<二次予選>  
 風見学園地下施設、学外のものはおろか生徒にすら立ち入りが禁じられて  
いるスペースである。ここは風見学園建設の際にこの地の所有していた地主が  
売却の条件として”初音島の霊的エネルギー補充のため”のスペースを確保  
することにあげたことに対する施設である。そのため、毎年の創立記念日には  
理事長をはじめ、校長や教頭などが式典を行っていた。今年はそのための  
儀式−朝倉純一争奪戦の会場となる。  
「ふ〜ん、こんな施設が学校の地下にあったんだ・・・ところで、杉並」  
「そして・・・見よ!今日のこの大会のために準備された闘技場を!!  
 八角形で囲まれた真ん中に敷かれた砂のリング!  
 その周りを取り囲むリングサイドの座席はがぶりよりの大迫力!  
 この中で美少女たちがお前のために戦う!燃えてこないか?」  
「いやな・・・俺が言いたいのはだな・・・・・・」  
「いや!みなまで言うな!お前に用意した特別席はだな・・・」  
「なんで・・・鉄格子があるのか、俺は聞きたい・・・・・・」  
「気にするな、朝倉。それは仕様だ!」  
 
 一次予選終了後、食事を取るのもそこそこに地下闘技場の入り口には  
長蛇の列が出来ていた。風見学園の誇る美姫たちが繰り広げるであろう  
華麗なバトルを期待する観客たちの前に実行委員会は急遽会場時間を  
繰り上げ、その熱気はそのまま闘技場を沸き立たせていた。  
 そして13時、二次予選の開始が告げられた。  
「レディース・エ〜ンド・ジェントルメン!ただいまより朝倉純一争奪戦の  
 二次予選の開会を宣言する!!」  
 会場を揺すぶるような大きな歓声が沸きあがった。  
「二次予選では本選に出場する8名を選出することになる。既に一次予選に  
 おいて、芳乃さくら、白河ことり、鷺澤美咲の3名が本選出場を果している。  
 よって!この二次予選では残る5名の椅子をかけて戦ってもらうことになる!」  
 ここで再び大歓声が起こる。  
「それでは二次予選のルールを説明したい!おいでませ!!」  
 杉並が手を振ると二人の少女が現れた。  
「それでは二次予選のルールを説明いたします。  
 ルール説明はわたくし”音楽室の青い巨星”ともちゃんと」  
「兄ちゃまチェキッ!のみっくんでお送りいたします」  
「試合形式は1対1の無制限一本勝負で行います」  
「試合内容は何でもありです。武器の使用も”印”に関するものならば  
 OKということです」  
「勝敗はどちらかがギブアップするか、意識不明や気絶など試合続行が  
 不可能と判断されるまで続けられます。なお試合中の闘技場からの  
 故意の退場は失格とみなします」  
「また風見学園の教育の一環としての行事のため、教育的配慮が考慮  
 されます。教育的に問題があると判定された場合は直ちに裁定が下り、  
 勝負ありとみなされます」  
「具体的にはどのようなことが教育的配慮が考慮されるかというと」  
「著しく風俗に影響することです。つ・ま・り」  
「「全部剥かれたら負けです!!」」  
 ウォッッッーーーーーーー!!!!!  
「ちなみにおっぱいポロリは許容範囲です」  
「靴下・ニーソックスのみというのは十分エロいのでOUTです」  
「「このあたりをラインとして考察してくださ〜い」」  
「なお勝った方が本選に出場資格を得ます」  
「本選の組み合わせは二次予選の全試合終了後に行いま〜す」  
「ルール説明はここまでです!」  
「「シー・ユー・アゲイン!!」」  
「それでは、第一試合の芳乃さくら不戦勝により第二試合を開始する!  
 両選手!入りませ〜い!!」  
 太鼓がドーンと大きく鳴った。  
 
