同日すこし後 申込場所
自信満々に立ち去るななこを嬉しそうに見ていた杉並はすぐに呼ばれた。
「あ、あの〜委員長・・・すぐに来て頂けないでしょうか・・・・・・」
実行委員長という立場にあるとはいえ、同学年である杉並を敬語で呼ぶ
実行委員のさまは何か大事が起こっていることを示唆していた。
取り急ぎ申込場所に戻った杉並が見たのは水越眞子の猛烈な抗議と
それにうろたえる実行委員の姿だった。
「ちょっと杉並!これは酷過ぎるんじゃないの!!」
どうやら眞子は純一の扱いに対して抗議していたらしい。
「まぁ待て。ここで騒ぐのもなんだ・・・ちょっと話し合おう」
杉並は眞子を実行委員の準備室に連れて行った。
「で・・・何が問題なんだ」
「何が・・・て、これじゃ朝倉の意思なんて無視してるじゃない!」
「うむ・・・だが、これは朝倉自身が納得していることなんだが」
「うそ・・・」
「嘘ではない。なんなら朝倉純一の承諾書を見せてもいいが」
「じゃあ、音夢はどうなのよ」
「朝倉妹も納得しているようだぞ」
「えっ?」
完全に閉じられていない扉の向こうには登録を申請する朝倉音夢の姿が
あった。
「音夢・・・」
「本人も家族も認めているんだ。第三者がとやかく言うことではあるまい」
「第三者って・・・あたしはねぇ!朝倉の!!」
「朝倉の?」
「・・・朝倉の・・・・・・友達だから!」
「友達だから?」
「出るわよ!出ればいいんでしょ!!」
そう言って眞子は参加申請書を杉並に叩き付けた。
「了解。水越眞子、参加を登録したぞ。規約をしっかり読んでおくように」
「わかってるわよ!」
眞子は荒々しく、ドアを開けてドカドカと出て行ってしまった。
同日更にすこし後 申込場所
このような事態に至ったことについて朝倉音夢は軽い頭痛を感じていた。
朝倉純一とひとつ屋根の下という絶好の状態であるはずなのに決定的な
事象にはいたっていないことが根本原因であった。朝倉音夢は朝倉純一の
お手つきということであったならば、ここまでの盛況を見せることもなかった
だろうし、そもそもこんなイベントが成立することもなかっただろう。
朝倉音夢は朝倉純一の妹である、周囲にはそういうことにしているが実際は
血のつながりがなく、音夢は純一の妹のように育てられていた。そしてそれを
少なくない人間が知っていた。そもそも朝倉家は昨日今日に初音島に来た
のではなかった。朝倉家の当時の事情は初音島内でのことであり、そのことを
知っている初音島の住人もそれなりにいるのである。
朝倉家の現在は”血のつながりのない若い男女がひとつ屋根の下”状態で
ある。それでいて、純一と音夢の間が何も取り沙汰されないのは純一と音夢は
本当に”兄妹”としてお互いを思っているのか、それとも隠蔽工作がよっぽど
上手いのかのいずれかである。そして、これが前者ならば朝倉音夢は完全に
純一争奪からは脱落していることになる。
純一はともかく、音夢のほうは兄を”男”として見ていた。Yシャツにパンツと
いう寝巻きやいつでも夜這いOKというシグナルを送っていたが上手く伝達され
てはいないようである。一度、意を決して兄の寝室に行ったが夜泣きした子供の
ように扱われた挙句、横で高いびきされたこともあった。一度、精力のつく料理を
作ったことがあったが、結局何を作ったのかわからない黒い物体になり果てて
いた。
自分は純一にとって単なる妹に過ぎないのか、音夢はそう思い悩んでいた。
ただ単に朝倉純一が音夢を含んだ二股以上を目論んでチャンスをうかがって
いただけに過ぎないことが判明するのは後日のことである。
ただ音夢が焦り気味なのは純一の従姉である芳乃さくらが帰国してきた
ことにある。さくらのあからさまな行動はストライクゾーンが広すぎる純一に
いつ点火するか判らなかったし、何よりも周囲のバランスを崩しつつあることが
問題であった。朝倉純一を巡る環境の激変および活発化、その最大のものが
白河ことりの暗躍である。
最近、白河ことりが純一の頻繁に出没しはじめていた。学園のアイドルである
白河ことりの参戦は風見学園の双璧と言われた音夢にとっての最大の脅威で
あった。こうして音夢は家ではさくら、学校ではことりと強大なライバルの出現に
