温かい唇に自分のそれをそっと重ねる。
ついばむようにして何度も角度を変えながら、薄目を開けて相手の様子をうかがうと、アメジスト色の瞳と目が合った。
「目、閉じて……」
そう呟くと、銀は素直に目を閉じた。
再び口づけ、華奢な身体を抱きしめる。
お互い以外はすべて敵。
そんな黒と銀の生活は、自然と二人の距離を近づけた。
けれど、彼女は人形だった。
心を持たず、あらかじめプログラムされたことしかできない生きた人形。
これまでにも何度か唇を重ねたが、口づけの決まり事さえ、覚える気配はみられなかった。
好かれている――と、思うこともあったが、それは自分の願望が見せた幻かもしれない。
だけども、黒は信じたかった。
彼女の中にも、まだ心の欠片が残っていると。
ゆっくりと目を開けながら唇を離すと、銀の顔にはなんの表情もない。
「こういうの……嫌か?」
無駄と知りながら聞いてしまう。
すると、銀は微かに首を横に振った。
「黒の顔が、見えるような気がする……」
「!」
そう言って、光を感じないアメジストの瞳で、じっと黒を見つめる銀。
全盲のはずの双眸は、本当に黒を捉えているかのようだった。
「……そうか」
黒は久しぶりに抑えきれないほどの熱い昂揚を覚えて、震えそうになる手を銀の顔に伸ばし、息がかかるくらいに顔を寄せた。
「見えるか?」
「……」
答えは返ってこなかったが、ほんの少しだけ唇の端が動いた気がした。
それは、黒にし分からない銀の笑顔。
「銀……」
黒を見つめる大きな瞳が、眼前でゆっくりと閉じられていく。
偽りの星が瞬く世界の片隅で、二人は身を寄せ合うようにして、もう一度深く唇を重ねた――。
おわり