……久しぶりの人の体。  
 ぎゅっと自分を抱きしめた感触がやわらかくて、安心する。  
 あの姿では自分の生死さえ曖昧だ。失うものが少なすぎるから。  
 今度は、この体の温かみを失わないようにしなければ。  
 不死だからといって、死にたいわけではないんだから。  
 私は、まるで生娘のように両腕を回し、少しだけ涙した。  
 
 祭祀場をぐるりと一周する。  
 チェインメイルを来た男性はどうやら色々と諦めてしまったみたいだけど、あの口ぶりから察するに色々と見て回ったんだろうと思う。少なくとも今の私より強そうだ。  
 墓場に入った途端寄ってくる骨の群れはかろうじて振り切った。  
 塔であったのだろう建物の上には鳥の巣があった。あの大きなカラスのものだろうか?  
 恰幅の良い男性はいい人で――何か薄ら寒い感じはしたけれども――奇跡を色々と教えると言ってくれた。信心深くはないので断ったけれど。  
 他に人は居ない。殺風景で、何もない場所だ。そしてそれ故に安全でもある。  
 それを確認するなり、私はするりと階段を下りた。  
「……ふぅ」  
 人の居ないその小さな広場を少し行って、私はようやく一心地ついた。壁にもたれかかって、床に布キレを敷いて、つかの間目を閉じる。  
 ここは安全だ。自分は生きている。瞼の裏でそれを繰り返し思う。  
 たったそれだけのことにひどく安心する。  
 ――安心すると、浅ましい欲がふつふつと沸き起こってくる。  
 知らず、ごくりと喉が鳴る。  
 眠い。空腹だ。しかしそれ以上に、体が淫らに疼いている。  
 たまらなくなって、煩わしい装備を取っ払って、私ははしたなく股間を露出させた。  
「はぁ……っ」  
 諸々の戒めを外されたそれは勢いよく屹立した。  
 女性の体にあるはずのない、大きな陰茎である。  
 ただでさえ余計な器官だというのに、そのサイズは女性につくにはあまりにアンバランスだ。  
 カリ首が私の臍に届くほどだし、そのカリも大きく張り出して、膣壁をごりごりと削れそう。幹は太いところでは握りづらいくらい。  
 誰が言ったか肉の凶器だ。付け加えて言えば、超がつく絶倫でもある。  
 そいつは窮屈な服の裏から跳ね出した勢いのまま、先走りを私の顔に飛ばす。  
 生臭い。生臭くて――とても淫らな香り。  
 たった数滴の先走りが極上の媚薬にすら思えてしまう。それくらいにご無沙汰だった。それくらいに性欲が溜まっていた。  
 その凶悪なたたずまいを見ているうちに、女の体もきゅんきゅんと疼く。子宮が降りてくる。子種が欲しくてたまらない。……尻に敷いた布がびしょびしょだ。  
 下腹部から発生した淫猥な炎は瞬く間に胴を駆け上がって全身に回る。服が邪魔だ。手袋を外すのさえ煩わしくてじれったさに悲鳴を上げそうになる。震える手がそれをさらに難しくして、拷問を受けているに近かった。  
 それでもどうにか声は抑えた。声を上げたら人が来るかもしれないし……さすがに上の二人とはしたくない。地味なことだが、風向き的に匂いも上には行かないだろう。……そう信じたい。  
 ばさり、と乱暴に服を脱ぎ捨てた。  
 胸も、胴も、長い足も、ひどく肉感的だと自分で思う。むっちりと張り出した大きな胸は、平時はさらしで押さえていないと戦いの中では邪魔なくらいだ。  
 最後の拘束具を少し緩めるだけで、それはぷるんとこぼれ出してさらしを押しのけた。桜色の頭頂部はぷっくり腫れていて、乳輪も含めて胸のサイズに見合うくらいには大きい。  
 自分で見ていてもしゃぶりつきたくなる。下半身の大きなソレが、一際存在感を増した。  
 自分の体にここまで興奮できるのは、ナルシストの気があるのか、それともこの不浄の肉竿が原因か。――どちらでもいい。どちらにしたって、私がどうしようもない淫乱売女であることに変わりはないから。  
 そういった自己への卑下すら興奮剤だ。ナルシズムに加えてマゾヒズムとは、最早救いようもあるまい。  
 
