「潜入捜査か・・・。」
美咲は、単独での任務遂行のため、ひとり愛車であるポルシェを走らせていた。
潜入先はとある隣県にある大手企業。
そこに社員として潜入し、不正の証拠を掴むというもの。
「でも何故私が・・・?」
私は契約者、BK201を追わなくちゃいけないのに・・・。
まぁ、でもこれも仕事だ。
とっとと片付けて本来の任務に戻ろう。
そんなことを考えながら車を走らせる美咲だった。
時を同じくして、契約者、黒の元に黄から指令が下った。
それはとある企業に潜入している契約者の暗殺だった。
「で、だ、どうやって、その契約者を見つけ出し、そして暗殺するかだが、」
黄がいつもの口調で話を続ける。
「おまえには清掃員のバイトとして潜入し、接触してもらう。」
もう準備は整っているらしい。
「分かった。で、その契約者の特徴は?能力は?」
黒が尋ねる。
「知らん。だが、契約者が潜入してることは間違いないらしい、。」
「・・・それだけの情報でよくも任務だなどといえたもんだな」
黒がつぶやく。
「組織の命令は絶対だ。分かるな?まぁ、潜入してるうちに尻尾を出すだろうさ。」
ためいきをつく黒。
美咲、黒のふたりの潜入捜査が今はじまろうとしていた・・・。
清掃員として潜入しての初日。
黒は社員の中に見知った顔を見つける。
「(あれは霧原美咲・・・?、公安部の人間がなぜ?)」
黒はすぐに気づいた。
「(潜入捜査という奴か。となると目的は契約者との接触・・・。)」
見知った顔の、それも公安部の人間がそばにいたのでは
任務が遂行しづらいのもまだ事実だった。
どうする・・・。
昼休み、会社の屋上でのマオとの定期連絡。
「マオ、黄に連絡しろ。何故公安部の人間が潜入してる?」
「なにぃ、公安部?黄の情報にはそんなものはなかったが・・・。」
驚くマオ。
「・・・分かった、黄に連絡して確認をとる。」
「頼む。」
黄の情報が今まで違っていたことはなかったが、
今回の指令はいつもと違う感じがする。
そんなことを思いながら仕事に戻る黒であった。
潜入して3日目。
美咲はまだ不正の証拠を掴めていなかった。
「(さすがというか、完璧なセキュリティ・・・。)」
時間がかかりそうな任務にため息をつく美咲であった。
「どうしたんですか、大塚さん?」
「・・・、え?」
となりの女子社員に声をかけられて驚く美咲。
そう今、自分は大塚と名乗っていたのだった。
「ため息なんてついちゃって、何か悩み事とか?」
「あー、いや、そういうのじゃなくて・・・、アハハ」
笑って誤魔化してはみたが、顔がひきつっているのが自分でも分かった。
今はとにかく与えられた任務に集中しようと思う美咲だった。
休み時間、
トイレに向かおうとした美咲の目に、ひとりの清掃員の姿が目に入った。
「(あれは、李くん・・・?)」
何故?と思う美咲だが、バイトでいるんだろうとすぐに思いついた。
しかし、見知った顔があるのはまずい。
任務に影響が出てしまう。
どうする・・・?
そんなことを考えていた時、李くんと目が合ってしまった・・・。
「あれ、霧原・・・、さん?」
李くんが話しかけてきた。
まずい・・・。
「あ、あの、すいませんが、人違いでは・・・?」
うつむきながらも焦って答える美咲だが、李くんは続ける。
「こんなところで何してるんです?警察のs」
「!?」
まずい、周りには人がいる!
これでは任務が・・・。
「こっち来て!」
李くんの手をとって、人目につかない空いてる会議室へと連れ込む美咲。
「あの、どうしたんですか霧原さん?」
驚く李くん。
「私は大塚です!」
「・・・」
黙る李くん。
「あのー、もしかして潜入捜査・・・、とか?」
いきなり核心を突かれてしまった美咲。
ためいきをついてしまう。
当然のことながらごまかしは効かない。
「李くん、このことは黙っててくれないかな・・・。」
核心を突かれたとはいえ、任務のことを話すわけにはいかない。
「私はあなたのことを知らないし、あなたは私のことを知らない。OK?」
「はぁ・・・。」
とりあえずうなづく李くんだが、
「えっと、潜入捜査してることは秘密ってことですか?」
「そう・・・、って、もう!」
潜入捜査してることを肯定してしまって頭を抱える美咲だった。
「今度ご飯おごってあげるから、お願い!、ね!」
美咲の懇願に、
「はぁ、分かりました。」
しぶしぶうなづく李くんだった・・・。