「アナスタシア」
私は久しぶりに会えた火防女の名前を呼ぶ
彼女は顔をあげ、嬉しそうに微笑んでくれた
声は聞けなかったが、私にはそれで十分だった
「心配してくれたのか。ありがとう、今まで不死街の最下層へ行っていてな
なかなか祭祀場まで戻ることができなかったんだ。変わりは無かったか?」
コクコクと頷く
ある日名前を聞いたら掠れるような声で答えてくれたので
まったく喋れないというわけでは無いようだが…彼女は喋る事が苦手らしい
始めは戸惑ったが、今はもう不自由などない。
言葉など無くとも意思の疎通は可能だし、何より彼女が微笑んでくれればそれで良い
「アナスタシア…」
私は重い兜を脱ぎ、彼女の捕らわれている牢の前へ座った
彼女も足を引き摺るように格子の前まで来てくれた
手と手が触れ合う
お互いに微笑み合う
とても幸せな瞬間
この火防女が幸せになれるのなら、不死の使命でも何でも遂げてやろう
不死となり祖国を追われた今、私はこの灰色の聖女に仕える騎士となる事を誓ったのだから
「クク…仲がよろしいようで、結構だな」
ぞくりとするような冷たい男の声で振り返る
「ロートレク殿…」
別にやましい事をしていた訳では無いのだが、何となしに気まずくなる
「…そ、そうだ、先日の貪食ドラゴン討伐での助太刀…感謝します」
「なに、私とて貴公に助けられた身、礼には及ばんよ」
「いえ、鐘のガーゴイルに引き続き今回までも。助かりました」
私は立ち上がり、一礼する
「私でも何かお役に立てる事があれば仰ってください。尽力いたします」
「そうか…ククク…そこまで言うのなら…」
そう答えて彼はゆらりと立ち上がる
一歩、二歩、こちらに近づくが何やら不穏な空気だ
「…あの……?」
少し後ずさるが、距離は徐々に縮まっていく
「ならば…」
気づくと彼の右手には暗黒の霧がかかっていた
これは何だ?彼は何が目的だ?
「貴公の人間性を頂こうか!」
「−−−−ッ!?」
右手に握られた暗黒が一瞬大きく光った
次の瞬間私は胸ぐらを掴まれ…
「んっ…!ん…んぅ…っ!」
不意に唇を奪われた
白昼堂々何と言う…!この男はまさか、こんな事を見返りとして…!
幻滅と怒りがこみ上げた瞬間、次の異変に気づく
「…ん……っ…ふ…ぁ……?」
力が抜ける
抵抗しようと彼の腕を掴んだ両手は、だらりと垂れ下がる
身体の奥底から人間性が抜ける、いや吸い取られる感覚
この男は唯の色魔では無いのか!?
ついには立っていることも適わず、膝の力が抜けされるがままに押し倒された
「……はっ…」
唇を開放されると、ぐらついた視界が徐々に回復してきた
手足にも力が入るようになったので、私は盾で奴の身体を押し退け立ち上がった
「…ほう、こいつを喰らってもまだ人間性が尽きぬとは…流石は聖騎士様と言ったところか…」
押し退けられた奴は、体制を整えながら口元に笑みを漏らした
「貴様…っ!何をした!?」
私は手甲で唇を拭いながら問いかける
しかし奴は答えない。返答の代わりに笑ったまま1対のショーテルを構えた。
「気でも触れたか…!」
私も剣と盾を構えて対峙する
「ならば篝火の灰に還るがいい!」
踏み込んで突きを繰り出す…が、ローリングで避けられてしまった
距離を詰め追撃を試みたが左手のショーテルを構えていたので見送った
パリィを狙っているのか…受け流しに特化したカリムの剣技は敵にまわすと厄介だ
私が攻撃しないと見ると、今度は奴が斬りかかって来た
「……くっ!」
盾で受ける…が、鋭い痛みが走る
ショーテル独特の湾曲した刃が盾をすり抜け左手を切り裂いた
ローリングして距離を取る
ちらり、と牢の中のアナスタシアに目を運んだ
突然起こった出来事に混乱しているのか、両手で口を覆って目を見開いている
無理もない。私だって状況が理解できない。しかし牢の中に居る以上、彼女に危険が及ぶ事は無いだろう
横薙ぎの斬撃、突きと連続で攻撃する。手ごたえはあまり無かった。どうやら掠っただけのようだ。
この男、中々腕が立つようだ。
激しい攻防を繰り返すが、防御できないショーテルの攻撃で体力を削られつつある
奴の右手からの攻撃を防ぐ。この隙に反撃を…!
