衝撃。閃光。爆発。落下。  
私に回される任務はいつもこうだ。  
搭乗しているステルス武装ヘリの胴体が、まるで魚のように頭から尾までさばかれた。  
何をする任務なのか。どんな敵なのか。知る前から始まっている。  
それを教えるはずの戦闘補佐官は初撃でヘリごと両断された。  
大気の荒波が機体中に割り込み、多重装甲とFRP製の胴体が糸屑のように曲がる。  
機体が樹海の水面に触れる瞬間、飛び降りた白は枝葉の波飛沫を掻き分け、熱帯雨林の底へと堕ちてゆく。  
磁力場をクッションに着地。同時に非侵襲型BMI戦術電脳「MEMS」を起動。バイザーディスプレイ、オン。  
ヘリ搭載の索敵用ドールポッドは無事だろうか。  
搭載された銃火器やヘリ本体より、センサ装置類のほうが全体価格の六十%以上を占めるようになった今、  
機体が四散するほどの衝撃でも耐えられる頑健な仕様になっているという。  
少し遅れて数m前方、落下物。  
ドールポッド・・・じゃない。ヘリのパイロット。呻き声。  
近寄って確かめるまでもなく出血が酷いのを確認できる。戦力外。  
他の搭乗者もいた気がするが、多分役には立たないだろう。思い出すだけ時間の無駄だ。  
そう、無いよりは有った方がいいが、それでも今回は呑気にドールの報告を待っていられない。  
 
速い。攻撃が早すぎる。どんな攻撃手段なのか。  
 
逆探知の危険もあるがこちらから打って出る。  
戦術電脳の予測に基づき探るべき範囲を割り出し、周辺状況及び敵勢力把握のため電視スキャン開始。  
 
見つけた。  
殺した。  
 
落下音感知。数二十五。  
電視用の大出力レーダー波で過熱された人型熱源がバイザーに表示される。  
落下した熱源と合わせて総数八百九十四。  
人型熱源の平均温度:百二十度。  
不意に異臭を嗅ぎとる。すぐ近く。どこから。  
あ、そういえば。  
ヘリのパイロットが炭化していた。  
 
バイザーの表示を熱源画像から形状画像に変更。  
電視スキャンデータから得られた形状画像解析開始。終了。  
戦術電脳からの早期警戒警告色表示。  
なお活動中の人型形状を約二千五百m前方に確認。  
これだ。索敵と攻撃を同時に行える大出力レーダー波に、ただの人間が耐えられるはずがない。  
戦術電脳との協議開始。終了。  
対象が敵性契約者の可能性大と判定。  
 
詳細情報入手のため第二次観測行動開始する。  
電視により発見した約千m後方の無人装甲車両を無線起動。  
車載のカメラボールを垂直に射出。上空五十八メートル到達と同時に撮像開始。  
 
画像送信停止。  
亀裂音。  
爆散。  
収録時間0.001秒。  
 
以上の一連が車載光学装置からの送信画像で確認された。  
解析可能な画像をフレーム単位で分析開始。終了。  
現時点での取得済みデータを元に、戦術電脳との協議再開。  
終了。  
協議結果を行動に反映開始。  
 
超高磁力場を足元に発生させ、白は垂直に跳躍した。  
上空五十八mの高さで静止した瞬間。  
戦術電脳の予想通り、敵性契約者からのレーザー攻撃。  
跳躍開始時点で展開していた不可侵領域により防御、同時にレーザーを通じて敵性契約者との電気回路形成し、こちらから一気に過電流を流す。  
相手の体液が沸騰し、内臓が爆ぜる最期の瞬間までもが緻密な電気信号の変化としてこちらにフィードバックされる。  
殺した。今度は確実に。  
着地と同時に、通信機能の回復したドールポッドより流星の報告。  
白は安堵した。パイロット同様、どこかで知らないうちに焼いたものとばかり思っていたから。  
これが無事なら、他の損耗を差し引いても総合でプラスの点数が稼げる。  
ふっ、と肩から力が抜けた。  
戦術電脳からの警戒表示は解除されていた。  
もう必要ないだろう。  
バイザーディスプレイの電源を落とした。  
非侵襲型BMI戦術電脳、バイザーディスプレイと一体化したそれを、頭から―――正確には顔面から、白は引き剥がす。  
手に取りそれをじっと見つめる。  
白い面だった。  
星明りを映し仄青い光沢を帯びている。  
何時かの何処か。  
カーニバルで見た死神の仮面にそっくりだった。  
 

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