いやーちょっと聞いてよみんな。
昨日、仕事帰りに一杯やってた時に知り合った人、これがまた面白い人でさ。
酔い混じりのほら話が特に面白くて、勤め先がイギリス諜報部だっていうんだわ。
それでね、飲み終わった後がまた驚いたの。
酔いつぶれた彼女を迎えに来たのが、小学生くらいの金髪の坊やなのよ。
一体どんな関係よ?親子?姉弟?まさか恋人ってわけないでしょーし。
もぉリアクション困ったわ、ホント。
愛想のない子供の顔。
それがいつものお出迎え。
「・・・タクシー、待たせてる」
ジュライはアイリーンに丁寧に頭を下げた。
「え、その、坊や一人で大丈夫?」
「「だいじょうぶ」」
酔いつぶれた私は、自分の半分ほどの背丈しかない少年の肩を借りて、なんとか車に乗り込んだ。
酔いと睡魔で霞んだ目でも、その部屋が今朝と同じ部屋ではないということはわかった。
金髪碧眼の人形は言った。
「『まったく、うわばみの君が酔いつぶれるなんてな。・・・本当に酔っぱらってどうする』」
ふふっ。
「わかってるわよ。・・・ちょっと飲み過ぎたとは思ったけど」
「『ま、あれで猟犬たちは餌にかかった。・・・ジュライが確認済みだ。そろそろ追っ手が、ブラフを掴む時刻だ』
ボン!
階下から、何かの爆発音と振動がした。
「後始末ご苦労様」
「『どういたしまして』」
エイプリルは言った。
「アイツの猿真似はもういいわ」
額にキスをしてくれた。
「無理しなくていいのよ」
首を横に振って答えると、エイプリルは微笑んだ。
「人形劇を楽しめるほど、まだあんたは大人じゃないでしょ」
そう言って、ハンカチで頬をぬぐってくれた。
「・・・私も同じ気持ち」
頬をぬぐった後のハンカチは、なぜか湿っていた。