でもこれで終わるのだ。そう思っていた。ボロボロとなり、崩れる女はまるで壊れた玩具のようである。  
亡者にこそ墜ちては居なかったが、その瞳は生きた光を失い、硝子玉のような彼女の藍の目には今何が映っているのか……。  
迫ってくる。一人の白霊体が赤服の裾を揺らして。  
手には拘束具。又しても後ろ手に自由を奪われ、地面へ投げ出された。  
「む……そのような顔をしてどうした。……貴公、よもやこれで終わるなんて思っていたのではあるまいな……?」金色の男、ロートレクの低い声が耳に轟く。  
彼の口調は一見丁寧ではあるが、女はそこに恐怖しか感じなかった。彼女はその小さな身を震わせる。  
彼等はきっと女の心が亡者に墜ちるまでいたぶるつもりなのだ。もう、駄目だ。そう思った。しかしながらその時、突然状況は一変する。  
世界と世界が交わる音――。それは彼女にも良く聞こえた。  
「……」金色の男が何かを呟くが早いか、地を槍が抉るのが早いか。気づけばロートレクが左肩を押さえている。  
バチバチと帯電した黄金の槍が霧散す。女が広間の入り口に目をやる。さすれば懐かしく愛おしい影を瞳に映すことが出来た。彼は太陽の戦士……としては似付かわしくない赤黒い光を纏っていた。  
 
「う…ん…」気がつくと何故か太陽の王女のおわす広間の前に体を横たえていた。  
「帰って…来たんだ…」ぐったりとし四肢に彼女の意思が及ばない。辛うじで手に収められた、白い輝きと耳を象った青い証。  
力無く震えるその体になんとか鞭打ち立ち上がる。確かめなくてはならない事があるのだ。階下に降り立ち、身を引きずり進むと、答えは案外すぐそこにあった。  
「あっ」彼女は声をあげる。その声は小さな悲鳴とも取れるような驚きの声だ。  
藍の瞳が確と人影を見据える――。  
今すぐにでもその懐かしい腕に包まれたい。その思いを押しのけて。自己嫌悪の念が渦巻く。こんな穢れた身では……。  
ガシャリ、ガシャリと太陽の騎士の男は彼女の傍へ歩み寄る。俯く彼女の前に立ち――止まる。  
 
 
 
 「……あ、あの。」女は困惑していた。そんな彼女の声を彼は無視して。ガシャ、ガシャと金属音だけが木霊する。  
女が困惑するのも無理はないのだろう。今、彼女は彼に抱き抱えられている。所謂姫君を抱えるようなやり方で。  
しかしその彼の口は、一切の言葉も発する事はなく、終始無言なのだから。  
彼は大広間を抜け、階段を降り、回廊へ出た。何処へ向かうやら女には皆目見当も付かないだろう。  
 
城内に入り、回廊を真っ直ぐ抜け、螺旋階段を上がると屋上へ抜ける。  
この先には以前彼が体を休めていた篝火があるのだ。でも、彼が向かうのはそこではない。  
屋上からまた別の螺旋階段を今度は降りてゆき、男は目の前に現れた扉を開いた。  
「少々埃が舞うかも知れぬが…」男は部屋の中程にあるベッドに彼女を優しく下ろし、来た扉へとゆっくり歩んでゆく。  
歩みながら、辺りを見渡した。ここは元は王女の部屋だったのだろうか。壁には絵画が飾られ華やかさがあり、 また、その絵の中には王女自身の姿を描いたものがある。王女の部屋。  
そんな風に考えると他人の部屋を勝手に使うというのもどうかという話だが。どうせ此処は棄てられた都なので心配には及ばないだろう。  
強いて言うならば残された陰の太陽が憤慨するかも知れないが。扉の前に立ち。ガチャリと内から錠を落とす。そしてから彼は女の待つベッドへと戻った。  
兜に手をかけ、取り去る。次いで手甲を取り払う。ガシャガシャと金属が触れる音を響かせると、女がちらと男を見た。  
女は何かに怯えるようにその身を震わせている。男は横目に彼女の視線を感じながらも只黙々と作業をしていた。  
「…すまなかった…」作業を終えた男はそれだけ言うと震える女の体を腕に収める。ベッドに膝を折り、背後から腕を回す。  
回された腕から女の体温が伝わる――。暖かで、非常に優しい。例えば太陽のような。  
先程の女の硝子玉のような瞳を見た時は焦りを感じたが。彼女はまだしっかりと、気を保っているらしい。  
 
