手近な箱の位置に向かうもの、遠い場所から探そうとするもの、あるいは
人の少なそうな箱に向かうもの、参加者の動きは様々である。
「さぁ!いよいよ始まりました、朝倉純一争奪武闘大会!
朝倉純一と夏休みを過ごす権利をかけて150名に及ぶ参加者が二日に
渡って戦いを繰り広げます。
実況はわたくし、田端がお送りいたします。そして一次予選の解説として
大会実行委員会顧問の白河暦先生をお呼びしております。
先生、よろしくお願いします」
「朝倉じゃないけど、かったるい・・・」
「さて一次予選では150名の参加者を16名に絞り込むことになります。
当初は本命:朝倉音夢、対抗:白河ことり、ダークホース:胡ノ宮環と言われて
いましたが、予選の形式が発表されて以後の予想が大きく変わりました」
「ほう・・・どのように」
「そうですね・・・主に体育会系のメンバーの勝ち抜き予想が多くなっていますね。
陸上部の柏木さん、テニス部の高瀬さん、あと水泳部の速瀬さんとかですね」
「ふふふ・・・そうか、やはり何も判ってないか・・・・・・」
「・・・と申しますと?」
「アノ杉並が考案した試合がそんなわかりやすい結果になると思うのかな。
少なくとも理事長は予選を福引大会にも100m走にもしようとはしていない」
「よく分からないのですが・・・」
「単純なことだよ。100個の箱というが参加者は100人を越えている。
16個の玉なんかすぐに見つかるはずだ。
そしてスタートが9時半なのに受け付けが10時半・・・
考えてもみろ、一番遠い箱のところまで行って帰ってきても20分もかからん。
それなのになぜ、一時間も待つのか」
「そういえば・・・そうですね」
「この予選を突破するものは玉を見つけたものでなく、玉を受付場所まで
持ってきて名乗りを上げたものだ・・・つまり最後に玉を持っていればいい」
「あっ!皆様、掲示板をご覧ください!!玉がどんどん見つかっているようです」
電光掲示板には玉の所在を表す光点が次々に現れていった。
「たいへんだ、田端!」
「どうした!林・・・じゃなくてレポーターの林さん!!」
「たったいま、争奪戦が行われました。玉を取った朝倉音夢を6人の女子生徒が
襲撃をかけました!」
「えっ!?そうなんですか!で、結果は?」
「朝倉音夢の圧勝です!6人が瞬殺されました!!」
「この大会に体力は必ずしも決定的な要因ではない。むしろ朝倉に対する念の
強さとそれをコントロールする能力が関わってくる」
「どうやら、各所で玉の争奪戦が行われている模様です」
「だが、一次予選の本当の戦いは10時半からだ」
「受付5分前です」
学校中にアナウンスが流れた。それとともに参加者たちはぞろぞろと中庭に
集まり始めた。
「こ・・・これは!?」
「こういうことだ。学校のどの場所からでも受付場所に行くには絶対に中庭を
通らなければならない。それは玉を持った参加者は絶対にここを通ると
いうことだ。襲撃をして玉を奪い取るには絶好の位置なのだ」
「つまり、ここで玉を奪って・・・」
「そのままゴール!という戦略が可能ということだ・・・
すなわち、一次予選の肝は100名を越える妨害を潜り抜けることができるか
どうかなのだ!!」
「ですが・・・そんなことが可能なのですか?」
「それはわからない・・・だが、いえることはそれを潜り抜ける能力、あるいは
その妨害を成就させる能力がなければ二次予選に行く資格はないと
いうことだ」
白河暦のいうように中庭を囲むように16個の光点が存在していた。それは
その場所を動かずに次の転機を待っているかのようであった。
「参加者の皆様、10時半です。これより受付を開始いたします」
体育館の扉が開かれた。扉から壇上まで赤い敷物がまっすぐに敷かれ、
その両脇には入ってくる予選突破者を見ようと生徒たちが人だかりになって
いた。
「さぁ、いよいよ受付の開始です。果たしてここを上手く突破する・・・
あっと!動きました!!一人動き始めました!!」
電光掲示板の一点が中庭に向けて動いていた。
「栄えある一号は・・・胡ノ宮環さんです!」
巫女服姿の環が中庭に現れた。中庭で待ち構えていた参加者たちが環の
方にジリジリと近寄ってくる。だが環は慌てることなく懐から2枚の札を取り
出した。
「式神よ、我を護れ・・・」
その後、環は二言三言囁いて札を地面に投げた。
「地竜走破っ!」
環の位置から体育館の扉まで大きな衝撃波が発生した。その線上にいた
生徒たちはことごとくふっ飛ばされ、その痕には大きな土の壁が聳え立ち、
人一人通れるだけの道が間にできていた。
「なんだ!?この技は!そして胡ノ宮環、その間の道を走り抜けます。
誰も妨害できません!走ります!環、走ります!!
