「これより、準決勝の組み合わせを抽選いたします。  
 なお、第四試合の勝者である水越眞子選手は現在治療中ですので代理として  
 姉の水越萌さんが抽選のくじを引きます」  
 第四試合の興奮が収まらぬ会場にアナウンスが響く。抽選会場となる闘技場は  
後にオークションされる工藤の破れた衣服、失禁で濡れたパンツ、お尻を拭いた  
Yシャツ、排泄物で汚れた砂が取り除かれ、見苦しくない程度に整地されていた。  
「準々決勝勝者の選手の皆さん、入場をお願いいたします」  
 アナウンスと同時にことり、さくら、音夢が大歓声の中、入場してきた。  
「それでは第一試合勝者、白河ことり選手。くじを引いてください!」  
「はいっ」  
 ことりが箱の前に歩を進め、くじを引く。そして、それを姉の暦に渡す。暦はそれが  
間違いないことを確認した後、実行委員に手渡した。  
「白河ことり選手、2番!第1試合B!!」  
 沸き起こる歓呼にことりは手を振って応える。  
「続いて第二試合勝者、芳乃さくら選手。くじを引いてください!」  
 さくらも同様にくじを引いて、暦に渡す。  
「芳乃さくら選手、3番!第2試合A!!」  
「「おおっ〜〜〜」」  
 会場中がため息に包まれた。とりあえず白河ことりvs芳乃さくらの組み合わせは  
準決勝では実現しないことが判明した。  
「続いて第三試合勝者、朝倉音夢選手。くじを引いてください!」  
 音夢もまた同様にくじを引く。ことり、さくらの時と違うのは会場中が静まり返って  
成り行きを見守っていたことである。  
 暦はこれまでと同様に中身を確認した後、実行委員に手渡した。  
「朝倉音夢選手・・・」  
 つばを飲み込む音が聞こえそうなくらい、会場が静まり返る。アナウンスの次の  
言葉を聞き逃すまいと誰もが耳に神経を集中させた。  
「4番!第2試合B!!」  
 瞬間、会場中に大きなざわめきが起こる。  
「優勝候補筆頭の朝倉音夢、対戦相手は従姉妹の芳乃さくらだぁぁぁ!!」  
「血はつながっていないそうですが、因縁はバリバリにあるとか!  
 これは楽しみな一戦ですねぇ〜〜〜」  
 闘技場では音夢とさくらが一瞬、されど激しく目を合わせて、すぐに互いに逸らした。  
「そして対抗馬、白河ことりの相手は先ほどの試合の勝者、水越眞子だぁぁぁ!!」  
 会場は決まった組み合わせに大きく盛り上がった。  
「なお、準決勝は午後1時からの開始となります。ご食事は・・・・・・」  
 
準決勝第1試合 水越眞子vs白河ことり  
準決勝第2試合 芳乃さくらvs朝倉音夢  
 
 
<準決勝>  
 準々決勝が終了した後、試合は1時間中断した。試合で荒れた闘技場内部の  
整備、特に崩壊寸前の防御結界の再構築のために必要な時間であった。実行  
委員たちは食事時間を返上し、その作業に没頭した。この水を差すともいえる  
ような空白時間はしかし、観客らの熱を冷ますことはなかった。ここまでの4試合の  
熱戦を堪能し、これから始まる決戦を彼らは期待していたのである。  
「ことり!ことり!」  
「ねーむ!ねーむ!ねーむ!」  
「さくらちゃ〜ん!!」  
「眞子さま〜がんばって〜〜!!」  
 観客らの声援は試合が近づくにつれ高まり、実行委員たちが整備を終える頃には  
会場は十分に暖まっていた。  
「レディース・エ〜ンド・ジェントルメ〜ン!」  
 杉並がマイクを持って闘技場に現れた。  
「観客諸君、お待たせした!これから朝倉純一争奪戦準決勝を開始する!!」  
 観客の歓呼に会場が揺れた。  
「選手入場!!!」  
 
