「あが…いぎぃ…ぁあ!!」
女の叫びが響いていた。痛みに歪んだその声と、空間全体に鳴り響くオルゴールの不協和音はまるで地獄へ誘う怨嗟の声のようである。
どすっ… 刺し貫いた音と共に女の叫びは止まった。
「あ、ああ…レア、レアぁ…」
先程とは違う女の声、レアとは直前まで叫んでいた女の名。彼女は、レアが殺されるまでを見続ける事を強要させられていた。
首と手首を同時に固定し拘束する木製の枷をはめられ、尻を突き出した姿勢をとらされていた。
あの日から、レアが蛇と何かを合成させたような化け物に弄られている姿を見ながら小間使いの蛇人に犯され続けている。
蛇人の責め苦は彼らが果てた時に終わる。だが、何時までも響くオルゴールの悪音と愛しい者の叫びは彼女の心身に休む事を許さなかった。
階段を下りる音が聞こえてきた。彼女は篝火のあった場所から最下層のやけに間を広く取った牢獄に移されていた。
大剣と盾を携えた蛇人が二匹、彼女の牢へと入ってくる。無造作に手にしていた物を床に置き、前掛けを外して股間を露にした。
その様子に彼女は何ら反応を見せなかった。何時ものことであったから。
「……っ」
前戯無く彼女に蛇のそれが突き入れられた。
姿形は人に似せられているも、股間から伸びる「それ」は人と違い二本であった。
初めて本来で出すべき場所を貫かれた時の痛みは既に無く、両方の穴は滑らかに蛇の双頭を受け入れた。
何度も吐き捨てられた精は清められる事は無く彼女の中に残されており、皮肉にも潤滑油として彼女の助けになっていた。
幸い、不死と蛇人では孕むことはないようだった。何も言わず、終わるのを待てば良い。
「ぐ?!え…うぇ…か、はっ…!」
穴が空くまで待ちきれなかった一匹が、彼女の頭を掴み己の双頭を口に無理矢理捻じ込んだ。
何時もであればレアの惨状を見せ付けるために前が使われる事はない。
故に、口内を犯される事への耐性は然程無く、久々に表情を顕にした彼女に興奮したのか蛇人は彼女の頭を荒々しく揺り動かし喉の奥まで抉りこむ。
蛇の性交は長いという。この蛇人たちもそれを受け継いでいるのか果てるまでの時間が人と比べ格段に長かった。
何時までも喉を突かれ続け、逆流してきたものを吐き出す事も出来ず押し戻されていた。
苦しさからか、鳴り響いているオルゴールの音が彼女の脳を侵しつつあった。
音が染み入るように頭の中へ入っていき、ぐるぐると回り続け考える事が出来なくなってくる。
しいぃっ…と蛇の鳴いた音と共に、彼女の口内へ白濁が注がれていった。
胃液と混じりあったそれを体は受け入れる事を許さず押し戻し、鼻から吹き出てあられなくも扇情的な姿を彼女は晒していた。
彼女の後ろを責めていた蛇人がとうに果てていた事にも気付けずにいた。
再び階段を下りてくる音が聞こえた。
六目の伝道者に連れられてきたレアの首には鉄製の輪がはめられていた。目は濁りきり、まるで死人のような有様である…事実何度も殺されているが。
息絶えるまで弄られ、上階から滑落させられた事もあった。彼女の目の前で幾度己の最後を晒された事か。
覚悟はしていた。しかし、もう終わらせたくなっていた。
絶えず与えられる苦痛にレアは感じることも考える事も望まぬようになっていた。
伝道者がレアを蛇の化け物の群れへと突き飛ばす。
一斉にレアの側に群がり、触手で四肢を捕らえ、違うものはレアの乳房を絞り上げ、また違うものは触手で顔を覆い鼻腔や口を侵している。
最早レアの口は苦痛による喘ぎ以外を発する事はなかった。
化け物にしても、欲求に従っての事ではなく、そうするように脳を弄られているだけであった。
快楽を与えて辱め陥れる為ではなく、機械的に痛めつけ心身ともに折る為に。
ごきりと、何かが折れる音がした。
口を触手に塞がれ、叫ぶ事も許されない。糸の切れた操り人形のようにただただ力の向きに体を委ねることしか出来なかった。
狂宴を横目に伝道者も彼女の牢の中へと入ってきた。二匹の蛇人を下がらせると、伝道者は彼女の耳元で囁いた。
「止めさせたいか?」
一瞬目を見開いたが、すぐに眼差しを戻す。
どうせ、ろくでも無い話だ。例えば…
「お前が代わりになれば良い」
「………」
「代わり戦ってスキュラを皆殺しにすればあれを苦しめるものはない」
「………」
「無論、私たちももう何もしない。あの者だけは自由にしてやろう」
「……本当に?」
「約束しよう」
十中八九、偽りであろう。
