「ありがとうございますユルヴァ様!これでまた暫く働けるよ」  
「ひとまずは大丈夫ですが、無理は禁物ですよ。それから様はやめて下さいと…」  
「分かりました聖女様!」  
 
明るく、そして茶化すように笑いながら走ってゆく子供。  
 
聖女、だなどと。  
私は聖職者ではない、ただの魔術師だ。  
しかも街ひとつ見捨て、その街の守りすら捨てた、卑怯ものなのだ。  
 
錫杖を握る。  
幾ら治してもきりがない。これでは贖罪にすらならない。  
 
治療の必要な村人がいないか見回りにいく途中、空気を切るような唸るような音が聞こえた。  
 
「どっ…どうしてダークレイスが…」  
 
錫杖を取り落とした。  
見ると赤黒い影が走ってくるのが見える。  
慌てて拾う。が、また手を滑らせる。指が震えていた。  
 
(怯えている場合じゃない、私が守らないと…助けないといけない…)  
 
状況が飲み込めないように狼狽える周囲の村人に叫ぶ。  
 
「み、みんな逃げて下さい!こ、こいつは、私が引き付けます!」  
 
一番逃げ遅れている私にターゲティングしているのを確認して走る。  
紅の装備は鎧より軽い。走っていれば追い付かれることはないはずだ。  
組み立て中の梯子に辿り着く寸前で泥に足をとられた。  
この閉塞した村では汚物の処理が間に合わず、土壌が少しずつ汚染されている。  
早く、早く抜け出さなくては毒に、いやあいつに。  
 
私は逃げた。  
小ロンドから、イングヴァード様から、亡霊から、ダークレイスから。  
 
梯子を昇る。  
登りきれば随分な高さになる。うまくやれば奴だけ落とせる。  
もしがもしでも、せめて道連れにくらいは出来るだろう。  
 
「っ!?」  
 
ガクン、と視界が揺れた。  
足首の違和感に戦きながらそちらを見ると、攻撃性の高い鎧がこちらを見上げていた。  
食い込む。痛い。  
 
「きぁああっ!」  
 
梯子から引き摺り落とされ、足場に叩きつけられる。  
いけない。まだ半ばを登ったところだろう。  
強靭な鎧を着込んだ男に対する切り札にしては頼りない高さだ。  
 
「やっ…やめ…」  
 
「聖女様を離せ!」  
 
見ると赤黒い男の肩の向こうに小さな子が棒切れをこちらに向けていた。  
追いかけてきたのか。  
 
「こいつは危険よ!逃げなさい!」  
 
何事か叫びながら走りくる子供。  
 
「やめて!その子には手を出さないで!」  
 
無我夢中に鎧の足を掴んで引こうとしたが、力が足りなさすぎた。  
男は造作もなく子の精一杯の武器を盾で打ち払い、がら空いた腹にその剣を差し込んだ。  
 
「いやぁあああっ!!!!」  
 
鎧の男が子供の胸を足で押す。  
剣が抜けるがまま、後ろへ落ちてゆく、私が今朝治した子供。  
 
少しおいて、罪が増える音が聞こえた。  
 
私はこの梯子を降りられなくなった。  
 
絶望に思考が停止した私に対し、男の行動は迅速だった。  
蹴りで立たされ、タックルで壁面に叩きつけられる。  
 
「あああっ!」  
 
痛い。血がにじむ。  
よろめいた隙に、禍々しい闇をまとった手が体をえぐる。男が私の首もとに顔を埋める。  
 
「うっあ、あぁあっ…やめ…」  
 
ダークハンドにつかまれた私は僅かな抵抗の後、力なく崩れ去る。  
人間から人間性を奪う非道の業。  
やっとの思いで立ち上がった瞬間、またダークハンドに掴まれる。  
 
「…ひ…ん…」  
 
今度は胸元を吸われる。頑丈な鎧と丈夫な紅の衣を隔てて触れられているはずなのに、まるで素肌を舐められているような不快感。  
だめだ、これは、だめだ。  
 
「は…はぁ……あ…?」  
 
足腰に力が入らなくなるまで繰り返され、ついに人間性が尽きた。  
 
だが、おかしい。  
私に馬乗りのまま、もう必要のないダークハンドをまだかかげている。  
 
「や、やめて…それは…それだけは…」  
 
男は冑を脱ぎ、手甲を外す。  
力ない私の衣をまくりあげて足と胸を露出させ、ついに封印者の仮面を奪ってしまった。  
敵対すべき二つの装備が後ろへ一緒くたに投げられる。  
 