「学園アイドルにしてニュータイプ!  
 苗字は白だが下着は黒い!!  
 歌姫、白河ことりィィィ!!  
 朱雀の方角から入場だぁぁぁ!!!」  
 
「ロリロリボディの魔女ッ娘!  
 つるペタボディは男のロマン!!  
 金髪の小悪魔、芳乃さくらぁぁぁ!!  
 白虎の方角から入場だぁぁぁ!!!」  
 
「一つ屋根の下の優勝候補本命!  
 兄に近づく女は粛清よ!!  
 武闘派風紀委員、朝倉音夢ゥゥゥ!!  
 玄武の方角から入場だぁぁぁ!!!」  
 
「高血圧高露出!  
 剥かれたら剥きかえせっ!!  
 女子生徒人気bP、水越眞子ぉぉぉ!!  
 青龍の方角から入場だぁぁぁ!!!」  
 
「風見学園美少女四天王の揃い踏みだぁぁぁ!!」  
「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」  
「「ことり!ことり!ことり!ことり!」」  
「「ファイトッ!ファイトッ!ファイトだぁ〜音夢!!」  
「「さくら!さくら!さ〜く〜らぁぁぁ!!」  
「「剥け剥け剥〜け、眞子!剥いて剥いて剥きまくれ〜〜!!」  
 コールに従って、ことり、さくら、音夢、眞子の四人は闘技場に入場してきた。  
観客らの歓声と対照的に彼女たちの間の空気は重く、緊張感を孕んでいた。  
「朝倉純一と夏休みを過ごせるのこの中の一体誰だァァァァァァ!!  
 それはすぐにわかるぞぉぉぉ!!」  
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」  
 観客らの熱狂は今まさに最高潮に達していた。  
「選手退場ぉぉぉ!!!」  
 四人は指示に従い、退場しようとした。その前に各人一様に本部放送席の横に  
座っている純一の姿を見つめ、それから各々入ってきた入場口から闘技場を  
後にした。  
 たが、この朝倉純一が実は学生服を羽織った大きなピンクのクマのぬいぐるみで、  
当の本人は工藤の"対処療法"に精を出していたことは杉並と一部の実行委員を  
除いて知る由もなかった。  
 
「準決勝第一試合、水越眞子vs白河ことり。まもなく開始いたします」  
 
 
<準決勝第1試合 水越眞子 vs 白河ことり>  
 ここまで残った少女は学園内で高い人気を誇っている4人であるため、その声援も  
自然と大きなものとなる。だが会場を揺さぶるような大声援も対戦する二人の耳に  
入っていなかった。二人とも眼前の敵を打ち破り、朝倉純一をGetする手段について  
だけ思考していた。  
「大会もいよいよ準決勝、大詰めを迎えてきました。対戦する二人の身体データは  
 水越眞子選手、身長154センチ、体重40kg、スリーサイズがB80W55H85です。  
 これに対して白河ことり選手は身長が157センチ、体重41kg、スリーサイズが  
 B83W55H84と大差はありません。しかし、ここまでの対戦内容は大きく  
 異なっています」  
「水越選手は初戦の相手が実姉の水越萌選手の音撃戦士決戦、二戦目が先ほどの  
 工藤叶選手との肉弾戦勝負。一方、白河選手は彩珠ななこ選手とも魔法決戦。  
 いずれも自分と同じタイプの選手との戦いでした。その意味ではこの試合、双方に  
 とって毛色の異なる相手との戦いになります。どう戦っていくか楽しみですね」  
「いや、それだけではない!」  
「おっ!実行委員長、まだ何かありますか?」  
「二人とも"妹"という共通点がある。だが、姉は天然系の水越萌とクール系の  
 白河暦先生とまったく対称的な性格である!」  
「そういえば、そうですね・・・ですが、それがどのように影響するのでしょうか?」  
「いや、多分関係ない!言ってみただけだ!!」  
「あ・・・あのですね・・・・・・」  
 放送席で漫才が繰り広げられていたころ、貴賓席でも二人の対戦が  
占われていた。  
「環さんはどのように判断されますか、この二人・・・」  
「そうですね・・・白河さんは遠距離魔法型、水越さんは近距離格闘型、対称的な  
 二人ですから、自らの距離に相手を引きずり込もうとするのではないでしょうか」  
「なるほど・・・ですが、二人が対称的なのは戦闘スタイルだけではありません」  
「どういうことですか?理事長」  
「学園アイドルの双璧として常に注目されスポットライトを浴びてきた白河ことり、  
 反対に常に姉とワンセットで見られ1/2の扱いをされてきた水越眞子・・・  
 その扱われ方はまさに天と地ほどの差があります」  
「なるほど・・・専用アンソロ2冊とCD・ノベルスで姉妹1セットですものね」  
「しかも・・・EDは姉でしたしね・・・・・・」  
「不遇ですね・・・」  
「サラブレットと雑草・・・ですが雑草魂は・・・・・・強力です」  
 環の脳裏には黄色い髪の少女が浮かんでいた。  
「雑草魂か・・・」  
 
 
 一方、闘技場にいる眞子の脳裏にはサテライトキャノンを撃つことりの姿が  
浮かんでいた。威力があり、射程もある武器・・・眞子にも遠距離武器はあるが  
散弾型であり、一点攻撃の威力では大幅に劣る。そして加えてことりには  
散弾型の遠距離武器"ファンネル"がある。  
「(インファイト・・・懐に飛び込んでの打ち合い、勝機はそこにしかない・・・・・・)」  
 意を決した眞子は試合開始の合図と同時にことり目掛けて突進する、しかし・・・  
「えっ!??」  
 眞子の目前でことりは後方宙返りをしていた。  
「(まずい!)」  
 眞子は咄嗟に判断し、猛進撃に制動をかけた。その判断は正しかった。ことりの  
ヒールキックは眞子の目の前をかすり、闘技場の地面にズシンという大きな音を  
立てて振り下ろされた。その攻撃に眞子は、いや会場にいる全ての観客が息を  
呑んだ。  
「ごらんいただけましたか!白河ことりの大回転ヒールキック!!  
 その威力は強烈です!!しかもパンツは黒!!  
 勝負下着だぁぁぁぁぁ!!!」  
「白河選手、本気ですね・・・」  
 呆然とする眞子にことりはニコリと微笑む。その微笑みは眞子の背中に冷たい  
ものを走らせた。  
「先手必勝の展開かと思いきや、両者にらみ合っています。このまま膠着するのか?」  
 眞子は自分の攻撃にタイミングを合わせたことりの攻撃に動きを止めていた。  
実のところ、彼女はどのように動くべきか躊躇していたのである。  
「見事な一撃だな・・・」  
 杉並は呟いた。  
「確かに、見事な大回転ヒールキックでしたね」  
「いや、それだけではない。あの攻撃で序盤の試合の主導権を白河ことりは手中に  
 したことが大きい!」  
「それはどのようなことですか?」  
「この勝負、遠距離魔法型の白河ことりと近距離格闘型の水越眞子というのが  
 試合前の予想だったな」  
「えっ、ええ、そうでした」  
「ならば眞子としては白河ことりの懐に潜り込んでの格闘戦に持ち込もうという  
 作戦は当然成り立ちうる」  
「確かに」  
「だが!そこに、あのことりの攻撃だ。あれを見たら誰もがことりは格闘戦も  
 戦えると思うことだろう・・・そうなると眞子としては単純に格闘勝負と選択して  
 いいのかと迷うことになる」  
「はい」  
「それに完全にタイミングのあった反撃!白河ことりが相手の思考を読む能力を  
 有したと噂は本当かもしれないと迷わせるのは十分であろう。すなわち水越眞子は  
 あの攻撃により二重の迷いに追い込まれてしまったのだ!!」  
「とすると、水越選手は・・・」  
「今、迷って動けない状態だな」  
「逆に考えると白河選手にとって絶好の機会というわけですね!」  
「そうなる!だが、しかし・・・」  
「しかし・・・なんでしょうか?」  
「眞子は単純だ・・・白河ことりにとって危険なくらい・・・」  
 
