「私はただ、無法の輩から力無い人たちを守りたいと」  
 
――要するに、自分が正しければそれで満足という人種だ。彼女は。――  
 
その言葉が、どれだけ自分の友人を苦しめているのかもわからずに。  
 
「?どうしました、ウェイさん?」  
「いえ、お時間を取らせて申し訳ありませんでした。霧原さん。さ、車へどうぞ」  
「そんな、こちらこそ。丸ごと貸し切りにしたお店で、美味しいもの食べさせて貰っちゃって。あなたも大変ですね」  
「これも仕事です。お嬢様には嫌われますが。・・・あなたがどんな人なのか、よくわかりました」  
「私もよ。あなたって、いい人なんですね。『どんな人なのか、あなたと話してもっとわかりあいたい』って・・・本当に、話せばわかるものなんですね」  
 
先入観で感じた通りの人間だった。  
話しただけ、時間の無駄だった。  
 
 
「・・・あなたは何にもわかっちゃいない」  
 
「お願いウェイ・・・私を自由にして・・・」  
私に抱かれたくらいで、何にもならないということがまだわからないのか。  
 
契約者が殺人機械だと知っている。  
私が契約者だと知っている。  
「はい、お嬢様」  
それなのに、この言葉だけで忘れてしまう。  
 
女の唇。  
柔らかな肢体。  
紡がれる嬌声。  
 
それら全てを、最後にはどうすべきか、私は知っている。  
 
なのに、彼女は知らない。  
 
それとも、毒だとわかっているのに捨てられないのか。  
煙草もあの女も、そして私のことも。  
 
わかっているのに、わからないふりをし続けている。  
一人芝居を続けてる。  
 
なら、もうわからせよう。  
 
 
 
「・・・わからないのか?俺はお前と戦う気はない」  
「ええわかりませんねぇ、BK201。あなたの意志など知る気も無い!」  
 
 
『未来がわかると?』  
『ええ。あなたが信じるか信じないか・・・それもわかってるわ』  
『・・・先の事なんて、誰にもわからない』  
『じゃ、引き受けて貰えるかしら。ルートは』  
『あの地下鉄跡を使うのでしょう。それと、案内後はどう動こうが構わないのですね?』  
『よくわかってるじゃない』  
 
 
・・・わかっていたのに、どうしてそうしたのだろう。  
 
胸の内側から、何かが迫り上がってくる。  
 
ごふっ。  
 
もういいだろう。  
わかる必要もなくなるのだから。  
 
 
私の全ての血。  
何処に行くのかわからないし、気にとめたことも無かった。  
 
―――今、無性に知りたいと思うのは何故だ?  
 
自分で逝けばわかるか。  
泰山府君に聞く気も無い。  
 
「行け・・・BK201・・・!」  
 
最後の対価を、払った。  
 
 
 

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