次第に不利になる状況に焦りを感じたのか、考えるより先に剣が出てしまった
「…しまっ……!」
真っ直ぐに突かれた剣は、次の瞬間には奴が左手に持ったパリングダガーに絡めとられていた
「んぐっ………」
右手は弾かれ、腹部に致命の一撃を入れられる
「……かはっ…」
思わず膝が折れる。苦い胃液の味が込み上げる。しかし腹部に出血した感覚は無い
致命の一撃を入れる瞬間、ショーテルの向きをずらし拳での一撃に変えたようだ
起き上がろうとするが、首を掴まれそのまま地面に叩きつけられる
「ああっ……!」
目の前で火花が散る
ガキィン、と鈍い金属音が聞こえたと思ったらショーテルの柄で武器を吹き飛ばされた
馬乗りになられた格好では上手く身動きが取れない
しかし左手の盾で打撃を加えることができればまだ勝機が…!
「ククク…もう一度いくぞ…」
機会を伺っていると、再び暗黒の光が灯るのが見えた
「…っ、やめっ、んっ……んんんぅ…っ」
右腕で顎を固定される。奴の顔が近づく。唇が重なると、また視界がぐらついた
「んふっ……んちゅ……ぅ…ぁ…やめ…ちゅっ…」
先ほど以上に力が抜ける。だらしなく開いた唇に奴の舌が侵入してきた
舌を、唇を、頬の内側を、歯列を、蹂躙される。
耐え難い屈辱なのに、どうすることもできない。銀色の闇の中へ堕ちていくような感覚。
考える器官が麻痺してくる。これ以上意識が遠のけば、私は人では無くなってしまうような感覚。
「クックック…しかと頂いた…やはり若い聖職者は人間性を溜め込んでいるな…」
身体を離したロートレクが何か話しかけているような気がする。私に向かって言っているのだろうか。
「しかしな…ここで全て奪い尽くして貴公が亡者となってしまうのも惜しい…」
視界が定まらない。
「折角だからな…貴公の身体、たっぷりと堪能させて頂くぞ」
頬が冷たい。金属の手甲で覆われた指で触れられているからだろうか
手が離れる。代わりに鎧の止め具を外される僅かな振動を感じた
サーコートは剥がされ、防具は外され、内に着込んだチェインメイルも脱がされる
ついには布の衣服のみになってしまったが、それもどこか他人事のような気がする
「ん…」
肌寒さを感じて身じろぎする。頭の向きが変わったようだ。ぼやけた視界の景色が少し変わる
芝生が見える。遺跡の残骸が見える。鉄格子が見える。若い聖女の影が見える
聖女……?
灰色の、聖女
「……アナス…タシア………?」
視界の靄が薄らぐ
俯いて、手を胸に当てて、震えている
怯えているのか?泣いているのか…?どうして泣いて…
「アナスタシア…」
私が護ろうと誓った聖女の名を、ぽつりと呟く
そうだ、泣かせてはいけないのだ。それなのにどうして泣いているのか。
違う、そうじゃない。泣いているのは私の。私が……
「ーはっ!ロートレク!貴様ぁああああああ!!!」
思考の靄は完全に晴れた
虚ろだった瞳には光が灯り、投げ出していた四肢に力が入る
「…何?人間性はギリギリまで頂いたはず…ッ!」
突然の抵抗に驚いた様子だったが、上体を起こして繰り出した拳は避けられてしまった。
やはり手練れなのだろう、拳の勢いは受け流され、今度はうつ伏せに押さえられてしまった
「くっ…!やめろ、離せ、離せ……ッ!」
身体を捩り抵抗するが適わない
「成程…貴公の気に入りの聖女様のお陰か…ククク、それもよかろう。面白い
この状況で自我を取り戻したとて、武器も防具も持たない唯の小娘に何が出来よう」
今まで騎士として、戦場でも男性に引けを取らない成果を収めてきた
しかしそれは、鍛錬を重ねた技量に拠るもので、結局筋力での勝負では適うことは難しいのだ
自分が女であることを呪った。どうして、私はただ……!