 
 この時点において、眞子はことりを前に攻撃を逡巡していた。遠距離戦の  
得意なことりの懐に飛び込んでの接近戦、それが眞子の作戦であった。  
しかし、先ほどのことりの攻撃は眞子をして、ことりは接近戦でも十分戦える  
だけの能力を有していると思わせるに十分な威力があった。しかも、その  
タイミングのあった攻撃に勘の鋭いことりの"印"による能力は"相手の思考を  
読む"ことらしいという噂に信憑性を十分与えていた。このまま攻撃をしても、  
ことりに読まれた挙句に一方的に打ちのめされるのではないかという不安が  
眞子を襲っていた。  
 ことりは眞子の不安が手に取るように分かった。眞子はことりが期待した  
ように逡巡し、反応していた。事実、ことりの身体能力は能力強化の印に  
よって、同じく能力強化された眞子に匹敵するくらいにまで向上していた。  
ただ、逆に遠距離の攻撃能力に関しては眞子の危惧したサテライトキャノンを  
現在のことりは使うことができなかった。  
 ことりは他人の思考を読み、その印の効果を自分の能力とすることを可能に  
している。ただ"印"の効果はその本人の資質に適したものに出現するのであり、  
対象者ではないことりが他者の"印"を用いたとしても非効率で限られた能力に  
しかならなかった。しかし、それでもことりにとっては十分価値のあるもので  
あった。和泉子の空間転移能力は闘技場の範囲で事足りたし、ななこの能力も  
自分にとって使いやすいものだけ選択すればいいだけのことであった。眞子の  
能力強化も効率は悪いものの試合に用いることは十分な力を得ることができた。  
もっとも、そこに割いた力は大きく、その能力を維持したままでサテライトキャノンを  
撃つだけの力を残すことはできなかった。そのため、ことりは十分に作戦を  
練ったうえで試合を組み立てていた。それは決勝戦まで見据えたものであった。  
 他人の心が読めるのは白河ことりが元々有している能力である。だが対戦相手の  
水越眞子を含め、ほぼ全員それが"印"の効果であると思っていた。そして、そう  
思わせておくことはことりにとって都合のいいことである。白河ことりが"印"で得た  
能力、それはできる限り温存する、いわば切り札的に使用すべきものであった。  
そのため、ことりは眞子が逡巡している間−開き直る前に試合を優位に運んで  
おこうと考えていた。  
「(接近戦は五分と五分・・・でも遠距離戦は向こうが優位とすると・・・・・・)」  
 杉並の言うとおり、眞子は単純に−この場合はいい意味として割り切って行動に  
移ろうと決断した。その眞子の前でことりは想定外の行動を取ろうとしていた。  
ことりはオープンスタンスのままで大きく振りかぶり、まるでピッチャーの投球  
モーションのように右手を後ろに大きく引き絞っていた。  
「(えっ・・・?な、なにを・・・まさか、このまま・・・・・・?)」  
「てりゃ〜〜〜っ!!」  
 ことりは眞子の疑惑どおりに、そのまま大きなモーションで眞子を殴りつけた。  
想定外のことで眞子はよけることもカウンターを撃つこともできずに両手で顔を  
ガードした。  
 バチンッと大きく音が響く。ことりの鉄拳をブロックした両手はその痛みに痺れを  
きたした。  
「(くっ・・・ガードしてなかったら!!)」  
 眞子はことりの攻撃力に怖気をふるった。その間にことりの顔が目の前に  
接近していた。  
「しまった!!」  
 眞子が衝撃を受けている間にことりは眞子の懐に入り込んでいた。臨戦態勢に  
入っていたなかった眞子はそのまま、ことりの攻撃をストレートに受けた。  
「ことりの猛ラッシュっっ!恐るべき無呼吸連打!!!」  
「歌唄いの白河選手、その心肺能力は脅威です」  
 機先を制された眞子は急所への直撃をかろうじて防ぐだけのブロックに  
追い詰められた。  
 