出遅れ環、遅れた分を取り戻すかのように一気に駆け抜けます!!」
その土の壁に挟まれた道を環は懸命に駆け抜けた。
「どうやら、一番は胡ノ宮環さんの・・・おおっと!後ろから誰かが
追いかけてきます。環さんの玉を取りに来たのか!?
いえ、違います!後ろの人も玉を持っています、なんと人の道を
利用しての突破です!他人のふんどしで相撲を取っております!!
これは卑怯か!?いえ、賢明というべきか?」
環の後ろを土壁が崩れていくさなか、一人の参加者が突破していった。
体育館に入った環は観客の盛大な拍手に迎えられた。そして壇上に
向かうと玉を箱に入れて名乗りを上げた。
「胡ノ宮環、ただいま参りました」
「うむ、認めよう!」
「胡ノ宮環・・・3番!」
環の二次予選進出と所持していた玉の番号を告げるアナウンスがなされ、
一際大きな拍手が彼女に与えられた。
だが続いて入ってきた参加者には拍手ではなくブーイングは浴びせられた。
「工藤叶です」
「工藤叶・・・5番!」
突破の仕方が他人まかせであったこともあるが、何よりも男子が参加して
二次予選の権利を得たことに対しての非難でもあった。
「やっぱり、あいつ・・・」
「そうだったのか・・・」
いくら言われても叶は耐えるつもりであった。だが、これが純一に絡むことと
なると話は別であった。
「やっぱりマントヒヒが色目を使うのはマントヒヒかも・・・」
「朝倉の変態の仲間入りか・・・」
そして、朝倉の少しひきつった顔を見た叶はついに決心をした。
「みなさん!重大な発表があります!!」
叶は壇上で大きな声を上げた。
「おいおい、カミングアウトかよ・・・」
「ボクは実はホモです!・・・とか」
そんな野次を無視して叶はカッターシャツを脱ぎ、ズボンを降ろした。
「ボクは・・・実は女です!!」
サラシでは隠し切れない胸の形と意を決した女物の勝負パンツといった
下着姿の叶はどう見ても女の子としか言えない体形であった。
体育館に衝撃が走った。大きなどよめきがウエーブのように発生した。
白河ことり方式の衆目でのカミングアウトを行った叶は急いで制服を
着ようとした。
「女の子の証明をしたいんだったら、脱がなくてもできると思うけど」
「ダメよ、ピロスそんなこと言っちゃ。人前で脱ぐのが好きかもしれないから」
情け容赦のない言葉に叶は衝撃を受け、思わずその少女を睨みつける。
だが、少女はにっこり微笑んでいた。
「月城アリス・・・6番!」
その少女は一礼をすると舞台の袖に入っていった。叶も制服を手にすると
急いで壇上から立ち去った。いきなり決まった自分の対戦相手のアナウンスを
聞きながら・・・
「これは驚きです!いきなり決まりました!!
二次予選第3試合は 工藤叶 vs 月城アリス です!!」
体育館がいきなりの組み合わせ決定に沸き立っている最中、中庭に
一人の少女が降り立った。その少女は二つの点で観客を驚かせた。
一つは彼女が誰であるかについて、もう一つは彼女が二つの玉を
所持していたことについてである。
「いま、中庭に光点が二つ現れました。しかし、しかし人影は一つだぁっ!
まさか!彼女一人で二つの玉を持っているというのかぁぁぁぁぁ!?