 白い肌が外気に晒されても肌は冷えない。むしろ燃え盛っている。はぁっ、と熱の篭った息を吐いて、私はまず胸を揉んだ。  
「あ、んぅっ……んんっ……!!」  
 肉の詰まって尚上を向く自分の乳を、何も考えずに搾るように揉む。手加減はない。自分の体の扱いには慣れている。乱暴に、蹂躙するような手つきが私を軽く絶頂させた。  
 声を押し殺すのが辛い。獣のように叫び声をあげたい。その抑圧が乳を甚振る手をさらに暴れさせる。普通の女性なら痛いのかもしれない。だが、開発されきった私の体には快感だった。  
 さらに乳首に指を這わせる。  
「ひ、んっ!?」  
 ――危ない。声が出るところだった。その危機感すら背徳に近いものに感じられて、私はさらにボルテージをあげていく。もう止まれない、気絶するまで自慰に耽ってしまうかもしれない。声を抑えるだなんて簡単な自制も、いつまでもつやら。  
「んっ……!」  
 まさしく乳を搾る手で胸を苛め抜く。厳つい男が後ろから私の乳を鷲づかみにして、乱暴に強引に母乳を噴き出させる……そんな妄想までしている。  
 心底淫乱だな、と僅かな理性が私を笑う。それすらも情欲の炎が焼き尽くしていく。  
「んは、あっ」  
 荒れた息を整えることさえ出来ない。もっと、もっと、もっと気持ちよくなりたい。快感が欲しい。イキたい、イキたい、イってイって気が狂うほど絶頂に浸りたい。  
 混沌とした熱情でガタガタと震える手が、脈動する剛直に触れる。  
「ひっ」  
 手が火傷しそう、いやいっそ焼き痕をつけんと、熱の棒を握り締めた。  
「かひ、ぃ」  
 そのまま、ゆっくりと根元へ扱き下ろして、  
「あっ、ふぁっ!」  
 射精した。  
 わずか一往復もせずに精液が迸った。  
「――――っ!!」  
 声を出してはいけない。必死に声をかみ殺す。  
 快感が全身を突き上げて、私はのけぞり横へ倒れこんだ。  
 止まらない射精の矛先は草むらから私自身へと向けられ、自慢の白い肌はさらに白く汚れていく。  
 拷問だ。こんな快感すら抑圧しなきゃいけないなんて、想像を絶する苦痛だ。それを今私は体験している。  
 暴れだしそうな体を必死に押しとどめて、腰をカクカクと虚空に突き出す。尋常じゃない量の精液がぼたぼたと私に降りかかり、口に入り、胸を汚し、鼻腔を犯し、意識を塗りつぶす。  
 絶頂も一回りすれば冷静になるのか、白濁を吐き出す光景をどこか遠いところから眺めている気分になった。  
 ……一分ほどのそれが、一時間にも思えた。それくらいの絶頂だった。  
 