<二次予選第2試合 胡ノ宮環 vs 霧羽明日美>  
「二次予選第2試合、胡ノ宮環対霧羽明日美を開始いたします!  
 両選手、入場してください!!」  
「さぁ、朱雀の方角から入場してきましたのは自称”朝倉純一の許婚者”  
 胡ノ宮環です。巫女服姿も艶やかに粛々と入場だぁぁぁぁ!!」  
「対するは一体どこで知り合ったのか、本土からの参加者にして、  
 二次予選進出選手の中で唯一の風見学園外の生徒である  
 霧羽明日美、玄武の方角から入場です!!」  
「どこで知り合ったのでしょうかねぇ〜田端さん」  
「う〜ん、判りませんねぇ〜あちこちにメルヘン撒き散らしている朝倉純一クン  
 なのでどこかに接点があったのでしょうね、角田さん」  
「おい・・・誰がメルヘン撒き散らしてるだって・・・・・・」  
「そうではないか、朝倉〜」  
「言ってみろ、杉並・・・」  
「取り合えず幼年期に、朝倉妹、芳乃さくら、白河ことり、胡ノ宮環・・・」  
「・・・すまん、俺が悪かった・・・・・・」  
 入場した環が手に弓と矢を持って臨戦態勢を取ったのに対し、明日美は  
ただ手を拡げて待ち構えるだけであった。  
「勝負とはいえ、弱きもの相手には使えない手があります」  
「遠慮無用!当方に迎撃の用意あり!!」  
「その言葉、宣戦布告と判断します」  
「任務は必勝にあり!我が”印”は必勝の手段!」  
 審判のチェックの最中にも火花を散らす二人、やがて審判が闘技場外に  
退避して試合開始を宣言する。  
「試合開始!!」  
ドーン!!!  
 太鼓が響く。  
「その意気や良し!」  
「環、一気に3本の矢を番えて・・・放ったぁぁぁ!!」  
 環は番えた3本の矢を明日美めがけて発した。真っ直ぐに突き進む矢、  
しかしそれは明日美に当たることなく直前で破裂してしまった。  
「な、な、なんだぁ!?」  
 場内はその様に大いに戸惑いをみせた。環は再び3本の矢を放つ、  
そして再び破裂、三度放って、それも破裂。  
「な、何事だぁぁぁぁ!?」  
「もう終わりですか?なら、こちらからいきます」  
 明日美が手を振ると、その動きに気付いた環がその場から大きく  
横に跳んだ。環の元いた位置は大きな爆発が起きた。  
「わっ、分からない!一体何が起こっているのか!?」  
 環は大きく動き、逃げ回る。そしてその後には大きな砂煙が巻き起こった。  
 
「怨霊退散!」  
 環が虚空に向かって矢を次々と放つ。矢は何かに刺さって破裂する。  
 何本か矢を打った環は明日美に向かって印を描いた。  
「外道照身霊波光線!」  
 環の目から発した光線が明日美を照らす、そこには風見学園の制服を  
着た少女の姿が映し出された。  
「汝の正体見たりっ!貧乳魔人、霧羽香澄!!」  
「ばぁれぇたぁかぁ〜〜〜!!って何させる!!  
 それに、誰が!貧乳魔人だぁぁぁ!!!」  
「「いや・・・ノッたのはアンタだと思うんだが・・・」」  
「80をきっているバストは貧乳の範疇かと」  
「そういうアンタは私より4センチ高いくせにバストは2センチしか違わんだろが!」  
「不毛だな・・・」  
「両者とも貧乳じゃ・・・はうっ!!」  
 角田に矢が刺さり、衝撃が襲った。  
「卿に問う!彼女との関係は!?」  
「明日美は我が妹なり!!」  
「ならば、なぜ現る!まさか!?妹をたぶらかして・・・」  
「何を言う!妹に素敵な男性を恋人として添わせることは我が願い!!」  
「おおっ〜と、幽霊の香澄嬢の大胆発言!!  
 我々も聞きたい!朝倉純一の素敵な部分とは一体何か!?」  
「それは・・・」  
 会場が香澄の答えを固唾を呑んで見守る。  
「それは・・・太くて固いところ・・・・・・」  
 頬を染めた香澄の発言に会場は一瞬静まり返った。だが次の瞬間、  
会場は怒号に包まれた。  
「皆さん、モノを投げないでください!モノを投げないでくださいって、  
 てめえら!闘技場ではなく、放送席にモノを投げるなぁぁあっぁあ!!」  
「う〜ん、朝倉の席を放送席の隣に置いたのはまずかったかなぁ・・・」  
「朝倉ぁぁぁ!コレ何とかしろ!!」  
「俺に言うなぁぁぁぁぁ!!」  
「朝倉・・・」  
「く、工藤・・・」  
「朝倉・・・ボクは信じているから・・・・・・」  
「工藤・・・って、金属バットで檻を叩くなぁ!  
 それと竹箒で突付くんじゃねぇ、さくらんぼ!!」  
「兄さん・・・?」  
 音夢は意味がわからずに目を丸くしていた。  
「音夢、助けてくれ・・・おいっ!杉並!事情を耳打ちするな!!」  
「兄さん・・・・・・・」  
「ね、音夢さん・・・」  
 ガチャンと純一の檻に本が当たる。  
「それは・・・野望の王国全9巻!」  
「復刻版のアストロ球団も5冊ありますよ」  
 混迷を続ける放送席に萌が発言した。  
 
