主人公「おーい?ししょー?」  
 
 
彼が私の名を呼ぶ。  
 
主人公「ししょー?聞いてる?」  
 
クラーナ「あ、ああ・・・聞いているぞ。」  
 
本当はうわの空だったのについ嘘をついてしまった。  
 
主人公「ほんとにー?じゃあなんの話してたかいってみてよ。」  
 
クラーナ「え、えっと・・・新しい呪術について?」  
 
質問に質問で返してしまった。  
 
主人公「ほらー!話聞いてないでしょ!」  
 
そういって彼は軽く頬を膨らます。  
 
クラーナ「う・・・、すまない。」  
 
主人公「ししょーの呪術はすごいっていう話!」  
 
私の呪術。  
 
彼には私の呪術を教えている。  
 
きっかけは・・・  
 
主人公「生きてますかー?」  
 
それが彼の第一声だった。  
 
まず、この病み村で誰かに声をかけられること自体に驚きだった。  
 
クラーナ「・・・お前は?」  
 
顔を伏せたまま答える。  
 
主人公「お!まともな人発見!こんな場所だから心細かったんだぁ  
よかったら話し相手になってよ!」  
 
私の質問には答えず、やたらと大きな声量でまくしたててきた。  
 
クラーナ「だから・・・お前は?」  
 
もう一度問いかける。  
この淀んだロードランで誰かと繋がりをもとうとするこの物好きな不死に対して  
 
主人公「あ、ごめんね。ぼくは主人公っていうんだ。よろしく!」  
 
そういって彼は手を差し出してきた。  
 
その手を一瞥してまた聞いた。  
 
クラーナ「お前も・・・私の呪術が目当てなのか?」  
 
私の呪術。かつての大戦で広まった火の業。  
それは余りに強大で、故に私達イザリスの魔女の持つ高度な呪術を狙うものが後を断たなかった。  
 
この目の前で手を差し出している男も恐らく同類だろう。  
このロードランで友好的にして来ようとする輩にまともな奴はいなかった。  
 
もし違うとでも答えようならそのお望みの呪術を披露してくれようとしたが  
彼の返答は  
 
主人公「じゅじゅつ?なんなのそれ?たべれるの?」  
 
想定を逸していた。  
 
クラーナ「冗談で言っているのか?  
私をからかっているなら止めろ。  
私を知らずに声をかけた訳でもあるまい。」  
 
思わず声が荒くなる。  
 
主人公「本当にしらないんだよ!それに君が誰なのかもしらないよ!」  
 
白々しい。  
こいつがどんな面をしながら嘘をついてるか気になり、頭をあげようとした。  
 
クラーナ「ふざけるなよ。呪術をしら・・・」  
 
言葉が詰まった。  
 
何故なら目の前の男はこの毒の沼の中で下着一枚でいたのだから。  
 
主人公「どうしたの?」  
 
男の一声で我に帰る。  
 
クラーナ「どうしたじゃない!なんでそんな格好をしているんだ!?」  
 
主人公「これしかもってないんだ。」  
 
彼はさも当たり前に言った。  
もしかして・・・この男は・・・  
 
クラーナ「ちょっと腕を見せろ。」  
 
返答も待たずに男の右手を掴み引き寄せる。  
 
主人公「うわっ!」  
 
・・・そうか、こいつは  
 
クラーナ「お前、奴隷か。」  
 
主人公「・・・うん。」  
 
やっぱり。  
腕に奴隷の烙印が焼かれていた。  
となればこの男が下着一枚なのも呪術を知らないことに説明がつく。  
奴隷は衣類など与えられず、また教養などはもってのほかだ。  
 
主人公「ごめんね、奴隷なんかに話しかけられるのは嫌だったよね?」  
 
そういって男は俯く。  
私もこんなことは初めてだ。  
 
クラーナ「いや、別にそんなことはないが・・・。」  
 
主人公「本当に?」  
 
男は伏せがちに問う。  
 
クラーナ「あ、ああ。本当だ。私の方こそ突っかかってすまなかった。」  
 
私もどう対応していいかわからなかったが、この男が本当に呪術目当てではないのだとしたら  
彼に申し訳ないことをしたことになる。  
 
主人公「よかった!じゃあ・・・話し相手になってもらってもいいかな?」  
 
男は、子供の様な無邪気な笑顔で言った。  
なんだかこの男の無邪気な笑顔をみると、呪術一つでとんがっていた自分が馬鹿らしく感じた。  
そして・・・この絶望に満ちたロードランでそんな希望を持った目を持つこの男に興味が湧いた。  
 
