「音夢選手の猛ラッシュ!しかし・・・しかぁしっ!当たっていません!!」  
 美咲は音夢の猛攻撃を皮一枚で避けていた。それどころか時折、的確な反撃に  
すら移行していた。  
「これは全くの予想外です!優勝候補本命の音夢選手に、一歩も退かないどころか  
 優勢に試合を進めています!!」  
「グッ!」  
 美咲のカウンターが鳩尾に入り、崩れ落ちる・・・ふりをした音夢は足払いの  
キックを行う。が、これもまた美咲に見透かされ、後方に逃げられる。  
「音夢さん・・・貴女はすごい!でも”勝った”のは私です」  
「おおっ!なんと鷺澤選手、音夢選手を相手に勝利宣言!!  
 しかし、”勝つ”のではなく”勝った”とはどういうことでしょうか!?」  
 美咲の言葉に気付いた観客たちの間にも疑問が広がる。  
「音夢さん、貴女の力、スピード、動き、そして戦術、それらの全てを私は  
 知っています・・・そう、頼子のおかげで・・・・・・  
 それらを元に”戦った”結果、”勝った”のは私です」  
「どういうことだよ・・・」  
「妄想の中で勝ったってことかよ・・・」  
「やめておいた方がいいんじゃないか?」  
 観客らの間には懐疑が生まれ、音夢は美咲を嘲弄した。  
「なるほど・・・窓辺で兄さんを見ていただけのことはありますね、  
 想像力はかなりのものですね」  
「想いの力!人がリアルに・・・リアルに想い描くことは実現します!」  
「バ、バカな・・・」  
「そんなことが、あるはずが・・・」  
「普通の人に出来ないのは当然です。  
 なぜなら、窓辺で見つめているより一緒に住んでいる方が想いを伝えやすい、  
 窓辺で見つめているだけでは想いが実現することなど頭から否定し不可能という  
認識の方がはるかに強烈ですから・・・  
 ですが、想いを繰り返し積み重ねていくとこういうことが可能になる」  
 美咲は一呼吸おいて動作に移った。  
「純一さん・・・」  
「なにをしている!?鷺澤美咲!!  
 乳繰っているッ!乳繰り合っているッ!  
 乳繰り合っている鷺澤美咲ッッ!しかしッ!しかしッ!  
 我々の眼に見えているのは・・・美咲一人!!!  
 しかし一人のハズの美咲のその動き−  
その表情を見ていると、見えない相手の男が!朝倉純一の姿が!!  
 生き生きと本当にそこに存在しているかのようにッッ」  
「右のうなじを責めている!美咲が攻勢にでた!!  
 首筋に手を回し、顔を近づけ・・・接吻だ〜〜〜  
 確かに見えました〜〜〜〜〜ッッ」  
「体育館倉庫、ブルマ姿で純一さんに迫ると多分こうなります」  
「独り萌え・・・二次創作時に代表されるSS書きの独り萌え・・・  
 およそ全てのSS書きが所有している能力だが、  
 ここまで高いレベルは初めて見た・・・」  
「あんな独り萌えを・・・」  
「美咲さんは毎日のようにやっていたというの・・・」  
「だとするなら美咲の毎日はデート・・・・・・」  
「否!毎日エッチに匹敵するというのだッッ!!」  
「さぁ、音夢さん・・・勝負です!!」  
「弱冠1○歳 鷺澤美咲!ヒロインの名に恥じぬ萌え度だぁ!!」  
 