「まあまあ皆さん〜これが本当かどうか、確かめればいいのではないでしょうか〜  
 純一さんが〜太くて固いかぁ〜を〜」  
 再び鎮まりかえる会場。  
「なんでしたら、このわたくしが〜」  
 そしてまた騒がしくなる会場。  
「お姉ちゃん!お姉ちゃんにそんなことさせれない!だからあたしが!!」  
「いや、ボクが・・・!!」  
 前に行こうとしたさくらは肩に手が置かれ、静止した。  
「なぁ〜に、工藤ちゃん・・・まさか『さくら、お前には無理だ』とでも言う気!?」  
「さくら、お前には無理だ」  
「地球のことわざにもありますね、”無い胸は挟めぬ”と・・・」  
「袖だ、袖!胸じゃない!!」  
「でも・・・工藤さんのも・・・・・・」  
「あたしのは挟める!!」  
「あっ、それと工藤クン・・・判定はお尻じゃないからね・・・・・・」  
「あたしは女だぁぁぁ!!!」  
 依然として続く混乱に業を煮やした暦はついに立ち上がった。  
キィィィィィィ  
 会場中に黒板を爪で掻いた音が響いた。そして暦は宣言する。  
「試合続行!!」  
 その様は見たアリスはぽろりと一つ呟いた。  
「バカばっか・・・」  
 闘技場で何気に放置されていた二人はずっと対峙したままであった。  
「浮気は殿方の甲斐性です・・・ですが・・・・・・」  
 環は言葉を継いだ。  
「ですが・・・分を弁えない泥棒猫には躾が必要です」  
 環はまた三本、矢を番えた。  
「「瞬着!姉妹一体」」  
 霧羽姉妹がそう叫ぶと光に包まれた。  
「ひっ、光の中から・・・よ、鎧がぁあぁぁ!?」  
「強化外骨格”香澄”!覚悟完了!!」  
 消えた光のもとには”鎧”を纏った完全武装の明日美がいた。  
 戦いは新たな局面を迎えようとしていた。  
 
「環地獄雨!」  
「千手攪乱撃!」  
「閃滅!!」  
「胡ノ宮式連弾弓!!」  
 闘技場内では一進一退の攻防が続いていた。  
「お聞きください、この大歓声!まさに好勝負です!!  
 角田さん、どっちが優勢なんでしょうね〜」  
「う〜ん、判りません!」  
「優勢なのは胡ノ宮の方だがな」  
「ほ、本当ですか!白河先生!?」  
「そうだ。弓矢は胡ノ宮の使い慣れた武器なのに対し、霧羽さんの方は  
 慣れているようには見えない。おそらくはここ2〜3日の練習でしょうね。  
 実際、胡ノ宮の方は全ての攻撃を阻止できているけど、霧羽さんの方は  
 何発か矢が飛んできているでしょう」  
「そういえば・・・そうですね」  
「ほら、見てみなさい」  
 環の放った矢が受け技を越えて、明日美の強化外骨格に向かう。だが、  
それは命中することなく空間で弾けていた。  
「でも・・・当たらないですね」  
「おそらく、何かがあるのね・・・強化外骨格以外の何かが」  
 ここで何かに気付いたのか、環は再度”外道照身霊波光線”を放つ。すると  
明日美の周りには何かが浮かび始めた。  
「こっ・・・これは!?」  
 香澄の声がこれに応える。  
「そう、これは私たち姉妹を手助けする、日頃スポットライトの当たらない  
 隠れキャラに萌えるファンたちの念・・・」  
「この三千の英霊が私たちを助けてくれる!!」  
「なんと!英霊が三千も手助けしているのかぁ!!」  
「いや・・・英霊じゃなくて妄念ではないかと思うのだが・・・」  
 環はこれに対して動揺することはなかった。  
「ならば、清める必要がありますね」  
「できるかしら、貴女に」  
「行きます!成仏なさい!!」  
「先生、これは!?」  
「胡ノ宮の方がきついな・・・三千は埒があかん・・・・・・」  
 環は矢は何本も放って命中したものは清められたがそれでも尚数は多かった。  
 