両の腕は片手で纏められ、背中に押し付けられている
「……やめ…ろっ…!」
奴はもう片方の手で、髪、首筋、背筋を撫でてくる
生暖かい、骨ばった男の手にまさぐられる感覚に嫌悪感が溢れ出る
「んっ……」
ぞわりとした感覚が奔る。奴の手がゆっくりと乳房に触れてくる
掌で包み、力を入れずに捏ね回す。掌が突起を掠める
「…ひぁっ……ん!」
思わず声が出てしまうが、すぐに唇を閉じ耐える
「どうした…?ククッ…そうか、ここがお好みか?」
耐えようとするのだが…
「んぅ……っく……ぁ…」
声を出した事に気づかれたせいか、執拗に乳首を攻められる
指で弾き、摘み、焦らす様にゆっくりと揉みしだく
「や、めっ……ん……やぁ…っ」
声を出さないように耐えるだけなのに、こうも屈辱感に押しつぶされそうになるとは思いもしなかった。
「やめろっ…やめ、あ……」
私にできる事は最早、うわ言のように拒絶の意を口にするだけだ
「そうか…貴公がそうまで言うなら仕方あるまい…」
「……っ?」
不意に奴の手が止まる。代わりにに触れられたのは……
「――ッ!なっ、やめっ、そこは……っ!」
くちゅりと、卑猥な水音が響く
「やっ…やめっ……いっ……」
秘裂を指でなぞられる。先ほどの何倍もの嫌悪感が襲い掛かる
押し付けるように強く触れたと思えば、指が離れるギリギリで優しく往復する
「……やぁっ!?」
突如、甘い痺れが身体全体を襲う。突然のことで身体がびくりと反応してしまう。
「……んっ……はっ…はぁっ……っあ!…っふ、ぅ…っ」
再び秘裂をなぞられるが、時折突起にも触れる動きが加わってくる
あたりに響く水音が次第に大きくなってくる
「どうした貴公…?様子がおかしいようだが…?」
奴が白々しく問いかけてくる
「んっ…なんっ……でも……っっひゃぁっ!!」
心底愉しそうな笑みを浮かべているのが憎らしい。
そして、すぐに声を上げてしまう堪え性の無い自分も憎かった
「辛そうだな…?全て受け入れてしまえば楽になるぞ…?クククッ…」
そう言うと奴は指の動きを変えてきた
秘裂の中心を円を描く様になぞり、次第に力を入れてくる
「なっ、……やめっ…いやっ…!」
身体の中心に、ゆっくりと異物感が襲ってくる
「やめ…」
既に愛液で濡れていたためか、指は抵抗なく飲み込まれていく
「やっ……!あっ……いっ…痛いっ…!」
確かに抵抗は無かったが、体をゆっくりと引き裂かれる痛みに悲鳴が漏れる
「む……?」
想像していた反応と違ったのだろうか、奴が小首を傾げた
指をゆっくりと引き抜き、また挿し戻す
「ひっ……ん……っ」
また引き抜くと、今度は指を2本押し付けてきた
「やっ……やめっ…痛ッ……ぅ、あぁっ……」
さらに強くなる痛みに涙が滲む
「貴公、よもや…未だ男を知らぬな…?」
「―――ッ!!!」
頭上から浴びせられた言葉で、体温が数度上がった錯覚に陥る
肩越しに相手を睨む。おそらく顔は真っ赤だったろう
「ククククッ……フッ……クックックック……!」
私を押さえつけたまま、奴は聞きなれたあの、喉の奥から押し殺すような笑い声を上げた
しかし今は、いつもの何倍も癪に障った
「成程…成程なぁ……」
酷く愉しそうに振舞うその男は、押さえつけた私の身体を起こし背中越しに抱きかかえた
「やめろっ…はなせっ…!」
「そうか…ならば私とて騎士の端くれ…手荒な真似はせん。
貴公にとっくりと男を教えてやろうではないか…クククッ…」
耳元で囁き、首筋から耳を舐め上げた
肌が粟立つ感触の中に、恐怖が混ざっている事を認めたくなかった
肩を掴まれ四つんばいにさせられる
「や、嫌だっ……」
腰も掴まれているので、身体を僅かに捩ることしかできない
今まで散々指で蹂躙されてきた場所に、熱い肉の塊を感じる
「やめっ…てっ……おねがっ…」
屈辱感より恐怖心が勝ったようだ。懇願の言葉まで発してしまう
焦らすように肉棒をこすりつけた後、ついに秘裂に突き立てられた
「やめてっ……やだっ……痛いの……いやっ……!」
ゆっくりと、ゆっくりと胎内に侵入してくる異物感に嘔気すら催してくる
次第に強くなってくる鋭い痛みに、泣き叫びそうになる
しかし、どんなに懇願しても奴は動きを止めないだろう。それならば、絶対に耐えてやる!
