真鍮の鎧で全身を包んだ女騎士は歩いていた。  
普段、彼女は火防女として英雄を待ち、導く任に就いていた。  
暗月の剣士でもある彼女だが、剣を取る事より火防女である事が優先されれいた。  
自身が死ねば火も消える、故に彼女は自らが暗月の剣として罪を狩る事はない。  
 
 彼女が動く事があるならば、それは主の命を直に承る時である。  
彼女の主が祭られている霊廟は神々の宮殿の最も下部にあり、更に暗月の信徒でなければその姿を現すことはない。  
月は万人を照らす光である、それは太陽と何ら変りはないと彼女はそう思う。  
閉じ込められているような主の扱いに疑問を感じてはいたが口に出した事は無かった。  
 
 彼女は主の座する間と隔てる白い光の前で跪いた。  
主が彼女を呼びつけた理由は分かっているつもりだ。だが彼女は何も言わず主の言葉を待つ。  
 
「…参れ」  
 
 霊廟の奥へと誘う主の声、王の墓所と言われるそこへ。  
足を踏み入れる事は、本来ならば決して許されぬ大罪である。  
 
 火防女である彼女が動く事、それは誰にも知られてはならぬ秘め事であった。  
彼女は光の中へ不敬がないように指先にまで神経に気を使い、粛々と白光の中へ消えて行った。  
 
 光の先は、寝室であった。  
天窓からは陽光が差し込み、寝台の上に腰を下ろしている彼女の主を照らしている。  
 
 彼女は再び跪き、主の言葉を待つ。  
 
「面を上げよ」  
 
 命に従い彼女は跪いたままに顔を上げた。  
頭部全体を覆う兜の上からでは彼女の表情を知ることは出来ない。  
 
「汝の素顔を見せよ」  
「…御見せ出来る様なものではありません」  
 
 彼女が初めて口にした言葉は、主の命を拒むものであった。  
 
 彼女の主グウィンドリンは太陽を模った冠を頂き、純白を金であしらった衣を身に纏っており、素顔は顔の半ばまでを覆う冠の  
せいで口元までしかわからないと言う奇妙な格好をしていた。  
 
 命を拒否されたが、グウィンドリンの僅かに晒された口元は微笑んでいる。いつもの事であったから。  
グウィンドリンは跪いたままの彼女に歩み寄り、頤に伸ばした掌から青白い光が放たれると彼女の頭を隠していた兜は消え去った。  
 
「汝は美しい」  
 
 素顔を晒され、瞳を覗き込まれる事に耐えられず、彼女は顔を背けた。  
彼女の顔は言葉では言い表せぬ様であった。頭部を包み込んでいた兜はそれを隠すためのものだったのだ。  
 
 グウィンドリンは彼女の顔を愛しむ様に指先でなぞり、顔を上げさせると彼女の唇と己の唇を合わせた。  
 
「他の者は醜いと言うかも知れぬ。しかし我は汝を美しいと思う。それで良いではないか」  
 
 そう言われた彼女の頬は紅く染まり、瞳には薄く涙の膜が張られている。  
秘神とその従者の逢瀬は今までに何度も行なわれており、このやり取りも幾度も繰り返されてきたがその度に感極まってしまう。  
彼女は自分を見出してくれたグウィンドリンの為に火防女となり、その身を穢れに捧げた。  
 
 火防女の使命は勇者を見守り、導く事。  
その為にある者は逃げられぬよう足の健を切られ、ある者は常人には到底辿り着けぬ深遠に囚われ、そして誰にも知られぬまま朽ち果てた。  
火防女になるという事は、死よりも苦しい責め苦を背負うという事でもある。  
人間性の寄り代となり、人間性に魂を食い荒らされ、それは主に身体的な異常として現れる。  
 
 彼女は自ら火防女に志願することにより主への永遠の忠誠を誓った、それは不死の使命の為ではなく。  
見捨てられた地で、自分を必要としてくれる人に出会えた。  
 
 不死として生きてきた今までを顧みればそれがどれ程有り難かったか。  
使い捨ての駒でも良い、生きる意味を持ったまま死ねるのだから。  
 
*  
 
 彼女は自分から求める事はしない。主に求められ、主が求める事を果たす事に尽くす。  
心は堅くそう思ってはいるが。  
 
「ふふふ。相変わらず可愛い声を出す」  
「申しわけ、ありま‥んん!」  
 
 声を発すために開いた口をグウィンドリンは己の口で塞ぎ、右手は乳房を、左手は彼女の頭を掴み結合をより強めんとする。  
一方的に彼女の口内を犯され、唾液が流し込まれる。舌は歯の隅々までを舐め取り蛇のように舌と舌は絡まりあい、  
乳房を揉んでいた手は固くしこった乳首をしごき上げる。  
 