彼女は一体誰なのか!?」
観客がざわめき、やがてカメラがその人物をズームアップしたとき、
その驚きが最高潮に達した。
「白河ことりだぁ!まさか、白河ことりが2個持っているというのかぁ!?」
観客は驚きの声を上げて戸惑ったが、参加者の反応は早かった。彼女たちは
一斉にことりの方に突進を開始し始めていた。先ほどの環の教訓であろうか、
散開しつつも大急ぎで殺到する少女たち。だが、ことりは慌てずに軽く息を
吸い込んだ。
「耳を塞いで!床に伏せろ!!」
妹の動作を見た暦先生はそう叫ぶと、自ら行動を率先した。
次の瞬間、ことりは歌った。リズム、声調はいつものように美しいものであった。
しかし違っていたのは声量であった。
ことりに向けて突進していた少女たちはその衝撃をまともにくらい失神して
倒れていた。そして中庭に面した教室の窓ガラスは全て共鳴し、木っ端微塵に
砕けてしまっていた。体育館の方にも衝撃波が押し寄せ、多くの観客は圧倒
され倒れ、暦の指示に従ったものですら床に伏せたまま動かなかった。
「・・・先生、アンタの妹は超音波怪獣ですか・・・・・・?」
「・・・ひとの妹をギャオスみたいにいうんじゃない・・・・・・」
貴賓席では学校の惨状におおわらわであった。
「こ、校長・・・中庭に面した教室のガラスが全て割れて・・・」
「り・・・理事長・・・・・・」
「慌てない・・・これくらい・・・想定の範囲内です」
惨状に悲鳴をあげる先生に被害に顔を引きつらせる校長、そしてその横で軽く
顔を引きつらせながらも理事長が平静を装っていた。
さて、ことりはというと失神し倒れこんだ参加者の間をぬって、そのまま体育館に
駆け込んできた。
「・・・中庭にいた参加者は壊滅状態にあります。この状態では楽にここまで
来れると思いますが・・・・・・」
「・・・いや、この学校は結界を張っているから少々のことなら5分あれば回復
できるようになっている。だからもう少ししたら復活すると思う・・・・・・」
「だが、この5分は絶好の突入期であることは変わらない」
「す・・・いや、実行委員長・・・・・・」
「この5分間は妨害を受けることなく、ここまで来ることができる貴重な時間で
ある。だが、にもかかわらず来ないところを見るとおそらくは衝撃波に巻き
込まれたのであろう」
「あっ・・・光点が一つ中庭に降り立ちました。どうやらこの好機を生かすことが
できる参加者がいた模様です。もう一つ現れました・・・」
「この好機、生かすことができたのは大きいな。運も実力のうちということか・・・」
そうこうしているうちにことりは壇上に現れた。いまだ衝撃が残る壇上の実行
委員であったが何とか態勢を立て直そうとしていた。
「白河ことりです。あの・・・二つあるんですが・・・・・・」
「あっ、両方とも箱に入れてください・・・」
「はい」
ことりは二つの玉を箱に入れた。
「白河ことり・・・9番、および10番」
「この場合はどうなるのですか、実行委員長?」
「うむ、説明しよう!」
「白河ことり嬢には9番及び10番の枠で参加してもらう。
しかし、9番と10番は対戦の組み合わせであり、このため
白河ことり嬢は・・・」
場内は杉並の次の言葉を固唾を飲んで待った。
「白河ことり嬢は不戦勝となり、本選への出場権を獲得する。
二次予選第5試合、白河ことり不戦勝!本選進出決定!!」
「白河ことり、予選突破!そして本選進出一番乗りを果たしましたぁぁぁ!!」
「ブイっす!!」
体育館は白河ことりの偉業に熱狂し、大歓声を送った。ことりはそれに応える
ように小さなVサインをし、一礼して舞台の袖に向かった。
そのまま体育館を出ようとしたことりであったが、出入り口の辺りで理事長に
呼び止められた。
「白河くん、理事長が聞きたいことがあるそうなので」
いつもはいかめしい校長も理事長の前では畏まっていた。
「固くならないで白河さん。貴女に少し聞きたいことがあるの」
「はい」
「白河さん、貴女は玉を二つ入れたようだけど確か中庭に下りる直前まで
三つ持っていたわよね」
「はい、そうです」
「もう一つ・・・9番、10番、11番のうち、11番の玉、どうしたのかしら?」