『久々の若い女だ』  
 
私を見下ろす歪んだ口元がそう言い捨てたように見えた。  
 
「あうっ」  
 
両手が両の乳房をつかむ。  
乱暴に揉み上げられ、痛みと嫌悪感で快感などない。はずなのに。  
「んっ…ふ、い…」  
 
ダークハンドを装備した右手が先端をくすぐる度、鼻にかかった声が漏れる。  
その右手は皮膚でなく、もっと深い何かに触れるらしく、神経を直接刺激されるかのようだった。  
 
(どうして…私…私が…気持ちよくなっちゃ…いけない…のに…)  
 
あまり自信のなかった小振りな胸を、円を描くように揉み、突起を指で押し、摘まむ。  
 
「ぃう…や…やぁあ…んっ…」  
 
男は私の唇を味わうようにねぶり、舌で口内を蹂躙する。  
噛み千切ってやりたいのに、右手で触れられている間は全ての力が抜け、されるがままに任せるしかない。  
 
「んっ…ぁ…ん…」  
 
その男は顔を離すと真上から唾液を垂らす。だらしなく開いた私の唇がそれを受け取った。  
吐き出そうとするが、噎せただけで飲み込んでしまった。  
 
(…見せつけているの…?)  
 
なんて悪趣味だ。  
 
私は舌を噛むどころか、身体が火照り始めてすらいた。  
 
(だめ…我慢…しなさいっ…)  
 
ともすれば嬌声を上げてしまいそうなのを口をつぐんで耐える。それくらいの力しかなかった。  
それを知ってか知らずか、男の手は胸から下半身に伸びていく。  
 
「やっ…」  
 
その右手が下腹部をかすめただけで、声が漏れる。男は笑っていた。  
 
(いやだ、こんなの、もう…)  
「ひっ!?ひぁあっ!」  
 
絶望に浸る暇さえなく、その指が肉の芽をとらえた。  
両足を開いたまま押さえられ、敏感な核だけをぐりぐりと弄られる。快感を無理やり流し込まれる。  
 
「やっ、やだ、ぁ!ひぃうっ!や、やめ、それいじょ…」  
 
親指で押しながら上下に擦られると、身体がガクガクと跳ねた。  
何かが上がってくる。だめだ。それは耐えないといけない。  
 
不意に手が止まった。  
男は私を見ている。その笑みは楽しんでいるようでも憎んでいるようでもあった。  
 
『…お前、封印者だろう?』  
「な…」  
 
男の口がそう形作った。知っているのか。いや、知らないはずがない。私達が封じたのだから。  
こいつは既に小ロンドを脱していたのか、それとも戦線を突破したのか。  
亡くなった仲間には確かめようもない。  
 
『…礼はたっぷりとさせてもらおう』  
 
今度は間違いなく楽しそうに笑った。  
唐突に再開される責め。  
 
「ひゃっ!あ、や、やだ!」  
 
黒い光をもった指が筋をなぞり、くちゅくちゅと聞かせるように音をたて、その液で陰核をぬめらせ、摘まんでくりくりと押し潰す。  
少し落ち着いた情動が再び熱を帯び始める。  
 
「だめ、き、来ちゃう、やだ、や…あっ…  
は、あ!ぁああああっ!!」  
 
上体を猫のように反らし、足を痙攣させてあっけなく私はイッた。  
息が荒く、あそこからはトロトロと愛液を滴らせている。  
 
「私…私……」  
 
視点の合わない私を満面に笑んだ男がのぞき込む。  
 
『…イけたのか?ダークレイスで?封印者様』  
「う…」  
 
安い挑発と分かっている。分かっているのに、その単純な言葉と事実に私は打ちのめされた。  
「うっ…ひっく…」  
 
涙と声が溢れる。  
先ほどの涙とは意味が違う。あのとき殺されていれば、私はまだ封印者として誇りをもてた。  
今やもう亡霊たちだけでなくイングヴァード様にすら顔向けが出来なかった。  
 
