かさり、と何かが動く音がした。自分より二まわりほど質量の小さな気配。
アルトリウスは月を見ていた。
満月だ。刃に映る満月を見ていた。
そんなとき決まってシフやアルヴィナがすりよってくる。
長らく共にいるうち、どうやら月ばかり見て構ってくれないのが気に入らないらしいと気付いた。
月を見る目を休める気はない。
「よしよし」
だからその姿勢のまま手だけ気配にのべ、指先に柔らかな毛が触れたと同時にそれをわしわしと撫でる。
「…?」
毛が薄い。大きさからしてアルヴィナだろうか。もしや森奥の山猫にいじめられて、毛が抜けてしまったのか?
心配になって斜め後ろに向く。
「、」
キアランがいた。
キアランが寄り添おうとするようにしてすぐ近くにいた。
自分の足元を見ている。顔は分からない。
分かっているのは、自分が今撫でたのは動物ではないということだ。
「き…」
撫でた髪がさらりと滑り、耳が顕になる。
月明かりでよく見えないが、恐らく赤いのではないか。
まるで犬や猫にでもするように、騎士の頭を撫でてしまった。
「……」
プライドの高い彼女なら何をするとはね除けそうだがそうではなかったらしい。
真っ赤になるほどお気に召しただろうか。
「…………」
何かしゃべっている。
キアランの顔から何か聞こえる。
「……う」
「う?」
うわぁああああっ!!!!!
空気を裂くような叫びをあげてキアランはアルトリウスを突き飛ばし、一目散に逃げていった。
「…」