「あっ、それですか。あげました」
「あげた!?誰に?」
理事長は詰問調になりかけた校長を制して話を続けた。
「なぜかしら?」
「持っていても意味のない玉でしたので。ちょうど知り合いに会いまして・・・
彼女はまだ玉を持っていなかったので、それで」
「何か・・・そう、見返りとか交換条件とかは?」
「いえ、何も」
「ほ、本当に何もなかったのかね?」
「はい、何も」
何の見返りもなく、他人に玉を上げたことりに校長は信じられないという顔を
したが、反対に理事長は含み笑いを洩らしていた。
「うふふふ・・・白河さん、貴女は賢い人ね」
校長は訳もわからず、きょとんとしていた。
「玉のルールは一人で何個も玉を集めようとするのを防ぐために考案したもの
なんだけど、それでは面白くないから対戦カードの不戦勝ルールを入れたの。
でも、それでも対戦カード以外の玉を複数取りに行く人がいると思ったわよ。
ええ、共闘とか逃げるときの撒き餌とか予備のためとか・・・・・・
でもね、校長先生・・・この子はね・・・・・・」
戸惑いを隠せない校長とは対照的に理事長はなおも含み笑いを続ける。
「でもね、この子は私たちの一枚上を行ったのよ・・・」
「えっ!?それはどういうことですか?」
「白河さん・・・貴女は12番が誰か知っていたでしょ。
だから11番をあげた、彼女にね」
「では・・・白河くんは・・・・・・」
「ゲームメイキング・・・自分の戦略に合わせて対戦カードを仕組んだ」
壇上からことりの作った好機を生かした二人の参加者の声が漏れ聞こえていた。
「えっ・・・とれ・・・・・・でも・・・はずし・・・・・・」
「はい・・・です・・・・・・白河・・・・・・くれ・・・・・・」
やがて、その二人の名前がアナウンスされた。
「天枷美春・・・11番!」
「朝倉音夢・・・12番!」
また決まった組み合わせに会場が大きく沸いた。
「し、白河くん・・・君は・・・・・・」
「素晴らしいわ、白河さん!」
「理事長・・・?」
「白河さん、貴女は風見の精神を体現する女だわ」
ことりは理事長の言葉に答えず、にっこりと微笑んだ。
二次予選第6試合 天枷美春 vs 朝倉音夢
学園が白河ことりの衝撃からようやく立ち直った頃、突如として中庭に虹が
現れた。虹にしてはコントラストのくっきりとしたそれは校舎のとある教室の
窓から体育館の扉の前まで伸びていた。
何やら幻想的な光景に誰もが目を奪われていると、その虹の上に一人の
少女が現れた。その少女は虹を滑り台のようにし滑り降り始めた。
「なんだぁ!?に、虹の上を少女が!風見学園の生徒が滑り降りてきます!
せ、先生・・・に、虹ってこんなことができるのですか!?」
「赤点にするぞ田端!そんなことできるわけあるか!!」
「でも・・・実際、目の前で・・・・・・」
「これは・・・この結界内部での”印”の効果だ!!」
虹を滑ってきた少女は体育館の扉の前にたどりつくとそのまま壇上に向かって
駆け込んだ。
「彩珠ななこです。これを・・・」
「彩珠ななこ・・・7番!」
「七人目の二次予選突破者は彩珠ななこ!しかも7番の7づくしです!!」
喜色満面で退場していくななこと対して、中庭では事態が進展していた。
ななこの派手なパフォーマンスに紛れて突破を図ろうとしていた眞子の前進が
阻止されていたのである。だが誰もが目を奪われていたパフォーマンスの
最中に前進が阻止されたのはそう目論んだのが水越眞子であったためである。
それは眞子を阻止した女子生徒たちは眞子のみを探していたからである。
「あなたは・・・」
眞子は自分の前進阻止した生徒の中に以前、自分に告白した少女の姿を
見出した。
「あなたも朝倉を・・・」
「いいえ、違います!」
少女は凛とした声で眞子の問いを否定した。
「私たちは朝倉さんに興味はありません!」
「私たちは眞子さま、貴女のこれ以上の前進を!」
「これ以上進むことを食い止めるために!」
「参加いたしました!!」
「なぜ・・・!?」
眞子は語気も強く、少女たちを睨み付けた。
「なぜならば、私たちは!」