ポタリ、と男の腕に温かな雫が落ちた。  
「貴公、泣いて、いるのか……?」察した男がより一層まわす腕に力を込める。さすれば女はとうとう我慢出来なくなったのか。まるで男のその言葉が鍵であったか、と言わんばかりに大粒の雫が彼女の膝に次々模様を作る。  
「うぁぁ……っ」静かな空間に咽び泣く声が響いた。  
彼に会えた安堵もあるだろう。辱めを受けた恐怖もあるだろう。その相反するものが交じり合わさり雫となり零れゆく。  
男が名を呼ぶ。幼子のように泣きじゃくる女を立たせ、体を向き合わせ、髪を撫でた。今度は女を正面から抱き寄せそのまま共にベッドへと身を投げた。  
ベッドの上で男の左肩辺りに顔を埋め、なおも涙がおさまらぬといった様子の女を強く抱き締める。  
「貴公…少しばかり休もうか」彼女が落ち着くのを待って呟く。女が頷き、了承の意を伝える。  
彼女をベッドに直に降ろし、半身を起こして自身の残りの鎧を取り払ってゆく。鎧の下に着込んでいた布鎧も、そのままベッドに入るには抵抗があり取り払ってしまい、下着のみとなる。  
「布の重いローブでは休まらないだろう」彼女のローブも脱がして楽な姿にしてやる。この方が、より彼女を感じられる。それもあった。  
 
彼女が休めるように、優しく抱いてやる。だが女は縮こまり、何だかぎこちない様子でいた。どれほどの時間、抱いていたのか。  
「何だか、眠れないの」ふと彼女が頭をもぞもぞと動かして言った。  
「それに――不安なの」女が又も潤んだ藍の瞳を向ける。先程まで泣いていたその目元は既に赤く腫れているというのに。  
抱いてやるだけでは不安を拭えない、と。それを見、男はどうにかして変わらぬ愛を伝えなければならない。そう考えた。  
そこで慰めの口付けをしようとすると、彼女の顔色が変わり男の行為を手で制した。それを見て、男は確信を得る。  
女は彼と交わることを拒んでいる、と。それが何故かも分かった。そしてどうすれば良いかも。行為を邪魔する細い腕。しかしこんな物は男がその気になれば無意味である。解くのは実に容易い。  
「ま、待って――私、きたな……ひぁっ」  
「汚い筈がないだろう」彼女に被さり、首筋に口付けを繰り返す。  
彼女の頭から、思い込みを拭い去ってやらねばならない。彼はそう感じていた。それに何より、男自身彼女が愛おしくてたまらなかったから。  
彼女の体を軽々しく玩弄した奴らに男の自尊心をくすぶられたのもあるだろう。体が、心が、彼女を欲していた。  
「…ぁう……んっ。あ、あの…っ」  
彼女は本能と理性の合間を行ったり来たりと繰り返す。彼に愛されたい本能と、穢された体を彼に晒すまいとした理性と。  
「貴公は何も考えるな。すべて忘れて普段通り振る舞えば良い」脇腹。太もも。鎖骨へと口付けをする。彼女の言う穢れとやらを拭うように。  
 