「おおっと、霧羽が戦術を変えたぞ!」  
 明日美は環に接近戦を挑みかけた。  
「超吸着掌打!」  
「なにっ!?」  
 よけたはずなのに環の身体は明日美に吸い寄せられていく。環はなんとか  
打撃の直前に身体を離すことができたが・・・  
「「おおっっ!!」」  
 直撃は免れたもののよけた巫女服は破れ、環のブラが露出した。  
「反則だっ!」  
 会場から声が上がる。  
「巫女服の下に下着なんて邪道だぁ!!」  
 そうだそうだと同調する声が上がる。  
「朝倉・・・付けてたのか、胡ノ宮嬢は」  
「う〜ん・・・確か付けてたような気が・・・・・・  
 って、やめろぉ!工藤、さくら、音夢!!」  
 変形しかけている檻と中にいる純一を無視して杉並は試合を観戦した。  
「螺旋!」  
 環はそれを皮一枚でよける、だが今度は袴の紐が切れる。その裾を  
踏んでしまい、躓いた環に更に攻撃が加えられる。  
「螺旋超振動!」  
 命中!と思われた瞬間に環は袴を脱ぎ捨てた。残された袴は明日美の  
一撃で砕け散った。  
 会場からは歓声が上がる。危うく難を逃れた環ははだけて留めることが  
できなくなった上着を脱ぎ捨て、ブラとパンツ、そして足袋の姿になった。  
「環選手、下着姿になったぁぁぁ!いいボディだぁ!!」  
「胡ノ宮環、身長158センチ、B80−W59−H83です」  
「もうちょっとおっぱいが欲しいですねぇ〜」  
「まったくです・・・はうっ!!」  
 矢が二本刺さる。  
 下着姿になった環に明日美はなおも攻撃をする、それをよける環。これ  
以降、環は防戦一方となった。  
「脱いで身軽になった分、攻撃が当たらなくなったのですが・・・」  
「う〜ん、まったく攻撃に移っていませんね〜環選手は」  
「おおっと、ここで環選手に”注意”が与えられました」  
「攻撃していないから当然ですね」  
「なお注意が3回になると戦う意志がないものとして失格になります」  
 しかし、それでもなお環は明日美の攻撃から逃げ惑うばかりだった。  
そして2回目の注意を受けてしまった。  
 
「環選手、逃げるだけです。打つ手はもうないのかぁ!?」  
「もう降参したらどう?」  
 香澄が環に話しかける。  
「まだまだぁ!」  
 環はそう叫ぶと思いきり跳躍して明日美から距離を取った。  
「逃げてるだけじゃないの!」  
「そう見えました?」  
 離れた環が印を結ぶ、すると地面に陣が浮かび始めた。  
「まさか!!」  
 杉並が叫ぶ。  
「ど、どうかしたのですか?実行委員長!?」  
「なるほど・・・」  
「だからどうしたのですか?」  
「胡ノ宮嬢はただ逃げていただけではなかったのだ」  
「えっ?」  
「胡ノ宮嬢は逃げるふりをしながら、足で陣を描いていたんだ・・・」  
「しかし、砂の上には何も・・・」  
「いや、砂の下の・・・床に刻みながらだ」  
 闘技場では明日美の周辺に結界が張られ始めていた。  
「怨霊成仏光線」  
 明日美を光が包む。  
「明日美ぃぃぃ」  
「お姉ちゃーん」  
 光が消えると、そこには制服姿の明日美が一人取り残されていた。  
「ロイヤル・パンチ!!」  
 環は距離を一気に縮め、一撃を放った。鳩尾に喰らった明日美はそのまま意識を  
失い、闘技場に倒れた。  
「勝者!胡ノ宮環!!」  
 審判は環の勝利を宣言した。  
「貴女は強かったわ・・・でもね、私の想いは三千の想いを上回っています」  
 保健委員は明日美を担架に乗せて立ち去る。環もまた入場口から闘技場を  
後にした。  
「さすがね、胡ノ宮さん。素質で判断するなら芳乃さんと双璧ね、でもね・・・」  
 理事長は試合の様子を満足げに眺めていた。  
「素質だけで勝てるわけじゃないのよ・・・」  
 そして彼女は放送席の方に目を向けた。  
「それを証明できるかしら・・・ねぇ、叶さん・・・・・・」  
 
<試合間>  
 闘技場では試合の後始末に追われていた。特に環の書いた陣は念入りに  
消されていた。  
 一方、待合室では次の試合に出場する選手が準備をしていた。  
 
 叶は胸のサラシを締めなおしていた。サラシを巻いた状態で動き回るのは  
苦しいのだが、ブラをつけた状態で運動をしたことがないために普段と同じ  
状態にするべきを判断したためである。  
 ブラは純一との夏休みで叶はそう決めていた。音夢や眞子に触発されて  
買った青の超ビキニも股下ギリギリのスカートも全ては夏休みのために。  
 女である衣装はパンツだけにして、男物のYシャツにズボンという出で立ちの  
男装美少女として叶は戦うつもりであった。  
 
 アリスは脳内で何度も戦いを描いていた。  
 さくらや環といった引き出しをいくつも持っていそうなタイプと異なり、対戦相手の  
工藤叶の能力に関しては大体予測できていた。しかし、その予測したタイプは  
彼女にとって必ずしも相性のいい相手ではなかった。何度も何度も繰り返し、  
描く戦いの中、勝つための方程式を練り上げるアリス。  
 やがた彼女は立ち上がり、闘技場に向かった。  
 

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