 
「白河選手の猛攻!水越選手、もはや手が出ないのかぁ!?」  
「手が出なくとも足は出る!!」  
 水越眞子の起死回生の回し蹴り!ことりはこれをバックステップでよけ、大きく  
距離を取った。  
「ちっ!」  
 眞子は離れたことりを追いかける。そこに待っていたのはことりのファンネルに  
よる攻撃だった。  
「ファンネルの集中砲火!!」  
 ファンネルの攻撃に晒され、その火線から逃れた眞子に目の前にはことりの  
姿がまた存在していた。そして眼前の驚愕する眞子に対し、再度鉄拳をお見舞い  
する。ことりの鉄拳を食らった眞子はその威力そのままに吹っ飛ばされていた。  
「水越選手、吹っ飛ばされたぁぁぁ!!!」  
「「うぉぉぉぉぉ」」  
 会場は予想しなかったことりの圧倒的優勢に沸いた。  
「一方的です!ここまで一方的な展開になるとは誰が予想したぁぁぁ!!」  
 実況の絶叫が会場に響き、観客席からは"ことりコール"が聞こえだした。  
一方的に殴られ、闘技場の砂で制服が汚れた眞子の姿は敗北者といっても  
間違いはなかった。されど、この一見すると一方的に見えるこの展開に、ことりの  
劣勢に気づいたものが数人だけであるが存在していた。  
「白河さんのファンネルの数、減ってましたね・・・理事長」  
「そうですね・・・彩珠戦では8基、でも今は4基」  
「多分、あれが能力強化に支障を与えない最大限の数ではないかと」  
「でも、白河さんの作戦という線はないですか?環さん」  
「ないと思いますね。8基動かせれば先ほどの攻撃で試合が決まっていたでしょう。  
 それに今、攻撃すれば勝てるにもかかわらず白河さんは動いていない・・・  
 これは動けないからでしょうね」  
「優勢に試合は進めれても決定的な優位は獲得できていない」  
「そのことに水越さんが気づけば・・・」  
「多分、逆転されるでしょう。でも、そのことに彼女は気づいてはいない」  
「しかし、気づいていなくても・・・」  
 ヨロヨロと眞子は立ち上がる。ダメージは大きいもののまだ致命的な一撃は  
受けてはいない。まだ眞子は戦うことができた。  
「水越選手、再度の突撃だぁぁ!!これは無謀だぁぁぁ!!!」  
 再度、ファンネルの照準が眞子に合わせられた。しかし、今度は当たることは  
なかった。そして、三度鉄拳を浴びせようと立ち向かうことりの懐に入ることが  
できた。  
「4基では・・・見切られるわよ、白河さん・・・・・・」  
 理事長はそう呟く。闘技場ではことりと眞子のオープンスタンスでの打ち合いが  
始まっていた。  
 
 
 眞子がテンプルを狙えば、ことりがそれをよけ、ボディに一発パンチを打ち込む。  
眞子はそれをブロックし、ことりのパンチの引きに合わせてフックを打ち放つ。  
力と技のぶつかり合う激しい打ち合いに会場は歓声を上げた。  
「もうすぐ、白河ことり嬢の化けの皮が剥がされる」  
 杉並の言葉に実況は驚いて、わけを聞いた。  
「白河選手の接近戦の能力は水越選手と同じ、加えて相手の思考を読めると  
 言われています。それだったら・・・」  
「それが問題なんだ、同志。ことりは相手の思考を読んだうえで戦っている。  
 だが相手の思考が読めたとしてもだ、この場合は役に立っていない。  
 なにしろ相手が右を打つと読めたときには相手の右が目の前に来ているからな」  
「えっ?」  
「つまりだ、眞子のスピードにことりの思考速度がついていっていない」  
 このとき、眞子とことりの打ち合いはことりが眞子の攻撃をよけるだけに変化  
していた。  
「おそらく、ことりは眞子のような能力強化された相手と実際に戦ったことがない。  
 だが、眞子はそのような相手と既に、工藤と戦った経験がある。  
 この差は大きい!!」  
 杉並の言う経験の差はこのとき、大きく現れていた。  
「(フェイント!?)」  
 ことりは眞子の攻撃をそう読んだ。しかし、このときのことりの身体はその思考に  
ついていっていなかった。顔をガードしてがら空きになったボディに眞子のパンチが  
炸裂、今度はことりが大きく吹き飛ばされてしまった。  
「ことり、ダウゥゥゥゥゥゥン!!水越眞子、試合をひっくり返したぁぁぁ!!!」  
 芳乃さくらは控え室のモニターで試合を観戦していた。  
「切り札を出しなよ、ことりちゃん・・・でないと、負けちゃうよ」  
 