 だが、そんな美咲を音夢は笑い飛ばす。  
「フフフフフ・・・その程度で恋が成ったというのですか・・・・・・」  
「どうしたぁ!朝倉音夢、裏返ったぁぁぁ!!」  
「いや・・・アレが地なんだけど・・・・・・」  
「ですが・・・兄さんを想うだけならばともかく、私の前で妄想とはいえ兄さんと  
 乳繰っている様を見せ付けるとは・・・・・・その罪、万死に値します!!  
 ベッドサイドで猫を抱かせる程度にしようかと思っていましたが気が変わりました  
 ・・・・・・死んでください」  
「なっ・・・!なんということでしょうか!!朝倉音夢、暗黒化!!」  
「こっ・・・これが、妹の持つ暗黒面・・・ダークフォースというのか!?」  
「貴女は兄さんの全てを知らない・・・そして、私の全ても知らない」  
「あっと、音夢選手・・・注射器を取り出して、打ったぁぁぁ!!?」  
「数え切れない薬物を精密なバランスで配合し、煮込むこと三日三晩!!  
 全ての薬物の効果の数倍にして、血管から注入ることで即効に出る!!  
 これが・・・印の力で辿りついた・・・究極の戦闘能力・・・・・・  
 D.C.S!!・・・さぁ美咲さん、私を負かせてみなさい!!」  
 音夢は一気に、美咲との間合いを詰めた。  
「音夢選手のパンチぃ!は、入ったァ!!更に連打!!  
 鷺澤選手がピンポン玉のように弾ける!!  
 反撃ィ!しかし、堪えていない!!」  
「速度も力も先ほどとは段違いです!」  
 貴賓室では環は理事長に確認していた。  
「止めなくていいのですか?攻防のやりとりからは鷺澤さんは音夢さんの  
 攻撃を読んでいます。ですが、力とスピードが予測を超えて・・・いえ、  
 鷺澤さんの運動能力を遙かに超えています。敗北は時間の問題かと」  
「ですが・・・鷺澤さんは仕掛けています。それが・・・・・・」  
「成功すると思いますか?」  
「一分の可能性があるうちは、見ていてあげようと」  
 闘技場では、既に音夢の一方的な攻撃と化していた。  
「音夢選手の一方的な攻撃!もはや為す術はないのかぁ!!!」  
 立っているのがやっとという美咲に止めを刺すべく音夢が必殺の技を放とうと  
した。しかし、それは美咲に待っていた瞬間でもあった。  
 
「音夢選手、とどめのリバーブローだぁぁ!!」  
 音夢の左手が引かれる、その刹那、がら空きとなった心臓に美咲は渾身の  
右ストレート:ハートブレイクショットを打った・・・しかし・・・・・・  
「エルボーブロック!音夢選手、右のエルボーで鷺澤選手のパンチをブロック!!」  
「くっ・・・くぅぅ・・・・・・」  
 右拳の激痛に耐えかねた美咲は苦悶の声を上げる。音夢はそんな美咲に  
追い討ちを掛ける。  
「リバーブロー!鷺澤選手のリバーに直撃ィィ!!  
 崩れる!鷺澤選手、崩れ落ちる!!」  
 前に崩れ落ちる美咲に音夢はガゼルパンチを放ち、棒立ちになったところに  
最後の技を仕掛ける。  
「音夢選手、左右に身体を動かす!こっ・・・この動きはぁ!  
 デンプシーロールだぁぁぁぁぁ!!!」  
 美咲を音夢のデンプシーロールが襲う。美咲の身体は左右に大きく弾かれた。  
そして、何発目かのパンチで美咲は倒された。  
「そこまで!」  
「そこまで!!」  
 審判団は闘技場に飛び込み、試合を終了させる。  
「勝者!朝倉音夢!!」  
「本命の音夢選手、貫禄勝ちです!!」  
 音夢の圧勝に沸く会場、だが一部にどよめきが起こった。  
「なんと!鷺澤選手が立ち上がろうとしています!  
 しかし、しかし・・・試合は終わっています!!」  
「ご主人様!」  
「鷺澤選手、試合は終わっています!安静にしてください!!」  
「見つめる恋!貴女はそう言った!!  
 しかし!・・・その地点は私が5年前に通過した地点だ!!  
 よって・・・現時点での貴女の勝利はないっ!!  
 だが、ネコ耳メイドに名を成しえた功績は認めよう!!」  
 美咲はその場に崩れ落ちる。  
「ご主人様!ご主人様!!」  
「担架だ!担架を持ってこい!!」  
「試合終了〜!朝倉音夢、準決勝進出ゥゥゥ!!!」  
 