クラーナ「ああ、構わない。それより、お前・・・呪術知らないんだったな。」  
 
主人公「うん。ごめんね。」  
 
クラーナ「別に謝ることはない。よかったら呪術を教えてやろうか?」  
 
主人公「いいの?っていっても僕はどんなものか分からないんだけど・・・。」  
 
クラーナ「そうか、じゃあ一つ見せてやろう。」  
 
そういって、少し男を下がらせ手のひらに小さな火を灯した。  
 
クラーナ「これが・・主人公「すごいすごいすごいすごい!!ねぇ!いまのどうやってやったの?」  
 
私が説明するより先に、初めておもちゃを見つけた子供の様な目で私に詰め寄る。  
 
クラーナ「そんなに慌てるな・・・、それでどうだ?興味があるなら弟子にしてやろう。」  
 
主人公「興味あるある!弟子にしてください!」  
 
クラーナ「そうか。だったら自己紹介がまだだったな。私はイザリスのクラーナだ。よろしくな。」  
 
主人公「よろしくね!クラーナ!」  
 
そういって彼は手を伸ばしてきた。  
 
クラーナ「ああ。よろしく。」  
 
そしてその手を握り返した。  
暖かい。人肌の暖かさだ。この暖かさに最後に触れたのは何時だったろうか。  
 
主人公「で、早速なんだけど・・・さっきの火は・・・」  
 
クラーナ「さっきの火は発火だ。初歩的な呪術だ。」  
 
こうして彼と私は出会った。  
 
二度目に彼と会った時は、服を着ていた。  
大沼の呪術師の衣装だ。  
 
クラーナ「馬鹿弟子、その服は?」  
 
主人公「ここの沼で拾ったんだ!服はあったかくていいね!」  
 
その後も何度も男は私の元へと足を運んだ。  
男は素質が高く、まるで乾いた布が水を吸い込む様に呪術を覚えていった。  
また、私も楽しんでいたと思う。  
この男は面白い。まるで百面相だ。  
落ち込んでみたらすぐ笑ったり、一緒にいて飽きない奴だった。  
 
主人公「ししょ〜、聞いてよ〜。霧の指輪っていう体が透ける指輪があるんだけどね、  
ズルいんだよあの指輪〜。全然捕捉出来なくてね〜。」  
主人公「ししょ〜、聞いて〜。この前、八本も首がある龍?なのかな倒したよ!」  
主人公「ししょ〜、ししょ〜。この前侵入されたダークレイスに変な魔法使われて全然動けないまま倒されちゃったよ〜」  
 
私の元に来る度この調子だ。  
話の中には、耳をふさぎたくなるような無残に殺された話もある。  
何故、そんなに辛い思いをしてるのに明るくいられるのかが気になった。  
 
 
クラーナ「なんでお前はそんなに明るいんだ?この場所は楽じゃないだろう?どうしてそんな明るくいられるんだ?」  
 
主人公「そうだなぁ。・・・色々な物に出逢えるからかな?  
ほら、奴隷って一生死ぬまで何も知ることなく使い古されて死んでしまうでしょ?  
確かにぼくは不死になって大変な思いをしてる。  
でも、それ以上にあのまま奴隷だったら知ることなく死んでしまっていたことを  
知ることが嬉しくて楽しいんだ。  
それに、ししょーとも出会えたし!」  
 
何てこともない様に彼は答えた。  
それに最後のは・・・  
いや、嬉しいなんて思ってないぞ。  
本当だ。嬉しいなんて・・・。  
でも、正直にいうと興味以上のなにかが芽生えてきているのが分かった。  
しかし私はそんな事を許される女ではない。  
 