 
 会場は水越眞子の逆転劇に大いに沸いた。眞子のパンチに吹っ飛ばされた  
ことりは闘技場の床に横たわっていた。そして眞子は観客らの歓呼に応えつつ、  
朝倉純一−実はピンクのクマの方を見つめた。  
「ことり選手、なかなか起き上がってこない!これは決まりかぁぁぁ!!」  
「甘いな・・・水越眞子」  
「えっ?ことり選手はダウンしていますが・・・」  
「一応カウントは取っているが、ことりのダメージはあの一発だけだ」  
「た・・・確かに」  
「ルールではダウンした選手に対する攻撃は禁止されていない。  
 ことりだったら、いや朝倉妹か芳乃さくらでもこの後、追い討ちの攻撃をかけたに  
 違いない。さしづめ倒れた相手に蹴りをくれるかマウントポジションで徹底的に  
 攻撃しただろうな」  
「あっ、白河ことり選手カウント8で立ち上がりました!!」  
 ことりはフラフラと立ち上がった。審判が外からことりに続行可能かを問いかける。  
ことりはそれに黙ってうなづく。  
「立ち上がった時の隙をついて、距離を取ったね・・・せこいよ、ことりちゃん」  
 さくらはことりの戦い方を見つめる。次にいったい何をするのか、と・・・  
「距離を大きく離して・・・白河選手、サテライトキャノンだぁぁぁ!!」  
 ことりがサテライトキャノンを出したことに、観客は勝負が大詰めに入ったと沸き、  
眞子はついに来たかと覚悟を決めた。  
「(解せぬ!ファンネルを掻い潜る相手にサテライトキャノンとは・・・  
 充填の時間に相手がもぐりこんでくるのは必定!!  
 何を考えている、白河ことり!!!)」  
「は、る、か、そ、ら、ひ、び、い、て・・・これは・・・・・・!?」  
 ことりの行動に疑問を感じたのはわずか一部だけであった。そして、この時点で  
ことりの行動の意味がわかったのは芳乃さくら一人だけであった。  
「水越眞子、吶喊ゥゥゥ!!」  
「サテライトキャノンの砲撃前にけりをつける気ですねぇ〜」  
 祈るような素振りのことり目掛けて、眞子が猛ダッシュで近づいてゆく。そして間近に  
迫ったとき眞子はことりがサテライトキャノンを打つ気がないことに気づいた。  
「(翼のエネルギーは・・・充填されてない!しまった!!)」  
 眞子は大きく身体をねじって、突進する軸をズラした。ことりの攻撃がなされたのは  
まさにその瞬間のことであった。  
「♪ときを越え刻まれたぁ!!!」  
 ことりの音声攻撃は咄嗟にガードした眞子を弾き飛ばした。  
「彌珠鬼!歌う鬼、彌珠鬼だ!!」  
「第七位のみずき・・・そして、あれは"エターナルブレイズ"」  
 杉並は叫び、さくらはつぶやいた。  
「こっ、これは!?白河選手もまた・・・音撃戦士なのかぁぁぁぁぁ!!?」  
 観客はことりの反撃に再度沸く。弾き飛ばされた眞子の腕には衝撃が残り、  
ことりの第二撃が眞子を襲う。  
「烈風!!」  
 眞子は音撃武器を取り反撃する。ことりと眞子の中間で双方のエネルギーが  
激しくぶつかり合う。  
「恐るべき、白河ことり!歌う鬼、音撃戦士だぁぁぁ!!」  
「第七位の彌珠鬼までいけるとは・・・だが」  
 杉並はここでまた考え込んだ。ことりの音撃能力の威力は目を見張るもので  
あるが、それでも眞子の音撃能力と同等である。すなわち遠距離攻撃能力は  
ほぼ同じということである。だが接近戦に関しては眞子の方が上であるために  
眞子の戦術に変更はあるまい。いや却って遠距離戦の能力が同等であることで  
接近戦に移行しやすくなったとも言える。  
「(名前と制服は"白"だが、下着と腹は"黒"の大福もちのような白河ことりのことだ、  
 何か策があるはずだ・・・一体、何を企んでいるんだ)」  
 杉並が思考を巡らせている間にも、眞子はジリジリとことりに近づいた。ことりの  
遠距離攻撃を眞子の烈風で相殺させつつ・・・一気呵成に攻撃できる地点まで  
前進を行った。  
「水越選手、徐々に間合いを詰めています・・・そして、ファイアァァァ!!」  
 眞子は一気に距離を詰めるべくダッシュ。ことりの音撃を相殺し、接近戦に  
持ち込んで一気にケリをつける。それは眞子の目論見であった。そして同時に  
ことりの作戦でもあった。  
 
 
「♪マッハ〜ロッド〜で・・・」  
 ことりは眞子に対して音撃を放とうと準備し、眞子はそれに対して"烈風"で迎撃  
しようとする。エネルギーのぶつかり合う衝撃に備え、一気にかいくぐるハラだ。  
「♪ブロロロロロロロロロロォォォォォォ!!!」  
 眞子の予想通り、ことりは音撃を放った。ただ問題はその威力が眞子の予想を  
遥かに超えていたことである。  
「うぁぁぁぁぁぁ!!!!!」  
 眞子は叫び声をあげながら弾き飛ばされ、反対側の壁に叩きつけられた。いや、  
そんな生易しいものではなかった。眞子の制服は音撃の威力により引きちぎられ、  
ぶち当たった壁は激突の衝撃によってヒビが入って一部は破壊されていた。  
「「なんだ!あれは!!」」  
「「壁が壊れてるぞ、おいっ!!」」  
「「いったい、何が起こったんだ!!」」  
「こっ、これは!?何をしたんだ、白河ことりぃぃぃぃぃ!!!」  
「あれは・・・伝説の歌う鬼、彌珠鬼!!」  
「えっ?でも彌珠鬼は先ほどから・・・」  
「いや、違う!あれは第一位だ!!第一位の彌珠鬼だ!!!」  
「・・・第一位」  
「そして、アレは彌珠鬼究極奥義刃髏無腕だっ!!!」  
「彌珠鬼究極奥義刃髏無腕・・・」  
 