苦戦することになるのである。
音夢はこのことについて親友の眞子を当てにはしていなかった。むしろ三者
共倒れの後で取っていきそうな感じがした。
現在の音夢にとっては既成事実を作ることが最大の目標であり、そのためには
優勝しなければならなかった。だが、さくらもことりもそのことは判っているはずだし、
当然優勝を狙ってくるだろう。気を引き締めなければ・・・・・・音夢以外の誰かが
優勝してしまえば・・・朝倉音夢の名はボンクラの代名詞になるだろう。
「音夢先輩も参加ですか〜美春もです〜
美春が優勝したら三人で旅行に行きましょう〜〜〜」
わかっていないのがいた・・・音夢はこめかみのあたりに激しい頭痛を感じた。
同日同時刻 申込場所前
「これは・・・?」
「朝倉純一さんの争奪戦の申込よ。なんでも朝倉さんの夏休みを自由にできる
とかいうやつで」
「見て!副賞が夏休みの宿題免除に旅行代金の一部負担!!」
「すごいじゃない!出ようか?」
「無理よ、無理。こんだけ人数がいるし。それに真奈美は彼氏いるじゃない」
「そうね、この代金一部負担は朝倉さんとの旅行が条件みたいだし」
「?」
「そうか、美咲は復学してきたばかりだから」
「そうよね、朝倉さんってどんな人かよく知らないわね」
クラスメートの二人は親切にも朝倉純一の人となり、そして周囲について
説明しはじめた。
「(私は・・・朝倉さんのことを・・・知っている)」
彼女は彼女に説明するクラスメートたちよりも朝倉純一のことをよく知って
いた。
「(あとで申込に行こう)」
鷺澤美咲はクラスメートとともにその場を立ち去った。
同日昼休み 特別教室棟
「でも、これって理事長先生の肝いりでしょ」
特別教室棟の一室にて向かい合う白河姉妹、姉の暦は武闘大会に参加
する妹のことりに釘を刺しておこうと呼び出したものの機先を制されたために
次の言葉をなかなか口にすることができなかった。
ある意味では朝倉音夢と同じともいえる白河ことりの大きな共通点は
兄弟姉妹関係にある。音夢には同じ歳の男の子が兄としているのに対し、
ことりにはほぼ10歳違いの姉がいる。ただこの点だけならば大きな違いで
あろうが、双方とも言えることはその兄や姉が競争相手として存在して
いない、むしろ保護するものとして存在していることにある。構図としては
病弱な妹の音夢を護る兄の純一と、幼い妹のことりを護る姉の暦である。
双方とも関係は良好であり、兄弟姉妹間にありがちな対立の矛先が互いに
向かなかったことにある。性別が異なる朝倉兄妹と異なり、性別が一緒な
白河姉妹の場合、年齢が近ければ競争・対立関係になりかねなかった
だけに姉の暦は妹のことりとの間に存在する年齢差に感謝していた。
暦が良好な関係を望んだこともあったが、同時に妹のことりの他人の心を
読んでいるかのように見える反応に敵に回した時の怖さというものも理解
できていた。
以前にこういうことがあった。
ことりが中学に入ってすぐの頃、同級生の悪ガキがことりのスカートを
めくり、あろうことかパンツまで降ろそうとしたのである。この時、ことりは
泣きそうな顔を見せ、その悪ガキはこっぴどく叱られたのであるが、その
報復は後日に現れた。その悪ガキの家に幼女ものの海外エロビデオと
大人の玩具が大量に送られてきたのである。結果、その悪ガキは親に
散々ボコられたうえに教師から厳重注意をされ、その後に家出をして
現在にいたるまで帰っていない。
この一件以降、暦はことりだけは絶対に敵に回すまいと決心した。
「だけど・・・ことり・・・・・・」
「大丈夫!私は勝つから心配しないで、お姉ちゃん」
そういうとことりは授業があるからと部屋を出て行ってしまった。
自分の言うことをまた制された暦はそれ以上何も言えなかった。まるで
自分の考えを読まれたかのような感覚に囚われた暦であったが、ことりは
正確には暦の考えを読んではいなかった。
暦は溜め息をついて椅子にもたれ、つぶやいた。
「違うんだ、ことり・・・あたしが心配しているのは対戦相手の方なんだ・・・」
同日夕方 申込場所
「盛況だな!」
「うん、これなら100の大台に乗るかもな」
「前売りの方もほぼ完売だ」