「――嫌か?」男の問い。  
「いや、じゃなくて――私」  
「嫌かどうか。それだけ答えてくれ」彼女の言葉を遮る。女が答えるまで少し間があったが、男には女の次の言葉は既に分かっている。  
「いや、じゃない。ううん……本当は嬉しい」揺れる瞳。本当は今すぐ甘えたかったのだろう。  
「……なら拒む理由は無い」唇を合わせ口付けるや、彼女から艶な吐息が零れ。それは何とも甘く。甘く。男の理性をくらくらと麻痺させる。  
舌を彼女の小さな口に滑り込ませ、中の穢れを拭い去る。途中から彼女が控え目にそれに応えようと舌を伸ばしてるのが分かった。  
互いのを擦り合わせると、彼女が笑みを浮かべ。それはまだ少し切なげだったがそれを見て男は安堵するのであった。  
「んは…っ」唇を放すと彼女は少し苦しそうに呼吸を乱し。だがその藍の瞳は既に嬉しそうで。また少し気恥ずかしそうで。  
その姿を見やればまた軽く、口付けをしてしまった。あまりに彼女が愛おしかったから。  
白い柔肌をなぞらえ、男の左手は乳房を捉えた。そしてゆっくりと、揉みほぐす。時々、先に当たるようにしてやると、その度に嬌声があがる。  
乳房を捉える手を変え、左手で彼女の下着を取り払う。思った通り、女のそこは既に蜜が溢れていた。秘裂をなぞり、蜜を指先に掬う。たったそれだけなのに、じたばたと身を捩る。  
「ひゃん…」その悦びの声はくぐもっていた。何故だろう、と彼女の顔に目を向けると、どうも口を両手で覆っているのが分かった。  
 
もっと。もっと声を聞きたい。その欲望から指先を秘裂に埋め、少しずつ奥へ。節が、一つまた一つと呑まれて行き、温かい蜜が指先に纏わり。  
「ふ、……あ……」甘い声に呼応するように、埋める指先に締め付けを感じた。  
 
少し中をかき回してやるだけで腰は跳ね。頬は色付き。それがこの上なく色っぽい。  
女のそこは早くも物欲しそうにひくつき、内はとろけそうな温度になっている。女の匂いに胸が満たされて、もう我慢の限界だ。そろそろかと、そう考えた。  
ふと視線を感じて見てみると、女が静かに男を見つめている。男の何かを察知したのかも知れない。彼を見つめる瞳からは少し緊張した様子も窺えた。  
そんな女の頭を撫で。下衣から分身を解放する。それは天を仰ぎ。張り詰め。欲望の唾を垂らしていた。  
「――」今一度名を呼ぶ。愛おしい女の名を。先を埋め、ゆっくりと腰を進め。  
「んぅ…っ」彼女の声が漏れる。中を圧迫された為だろうか。少し苦しそうにも聞こえたし。嬉しそうにも聞こえた。  
潤滑な中に、男の全てが呑み込まれる。優しく、温かく包まれる。暫く貫きの余韻に浸り。今度はゆっくりと腰を前後へ揺すり始めた。  
白い柔肌。張りのある乳房。そして上気した女の顔――。今、それら全てが男の眼下に収められている。  
この瞬間、間違い無く彼女は自分の物だと確信した。そんな物で推し量ってしまう自分の心はなんと弱いことか。  
男は内心自分に呆れる。だって彼女が不安だと告げたから。なんてそれすらもきっと自分の言い訳なのだ。  
だが今はそのような自尊心に勝る安心感で満たされている為、もうどうでも良かった。  
「ん――」甘い息を漏らす女の柔らかな口元に彼の唇を落とし。軽く吸い、舌先で口内を舐めあげる。顔をあげ、見つめ合う。切なげな藍の瞳が彼を見上げる。  
 