本選第3試合 勝者:朝倉音夢  
 
 
<試合間>  
「「うぉぉぉぉぉっ!!!」」  
 観客席の一角からまた大きなどよめきが起こる。今度のどよめきは先ほどの  
よりも大きいものであった。  
「何が起きている?いや・・・誰だ!?誰かが闘技場に降りてきて・・・・・・  
 さくらだぁ!芳乃さくら選手が闘技場に現れた!!」  
 さくらが観客席の最上段から闘技場の、音夢の退場を阻止するかのように  
飛び降りた。  
「何のために?一体、何のために現れたのか、芳乃さくら!!  
 朝倉音夢選手と睨みあっています!!」  
「と、止めろよ・・・」  
「よし、じゃお前行ってくれ!」  
「なんで、俺が・・・」  
「お前、審判だろ!」  
「そういうお前も実行委員だろ!」  
 周りでは音夢とさくらの間にどうやって割って入るか、困惑していた。そんな  
様子を気に掛けることなく、さくらが口を開く。  
「ドーピングだね、音夢ちゃん」  
 音夢は何も答えない。  
「お兄ちゃんのために明日を捨てる気?」  
 音夢は口を微かに歪め、返答する。  
「そういうさくらはどうなの?発育してまで兄さんを諦める?」  
 空気が明らかに変わる、推定2℃は下がっただろう。  
「発育してバインバインになったら音夢ちゃんなんか目じゃないよ・・・」  
「兄さんは微乳好みなの・・・守備範囲が広過ぎて困るけど、さくらは  
 発育していないから相手にしてもらえるのよ・・・・・・」  
「なるほど・・・お兄ちゃんは貧乳が好きと・・・・・・」  
「微乳!び・に・ゅ・う!!」  
 二人の諍いを杉並は冷たく見守る。  
「・・・で、朝倉は巨乳と貧乳のどっちがいい」  
「いや、別に拘らんが・・・」  
「節操がないな・・・」  
「待ちは広い方が」  
「国士無双、十三面待ちか・・・」  
 
 闘技場では情勢は悪化していた。  
「何なら、ここですぐに試合る?」  
「ボクならいいよ・・・」  
 二人の間の空気が歪み始める。そんな二人を止めようとする勇気あるメンバーは  
審判にも実行委員にもいなかった。  
「ふふふ・・・まるで決勝戦みたいっす」  
 二人はその声の主に振り向く。  
「「出たな・・・背景女・・・・・・」」  
 空気の温度は間違いなく1℃は下がっただろう。だが、それを無視してことりは  
話しかける。  
「アメリカにいたさくらには分からないだろうけど・・・朝倉くんに恋する乙女にとって  
 朝倉音夢の存在は目の上のタンコブ、この大会に参加したみんなはいつか  
 音夢を蹴落として朝倉くんとラブラブになる夢を見ているのよ」  
 ことりの後ろでは次の試合の選手である工藤と眞子が頷いていた。  
「そんな美味しい状況を・・・さくらに譲るなんて・・・・・・」  
 このやり取りを聞いていた音夢がついに切れた。  
「黙って聞いていれば・・・四人まとめて相手してあげる!!」  
 音夢がさくららを襲撃しようとした瞬間、杉並が動き出した。  
「今だ!ファイエル!!」  
 杉並の声に呼応して、観客席からバズーカを持った射手が立ち上がり、  
音夢に向かって一斉に射撃した。  
「こ・・・これは、兄さんのYシャツ!?」  
 音夢に向かって射出されたのは純一のYシャツだった。次々と射出されるYシャツ、  
音夢はそれを懸命に集める。やがて音夢の目はトロンとなり、倒れ崩れ落ちた。  
 そしてフルフェイスのガスマスクを集団が現れ、音夢を担架に乗せて連れ去って  
いった。  
「睡眠薬”象ゴトリ”に浸した朝倉のYシャツの一斉射撃・・・見事な戦法です、先生」  
「あの”やきいも”である朝倉音夢が最後までおとなしくしているとは考えにくかった。  
 大会の内容を聞いてからずっと対策を考えてきた甲斐があったな」  
「ところで白河先生、クスリの効き具合は?」  
「少なくとも、次の試合の間はおとなしくしているだろう」  
「それを聞いて安心しました」  
「それにしても・・・見事な”黒妹”ぶりだったな・・・・・・」  
 