「そうであろうそうであろう!」
実行委員たちは予想以上の盛況に喜びの色を隠さなかった。そして、申込も
ほぼ終わり、店仕舞に入りかけた頃に遅まきながら一人の人物が入ってきた。
「ちわー」
「工藤ではないか。どうしたんだ」
「ちょっとな・・・で、調子はどう?」
「うむ、大盛況満員御礼!という感じだ!!」
「そう・・・・・・」
「前売り券ならばほぼ完売だか・・・どうだ、一週間分の学食込みで
実行委員割り当て分を売ってもいいぞ!いい席だぞ!!」
「いや・・・そうじゃなくて・・・・・・」
「もう前売り買っていたのか?それは残念残念」
「いや・・・違うんだけど・・・・・・」
「もしかして手伝う気になったのか。それはいい!」
「それはありがたい!人手不足なんだよ」
「杉並・・・じゃなくて実行委員長!バイト代の説明を・・・・・・」
「違う違う違う!ここに来たのは、これのためで・・・」
工藤は一枚の紙を取り出した。その紙は実行委員たちを驚愕させるに十分で
あった。
「これって・・・もしかして・・・・・・」
「さ、さ、さ、参加申請〜〜〜!!!」
「えっ!?えっ!?えっ!?」
実行委員たちは参加申請の紙と工藤の顔を交互に見やった。
「勘違いするなよ・・・わ・・・俺はこんな意に染まない条件を飲ませられる
朝倉が可哀想で・・・・・・友達としてだなぁ!」
だが、そんな工藤の叫びは誰も聞いてはいなかった。
「前々から女っぽいヤツだとは思っていたけど・・・」
「好感度一番なのに彼女がいないのはおかしいと思ったんだよな・・・」
「こうなると朝倉も可哀想だな・・・・・・」
「だからぁ!友人としてだな〜〜!!」
強弁しようとする工藤を杉並は制した。
「小生はどんな愛にでも寛容だ。それよりもこれがルールの規約と印の作り方、
使用説明だ。参加登録した、勝ちたくばすぐに帰って勉強した方がいい・・・」
無理矢理押し付けられた工藤はすげなく部屋から追い出された。部屋の中では
工藤参戦に対する憶測がかすまびしく述べられている。工藤は訂正したかったが
ムダであることを自覚し、また朝倉純一はホモという噂が立てば悪い虫もつかなく
なると思い直し、帰宅した。
ただ工藤叶参戦というニュースは翌日以降に異なる層を勇気付けて参戦させる
ことになった。
同日夜 月城邸
この日の月城邸は大騒ぎであった。資料を漁るもの、練習室を準備するもの、
全ては月城アリスの支援のためである。
「練習室の方の準備は整いました。ですが、魔法に関しましては奥が深くて・・・
三日では対戦しうる方々の手の内を推測するのは困難かと・・・・・・」
アリスは無言でうなづいた。
「では自らの能力を高める方向で」
アリスは練習室に向かった。
同日夜 芳乃家
「う〜ん、参ったなぁ・・・」
印自体は特性を見極めるための初歩的な検査である。しかし、それが武器に
なりうるということはかなり強力な魔法サポートの結界が張られていることを
意味していた。その中ではまだまだ未熟な魔女であるさくらの能力など大した
武器になりそうもなかった。
だが、さくらはそのことを深刻な問題とは思っていなかった。なぜならば
彼女には”知識”という最大の武器があった。おそらくは大部分の参加者は
自分の特化した能力のみで戦いにくるであろう。一方でさくらはそれに対して
多くの引き出しを持っており、対抗することは十分に可能だと判断していた。
「となると・・・やばそうなのは」
さくらが脅威と思っているのは印の効果の源となる念の力の大きそうな、
そして何らかの能力を元々有している人物・・・
「白河ことり・・・胡ノ宮環・・・そして・・・・・・」
さくらは幼少の頃からの宿敵、朝倉音夢を思った。能力はともかく念の大きさ
ならば化け物クラスである。
「この三人には本選、いや決勝戦まで会いたくないな・・・できれば共倒れして
くれないかな」
そうは上手くいかないと思い直したさくらは、同時にウェイト不足というハンデを
抱える自分の身体で足元を掬われないように戦術を練り直した。
同日深夜 水越家
「はぁっ!!!」
水越眞子は練習に余念がなかった。
「眞子ちゃ〜ん、そろそろ休憩しませんか〜」
眠りに誘うような声で萌が手に食事を持って現れた。