 彌珠鬼:  
   伝説の鬼と称される彌珠鬼は同名の第七位と区別する意味で第一位と称される。  
   彌珠鬼は紗刺鬼と共に伝説の鬼の双璧として並び讃えられ、その豪快な歌声ゆえに  
  亜仁鬼とも称されることもある。そして魔化魍死紋、華解夜魔との壮絶なバトルは  
  歴史の一頁を飾っている。  
   刃髏無腕は彌珠鬼の究極奥義であり、その魔刃髏怒の響きの前に耐えられる存在  
  はないとまで言われている。それゆえに最強と称される彌珠鬼の域に達するものは  
  なく、伝説のわざとまで言われている。  
    − 民明書房刊 「あの歌 この歌 艶歌の華道」より  
 
「指向性と安定性に優れている反面、威力に制約のある音撃武器と異なり、自らの  
 身体能力を糧とする"歌う鬼"は能力を上げれば上げただけ威力に反映される・・・  
 白河ことりは能力を強化して第一位の彌珠鬼にまで自らを高めたのだ!!」  
「とすると、もう勝負は決したのでしょうか?」  
「いや、まだだ!烈風および音撃武器が防壁となり、威力はかなり減殺されている。  
 まだ致命的なダメージにまで達してはいまい!!」  
「あっ!水越選手、立ち上がろうとしています!試合はまだ続行です!!」  
「だが、ガンダムのビームライフルとイデオンガンで撃ち合ったようなものだ。  
 致命的とはいわないまでの相当なダメージに違いあるまい・・・」  
 さくらはことりの反撃を予想していたが、その威力までは想像できなかった。  
「引き寄せて、引き寄せて・・・よけることができない距離まで引き寄せたうえでの  
 大口径の大砲を直撃させる・・・やってくれるよ、ことりちゃん!」  
 闘技場では制服が裂け、ブルマ姿になった眞子が動こうともだえ苦しんでいた。  
「かっ・・・・・・かはっ!」  
 眞子の身体のほうのダメージは大きかった。胸に音撃、背中に壁と双方に激しい  
衝撃を受け、立ち上がるどころか呼吸すら困難であった。  
 眞子は手にした音撃武器を見る。眞子の防壁となったそれは完全にひしゃげ、  
この試合での使用は明らかに不可能であった。闘技場の向こうではことりの歌が  
続いていた。もうしばらくするとくることが予想される第二撃、それの直撃は眞子の  
敗退を意味していた。  
 
 
「っ!くく・・・」  
 全身を襲うまるで骨を砕かれたかのような痛み、それは白河ことりの攻撃の  
凄まじさを表していた。  
「(早く・・・立って・・・・・・動かないと)」  
 ことりの次の攻撃の直撃を食らえば敗北は確実、いや、下手すると夏休みを  
病院で過ごさなければならないかもしれない。されど、そんな眞子の焦りも  
彼女の身体はなかなか反応してくれなかった。  
 しかし焦っているのはことりも同じであった。歌う鬼、その最大の欠点は歌で  
音撃できる箇所は定められているということにある。すなわち、サビの部分に  
なるまで攻撃ができないのである。眞子は今、立ち上がって動くことすら満足に  
できなかった。しかし、先ほどの攻撃は眞子の"烈風"、さらに音撃武器自身の  
結界により威力が大幅に減退していた。今現在動くことは困難であるが、  
しばらくすれば動けるようになるだろう。まだ衝撃が抜けきっていないこの瞬間  
こそ、最大の攻撃チャンスである。  
「♪ル〜ロルロロ、やっつけるんだ〜」  
 眞子はなんとか立ち上がることができた。だが、まだ身体はいうことを聞いて  
くれそうになかった。  
「♪ズバババババァァァァァァァァァァァァンンン!!!!!」  
 衝撃波が眞子を襲う。轟音と共に砂煙が立ち上り、闘技場の壁が大きく振動する。  
「恐るべき、白河ことりぃぃぃ!これで試合は決まりかぁぁぁ!!」  
 もうもうと立ち上った砂煙が、うっすらと晴れ始めると破壊された闘技場の壁から  
少し離れたところに蹲る眞子の姿があった。  
 間一髪であった。もう少し動くのが遅れていたらことりの音撃に巻き込まれていた  
であろう。だが、ことりは眞子が逃げていることを予測し、既に別の歌を歌い始めて  
いた。  
「避けれたか・・・だが接近戦に持ち込めれば有利ではなく、持ち込まねば  
 勝てないと追い詰められた訳だな・・・・・・」  
 杉並の言ったことは眞子も十分に理解していた。そして、その理解したとおりの  
行動に出た。  
「はっ!!」  
 眞子は自分に喝を入れると、ことりに向かって突進した。そのスピードは少し  
前に比べると大幅に遅く、しかもことりには一撃で勝負を決めてしまう大砲を  
有していた。しかし、接近戦に持ち込まないと眞子には勝ち目はなかった。  
 眞子はことりの音撃をかいくぐりながら、ジリジリと間合いを詰めていく。  
ことりはそんな眞子の動きに恐怖と覚えた。元より眞子は自分よりも運動神経が  
いいことは知っていたが、フルートの奏者であることから何時自分の歌の音撃の  
癖がバレてしまうのか、そちらの方が脅威であった。そして事実、眞子はことりの  
歌の癖を見抜いていた。  
 