 
<準々決勝第4試合 水越眞子 vs 工藤叶>  
「朝倉純一争奪武闘大会、熱戦に次ぐ熱戦の準々決勝も残るは一試合!!  
 白河ことり、芳乃さくら、朝倉音夢に続くベスト4進出を決めるのは、  
 ツンデレ系ボーイッシュ少女の水越眞子か、男装美少女の工藤叶か!?」  
 先ほどの音夢騒動のために、眞子も叶も既に闘技場の中にいた。両者とも  
ウォーミングアップは行ってはいなかったがその身体は戦闘態勢に入っていた。  
「両者とも前に!」  
 審判は二人にルールの説明とボディチェックを行う。眞子も叶も互いに目を  
合わさなかった。  
「ある意味、男らしい両者のことですから正々堂々とした素晴らしいファイトが  
 見られるかもしれないですね〜」  
「そうですね〜期待したいですね」  
「さあ、そうなるかな・・・」  
「そうなんですか、白河先生?」  
「男の獲り合いだ、正々堂々戦って負けても・・・何も得ることはできない。  
 それにだ・・・因縁の戦いだしな」  
「CherryBlossomで取り合いしているからな」  
「そうだしな」  
「杉並に白河先生・・・それ、まだ発売されてないから・・・・・・」  
「まあ、それを抜いても因縁の戦いだがな」  
「それはどういうことですか」  
「ボーイッシュと男装美少女、共に男っぽくとられるゆえにしばしば混同される  
 存在だ。だからこそ互いに負けることができない・・・」  
 二人を残して審判たちは闘技場を出た。  
「試合開始!!」  
ドーン!!!  
 太鼓が響く。  
 叶は左手を振り子にしたヒットマンスタイルに構える。  
「工藤選手、ヒットマンスタイルに構えたぁ〜!」  
「工藤叶163cm、水越眞子154cm、ほぼ10cmの違いですね」  
「刺し合いになると水越選手の方が不利ですね〜」  
「ですがオッパイは工藤79、水越80と水越選手の方が大きいです」  
「さすがは男装美少女!男装が可能なだけはあります!!」  
「ただケツの大きさに関しても工藤84に対して水越85とかなり大きいですね」  
「う〜ん、これは意外です!水越眞子、安産型のデカ尻少女です!!」  
「そこー!セクハラ!!」  
 眞子が放送席に抗議した刹那、工藤が動き出した。  
「工藤動いたぁぁぁ!フリッカージョブが水越眞子を切り刻む!!」  
 だが眞子はフリッカーをかいくぐり、工藤の懐に入り、バレットを放つ。バレットを  
被弾しながらも工藤は眞子にチョッピングライトを振り降ろす。間一髪避けた眞子  
だが、工藤の放つ回し蹴りを防御した前腕ごと弾き飛ばされた。  
「なんという正統派な戦いでしょう!意外な展開です!!」  
「まあエロイン同士とはいえ、基本スペックは正統派同士だからな・・・」  
「と、なるとこのまま正統派同士の戦いになるのでしょうか?」  
「二人とも前の試合では相手に振り回されて、パンツ1枚まで剥かれた挙句の  
 逆転勝利だからな。今はお互い様子見の段階じゃないかな」  
「そうですか!しかし、個人的にはエロい展開を望みたいところです!!」  
 一進一退の攻防の後、眞子と工藤はお互いににらみ合っていた。  
 
 

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