―― コンビニ ――  
 
「こんなもんだな。――ん?」  
 野菜を選び終え、レジに持っていこうとする俺の上着が引張られた。  
 振り返ると俯き加減の蘇芳が両手で裾を掴んでいる。  
「なんだ?」  
「……あの、買って欲しい物が……あるんだけど……」  
 細く消え入りそうな声で、やや俯いたまま上目使いにそう言われる。  
 ん、なんだ? 恥かしがっているのか?  
 注意深く蘇芳の表情を見ると、少しばかり頬が赤くなっている。  
 言いたい事をはっきりいえない契約者か――。本当にこいつは変っている。  
「何が欲しいんだ?」  
 問いかけても、モゴモゴと口を動かすだけで全く聞き取れない。  
 やれやれ、一体なんだというんだ……。  
 まぁしかし、大体想像はつく。女の心理を読むことなど俺にとっちゃ造作もないことだ。  
「分った。1つだけだぞ? 好きな菓子を選べ」  
「――は?」  
「なんだ、1つじゃ不満か? 仕方のない奴だ。菓子なんて体に良くないんだぞ。  
 まぁいい、2つ買ってやる。早く選べ」  
「違うよ! 子供扱いするな! ボクはもう大人なんだ! ボクが買って欲しい物は、その、あのセイリ……モゴモゴ」  
 威勢のいい声は終わりになる頃にはまた、聞き取れない程細い声へと落ちていく。  
 おかしいな、読み違えたか……。そうか! 俺の脳裏に閃光の閃きが走り抜ける。  
 俺としたことが、とんだ思い違いをしてしまったようだ。そうだな、そういう年齢だったな。  
「コホンっ。ああ、理解した。だがそんなに恥かしがることないだろ? お前くらいの年齢なら普通だ。  
 もっと平然としていろ。その程度で動揺していてはこの先、生き残れんぞ」  
「……うん、分った」  
 それまで俯いていた蘇芳は顔を上げ、俺のほうを真直ぐに見据える。  
「よし、それでいい。じゃ好きなのを選んでこい。エロ本コーナーはあそこの角だっ、ぐふぉっ!」  
 俺が言葉を言い終えるよりも先に、蘇芳の右中段蹴りがみぞおちにヒットした。  
「エッチ馬鹿変態!」  
 そう叫びながらコンビニを飛び出していく蘇芳を眼で追いながら俺は溜息をついた。  
 
 やれやれ、はっきり言い過ぎたか。あの年頃は難しいと聞くが、本当だな。  
 仕方ない、俺が適当に選んで持って帰ってやるか……。  
 
 

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