腰を進める動きに力が篭った
瞬間、身体を内から引き裂く痛みと太ももに生暖かいものが伝わっているのを感じる
「――――――ッッッ!!!!」
精一杯瞳を閉じて、歯を食いしばる
「どうした…?まだ半分も咥えこんでないぞ…?」
ゆっくりと腰を進める。時折止まり、思い出したように少し引き抜く
いっそ手荒に犯してくれていた方が救いがあったかもしれない
無慈悲に腰を打ち付けられるよりも、こちらのほうが胎内に意識が行ってしまう
「どうした…?叫びたければ叫べば良かろう
助けを求めれば、あるいはすぐ上で座り込むしか能の無いあの腑抜けくらいは来るかもなぁ?」
「…くっ……」
唇を噛みながら耐える
「まぁ…誰かが此処へ来たとして…お前を助ける側に加わってくれるかは別の話だがな?ククク…」
やっと最奥まで到達したのか、子宮を突き上げられる痛みに意識が遠のきそうになる
早く、欲望のままに動いてしまえばいいのに。
胎内で肉棒が脈打っている感覚が下腹部から全身に伝わってきてなんとも不快になる。
「…っう、ぁ……!」
しばらくして、ようやく引き抜かれる。しかし少し抜いたと思ったらすぐに最奥まで突かれる
「ひっ……んっ…!あっ……ん…!」
短い出し入れを幾度か繰り返している最中、不意に指が突起に触れた
「んっ……うっ……ッ、ひゃあぁっ!?」
思わぬ刺激に甲高い声が出る。先ほど嬲られた時とは違う、ぞくりとした痺れが駆け巡った
「辛そうにしていたのでな…?しかしあまり締め付けるな…長くは保たんぞ?」
耳元に顔を近づけ、また囁く。荒い呼吸が髪にかかった。
「やっ……はぁっ……っく……ッ」
ゆっくりと腰を動かされ、奥を突かれる度に喘ぎとも悲鳴ともつかない声が漏れる
この行為はいつまで続くのか。果ての無い地獄にいるような感覚に陥る
何度もゆさぶられて膝も痛い
「ぅあ……っ」
急に訪れた感覚に上ずった声が漏れる
肉棒が引き抜かれたのだと気づいた頃には仰向けに寝かし直されていた
ロートレクは私の足を抱え、再び秘肉に狂気を押し当ててくる
「んっ……や、ああああぁぁぁあっ!」
今度は一気に最奥まで突いてきた
体位を変えたからなのか、あるいは脚を抱えられているせいか
先ほどとはまた違った感覚に全身が混乱する
ゆさゆさと、先ほどよりやや早く出し入れを再開する
「んっ…やっ、あっ…っく……っう、あっ…!」
段々と速度を増す動きに、次第に痛みも広がっていく
「やっ……そんなっ……痛っ…ゆっく…り……!」
「っく……!もうすぐ終わらせてやるさ…」
「あっ、痛っ…ん、お、終わる…の…?」
終わり、という言葉を聞いて少し安堵する。
しかし次の瞬間、冷静な思考が一呼吸遅れて出した答えに全身が凍りつく
「ちょっ…あっ…や、やめっ、終わりって、やっ、あっ、まさっ」
覆い被さり腰を振る男を退けようと、両手で相手の肩を掴むが適わなかった
「やめてっ、あっ、ひぅっ、やだっ、痛っ、なっ、なんかっ、大きくっ…!?」
混乱し、見開いた瞳に映ったのは腰をしっかりと掴み、満足そうな笑みを浮かべて私を見下ろしている男の姿で
「やめっ、中っ、中はやめてっ、いやだっ……はっ、あっ、あああああっ………!」
蹂躙され、嬲られ続けた胎内で感じたのは熱い絶望の雫だった
「………ぅ」
気を失っていたのか
どれほどの間横たわっていたのだろう
ひどく長い時間だったようにも、ほんの小一時間のようにも感じる
衣服はボロボロで、芝生の所々には白やら赤やらの粘液が付着している
私を辱めたあの男は、もう居ない
起き上がり、あたりを見回すが瞳は虚ろだ
檻の中の聖女は泣いていた
ただひたすら、檻の奥で逃げることも適わず泣いていた
「泣かないで…?私は、平気、だよ…?」
「アナス…タ…シア……」
私は久しぶりに会えた火防女の名前を呼ぶ
彼女は顔をあげ、涙を流しながら微笑んでくれた
声は聞けなかったが、私にはそれで十分だった