 たった一回の射精で、私はまるで三日三晩輪姦され続けた女のような状況になっていた。虚ろに白目をむいて、だらしなく顔を弛緩させて、絶頂に痙攣する私をどう形容すればいいだろうか。  
 色狂いの気違い女か、あるいは発情した牝猿か。淫魔と呼ばれたときは嬉しかったな、と私の中の冷静な部分が呟く。  
 それでも普段なら一度の射精でどうにか――勃起はともかく性欲は――落ち着くのだが、自慰すらご無沙汰だった今の私はそれだけでは満足できない。  
 濃すぎる精臭が、降りかかった白い熱が、舐め取った苦い媚薬が、私の炎にさらに薪をくべる。  
「精子……おいし……」  
 射精した量はボトル数本分はありそうだ。新記録かもしれない。少なくとも精液はダントツで生涯最濃だ。全身に飛散した白い媚薬を全て舐め取る。味がしておいしい。  
 そういえば、始めて味がするものを口にした。前は苦味に興奮していただけだったが、久々の味覚への刺激はその苦味すら甘美なものに変えてくれるらしい。  
 もっと飲みたい。性欲に付随して、食欲まで沸き起こってしまった。  
 身を起こして、背を丸める。萎えるどころかさらに大きくなった私の肉棒が、鼻先に来る。それにしゃぶりついた。  
「ん……ちゅ、ちゅう……んちゅ、ふっ」  
 亀頭までをすっぽりくわえ込んで、舐め回してしゃぶりつくす。精液の混じった先走りの味が口いっぱいに広がる。しょっぱいそれを味わうたび私の肉の筒はビクリと痙攣し、さらに大きくなっていく。  
 惜しむらくは、竿のほうまでしゃぶれないことだった。なので、さらに手で胸を寄せ上げ、竿を挟みこんだ。  
「――んんっ」  
 私は女だてらに胸が大好きだった。道行く人の胸を見て勃起しない日はなかった。風呂場で鏡を見るだけで勃起していたし、娼館でもまず胸は第一条件だった。  
 当然パイズリは前戯で一番好きだった。自慰中の胸でする頻度が手でするのと同じくらい、といえばどれだけ偏執的か分かるだろう。……どうしようもない変態だ。もし不死になっていなくても、遠からず隔離されていたのではないだろうか。  
 手馴れた手つきで乳をゆすり、竿をしごき上げる。自分の乳のやわらかさを堪能する。乳腺のみっちり詰まったハリのあるおっぱいが、優しく、かつ強烈に肉棒を包み込み、締め上げる。  
 ああ、私はこんな体に生まれて幸せだ。股間に生えた穢れたそれも愛おしい。卑猥に育った爆乳も大好きだ。もし自分がもう一人居たら迷わず強姦して孕み孕ませているに違いない。  
 倒錯した思考が下半身を肥大化させる。出来うる限りで腰をゆすって己の乳を犯し、乳首を裏筋に当ててコリコリとしごく。カリ首が胸を引っ掛けていくのが乳腺にまで響いて、死にそうなほど気持ちいい。  
 パイズリで感じられるのは私くらいのものだろう。時折巨根を口に含むのも忘れない。じゅるじゅると吸い上げると脳みそが紫電を発して痙攣する。  
 腰を壊しそうな体勢でも、腰を振るのが止まらない。人体の稼動限界まで酷使したグラインドで快感を貪る。両腕で自分の双球を抱きしめるようにして、ぎゅっと圧迫する。そのまま腰に合わせてゆする。  
 やわらかいのに狭くてきつい、そんな矛盾した快感を与える肉の谷間は二つ目の膣と言ってもよかった。  
 絶頂が近い。下腹部から大量の白濁がせり上がるのが分かる。自分の意識が吹き飛ばないか、ほんの少し心配になる。  
 それでも私は一際強く胸を締め上げる。みちっと肉棒が潰れそうなくらいの圧迫から、搾り出すようにしごき上げた。  
「ふぅぅぅ――んぐぅっ!」  
 びゅる、と谷間を白濁が満たした。絶頂に狂い、暴れだしそうになった体は、声を出してはいけないという禁則を思い出して押しとどまった。  
 絶頂しながらも乳肉の締め付けは緩めぬまま、谷間に口をつけて、精液を啜りながらこき下ろす。  
 とんでもない勢いでどばどばと射精を繰り返すはしたない剛直を、精液の一滴も漏らさんとくわえ込んだ。  
 そのまま口腔も喉も胃も、精液が満たしていく。じゅるじゅるとそれを飲み干す。その間も両手は胸を揺さぶり、更なる射精を誘――あ、これはまずい。  
「んぐ――んぐぅ――」  
 絶頂が引いても射精が止まらない。尿道を精子が暴れまわる快感がさらに絶頂を誘う。たまらない、止まらない、これではもう終わらない――  
「ふ――ぅぅ!?」  
 そのまま二度目の絶頂を迎える。精液ポンプの勢いが増した。  
 意識が焼ける。絶頂に次ぐ絶頂、これには覚えがある。こうなった私はそれこそ……気絶するまでイき続けたんだっけ。  
 もういいや、と色々なものを一度に手放した。気持ちいい、それで十分だった。それ以外いらない。射精して、射精して、射精する。精液を飲む。イく。それだけでいい。  
 私はそのまま獣に堕ちて、絶頂地獄に身を投げ出した――  
 
 ……結局声は上げなかった。しばらくはなけなしの食欲がモノから口を離すことを拒んだらしく、声を出そうにも出せなかった。  
 途中からは飲みきれなくなってあたりにぶちまけ始めたけれど、もうその頃には声帯も痙攣して上手く機能せず、猿のように逸物を握って精子を吐くばかりだった。  
 何分、何時間そうしていたかも定かではない。  
 ……ともあれ、ようやく私の不埒な息子はなりを潜め、私は極度の疲労で気絶しそうになりながら、満足げに寝返りを――  
「ぇ」  
 振り返った壁は壊れて、空洞を晒していた。まるで檻のように鉄の棒がそこを封鎖している。その向こうに俯いてたたずむのは、足を折りたたんで座っている女性で、なにやら服が白くべたつく何かで汚れているような気が――  
「――えっ」  
 状況の理解が追いつかない、いや理解したくない私は硬直する。  
 つまり、私は何を?  
 見知らぬ女性に、ぶっかけたと? 股間のこれを見せつけながら?  
「あ、あ、あの」  
 震える声で呼びかけるが、呼びかけてどうするのか。何を言うのか? かけるだけかけて放置してごめんなさい? 違うだろ私、誤るところが違う。  
 女性は顔を上げて、混乱する私を見た。  
 頬に赤みが差しつつも――軽蔑するような目だった。  
 あ、ダメだ。辛いこれ。  
 私は即座に土下座を敢行した。  
 しかし女性は口を利いてくれない。  
 とんでもないことをしてしまった、と私は一心に謝るのだったが――彼女の秘密を知るのは、もう少し先の話なのだった。  
 
 
つづく?  

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