少女たちは一斉に左の肩に撒いていたスカーフを取り外した。そこには
フルートと百合が交わったエンブレムが肩口に貼り付けられていた。
「私たちは、水越眞子私設親衛隊です!」
「私たちは、眞子様と戦うことになっても!」
「これ以上進ませるわけには行きません!」
その様子はモニターされ、体育館内で映し出されていた。
「あっ、あれは!!」
「知っているのか、雷電!!」
「・・・・・・杉並、田端」
「あれは水越眞子私設親衛隊”百合の騎士連隊”、またの名を・・・」
「またの名を・・・」
「”リリアンリッター”!!」
「”リリアンリッター”・・・!!」
「まさか参戦してくるとは・・・」
「・・・一つ聞きたい・・・・・・ネーミングからして・・・男子の構成員は・・・・・・」
「いません」
「一人も・・・?」
「一人も・・・!」
中庭では眞子と10人のリリアンリッターの少女がにらみ合っていた。
「友人のため・・・と言ってもムダのようだね」
「参ります!」
「御免!」
「お覚悟!!」
10人の少女が一斉に眞子に向かって襲い掛かった。
「やむを得ん!」
眞子は大きく手を叩いた、すると手から特大のフルートが現れた。
「必殺技!烈風!!」
少女たちは眞子の吹くフルートに一気に吹き飛ばされた。
「ま・・・眞子さま・・・・・・」
「こ・・・これ以上の前進は・・・」
「あなたたちの気持ちはわかった・・・でも、時として前進しなければ
ならないことがあるのよ・・・」
「ま・・・眞子さ・・・」
「ご武運を・・・・・・」
「渋いぞ!水越眞子、男の中の男だぁぁぁ!!」
「・・・水越は女だぞ・・・念のため」
「水越眞子・・・15番!」
「ななこの突破が効いたのか!?ゾロゾロと校舎の中に入っていくぞぉ!!」
攻撃のできない空中を通って安全地帯まで一気に進むという彩珠ななこの
突破は中庭にいた参加者たちに衝撃を与えていた。彼女たちの約半数は
待ち伏せから校舎内に潜伏する玉の所持者への直接攻撃に切り替えた。
玉の位置を表す光点は逃げるように動くもの、逆に反撃に出るのか向かって
くるもの、あるいはそのままの位置に留まるものと様々であった。
そのうち、追い詰められたのか屋上に移動してくる光点が二つ、中庭に面する
校舎のそれぞれに現れた。
「万事休す!逃げた先が屋上だぁぁぁ!!これは追い詰められてしまったぞ」
だが、それぞれの光点の少女は示し合わせたかのように同じ行動をとった。
「なんだぁ!さっ、柵を越えた!?危ない!危ない!!せっ、先生!!」
「理事長!!」
「大丈夫です、白河先生。この大会開催中に限っては強力な結界を張ってます
のでたとえ屋上から飛び降りても捻挫程度で済みます」
「そう言っているうちに・・・飛び降りたぁぁぁ!なっ、なんだぁ!ひ、光に!?」
二人の少女の身体は地上に達する前に光に包まれた。そしてドスンという
大きな音と土煙を立てて着地した。
「無事かぁぁぁ!しかし無事でも、そこには待ち伏せを・・・ああっぁぁぁぁぁ!!?」
晴れていく土煙の下にあるものは少女の影ではなかった。
「メカだぁ!いや、鎧だぁぁぁ!?」
「どっちだ!田端!?」
「りょっ!両方です!!!」
土煙の中から浮かび上がってきたのは完全武装フルアーマーの鎧と人の倍は
あろうかという大きなメカであった。
「どこからこんなものが・・・って、つっ、突っ込んできます!!」
メカと鎧は土煙を巻き起こして猛烈なスピードで体育館目掛けて動き出した。
「りっ、理事ちょおぉぉぉぉぉっ!!!」
校長が悲鳴をあげる。
「心配するな、想定の範囲・・・」
理事長が言い終える前に体育館の壁がすさまじい音を立て崩れ、館内に大きな
衝撃を与え、観客の悲鳴が上がった。
「かっ・・・壁が・・・・・・」
「こっ、校長!しっかりしてください!!」
完全に破壊された壁を見た校長は意識を失った。観客らは壁を完全に破壊した
メカと鎧が何かを見ようと注目した。しかし土煙の中から現れた影は普通の少女の
ものであった。二人は壇上に向かい、名乗りを上げる。
「紫和泉子・・・8番!」
「霧羽明日美・・・4番!」
「組み合わせがまた決まりましたぁ!しかも二組です!!
