「・・・はぁ・・・・あっ・・」  
 
 
――私はしてはいけない事をしている。こんな事は早くやめなければ――  
 
 
理性では判っている。だがどうしようもなかった。  
 
ここは、警視庁の過去の事件をまとめた帳簿を保管する書庫。  
夕方を過ぎた頃には、誰も来ない。未咲はそれを知っていた。  
それを利用して、この人の気のないひんやりとした薄暗く狭い部屋で  
あまり使われる事のない堅いソファーの上で、胸をはだけ、薄い下着の上から  
軽く指を滑らせている。湿気の篭った部屋に、微かに口から漏れる吐息だけが響く。  
 
「ああ・・・」  
 
いけない・・・こんな事は、もうやめにしなければ。  
 
指先で硬くなった桃色の小さく可憐な乳首を弄りながら、薄く透けた下着の上から  
そっと濡れた花弁をゆっくりと上下になぞっていく。  
 
霧原未咲は27歳。女性としてその肉体もこれから熟していく女盛りだ。  
堅物で真面目で通っている公安部外事四課課長の自分がこんな所で自慰行為に  
はしっているなど、一体誰が想像するだろうか。  
ぞくりと背中を快感が走る。月に1度はこんな淫らな衝動に駆られてしまうのだ。  
それも、どうしようもなく、抗えない欲情に。  
 
そっと下着の中に指を差込み、中指で花弁を撫でながらその硬くなった小さな花芯を  
人差し指の先でこねてみる。慣れた手付きで。  
 
「あっ・・・あう・・・」  
 
脳裏に浮かぶのは、そう――昼間にいつかまた出会った、青年。  
李舜生と名乗る青年。彼にもし――抱かれたとしたら、どんな気分なのだろうか。  
 
いや、そんな事はありえない。  
 
未咲は軽く首を振った。  
 
別に彼と肉体関係を持ちたい訳じゃない。ただ・・・そう、ただ  
学生の頃に抱いた様な、淡い憧れ――まるで初恋の様な。  
そう頭では思いつつも、体の奥からチリチリと湧き上がる様な熱に耐えられず  
知らず、その青年に犯される淫らな妄想に未咲は軽く絶頂を迎えた。  
 
――カタリと、音がした。  
 
ハッと我に返り、慌ててはだけた胸をシャツでかきあわせる。  
誰も来ない筈だった。しっかり鍵も閉めていた筈だ。  
そう、今、この瞬間までは。  
 
ゆっくりと見上げた未咲の視界に捕らえた先には、一人の男が立っていた。  
白のスーツを着こなした、金髪碧眼の男。その様に一分の隙もない。  
 
――すなわち、ノーベンバー11だった。  
 
「ノーベンバー11・・な、なぜあなたがここに」  
 
まさか――見られていたのだろうか。心臓が早鐘の様に鳴り響く。  
喉は擦れてカラカラだ。だが動揺している様を彼に見せる訳にはいかない。  
 
「いやぁ?私はただ、未咲、あなたを捜していただけですが」  
軽く顔を傾け、口の端を僅かに吊上げながら、一歩、未咲の方に踏み出した。  
 
「あの真面目で堅物と評判の課長が・・・」  
 
その端整に整った顔立ちがスッと未咲の顔面の前で止まる。  
 
「まさか、こんな所で自慰行為に及んでいるとはね」  
 
 
――見られていた――  
 
一瞬にして顔中が紅潮していくのが判った。よりによって、この男に。  
ひたと、その晴れ渡る澄んだ蒼穹の空とは似つかない、深く冷たい水の底の氷の様なブルーの瞳が  
じっと未咲の全身を隙間なく見据えている。  
まるで、夜中に一糸まとわぬ姿で野外に放り出された様な不安な気分に未咲は駆られた。  
 