「眞子ちゃんがテキにカツようにと・・・」
「ステーキにトンカツ?夜中にそんな・・・」
「・・・を鍋にしてみました」
思わず、砕ける眞子。
「お姉ちゃん・・・なんでもかんでも鍋にすればいいってもんじゃ・・・」
「そうですか〜勿体無いですねぇ〜」
「もうちょっと練習するから・・・うるさかったらゴメンね」
そう言って眞子は練習に戻ろうとした。
「ところで、眞子ちゃん。勝ったらどこに行くのですか〜」
「あうっっっ・・・な、何を・・・・・・」
「どこに行くのですか〜グアムとかサイパンもいいですけどね〜」
「だからぁ!朝倉を解放するのが目的であって、別に海とかは!!」
「じゃあ、あの水着はいつ着るのですか〜
あの真っ赤で肩紐がなくてお尻が半分出てるビキニは〜」
「いや、あれは・・・」
「殿方に見せるのでなければ、あんな水着は買いませんわね〜」
いつもと異なり的確な攻撃をする萌に眞子は戸惑った。
「そ、そういうお姉ちゃんだって、黒のブラジル水着を・・・」
「わたしは目的がありますから〜」
「えっ!?」
「じゃぁ、眞子ちゃん。ほどほどにね〜」
そういって萌は鍋を持って戻っていった。なにか含みのある姉の態度が
気になった眞子ではあるが、すぐに練習に戻っていった。
翌日朝 体育館裏
参加を希望する女子生徒の大部分は発表当日に申請していたために
この日に申し込むものは一日考えていたものか昨日休んでいたもの
くらいであった。かわってOBや学外の人物、そして工藤叶参戦に勇気
付けられた特殊な趣味の層が目に付いた。
そんななか学外の生徒が勝手知ったるなんとやらで体育館裏に
向かい早速印を結んだ。地面に浮かんだペンダグラムから渦巻きが
沸き起こり、虚空に一人の少女が宙に浮いて立っていた。
「お姉ちゃん、助けてくれるの?」
虚空の少女はコクリと頷いた。その頷きに数万の援軍を得たかの
ように少女は自分に喝を入れた。
「霧羽明日美、吶喊します!」
本選前日夕方 理事長室
「予想を上回る数の参加者が集まりました。また座席の前売りも完売です。
当日は立ち見の席のみです。これで”MATSURI”の目的は達成できたも
同然です」
「まだ開催していないものを成功と評するわけにはいかないわよ、杉並くん」
「はい、すみません。理事長」
「で、参加者の方はどうなってるの?」
「はい、本日午後5時をもって参加を締め切りました。正確な人数はまで
計算中ですが、100名越え・・・おそらくは150名に近づくでしょう」
「そんなに・・・」
「はい、うちの女子生徒以外にも学外からの一般参加、および本土の学校
からも。男子生徒も若干名混ざっているようですが・・・」
「それだけ朝倉くんの好感度が高いってことかしら。この初音島内部で少しでも
彼に好意を抱いていると参加したくなるように結界を設定しましたから」
「そうですか」
「ですが、最後に勝つのは念が高く、知恵のあるもの・・・ポッと出で勝てる
ような甘い戦いではありません」
「はい」
「で、今後の予定は?」
「はいっ、明日金曜日の午前中を使って一次予選を行います。ここで16名に
しぼりこみます。そして午後からは1対1の対戦形式の二次予選を行い、
ここで本選進出8名をセレクトします」
「うん」
「明後日土曜日の午前中で準々決勝、午後に準決勝、そして決勝を行います」
「運営は大丈夫かしら」
「はい、一次予選の参加者が予想以上でしたが対応可能な範疇です。
念のために救急班を含めて若干の人員の増員を行いました」
「よろしい、では明日を楽しみにしているわ」
「恐悦至極!それでは朝倉に会いに参ります」
「ご苦労様。彼によろしく伝えておいてね」
「御意!」
杉並を軟禁状態の朝倉純一に会いに部屋を出た。理事長は杉並の持ってきた
参加者名簿に目を通し始めた。
「白河さん、芳乃さん、朝倉さん・・・やっぱり参加したわね」
理事長は名簿にある名前に読み上げて言った。
「ぶざまな敗北は退学よ、叶さん・・・」
同日ほんの少し後 軟禁場所
「腕立て伏せか・・・いつからスポーツマンになったんだ、朝倉は?」
「いや、ヒマでな・・・することがないからな」
「一ヶ月いたら筋肉隆々になれるぞ」