「ぷはっあ‥あん‥やぁん‥」  
 
 開放された口から伸びる銀糸はそのままに、舌は彼女の耳へと動き全体を使って舐め上げると先を尖らせ耳孔へ進入した。  
 
「だ‥だめで‥す、グウィ、ドリ‥さ、まぁ」  
「汝に穢れなどない、あってもこうやって舐め取ってやろう」  
 
 グウィンドリンの指が彼女の秘所を優しく撫でる。撫でるだけでそれ以上の事はしない。  
撫でるたびにひぃんと噛み殺した嬌声が漏れる。  
 
「ふふ、我慢しなくてよいのだぞ」  
 
 顔を背け恥ずかしがる彼女へ口付けをする。同時に秘所を撫でていた指を壁一枚分刺し入れる。  
 
「あっ、んんん!」  
 
 指を入れられただけで迎えた絶頂の叫びを押し殺す。  
絶頂に達し敏感になった全身をこれ以上刺激せぬようにグウィンドリンは彼女から手を離し、呼吸が整うまで見守っていた。  
 
「そろそろ、良いか?」  
 
 寝台の上で股を開く。白絹のスカートの一点が小山のように盛り上がっていた。  
本来女性には無いもの。そもそっも彼女の主は女性ではなかった。  
男として生まれ、女として育てられ、神としての生き方を背負わされた。  
 
 兄は追放され、姉はこの地を見捨て旅立ち、最早父と会うことも叶わない。  
偽りの女神を作り出し、演じ続けた。裸の自分を知るものは目の前の一人しか居なかった。  
 
「失礼致します…」  
 
 彼女は深く一礼をし、スカートの端を摘み上げおずおずとその身を差し入れた。  
内部で篭っていた汗や雄の匂いが奉仕する喜びと相まって女の本能を呼び起こし、陶酔した眼差しでいきり立った逸物を見つめていた。  
 
 グウィンドリンはスカートの中で己自身が彼女の呼気に触れ無意識にひくひくと動いた事に顔を紅くしたが、それは彼女に知られることは無い。  
早く早くと誘うような主の神体を焦って傷つけぬよう、自身の女の欲を表さぬようにそうっと指先を先端に添えた。  
 
 んっと主の息を呑む声が聞こえ、手の中の逸物が小さく跳ねる。  
彼女はしばし考え込み、力を込めて逸物を握ると前戯もなくしごきだした。  
潤滑が足りない往復運動は少しの痛みが刺激となり、そこに垂らされた唾液のぬめりが状態を最適化し、刺激は快感となり逸物を更に大きくする。  
彼女はカリ首の隙間に舌を走らせると、主の恥ずべき垢を舐め取った。  
 
 グウィンドリンは衣服を着たまま奉仕させる事を好んだ。  
本来隠すべき場所を下の者に潜らせる事に、神としての優越感を感じていた。  
我に従うべき存在である者が領分を超え神たる我のそれをまるで玩具のように弄んでいる今、何かが溶けそうな感覚をグウィンドリンは覚えていた。  
 
「ぢゅぱ‥じゅるる‥あむ、ん」  
 
 一心不乱に舐め、しごき、転がす。  
奉仕ではなく責罰であるかのような攻勢。頭を押さえつけ悶える主の事を意に介さずに。  
 
「くぅん‥おま‥やめ‥あうう!」  
 
 彼女が鈴口に歯を立てた瞬間堰き止められた神液が口内を奔り喉にぶつかり口の端から零れ出る。  
 
「んくっん…ぷはっ」  
 
 スカートから顔を出した彼女は主の方を見上げ、口内に溜まった白濁を見せ付けた。  
自身がそれ程の量を吐き出した事に赤面しつつ、主である自分を追い詰めるような責めに感じていた事を実感させられた。  
 
 ごきゅっと嚥下の音が一度、白濁を一気に飲み干した彼女は主の聖棒に残った物を吸い上げた。  
最後にちゅっと口付けをし、主のそれから手を離す。  
 
「グウィンドリン様…。どうか卑しきこの私にお慈悲を…」  
 
 仰向けになり大きく開いた股に手を伸ばし、女の華の入り口を指でなぞりながら熱く潤んだ瞳で訴えている。  
普段もおねだりをさせてからくれてやってはいた。だが今日は事情が違う。  
神である自分が人間の体に流されようとしている。  
 
 このままいけば、どうなる?  
プライドを捨てて獣となり、全てを忘れてしまえば後には何が残るのか。  
 
「グウィンドリンさまぁ…おねがいでございます…どうか、どうか‥」  
 
 泣き出しそうな声での哀願、指先は我慢出来ずに秘所を開き、肉の妖しさを湛えたそこを主に晒し続けている。  
卑しい人間にくれてやる、そう建前を用意してグウィンドリンは肉欲に身を任せることを選んだ。  
 