「何だろう……?」男はふと違和感を感じた。腰の動きを止め、女の下腹部をよく見る。違和感の正体。それは探せば直ぐに分かった。  
傷であった。今ついた物ではないのだが、それはまだ新しいらしく。金色の騎士がちらと男の頭を過ぎる。  
「……っ」  
「どう、したの……?」  
「いや、何でもないのだ」男は内心歯噛みする。気を緩めれば抑えていた怒りが再び表れそうで。  
しかし彼女の前でそれを露わにはしたくなく、思考を止ます為にも腰の動きを再開する。しかしその行為は怒りのせいか、普段より激しくなってしまう。  
「ふ、ふあ……!?あぁぁ!」いつも声を上げるのは控え目な女。しかし、この時ばかりは女の喘ぎが激しくなった。  
彼の分身は力強く彼女の敏感な壁を擦り、彼女の甘い蜜を掻きだす。そして往復す毎に最奥を突き上げる。じゅぶじゅぶと、秘裂から溢れる蜜とその音は悦びとも悲鳴ともつかず。  
そして男の荒い吐息。女のとろけそうな声。全て合わさり。全ては差し込む西日に照らされ。  
「うぅ……そ、ソラール、さん…っ」  
「!」男がはっと我を取り戻す。女の顔を見る、藍の瞳がしっとり潤んでいた。  
我を忘れ、痛みを与えてしまったのか。男はそう思い動きを緩める。しかし。  
「あの……やめ、ないでぇ……」女の懇願する声。桜色の唇から漏れる言葉が鼓膜を貫いた時……。自然に腰の動きを再開していた。  
 
「あ、もう……い、いっちゃうぅ……」女のその声は喜びに打ち震え、奥を突く度彼の男根をぎゅうと締め付ける。秘裂の内は蠢き、子種の雫を搾り出さんとす。女の言葉に操られるように、激しく内を抉ってやる。  
「だ、め……ああああっ……!!」やがて彼女の甘い声が弾け。一瞬、全身を強ばらせ、その後張り詰めた糸が千切れるように、ぶつりと力を失う女。残されたのは細やかな律動。男もそれに導かれ――やがて果てた女の腹には白濁が散った。  
 
 
「どうして」女は問うた。棄てられた都のバルコニー。そして神が居た都の夕焼け。  
眼下に広がる白い都も今は一面の黄と橙。救世の神なぞ居ない。あの時の彼女はそう思ったが。  
「あの時。きっと俺には声が聞こえたのだ。貴公の声がな」  
「……」  
「下らない冗談だと思うだろうか?笑うなら笑い飛ばしてくれて構わない」  
「……」  
「……いや、すまなかった。実際何故かなど、分からないのだ。只、そうであれば良いなと」  
「……うん」女は頷くが、男の方に目もくれてやる余裕もない。それでなくとも、女の声は少し震えていると言うのに。やっと搾り出した。そんな声を聞かれたら……。  
「……貴公、また泣いているな?」不意に男が後ろから抱くものだから。そう言い訳しても、彼はきっと笑い飛ばすだけ。たったそれだけ。でもその一瞬。素直にならなければ、明日また、後悔するかも知れない。だから、と。涙を堪えた瞳のままで、男を振り返り言った。  
 
「もう、貴方が亡者になるとこは見たくないの」彼女の瞳から雫が筋を生み。それを男は笑うことはしなかった。代わりに頬に触れて、指先に雫を掬ってくれたのだ。  
「貴公が太陽だ。俺はあの時それを知った。」――だからもう太陽は沈まないのだよ、と。彼は静かにそう言った。  
 
だが、女は思うのだ。私は太陽ではない、と。言うなればきっと月なのかもしれない。彼女自身こういう話は上手く出来ないものだから。でもいつか、教えてあげよう。女はそう思っている。  
 
男が彼女の中にみた光、輝き、それは全て与えられた光なのだと。でっかく。熱く。本当に太陽なのは、彼自身なのだと。  
 
「ソラールさん。太陽は、こんなに泣いたりしないんじゃない?」雫を拭って濡れた彼の指先。女はその手に両手を重ねて。  
「ウワッハッハ。そうかも知れぬな」そう、明朗な笑い声をあげた男は……誰が、何が太陽なのかはまだ知らない。  
 
 

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