私はただの小娘として泣くしかなかった。  
 
「ふっ…んちゅっ…んむっ…」  
 
泣く私に右手の指を舐めさせる男。  
 
甘酸っぱい香りがする。私の愛液を確かめさせているのだろう。  
抵抗の仕様もない。舌が痺れる。  
 
「え…やっ…ぁむっ!」  
 
予想外の出来事に、放心していた意識が目の前に戻ってくる。  
抜かれた指の代わりに、私の顔に跨がった男のモノが差し込まれた。  
 
「んっ…んんっ…ふっ…」  
 
苦い味と酸っぱい香りが口から鼻に広がり不快だ。  
噛めないながらも、奥まで挿そうとする動きに恐怖し、舌で押し戻そうと抗う。  
 
『…良いぞ』  
 
それが男を悦ばせるのだと気付き、舌を緩めた途端、喉の奥まで突き入れられた。  
 
「んぐぅっ!?っ、んんっ!」  
 
息が出来ない。  
両手で押さえられ、心は全霊で拒否しているのに、体は弛緩して、男のなすままに頭を前後に動かされる。  
ゴツゴツと喉に男の硬く反った先端が当たる。  
 
それは動きが加速するにつれ大きさを増し、限界が近いことを否応なしに伝えてくる。  
 
(いやだ、こんなやつの…飲みたく…な…)  
 
当たり前にその意思が汲まれることはなく、一際強く奥へ叩き込まれると、その位置で何かがはぜた。  
 
「ふっ!?んぐぅうっ!」  
 
それが精であったと気付くにはラグがあった。  
奥で出されたがために大部分を飲み込むしかなく、喉につまり、気管に混入し、盛大に噎せてやっとけがされた実感が起こった。  
 
「う、けほっ!かふっ…」  
 
男は私の両足を持ち上げ、無遠慮に指を一本入れた。  
抜き差ししながら親指で蕾を押し捏ねる。  
 
「ひっ…あ…っ、ひぁ、や…」  
 
意に反して入り口がひくつく。  
男はそれを確認してか、親指の動作は継続したままナカに入れる指を増やす。  
 
「ん…ひっ…い、痛いぃ…」  
 
たっぷりと濡れてはいるものの、自分では使わないそこは男の無骨な指による拡張に危機感を伝えてきた。  
 
(……具合を…確かめて…いるんだ)  
 
まるで物のように品定めされる。  
腕も上がらない自分が情けない。  
男はたっぷりと掻き回すと、自らの下半身の鎧をたくし、何かを私のそこへ押し付けた。  
 
「や…やだ…入れない…で…」  
 
無駄だと明白でも、思わず口をついて出る言葉。  
 
「んぃっ!ーーーっ!!!」  
 
一拍おいて、熱くて硬いものが私の中に入った。  
粘膜を無理矢理押し広げられる痛みに喉が詰まる。  
「く、る…し…」  
 
圧迫感のようなキツさを耐えながら何とか引き抜こうと腰を引く。  
 
「ん、ひ、ぁあっ!くぅ…」  
 
それを雄の前進が上回り、微妙な前後運動をしながら奥へ侵入されてゆく。  
 
「う、あっ!?」  
 
突如、奥へ届くか届かないかの位置で、男が腰を動かし始める。  
 
挿入に意識がいっていた私はいきなりのピストンに驚きの混じった高い声をあげてしまう。  
 
「あっ、あああっ!や、やぁあ!動いちゃ、やだぁ!」  
 
太ももを鷲掴みにされ、何度も何度も揺さぶられる。  
 
「んひぃうっ!そこっ、それ!だめぇえ!」  
 
右手で触れられる場所が熱い。  
撫でられると、愛しい人からの愛撫のように快感の声をあげてしまう。  
まして肉芽など捏ねられたら、それだけでイッてしまった。  
イかされ続けた私はどんどんイキやすくなっていた。  
 
「や、ダメ、も…私っ……」  
 
片足を持ち上げ角度を変えられる。更に深くまで当たるようにし、遮二無二突かれる。  
疲弊した体にも分かるほどペースが上がってきた。  
スパートなのだ。  
 
「や、やっ、やだ、そんなの、こんな…」  
 
いやだ。ダークレイスに。知らない男に。愛した人でない誰かに。  
一番大切なところを差し出すなんて―――  
 
「いやぁああああああっ!!!」  
 
ビュルビュルと勢いよく粘着質の液体がお腹の奥で吹き上がった。  
 
 
 