優勝候補の一人、胡ノ宮環の相手はどこで知り合ったのでしょうか、学外参加、
本土からの刺客、霧羽明日美です。
そして紫和泉子の相手はレインボーウォーカー彩珠ななこです。
いったいどのような対戦になるのでしょうか!?」
組み合わせ内容を聞いた環は舌打ちをした。
「8番の方か・・・」
二次予選第2試合 胡ノ宮環 vs 霧羽明日美
二次予選第4試合 彩珠ななこ vs 紫和泉子
「はい、ありがとうございました」
「一次予選を突破した紫和泉子さんへのインタビューを終わります」
体育館では一次予選を突破した参加者のインタビューの映像が流れていた。
明日美と和泉子の吶喊から30分、事態は小康状態のまま動いていなかった。
開始30分を超えたあたりで11枠10人が埋まり、案外早く終わるのではないか
と予想されたが、ここまで動かなくなるとは誰も想像してはいなかった。
校舎には枠の分の5つの光点が存在しており、それらは3つに分かれていた。
「先生、最後の突入から30分経とうとしていますが動きがありません。
やはり、もう突破は無理なんでしょうか?」
「それは有り得るな。現在、中庭周辺にはほとんど全参加者が集結している
状態にある。ここを突破するのは並大抵のことでは無理だろう。
彩珠のように一気に安全地帯に入る能力を有していれば話は別だろうがな・・・」
「それでは、もう突破は無理なのでしょうか?」
「そうとも言えんな。何らかの事情があるのかもしれんし、あるいは何か策を
弄しているのかもな・・・」
「実行委員長、時間内に出されなかった玉の枠についてはどうなるのでしょうか?」
「その時は全参加者を集めて抽選で選ぶということになる」
「なるほど・・・玉を取れなくてもチャンスはあるということですね」
「そういことになる。だが、現在だと5/120くらいの確率ではあるがな」
「今、残っている枠は1番、2番、13番、14番、16番です・・・あっと、動きが見え
てきました。光点が一つ、光点が二つあるところに移動していっております」
「共闘か!?」
「光点が3つ集まっています。これはどうなるのでしょうか?」
動きが現れたことに体育館内の観客は固唾を呑んで見守り、中庭の待ち伏せ
の参加者の間には緊張が走った。
5分ほど時間が経った頃、ついに動きが現れた。
「きたぁぁぁぁぁぁ!ついにきたぁぁぁぁぁ!!」
2階の教室の窓枠をぶち破ってさくらが箒にまたがり、飛行してきたのである。
「金髪ツインテール!ロリロリさくらが箒にまたがり、飛んできましたぁぁぁ」
ほうきの後ろにはもう一人の少女が横向きに座っていた。
「箒の後ろにもう一人!あれは誰だ!?」
「お・・・お姉ちゃん!?」
後ろに水越萌を載せた芳乃さくらが箒にまたがり、体育館の方向に向かってきた。
「包囲しろ!逃がすな!!」
「押し包め!!」
さくらと萌を包みこむように参加者は動いた。地面スレスレを小走り程度の速度で
しか飛べないさくらの絶体絶命のピンチ!と思われたが・・・
「♪ヤゴ〜ヤゴ〜ヤ〜ゴの子守唄〜♪聞けばぁ〜いつでも〜眠くなる…」
ポクポクと木琴を叩きながら口ずさむ歌により、さくらに近づく参加者たちは
溜まらずにその場で寝入ってしまった。
「なっ!な、なんだ・・・こ・・・この・・・歌は・・・ね、ねむ・・・・・・」
「ね・・・寝るな・・・・・・起きろ!」
さくらの進撃を阻む参加者は面白いようにポテポテと倒れ眠り込んでいった。
そして萌を載せたほうきが体育館に入った。
「着いたよ、もういいから」
「着いたのですか〜」
観客の大部分が睡魔と戦っている中をさくらは耳栓を外しながら壇上に向かった。
「芳乃さくら・・・1番、2番」
「芳乃さくら、白河ことりと同じく本選進出を果たしました!!」
続いて萌も壇上に上がった。
「お姉ちゃん!」
「眞子ちゃん〜がんばりましょう〜」