 
「(次の音撃の合間に・・・)」  
「(バレた・・・ようね)」  
 眞子は掻い潜るタイミングを計っていた、それをことりは計算する。  
「かいけつ・・・・・・ずばァァァァァァァっトッ!!!」  
 初手の奇襲に眞子はたじろいだ。ことりは眞子に対して波状攻撃をかける。  
「♪ズ○ッと参上!!○バッと解決!!」  
「あれは・・・逗抜刀!!」  
「♪○○が帰った、その日から〜」  
 嵐のようなことりの猛攻を凌いだ眞子は体勢を立て直し、距離を詰めようと測る。  
「♪我のアニメの立つ位置は〜」  
 眞子はことりの懐に向けて飛び込む。  
「♪背景の役・・・」  
 ことりに攻撃を仕掛けようとした瞬間・・・・・・眞子はこの歌のサビの位置に  
気づいた。  
「アイ○○ァァァァァァァァァっ!!!!!」  
 眞子は咄嗟に風使いの技を使う。自分の身体とことりの身体を自分の両手の  
ように扱い、風をコントロールした。  
ピィィィィィィィィィィィ!!!  
 耳をつんざくような高音が響き、二人の間に発生した竜巻がその二人を弾き  
飛ばした。そのダメージは双方に大きく、眞子はブルマ、ことりは制服がそれぞれ  
引き裂かれて下着姿になっていた。  
「おぉぉぉっ!!これが!伝説の白河ことりの黒下着だぁぁぁぁぁぁ!!!」  
「黒いブラに黒いパンツ、そして黒いガーダーベルト・・・・・・  
 なんとエロく、なんと淫らな!!」  
「まさに勝負下着!白河ことりの本気、魅せてくれます!!」  
「ですが・・・水越眞子の縞パンもなかなかですね、二人の勝負にかける意気込み  
 ・・・・・・頭の下がる想いです」  
 闘技場において、二人は竜巻の衝撃をまともに受けてなかなか立つことが  
できなかった。  
「双方のダメージは大きい・・・特に水越眞子の方は動けるのが不思議な  
 くらいだ・・・・・・」  
「(白河ことりの方はまだ余力がある。しかも大砲付きだ・・・・・・  
 眞子がことりを一撃で倒す術は思いつかないが、ことりは眞子を倒す術を  
 持っている。この勝負、天秤はことりに傾いたか!?)」  
 杉並の考えたことは眞子も当然認識していた。ことりを一撃で沈黙させなければ、  
音撃によってKOされる、だが・・・そのことりを沈黙させる術は眞子にはなかった。  
ことりはおそらく一撃を耐える程度の覚悟はしているだろう、そんな相手に有効な  
ポイントはあるのか・・・・・・数瞬悩んだ後、眞子は一つのポイントに気づいた。  
ここならば・・・・・・鍛えようのない場所・・・・・・眞子はそこへの攻撃を決意した。  
 二人はヨロヨロと立ち上がる、そして呼吸を整える。眞子はことりの呼吸が整う  
前に突撃を敢行した。  
「水越眞子、いったぁぁぁ!!」  
 飛び込みざまの顔面への左ストレート!しかし、それはフェイント。  
狙いはボディ。されど、そのボディもフェイント。水越眞子が狙うのは・・・  
 密着するほど接近し、眞子は右手をことりのお尻の方に回した。  
「(ごめん!ことり、いかせてもらう!!)」  
 眞子の右手は軌道修正し、ことりのポイントを捕捉する。  
「(白河ことりの肛門に・・・)」  
 先ほど淫獣にやられた痛みを眞子は思い出した。  
「くぅあぁぁぁぁ・・・」  
 闘技場から悲鳴が上がった。しかし、それは白河ことりのものではなかった。  
 
 
「ふぅわっ・・・」  
 悲鳴を上げたのは眞子の方だった。眞子の肛門には白河ことりの右の人差し指が  
突き刺さっていた。ことりは苦痛にうめく眞子に止めの一撃とばかり、歌を歌おうと  
した。その刹那、ことりの目は驚きに見開かれた。  
「えっ!?」  
 眞子はそろそろと手を動かし、ことりの肛門に指を−人差し指と中指の二本を  
差し込んだ。  
「くぅはぁぁぁっ!!!」  
 ことりは悲鳴を上げた。眞子はさらに人差し指と中指を広げ、ことりの肛門を拡張  
する。そのあまりの痛みにことりは絶叫し、力がガクガクと抜けた。  
「武士の情け!」  
 眞子はことりの指を自分の肛門から引き抜くと、今度は自分の指もことりの  
肛門から抜いて、その勢いのまま、ことりの黒いパンツをずり降ろした。  
「尻だぁぁぁ!白河ことりの尻だぁぁぁぁぁ!!!」  
「写真だ!写真、早く撮れ!!」  
「いや、ビデオだ!DVDだ!!」  
「DVD!DVD!」  
「おい、前だ!前!!」  
「ダメだ・・・水越が陰になってて・・・・・・」  
「くっ、くそ〜〜〜」  
 場内が騒然とするなか、暦は自分の妹の敗北を宣言した。  
「教育的配慮!勝者、水越眞子!!」  
 そのコールを聞いた眞子はことりのパンツを元の位置に戻す。ことりは逆に  
敗北と肛門の痛みに闘技場に崩れ落ちた。  
「水越眞子選手、鮮やかな逆転劇だぁぁぁ!!!」  
「なるほどな・・・」  
「んっ?何ですか、実行委員長」  
「眞子が反撃できた理由がわかったんだ」  
「えっ!?それはいったい・・・」  
「眞子はさっきの試合で淫獣に触手を肛門に挿入されている」  
「そうですね・・・」  
「ことりの肛門への攻撃、タイミングが良かったとはいえ所詮は人差し指程度!  
 淫獣の触手に比べれば非常に細い!!十分に我慢できる範囲であろう・・・」  
「それで反撃する力が・・・」  
「そうだ!一方の白河ことり、おそらく肛門を虐待されたことは今までなかったに  
 違いない。そこに指を二本入れられた上に拡張されたとなれば、反撃など  
 できるはずなどない」  
「なるほど!!」  
「水越眞子の勝因、それは経験値の違いだっ!!」  
 