それから何度犯されたのか。  
金属音がする、男が鎧を着付けているのだろう。  
 
「……ぁ…」  
 
痙攣を起こし、口から、胸から、そして大切な場所から、大量の白濁した液体が溢れている。  
 
もう涙も枯れた。声もろくに出ない。  
虚ろで焦点のあわない目で、一切の筋肉が緩みきった体で、私は倒れているだけだ。  
 
やがて頭上で何かが光る。  
お迎えというやつだろうか、と、ぼんやりそちらを見る。じっくりとフォーカスを絞るとそれは刃だった。  
 
男が剣をかざす。  
それはまっすぐ私に向けられていた。  
 
目尻が熱くなり、ぬるさがこめかみを擽る。  
 
(…枯れたんじゃなかったっけ…)  
 
怖いのだろうか。怖いのも大いにあるだろう。  
何ひとつ達成できなかったのが悔しいのだろうか。悔しいのも大いにあるだろう。  
封印者である自分が、ダークレイスに負けたことが恥ずかしいのだろうか。それもあろう。  
こんな男に体を奪われたことが悲しいのだろうか。それは、抱えきれないほど大いにある。  
 
私が遺体となったらイングヴァード様は私のことがわかるだろうか。分かっても祈ってもくれないかもしれない。  
 
(…いや、もう、顔向けできないんだったね…)  
 
「!」  
「…?」  
 
男が立ち上がった。  
その音で目を開けると奴は振り返り、剣と盾を構えている。私のことはもう意識から除外されているようだ。  
聞くと世界が交わるような音がした。  
 
「また…ダークレイス…?」  
「…チッ」  
 
男は下を見ると舌打ちをもらした。  
 
(あいつが警戒するってことは…ダークレイス以外の闇霊…?)  
 
奴は上を確認し、それから私を見た。  
私は何も言わなかった。奴らに命乞いは無駄だ。ただひたすら見えない奴の目を見返した。  
が、それはまさに一瞬のことで、目が合ったかどうかも分からない。  
 
「あっ」  
 
男は私に近寄ってかがみ、すぐ踵を返す。  
その間にその右手は軽くあげられそして降ろされ、私の喉は短く声をもらし、私の胸のあたりは穴をひとつあけた。  
 
(そうだ、名前は聞いたことがある。きっとあの男が…)  
 
私は傷口のあたりに手をあてる。  
トゲの剣の刺さったあとは、傷口が複数にわたり止血もしにくい。  
高位の癒し手はいざ知らず、私は治癒くらいしか治療法がない。回復の奇跡も持たない。  
なぶられ、すべて人間性を失い、動かない体では出血に任せるしかなかった。  
 
「いっ……」  
 
男はどこへ行っただろう。この梯子はもう少しとはいえ上まで到達していない。  
下のほうには洞穴があるが、そちらはデーモンが出るというので村人は近付かない。  
あるいはダークレイスはデーモンとも戦えるのだろうか。  
 
(…何も出来なかった)  
 
じわじわと熱いものが込み上げてくる。吐き出すと口の端から首までを何かが濡らした。  
 
「………!」  
「?…」  
 
何か聞こえる。  
 
「聖女様っ…」  
「あな…た…は…」  
 
さっきの子だ。生きていたのか。  
運よく近くの足場に落ちたのだろうか。  
 
にじんでぼやけた視界の真ん中にあの子の顔があった。  
あれに耐えるとは、いつまでも子供だと思っていたこの子はもう立派な大人だったのかもしれない。  
 
一体いつ登ってきたのだろう。意識を失っていたのだろうか。どれだけ時間が経ったのか。  
 
「聖女様…ごめんなさい…守れなくて…聖女様は…僕たちを…たくさん助けてくれたのに……」  
 
咳き込んで言葉がうまく紡げない。微笑んで首をふる。笑顔が歪んでいないか心配だ。  
 
「…これ……」  
 
やっとそれだけ彼女に伝える。  
金属で出来たこの杖はまだこの子供が持つには重いかもしれないが。  
 
「?」  
 
「?」  
「使っ…て…この…服も…術も……」  
 
今度は子供が首を振る。  
 
「お願い…」  
 
この子が生き延びて治癒を継いでくれるかは分からない。  
紅の衣装を着てくれたかは分からない。  
 
目の感覚が消えてゆく。指先からも消えてゆく。私がなくなってしまう。  
私はこのまま消えられるのか、亡者になるのか分からない。  
 
「イングヴァード様」  
 
彼だけは見えた気がした。  
 
 
 
 

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