眞子は姉の参加に驚いたが、その次のことが更に彼女を驚かせた。
「水越萌・・・16番」
その瞬間、体育館内に大きなどよめきが起こった。
「なんとっ!水越萌の対戦相手は妹の水越眞子だぁぁぁぁぁ!!」
「・・・お、お姉ちゃん」
「がんばりましょうね」
戸惑う妹とは対照的に姉の萌は平静であった。
二次予選第1試合 芳乃さくら 不戦勝
二次予選第8試合 水越眞子 vs 水越萌
残る枠は13番、14番の二つのみ。だが、その玉の持ち主の動きはかなり
トリッキーなものであった。教室の窓から窓に移ったり、天井裏に潜り込んだり、
そうかと思うといきなり止まって一休み。
「・・・これはどういうつもりなんでしょうか?」
「知らん・・・」
「もしかしてこちらに来れないのではないかと・・・」
「・・・その可能性は・・・有り得るな」
その動きの脈絡のなさは実況や解説だけでなく、観客にも理解できず、結局は
進入できないせいと結論づけられた。そして残り時間が10分を切り、抽選による
決定の可能性が出てきたために一部の参加者は体育館内に戻ってき始めて
いた。
「あっ!光点が体育館の裏に!!実行委員長、裏から入ってくるのは問題は
ないのですか?」
「玉の受付の制約は時間だけである。どこからこの体育館に入ってきても
ルール違反ではない・・・しかし」
「しかし・・・?」
「この体育館に入ってこられるのは開けた扉だけであり、他の窓や扉は全て
鍵を掛けてある。だから実際に入ることはできない」
「誰かが鍵を開けて、入ってきた場合はどうなるのですか?」
「第三者の協力があった場合、それは反則として扱われて失格となる」
「なるほど・・・」
「まあ壁をぶち破れば、それは反則にはあたらないのだがな」
実況と実行委員長がルールの解説をしていると一人の少女が体育館裏に
面した窓の鍵を開けた。
「あっ!!」
会場の観客の叫ぶ声が聞こえた。ここで入ってきたりすれば失格は間違い
なしである。だが、入ってきたのは一匹の猫だった。
「・・・なんだ」
会場内のテンションは一気に下がった。だが、次の瞬間には再度上昇する
ことになった。
「光点が・・・入っています!?」
審判の声に観客は一斉に玉の所在を示す光点の位置を確認した。それは
間違いなく体育館の中にあった。
驚きとざわめきの中、猫を抱いた少女が壇上に登る。
「にゃあ」
猫が一声鳴く。少女は猫の首輪を外し、そこにつけていた二つの玉を箱の
中に入れた。
「実行委員長!?」
実行委員は杉並の方を見た。観客も審判も杉並の回答を待った。
「白河先生、いかがですか?」
「開けたのは第三者ではなく、本人だ。問題はないだろう」
「では認めよう」
杉並と暦先生の判断を受けて、宣告がアナウンスされた。
「鷺澤美咲・・・13番、14番」
「これで全ての枠が埋まりました。一次予選はこれにて終了です」
観客の歓声と参加者の落胆の声がこだました。
「二次予選の組み合わせを改めて発表します!
二次予選第1試合 金髪の小悪魔 芳乃さくら 不戦勝
二次予選第2試合
巫女巫女スバイパー胡ノ宮環 vs
本土からの刺客 霧羽明日美
二次予選第3試合
脱衣系男装美少女 工藤叶 vs
北欧系一○堂 月城アリス
二次予選第4試合
レインボーウォーカー 彩珠ななこ vs
ステルス系美少女 紫和泉子
二次予選第5試合 風見学園のハマーン・カーン 白河ことり 不戦勝
二次予選第6試合
バナナ大好き銜えたガール 天枷美春 vs
据え膳保存食 朝倉音夢
二次予選第7試合 策略令嬢 鷺澤美咲 不戦勝
二次予選第8試合
女性票ならミス風見 水越眞子 vs
デイスリーパー 水越萌」
「「変なキャプション入れるなぁ!!」」
「続きまして、二次予選は13時より・・・地下闘技場にて行います!」
「地下!?」
「闘技場?」
その耳慣れぬ響きの場所に観客らの戸惑った
二次予選の開幕は近い。