そして彼の何度目か、もう既に数えるのもやめた頃の来訪だった。  
 
主人公「ししょ〜!今日は大きな火の塊みたいなデーモンを倒したよ!」  
 
火の塊。  
 
主人公「そして戦利品!じゃじゃーん!ししょーとお揃いの服です!」  
 
イザリスの魔女のローブ。  
 
爛れ続けるもの  
 
あれは私の・・・  
 
主人公「ししょー?」  
 
クラーナ「すまない。今日は無しだ。」  
 
主人公「大丈夫ししょー?顔真っ青だよ?」  
 
クラーナ「大丈夫だ・・・それよりすまない。今日はちょっと調子が悪い。日を改めてくれ。」  
 
主人公「・・・分かった。ししょーお大事にね?」  
 
そういって彼は去って行った。  
 
悪いことをしてしまった。  
 
調子が悪いなんて嘘だ。  
 
頭が混乱してしまっただけだ。  
 
爛れ続けるもの  
 
あれは私の罪だ。  
 
 
そうしてぼんやりと思考を止めていたところに  
 
主人公「おーい?ししょー?」  
 
 
彼が私の名を呼ぶ。  
 
主人公「ししょー?聞いてる?」  
 
クラーナ「あ、ああ・・・聞いているぞ。」  
 
本当はうわの空だったのについ嘘をついてしまった。  
 
主人公「ほんとにー?じゃあなんの話してたかいってみてよ。」  
 
クラーナ「え、えっと・・・新しい呪術について?」  
 
質問に質問で返してしまった。  
 
主人公「ほらー!話聞いてないでしょ!」  
 
そういって彼は軽く頬を膨らます。  
 
クラーナ「う・・・、すまない。」  
 
主人公「ししょーの呪術はすごいっていう話!」  
 
私の呪術が?  
 
主人公「うん。ししょーの呪術なら昔倒すのにすごく手間取ったヤギの頭をしたデーモンも簡単に倒せたよ!」  
 
クラーナ「そうか、私も馬鹿な弟子に教えたかいがあったというものだ。」  
 
主人公「ししょーは厳しいなぁ。」  
 
そういって彼はころころと笑う。  
 
主人公「ししょー、何か悩んでる?」  
 
急に、彼が聞いてきた。  
 
主人公「なんだかこの前から様子が変だよ?」  
 
この馬鹿弟子に感ずかれるとか余程気を落としていたみたいだ。  
 
クラーナ「馬鹿弟子のくせに、師匠を気遣うだなんて偉くなったなぁお前も。」  
 
冗談混じりの口調で返した。  
 
主人公「爛れ続けるもの。」  
 
!  
 
主人公「あのデーモンを倒したっていってからししょーの様子がおかしいと思った。」  
 
言葉が、でてこない。  
 
主人公「そしてあのデーモンが守ってたみたいに見えたししょーがきてるローブ。  
きっとししょーに関係があるんだよね?」  
 
中々馬鹿弟子のわりに鋭い。  
 
主人公「ししょー、ぼくはししょーが心配なんだ。話せないなら話さなくてもいい。  
でも、ししょーが元気ないとぼくも悲しくなる。」  
 
こいつは本当に馬鹿弟子だ。こんなに馬鹿になら私の罪を話してもいい気がする。  
 
クラーナ「あれは・・・私の罪なんだ。」  
 
重い口を開いた。  
 
主人公「つみ?」  
 
罪。  
かつて1000年も前。  
私の母が愚かな試みをした。  
原初の火の創造。  
結果は勿論失敗した。  
私達混沌の魔女とイザリスに大きな傷跡を残して。  
その時に私は、私だけは逃げてしまった。  
その傷を私は負わなかったのだ。  
クラーグ姉は蜘蛛の異形に、大勢の姉妹は爛れ続けるものとなり、  
そして母は混沌の苗床として、今なおイザリスの最深部で断罪を待ち続けている。  
混沌の魔女として彼女達はこの手で私が幕を下ろす義務がある。  
しかし、私は、逃げてしまった。  
あの時、イザリスからも逃げ、そして今もなお逃げ続けている。  
 
