・・うちら何歳だ・・・・・・」
完全にヒキまくっている観客らとは関係なく、ボンテージ姿のななこに急降下で
突進をしかける和泉子=ラスカル。
「ローズ・ウィップ!」
ムチを取り出したラスカルを打つななこであるが、もとより効果はない。そして
接近戦に移行すべくラスカルは距離を縮め、パンチを放った。
「無謀だぁぁぁ!彩珠、カウンターパンチかぁぁぁ!?」
迫りくるラスカルに対して、ななこは突撃をかけた。そしてぶつかる直前に彼女は
手にしたカードをラスカルの装甲表面に叩き付けた。
「淫獣召喚!触手来訪!!」
ななこはラスカルのパンチを受けてふっ飛ばされた。しかしラスカルはそれ以上
攻撃を行おうとはしなかった。
「あやっ!?な、なに・・・これ・・・あっ、いや!しょっ・・・触手がぁぁ・・・・・・
脱出・・・て・・・手が・・・離して!離してぇえぇぇ・・・・・・
き・・・気持ち悪いよぉぉ・・・・・・ヌルヌル・・・た・・・誰か・・・・・・
あぁぁぁっ・・・ふ、服に・・・破らないでぇぇぇぇぇっ!!
ふぅあっ!くふっ・・・いっ、痛い!おっぱい、噛んじゃ・・・・・・
か・・・かんに・・・うぶっ!うぶぅ・・・ふぐっ・・・うぅぅぅ・・・うぷっ!!
けほっけほっけほっ・・・な、なにを・・・いやぁぁぁ・・・ひぃん!ひぃん!
手が・・・胸が・・・そこは・・・ダメェェェ・・・・・・ひゃうっ!くすぐったいよぉ!!
えっ・・・!?な、なに・・・そ、そこは・・・お尻・・・だめ!だめ!だめ!
ひぐぅ・・・あん・・・だめ・・・お尻は・・・お尻は・・・あああぁぁぁぁぁぁ!!!」
ラスカルの中からは苦悶にも似た悲鳴があがり、そして静かになった。
ラスカルはそれ以上動こうとはしなかった。
「ストーーーーーップ!!!」
この事態を前に審判団は再度、試合を中断して協議に入った。
「・・・どうする?」
「どうするって言ったってなぁ・・・」
「開けてみる?」
「でも開けたら・・・なんかとんでもないことになっていそうで・・・」
「教育的配慮・・・宣言する?」
「どっちを?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
やがて話のまとまって審判団は判定を観客に説明し始めた。
「え〜と・・・取り合えず、現状を紫和泉子選手のスタンディング・ダウンとして、
10カウント以内に動きがなかった場合、KO負けといたします。
1・・・2・・・」
審判はカウントを始めた。
「4・・・5・・・6・・・」
観客は固唾を呑んでラスカルの動向を見守った。
「8・・・9・・・10!」
10カウントが終わった。審判は勝敗を宣言する。
「勝者!彩珠ななこ!!」
「純一さん、東京ビックサイトで私と握手!約束よ!!」
勝利に浮かれるななことは裏腹に観客席からは安堵のため息が漏れた。
しかし、逆に不安のため息を洩らすものもいた。
「た・・・戦いたくねぇ・・・・・・」
この試合を観戦していた9名の選手はそう思った・・・・・・
二次予選第四試合 勝者:彩珠ななこ
<試合間>
第4試合終了後、武闘大会は一旦休憩に入っていた。相次ぐ熱戦に盛り上がる
観客席のクールダウンの意味もあったが一番大きな理由は第4試合の後始末に
時間がかかるためであった。
「ふ〜ん、杉並をおとなしくさせるには実行委員とかのスタッフをやらせるのが
一番効果があるということか」
審判団長の暦先生は後始末の指揮を取る実行委員長の杉並の姿を揶揄した。
「お望みとあらば如何なる行事の実行委員でも仰せつかりますが」
「いや、止めておこう。学内行事は厳粛に進めたいからな・・・」
「ところで先生、どのようなご用件で?」
「いや、あとどのくらいで試合を開始できるかを聞きにきた」
「そうですね、あと10分・・・いや、5分いただきたい」
「焦らなくてもいい。審判団は特に早くしなければならないわけではないからな。
それに不戦勝が3つもあるから時間にはかなり余裕があるだろう」
「仰せのとおり!ではあと10分いただけますか」
「わかった。ところで一つ聞きたいのだが」
「なんでしょうか」
「あのモニターの下に出ている棒グラフみたいなのは何だ?」
闘技場のモニターには今までの試合のハイライトシーンが映し出されており、
その下方には対戦相手の組み合わせで5本の棒が表示されていた。
「ああ、あれですか。あれは勝敗予測です」
「勝敗予測?」
「ええ、トトカルチョの。本当のは本選出場が全員決まった後で、誰が優勝かと、
決勝戦の組み合わせを予測する二種類なんですが、せっかくなので二次予選
各試合でどっちが勝つかを賭けてます」
「ふ〜ん。胡ノ宮−霧羽戦が7:3、工藤−月城戦が6:4・・・大体予想どおりか」
「ええ。無名同士の彩珠−紫は5:5ですが。あっ、水越姉妹戦の9:1ですが
眞子にご祝儀票がかなり入っていますのでさほど参考にはならないかと・・・
多分、眞子萌戦は7:3か6:4くらいかと」
「眞子萌・・・リリアンリッターが喜びそうな投票券だな・・・・・・
じゃあ、もう一つの9:1もご祝儀票か?」
「いや、こっちは予測どおりかと」
「天枷美春の勝利予想は1割程度か」
「実際はもっと低いでしょう。美春票の多くは大穴狙いですから。
一口100円とはいえ、美春が勝てばかなりの金額が払い戻しされますから」
「なるほどな・・・だが、それほど二人の間に差はないと思うがな。
それに師弟戦ということはお互いの手管は知り尽くしているといえる」
「そうですか・・・どうです、美春に一口」
「審判が賭けに加わってどうする・・・まぁ、賭けれたとしても遠慮するがな」
暦先生は杉並との雑談を打ち切って思索に入った。
「(白河ことりプロデュースの試合・・・しかし、あの朝倉音夢が相手が弟子であると
言っても朝倉を賭けた勝負に手を抜くとは思えんが・・・・・・
ことり、何を考えているんだ・・・・・・?)」
暦の視線の先にあることりは姉の思考に対して、相槌を打っていた。
「(音夢が負けるとは思っていないけど、美春には音夢の手の内を明かしてもらう
ことを期待しています・・・それに、音夢に勝つのは私でなくともいいから・・・・・・
私は・・・最後に勝てばそれでいいから・・・・・・)」
ことりの思考を裏打ちするかのように、本選出場を果たした全選手はこの試合を
注視していた。