 しかし眞子の勝因、いや、ことりの敗因を異なる視点から判断するものもいた。  
「何も眞子ちゃんに付き合って、肛門の攻撃をすることはなかったんだよ・・・  
 音撃、それも普通のでよかったんだよ、ことりちゃん。眞子ちゃんにはそれに  
 耐えるだけの力は残されてなかったんだから・・・・・・」  
 さくらはモニターを見ながらつぶやく。  
「結局、他人に自分を合わせて・・・自分自身を見失った・・・・・・  
 ことりちゃんの敗北は当然過ぎる結果だよ」  
 さくらは次の試合の準備のため、モニターに背を向けて立ち去った。  
 
 会場では眞子の勝利に沸き立っていた。  
「「肛虐ヒロイン!水越眞子〜〜〜!!」」  
「「黄金の指〜水越眞子〜〜〜!!!」」  
「「剥き女〜!次の試合でも剥いてくれ〜〜〜!!!」」  
「「アナルを責める恋心〜ジェット水越〜〜〜!!!」」  
 眞子を称える歓声に、しかし眞子は抗議していた。  
「変な称号つけるなぁぁぁ!!!」  
 
第一試合勝者 水越眞子、決勝進出  
 
 
 
<試合間>  
 第一試合が終わって会場が興奮に包まれていた頃、放送席で実行委員に  
抱えられて朝倉純一が席を外した。名目はトイレなのだが、実態は本物の  
朝倉純一の帰還に備えてピンクのクマのぬいぐるみを撤去するためであった。  
杉並は第二試合の開始が近いことを本物の純一に伝えるように腹心の  
実行委員に命じた。  
 
「音夢先輩、音夢先輩!」  
 美春は選手控え室近くのトイレに駆け込んだ。そして奥の個室をノックした。  
「音夢先輩!第一試合が終わりました。眞子先輩が勝ちました!!」  
「そう・・・ありがとう。そろそろ準備しないとね」  
「はい!それでは」  
 そう伝えると美春はトイレから出て行った。  
「くっ!」  
 音夢は第一試合の間中ずっとトイレに篭っていた。特大サイズの強力な座薬を  
挿入し、それが身体中に効果を示すまでアナルプラグで栓をしていたのである。  
そして、その効果は十分に身体に浸透していた。次の対さくら戦、その次の  
対眞子戦、そこまで十分持つくたいの薬効が保証された。  
「トイレを出て・・・シャワーを浴びてから・・・」  
 そのタイムスケジュールでいくとウォーミングアップする時間はなかった。しかし  
彼女にとってウォーミングアップなどいらなかった。朝倉音夢は猛っていた。  
「兄さんは渡さない・・・・・・眞子にも、さくらにも・・・・・・」  
 
「芳乃選手。まもなく試合ですのでご準備を」  
「うん、わかった」  
 立ち上がろうとしたさくらはなぜかこけてしまった。  
「あの・・・大丈夫ですか?」  
「うん、ちょっと転んだだけだから」  
「そうですか・・・では、失礼します」  
 実行委員は控え室を後にした。残されたさくらは密かに頭を抱えた。  
「護身完成か・・・」  
 さくらの眼前の扉は強固な城門として聳え立っていた。  
「判ってる・・・決勝戦に向けて手を温存するなんてできないからね」  
 さくらはボソリと呟いた。  
「全力を挙げて・・・音夢ちゃんを打ち倒す」  
 自らにそう言い聞かせたさくらの目の前で城門は開き始めた。  
 
「遅かったな・・・」  
「すまんすまん」  
「次の試合、お前の関係者だから解説で話を振られるのは必定だからな。  
 さすがにそこまではフォローできんからな」  
「あぁ、判った判った」  
「で・・・工藤はどうだ?」  
「工藤なら、もう大丈夫だ」  
「そうか」  
「工藤のアナルは完成した。アナルセックスは十分可能だ」  
「・・・・・・」  
「どうした、杉並」  
「いや、なんでもない。じゃあ今、工藤は?」  
「和泉子がバイブで相手してる。心配はいらない」  
「・・・・・・・・・」  

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