「一言、言ってくれれば」  
 
ゆっくりと手が伸びてくる。  
 
「私で良ければ、いつでも、慰めたのに」  
 
涼やかで静かな、それでいて甘い声が未咲の耳元をくすぐった。  
だが、その手に捕らえられる寸前に素早く身を引いた。  
 
「結構です・・・っ」  
 
急いで出口のドアの方に踏み出す。早くここを出なければ。  
しかしそうはいかなかった。  
背後から力強い腕に捕らえられたかと思うと、気がつけばその堅いソファーの上に  
身動きも取れないほどしっかりと組み敷かれていた。  
 
「ここは一つ、合理的に判断してみませんか?未咲」  
 
耳元で優しく囁く。  
ぞくりと未咲の背中を甘い衝動が走る。知らず身体が震え、かすかに喘いだ。  
その様を見据えている青く冷たい瞳の奥が欲情でチカッと光る。  
 
「おっしゃる意味が判りかねます・・・ノーベンバー11」  
 
「さて・・・それはどうかな」  
 
にやりと笑った。  
そして慣れた手付きで素早く身に着けていたスーツを脱ぎ捨てていく。  
両足でがっちりと上から固定されている未咲は逃げる事もままならない。  
 
「離してください・・っ!」  
 
激しく身体をくねらせ、未咲はもがいた。その拍子にはだけたシャツから  
真っ白いすべらかな肌をした、美しく形の良い乳房が揺れてこぼれる。  
慌てて引き上げたズボンは既にずり下がり、しっとりと濡れた秘部が透けて見えた。  
 
「・・・別に私は、嫌がる女性を無理やりレイプする趣味はないが」  
 
目が離せなかった。  
既に股間は欲情で張り詰めている。  
 
「今の君を見ていると・・・それも分からなくもない」  
 
するりと両手をシャツに差し入れ、柔らかい乳房を揉みしだく。  
その驚くほどの快感に未咲は背中を仰け反らせた。  
 
「随分と敏感になっている・・・どれ位弄っていたのかな?」  
 
耳元で囁きながら、両手の親指の腹でゆっくりと硬くしこった乳首を擦る。  
 
「ああ・・っ」  
 
屈辱と羞恥と快感の全てがないまぜとなって未咲は喘いだ。  
更にその長く骨ばった指は下腹部をつたい、そっと花弁を押し広げる。  
既に、濡れそぼった膣にゆっくりと中指を挿し入れ込む。  
ヌルヌルとした感触で指の根元まで締め付けてくる。焦らす様にゆっくりと  
指を抜き挿ししながら、口に乳首を含み、舌でこねる様に何度も刺激した。  
 
「あああっ・・・だ、だめぇ・・・っ・・」  
 
体中を打ち震わせながら未咲は知らず腰を浮かせた。こんな快感があっただろうか。  
自分の指で慰めているのとは、全く比べ物にならない。  
その様に、ノーベンバー11は薄く笑いながら囁いた。  
「まだまだ・・・これからですよ?未咲」  
 
その巧みな舌で、敏感になった小さく可憐な花芯を捕らえる。  
「ひっ・・・」  
ビクリと未咲はその鋭い快感に背中を仰け反らせた。  
「・・・こんなに赤く腫れてとがらせて・・・全く霧原課長がこんなに淫らだったとはね」  
卑猥な言葉と、コロコロと舌の上で花芯をころがされ、未咲の理性は半ばふきとんでいた。  
 
「ご・・ごめんなさい・・・」  
秀でた額に美しい眉を寄せて皺をかすかに浮かばせ、双眸を潤ませて、すすり泣いた。  
赤く柔らかくぽってりとしたその官能的な唇から吐息の様な甘い声が漏れ出る。  
「ああ・・未咲。そんな顔をされると・・・」  
眉根を寄せて、口元を歪ませながら、グイと身体を反転させ、両手で尻を持ち上げ  
既に熱く硬く張り詰めたペニスを、その濡れた秘部に押し当てた。  
「ますますいじめたくなってしまう・・・・」  
一気に膣内へとペニスを押し込む。  
「あああああっ!」  
その衝撃と圧迫感、そしてこの上ない痛みに未咲は鋭く喘いだ。  
貫いた部位から微かに滴る鮮血に、彼はハッと眼を見開いた。頬に一筋汗が流れ落ちる。  
 