 スカートを捲る暇すら煩わしい。まるで思春期の少年のような慌てぶりである。  
スカートの裾を纏め上げ、緊張しきった逸物をさらけ出し、欲深い淫らな割れ目に宛がう。  
 
 今まで何度も繰り返してきたはずなのに、まるで初めての時の様な期待と不安。  
これ程までに欲した事は無かった、グウィンドリンには最早神として振舞う余裕もない。  
 
 入り口に先端を入れると飲み込まれるように奥深くに導かれた。  
 
「ああぁー!!」  
 
 脳を溶かす甘い叫び、同時に膣内の肉が侵入者を圧搾せんと激しく収縮した。  
 
「んん‥!?」  
 
 予想以上の刺激は容易くグウィンドリンの槍の耐久を削り取り、早くも彼女の中へ白濁を注ぎ込んだ。  
全く予測していなかった事に対応出来ず、排出が終わるまで目を瞑り快楽に耐えることしか出来なかった。  
 
「‥うそ‥」  
 
 自分自身が信じられないといった様子である。神が人間にここまであっさりと果てさせられた。  
置いてきぼりの神さまには相応しいことなのかも知れぬ。  
今まで隠してきた自身への嘲りの気持ちが今に沸いて出てきそうで―  
 
 唇に優しい感触があった。彼女は主に微笑みを浮かべると再び唇を合わせた。  
いつの間にか体を起こしていた彼女はグウィンドリンを抱きしめ、?がったまま押し倒す。  
 
 腰を上下させながら今度は彼女がグウィンドリンの口内を犯す。  
 
「んっぷはっ‥あっグウィン‥ドリンさ、ま‥わた、し‥わたしも、はぁっん、おな‥じです、からぁんっまた‥いっしょに‥」  
 
 涙を零しながら自分を望んでくれる彼女に、グウィンドリンも同じように涙を流す。  
 
「ひっひくっ‥うん、またいっしょに‥ああんっあっだめ‥またぁ、くる‥きちゃうぅ」  
「わた、しも‥グウィン‥ドリンさまの、んっかんじて、ます‥だい、じょぶ‥です、から、わたしも、いっしょにぃ‥いきますからぁ‥」  
 
 より一層大きく腰を振り、グウィンドリンの体を強く押さえつける。  
 
「あ‥だめぇ、それ‥きちゃうから‥!くるのぉ、おっきぃの‥きちゃうから‥あああんん!」  
 
 幼子のような上擦った叫びは絶頂を表し、彼女の中で大きく跳ね上がり吐き出された白濁は子宮の最奥まで満たしていった。  
びくんびくんと余韻が続き、全てが収まった頃には二人とも意識を失っていた。  
 
 
                                                   *  
 
 
「王の器を得た者が居る」  
 
 お互い肩を寄せ合っていた。どちらかが力を抜けば二人とも倒れる、そんな姿勢の中グウィンドリンは零した。  
 
「オーンスタインもスモウも死んだ」  
 
 グウィンドリンの肩の重さが増したように彼女は感じた。  
 
「残った物は幻影の姉の姿だけ。そう、本当に誰も居なくなったんだ、私を知っていた者は誰も」  
 
 誰かに聞かせるわけでもないように続ける。  
 
「分かっていた、自分は押し付けられただけだってことには。でも、此処で一人になってあの人間が火を継いだなら私は何処に在ればいい?」  
 
 神々は既に去り、苦を供に出来る者はなく、それでも皆の為、家族の為と思い使命を果たさんと努めてきた。  
それが果たされた時の事は考えた事がなかった。  
人間が父を殺し王のソウルを得て新たなる神として振舞ったなら、自分がやってきた事はなんだったのか。  
 
「私が居ます」  
 
 凛とした決意を感じさせる声で彼女は言った。  
 
「私は不死となり世界を呪いながら亡者となって、誰からも忘れられたまま朽ちていったはずでした、貴方と出会わなければ」  
 
「貴方が居たから私は私であるのです。私が居る限り貴方は忘れられる事は無いのです」  
 
 僭越な物言いである事は自覚していた。  
たった今交わったばかりという状況と、今まで感じてきた弱さを見せてくれた事が彼女を大胆にしていた。  
 
「ふふ、人間に心配されるとはな。いや、人間に弱さを見せた私が言えた事じゃないか」  
「…申し訳ありません」  
 
 主が浮かべた自嘲の笑みを計りかね、彼女は先程の事を深く詫びた。  
 
「全く生意気な人間だ」  
 
 神がこの言葉を述べる時、それは天罰の前触れであるものだろう。  
   
 だが。  
 
「ん!?」  
 
 グウィンドリンは彼女の唇を奪うと勢いのまま押し倒した。  
 
「そうだ、私にはお前が居る。先程は油断したが今度はそうはいかぬ。何度果てても許しはせぬからな、覚悟しておけ」  
 
 やはり責め続けられてた事を気にしてたのを可愛いと思い、主が立ち直ってくれた事、まだ愉しみが続く事に彼女は心から喜びで満たされていた。  
 

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