もう黄も…猫も居ない…今の彼女は俺の他に頼るべき存在が無いだけだ。
俺を【特別な存在】と認識してくれているのでは…などと考える方が烏滸がましい
ーーだがーー
彼女がきっと心から叫んだであろうあの日の言葉…
【一人にしないで】
初めて俺に対して彼女が願った事だった
その言葉を耳にした時からか…彼女を護り慈しみたいという感情が俺の中から沸き上がって来た。
ーそう、俺は契約者じゃ無いー。
だが、それと同時に彼女を独占しその
身体も心も全て俺で満たしてやりたいと思う様になっている自分も居る。
ーこんな俺を彼女はどう思うだろうかー
あの事件以来、契約者の存在は公が知る事となり組織からの追っ手も暫くの間は届く事が無かった。
だが…気は許せない一瞬の気の緩みが死を招く。そんな事は自分が一番良く解っていた。
突然降り出した雨の中、俺と銀はいつも定まらない宿に着いた。
「銀…大丈夫か?」「…うん。」
かなり服が濡れてしまった。
こくりと首を振り答える銀だが何かいつもと少し様子が違う、若干苦しそうな呼吸と虚ろげな目に思わず俺は額に手を当てるー熱いー。
「お前……っ」
「…?」
銀は不思議そうな顔をしていたが、そんな彼女の手を引き急いで部屋に連れて行く。着替えとタオルを出し俺は銀の結った髪を解いて拭いてやる
「無理をさせた…すまない。」
「ううん…大丈夫。」
ようやく俺が体調を気に掛けているのを理解した銀は首を横に振り、口の端をくいっと上に押し上げた。
そんな彼女の仕草に思わず笑みが零れる。
俺がいつまでも彼女の髪を拭いているとじっと見つめる視線に気が付き我に帰る
「あっ…ああ、着替えはそこに置いてある。俺は外に出ー。」
そう言いながら両手手を放しタオルを取ろうとした瞬間、言葉はそれ以上続かなかったー。
銀が俺にもたれ掛かって来たのだ。
柄にも無く少し動揺するがそれを悟られない様問いかける様に名前を呼ぶ。
「…銀…?」
返事は無い、目線を落とすと胸の辺りには銀色が広がっていた。
飛びそうになる理性を呼び戻し俺はベッドに彼女を横たえると、うっすらと彼女の口が開く。
「少し…目眩…しただけ」
「…そうか。」
気の利いた言葉は出なかった、それだけ今の俺には余裕が無い。そんな俺を余所に彼女は眠りの中へと落ちようとしていた。
このままでは体が冷え切ってしまう…。「…銀、起きろ」
「…黒…」
けだるそうに俺の名を呼ぶ銀、彼女を抱き起こすとほんのり赤く染まった顔が間近に見え一瞬戸惑う、背徳感を覚えながらも彼女の背中に手を回しワンピースのファスナーに手を掛る。下ろして行くと白い陶器のような肌が露わになる。銀は抵抗をするでも無く微睡んでいた。
少し腰を浮かせそれを取り去ると、後は欲を煽る姿でしか無かった。
…もしここで彼女を汚してしまえば彼女の心は永遠に失われてしまうかも知れない。
だが、それと反比例する様に俺の中で自分勝手な想いが生まれる…彼女をこんなに想っているのは自分だけだ…と。
過去にも大切な人は確かに居た。だが今の想いはそれよりも遥かに強いものだ。
…彼女が欲しい…
俺の頭の中はただそれだけだった。
「銀……
俺は銀の身体を引き寄せ強く抱きしめた
「ヘ…イ…?」
突然の事に驚いたのか銀の声は少しかすれていた。そして腕の中の華奢な身体がみるみるうちに強張って行くのが密着した肌を通して感じられた。
腕を緩め濡れた髪を撫で頬に張り付いた髪を退けると、銀が俺を見上げる。その瞳には何も写してはいないのだろうが
それでも潤んだ瞳は盲目という事を忘れさせるほど俺を魅了する。
顎に手を添え唇を重ねると彼女の瞳が見開かれた。