 
クラーナ「私は・・・汚い女なんだ。家族を見捨て逃げて、今なお1000年たった今なおその罪から逃れてのうのうと生きている。」  
 
主人公「・・・。」  
 
彼は黙っている。  
きっと幻滅して失望しただろう。  
当然だ。  
 
クラーナ「こんな汚い女が師匠では君も嫌だろう。本当にすまな・・・」  
 
私が謝罪の言葉を言い終わる前に、  
 
彼に  
 
ぎゅっと抱きしめられた。  
 
クラーナ「な、なにを・・・」  
 
こんな汚い女を  
 
主人公「本当にごめん。」  
 
私を抱きしめたまま彼は呟いた。  
 
クラーナ「な、何故君が謝る。本当に悪いのは私だ。」  
 
彼の腕の中で答えた。  
 
主人公「辛かったよね。1000年もそんなに重い枷を背負っていたんだ。」  
 
どうして?どうしてこの人は私を軽蔑してくれないのだろう。  
軽蔑してくれないと、私は・・・  
 
クラーナ「何で・・・何で優しくするんだ・・・!  
優しくなんかされたら・・・私は・・・!」  
 
思わず涙が零れた。  
胸が苦しい。  
 
主人公「いいんだよ。泣いて。」  
 
彼の一言で、1000年間流す事が無かった、とうに枯れてしまったと思った涙腺から涙が溢れてきた。  
 
クラーナ「うわぁぁあぁぁああああぁぁぁ!!!!!」  
 
泣いた。ただひたすら彼の中で泣いた。  
どれ程そうしていただろうか?  
五分?五十分?五時間?  
ただひたすらに涙を流した。  
 
ようやく泣き疲れて彼を見上げる。  
目線が会った。  
なんとなく気まずくて顔を背けてしまった。  
 
クラーナ「す、すまない・・・服を濡らしてしまった・・・」  
 
主人公「気にしなくていいよ。それより落ち着いた?」  
 
彼の中で頷く。  
 
主人公「よかった。ししょーが元気になってくれるとぼくも嬉しい。」  
 
そういって彼は微笑む。  
 
クラーナ「君は・・・私を軽蔑しないのか?」  
 
恐る恐る彼に聞いた。  
 
主人公「しないよ。ししょーはもう十分ってほど罪を背負ったよ。  
それに家族を殺すなんて義務。ししょーにはないよ。」  
 
クラーナ「でも!」  
 
主人公「だからさ、ぼくも一緒に背負うよ。」  
 
彼は笑ってそういった。  
さもあたりまえのように、私の罪を、一緒に背負ってくれると言ったのだ。  
 
クラーナ「どうして?・・・どうしてそんなに良くしてくれるんだ?」  
 
主人公「弟子は師匠の代わりに戦うなんて当たり前!ってのは建前。  
本当は自分の好きな人が苦しんでる姿は見たくないから。」  
 
この馬鹿弟子は今なんと言った?  
 
主人公「ししょー、愛しています。だからぼくにも貴方の枷を背負わせてください。」  
 
この私の事を、愛してると?  
 
主人公「ししょー?」  
 
クラーナ「あ、あ、あ、あ、愛してる?」  
 
主人公「ししょー落ち着いて?」  
 
クラーナ「お、落ち着いてる。・・・本気か?」  
 
主人公「本気と書いてマジです。」  
 
クラーナ「どうしてわたしなんかを好きになったんだ?」  
 
主人公「なんでだろーなー。  
きっと初めは奴隷ってことを差別しないことに興味をもって。  
その後は、呪術教えてもらったり、一緒に話したりしてる内に好きになってた。」  
 
真っ直ぐな言葉だった。  
嬉しい。  
 
クラーナ「そ、そうか。君の気持ちは嬉しいが、それに応える資格を私は」  
 
主人公「ししょーはぼくのこと嫌い?」  
 
クラーナ「嫌いなわけないだろう、むしろ好きだ。」  
 
あ、しまった。  
言ってしまった。  
こらそこニヤニヤするな。  
 
主人公「じゃあ、一緒に」  
 
クラーナ「だから、君の気持ちに応える資格は私はもってない。」  
 
主人公「うるさーい!ししょーは黙ってぼくに守られてればいいんだ!」  
 
何故だろう、こいつといると何とかなってしまいそうな気がする。  
また目頭が熱くなった。  
 
クラーナ「・・・本当にいいんだな?わたしで」  
 
主人公「モチのロンです。」  
 
クラーナ「私は嫉妬深いし、素直じゃないぞ?」  
 
主人公「むしろご褒美です。」  
 
クラーナ「それに・・・誰よりも重い罪を背負っている。それでもいいのか?」  
 
主人公「喜んで。」  
 
本当にこいつは馬鹿弟子だ。大馬鹿弟子だ。  
 
クラーナ「なら・・・不束者だが・・・よろしく頼む。」  
 
主人公「はい。よろしくうむッ」  
 
彼がしゃべり終わる前に唇を塞いだ。  
 
きっとこれからは肩が軽いだろう。  
 
二人で背負うから当然だ。  
 
 
 
 

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