恐らくは私を陥れるための罠、それでも彼女はその話を飲んだ。
レアの断末魔の叫びが響いていた。
持たされたのは結晶に侵された直剣が一本。それだけである。他には何も無い。裸であった。
成る程、良い見世物だと彼女は思った。必死の姿を笑い、捉えられ泣いて許しを乞う姿を期待しているのだろう。
「…下衆め」
スキュラと呼ばれた化け物の一匹が飛び掛ってきた。落ち着いて後退して間合いを取り、隙を見て突き入れる。
直後に側転し、違う個体が吐きかけてきた何かを避けた。一所に留まらず、足を使い戦局を見極めることは戦いの基本である。
攻撃は通じているものの致命傷には至らず、他の連中も同じように彼女を取り囲むように追って来ていた。
一度でも捕まれば終わりであろう。無傷で皆殺しにせねばならない。
囲まれないために円の動きで壁を背にする事がないように立ち回り、決して己からは仕掛けず敵の隙を突き確実に刃を通していく。
返り血で濡れ、肉片で彩られた舞台で、彼女は修羅の如き形相で。
化け物の悲鳴など聴こえはしない、一匹を殺せば後は流れるように次々と屠っていく。
残るは何故か襲い掛かって来なかった二匹のみ。明らかに他の連中とは様子が違っていた。
だからと言ってこいつらもあれらの仲間であることには違いない。あくまで戦おうとしない事に違和感を覚えながらも、殺さぬわけにはいかない。
それぞれを背後から一突きして仕留める。これでレアを甚振り続けた化け物共を一掃することが出来たのだ。
「…終わったわ」
低く、凄みを効かせた声を伝道者に聞かせる。武器はある。奴を殺せる手段を手にした事で、彼女が抑えていた憎悪と憤怒が滲み出てきていた。
「お見事。ところでそのスキュラなのだが元々は人間であったことは知っていたかな」
「……何が言いたい」
「なに、人としての意識はない化け物同然の連中だ。何も気にすることはない」
剣を握る手に力を込める。今すぐにでもこの剣で刻んでやりたい。
レアの事がはっきりするまでは我慢しなくてはならないと自分自身に言い聞かせる。
「ただ、最後に残っていた二匹、あやつ等は人としての意識が残っていた。美しい姉妹であった。お互いを思い合っていたのでね、その絆を忘れる事のないようにしてやったのだよ」
猛烈な吐き気が彼女を襲った。意識がありながら化け物に身を変えられ、そんな者を私は殺してしまった。
歯を食いしばる。湧き出る怒りに身を任せてはならない。レアの事が終わるまでは。
レアさえこの手に戻ってくれば、剣一つで奴等を皆殺しにしてやる。約束を果たさなくても殺し尽くしてやる。
「ファファファ…安心しろ。約束は守る。あの者は自由にしてやろう」
伝道者が三叉槍を掲げると、それが合図だったのか牢が開く音が聞こえてきた。
蛇人に連れられて来た者は白い聖衣で身を包んでいた。
「レア!?」
彼女の問いに答える声はなかった。蛇人はその者から身を離すと再び上階へ戻っていった。
「レア!レアなの!?」
聖衣のフードで顔がはっきりとしない。剣を手放す事はせず、静かに彼女は近づいていった。
「レア…?レア……う、あああああああああぁぁぁ!!」
フードの下は確かにレアであった。レアではあったのだ。
「残念ながら亡者になってしまっていたのだよ、いやあ実に残念な事だ。勿論約束は守る。その亡者は自由の身だ」
「ああああぁぁぁ!殺す、殺してやる!」
殺す殺す殺す殺殺殺…それだけが彼女の心を支配していた。
五体寸刻みにしてぶちまけても晴れぬであろう殺意を受けても伝道者は平然としていた。
「いや、悲しい話だ。正に悲劇だ。本にして此処に納めたい程だよ」
伝道者は襲い来る彼女へ手を向け呪文を唱えた。彼女の体が稲妻に打たれたかのように跳ね上がりその場へ倒れこむ。
「悪いとは思ったが、その剣に細工をしていてね。まぁ命には関わらない。体は動かずとも頭は冴えているだろう?気分はどうかね、私を殺す気だったのだろう。なぁどんな気持ちかね、
これからどの様な目にあうか分かるかね。言っておくが殺しはしない、亡者になられても困るからな。まあ私も鬼ではない。機嫌を取るなら今のうちだぞ」
絶望だけならまだ良い。死ぬ事が出来れば終わらせられる。
今自ら命を絶っても蘇ってしまう、そして奴等に甚振られるだけだ。
永遠に続くと思われる苦痛、永遠に塞がれる事の無い心の穴。
よくある話、下手は小説のような結末、それが彼女の物語の最終節であった。