――まさかバージンだったとは――  
だが・・  
 
「今更、もう遅い・・・未咲」  
挿入時よりも幾分ゆっくりと膣内に押しいれていく。その窮屈感と締め付けに  
一気に射精したい欲求に駆られたが、かろうじて耐えた。  
 
「さて・・・霧原課長は、どんな犯され方を妄想して自慰行為に耽っていたのかな?」  
緩やかに腰を律動させながら背後から乳房を両手で包み込み、乳首を軽く指でつまむ。  
耳元で囁かれる淫らな言葉に、未咲は破竹の痛みも忘れ、悶え喘いだ。  
「あ・・・っ、そ、そんな・・っあっあっ」  
除々に律動が激しくなり、シンと静まり返るはずの部屋には甘い声と吐息、  
硬いソファーがきしむ音と身体がぶつかりあう音に合わせて、  
粘液のこすれる淫猥な音が響き渡った。  
 
「どうやら、霧原課長は淫らな言葉に責められるのが大好きらしい」  
薄い唇の端を吊り上げ、更に腰を使って突き上げ、攻め立てた。  
深く突くたびに、奥からぬるりとした愛液が溢れ出してくる。  
「まさか・・バージンでこうしてバックから犯されるのを妄想して自慰に耽っていたとか?」  
「ち・・ちが・・・あっああああっ!」  
その言葉がとどめの様に、一気に未咲は絶頂を迎えた。  
ビクビクと身体を震わせ、激しく背中を弓なりに反らせる。  
その急激な膣内の締め付けに、思わず歯を食いしばり、精液を迸らせ射精した。  
 
ヒクヒクとまだ膣内は痙攣していた。  
ゆっくりと頭をもたげる未咲の紅潮した頬を指先で撫で、そこに伝う涙を軽く舌で舐めあげる。  
「ノーベンバー11・・あの、この事は・・・・誰にも・・」  
潤んだ瞳が微かに開かれ、未咲は小さく懇願した。  
「・・・何の話かな?」  
にやりと彼は笑った。その様は面白がるように、まるでネズミをいたぶるネコの様に  
氷の様な瞳の底は翳り、未咲を視姦している。  
その端整な横面を張り倒してやりたくなった。だがその衝動に未咲は耐えた。  
MI6最高のエージェントと称される彼に、そもそも平手打ちなどたやすく通じる筈もない。  
それを見透かす様にノーベンバー11は軽く笑った。  
「冗談です。」  
緩やかに手を伸ばし、未咲を引き寄せる。  
「知っているのは、私だけで良い」  
再び乳房を両手で包み込み、ゆっくりと揉みしだいた。  
「あ・・・っ」  
未咲はその感覚にすぐに反応して、息を鋭く吸い、身体をこわばらせる。  
「だが・・それには対価を支払ってもらわないといけない」  
「対価・・・・」  
未咲は眼を大きく見開いた。彼の言わんとしている事は、ただ一つだ。  
「そう・・・我々契約者の様に」  
囁く様に開いたその薄い唇が、未咲の柔らかい唇を塞いだ。  
甘い唇を貪りながら、そのまま既に硬く張り詰めたペニスを膣内に挿し入れる。  
その衝撃に塞がれた唇の隙間から未咲は悲鳴を上げた。  
 
堅いソファーの上に未咲は横たわっていた。  
あられもないその肢体の上には白いスーツの上着がかけられている。  
性交の後の気だるさに抗えず、ゆっくりとまどろみの中におちいる意識の底で  
ぼんやりと覚えているのは、あの甘く涼しい男の声だ。  
「未咲。いつでも、慰めが欲しい時は私にどうぞ、・・そう、いつでも」  
カチリとドアが開いた。  
「それから、その上着は、あなたが返しに来て下さい。・・私の滞在する部屋まで」  
にやりと彼が笑った気がした。  
 
そして――カチリとドアは閉まった。  
 
   
 
    END  
 
 
 

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