「それはいやだ、ところでどうなんだ」
「大盛況だ。お前は誰が勝つ・・・いや、勝って欲しい」
「誰でも」
「すげない返事だな」
「結婚とかだったらともかく夏休みの権利だけだろ」
「向こうはそう思ってないが・・・」
「こっちはそう思ってるが・・・」
「やり逃げか・・・」
「そうともいうかな」
「だが、男子生徒が若干いるが・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「音夢でもさくらでもワンコでもいいから勝て!!」
そして・・・決戦の日を迎えた。
<一次予選>
決戦の朝を迎えた風見学園の校庭には大会の開催を今や遅しと
女子生徒たちが待ちかねていた。
「音夢先輩、がんばりましょ!」
「お願いだから、少し静かにしてて。美春」
音夢もさくらも眞子も環も手渡された一次予選のルールの確認に
余念がなかった。なかには先ほどの美春のように呑気なものや
ことりのように周囲ににこやかに微笑みかけるものもいたが、
彼女たちの大部分は緊張し、ピリピリした雰囲気に覆われていた。
そして時計が9時を指したとき、大会実行委員長の杉並が壇上に
現れた。
「諸君!朝倉純一が好きか!!
諸君!朝倉純一が好きか!!
諸君!朝倉純一が好きか!!
朝倉と過ごす夏休みをを望むか?
それとも宿題に追われ、ただ消費される夏休みを望むか?
好きな男と行く旅行のために闘うことを望むか!?」
「Yes!Yes!Yes!」
「よろしい!ならば闘争だ!!
だが、ひと夏の思い出を得るのに単なる闘争では生温い!
一気呵成の!一心不乱の!一意専心の戦いが望ましい!
諸君らは一騎当千のつわものである!
ならば!それに相応しい戦いを望もうではないか!」
「Yes!Yes!Yes!」
「朝倉純一争奪武闘大会!状況を開始せよ!!
さぁ、諸君!戦闘の開始だ!!」
何やら微妙な熱気に覆われた風見学園の校庭で開会式がなおも続いた。
936 名前:小休止:朝倉純一争奪武闘大会 投稿日:2005/07/27(水) 01:50:05 ID:Y6h+UMKl
「それでは一次予選を開始する前にルールの確認を行います。
ルール説明はわたくし"音楽室の白い稲妻"ともちゃんと」
「お兄ちゃんラブ!のみっくんでお送りいたします」
「皆様、校門でお渡しいたしましたルール説明の用紙をご覧ください。
風見学園の敷地内に100個の箱を設置しております。
場所は用紙内の風見学園マップに記してあります。
その箱の一部には玉が入っています。
その玉を指定の場所まで持ってきた人が一次予選を突破します」
「玉を持ってくる場所は体育館壇上にある箱で、入れる際には自分の名前を
名乗ってください」
「玉には1番から16番までの番号が振られており、その番号が二次予選での
組み合わせの抽選になっております」
「玉の受付は10時半から12時までの間で、それ以外の時間は受け付けません」
「玉は一旦箱から出されるとGPSによって場所が特定されます。
場所に関しましては各教室のテレビにリアルタイムで中継いたします」
「何か、ご質問はありませんか?」
「二つ以上の玉を取った場合はどうなるんですか?」
二人は杉並にマイクを渡した。
「その場合、全ての玉は有効である。つまり、一番と三番の玉を取れば、
その両方の試合に出ることができる。但し、どちらかの試合で棄権を
すれば試合放棄として、全試合失格となる。先ほどのたとえならば、
三番の試合で棄権した場合、一番の試合で勝っていても失格とする。
なお、例外として一番と二番、三番と四番というような二次予選の試合の
組み合わせで取れば不戦勝として本選への進出が認められる」
「じゃあ、複数とってもあんまり意味ないわね」
「でも、不戦勝の組み合わせがあるでしょ」
「ああいう組み合わせじゃなきゃ意味がないでしょ!」
「要は玉を取ってきて箱に入れる、それだけだ!
試合開始は9時半から、玉の受付は10時半からだ。
諸君らの健闘を祈る!」
杉並の言葉が終わると生徒たちはどのように行動するか思考しはじめた。
やがて時計の針が9時半を指した。
「レディーゴー!」
スタートの合図とともに女子生徒たちは目算した場所めがけて走り出した。