「お前ってさ、始めは乱暴だけど、後になると優しくしてくれるんだよな」  
自分の膝枕で、猫のように丸くなって寝ていた女の声が唐突に耳に入る。  
「どうした、いきなり」  
もう目を覚ましたのか。いつもより、随分と早い。  
「私のこと『カーマイン』って、ちゃんと名前で呼んでくれるのも、お前だけだし」  
 
―――みんな『災厄』としか、『ハヴォック』としか呼ばないのにさ。  
 
「本当の名前でもないのに、何を拘っている?」  
突然ベッドから身を起こし、俺の顔を覗き込んだ。  
「女は細かいところを気にするんだよ」  
女から、突然の口付け。  
「・・・寝惚けてるのか?寝直せ」  
女の頭をゆっくりと膝の上に戻した。  
「それと、いつも私が目を覚ますまでずっと側にいてくれる・・・それがいちばん嬉しいんだ」  
 
・・・一体何なんだ?  
こいつらしくもない。  
やはり、まだ寝足りないのだ。  
 
「起きるまでいてやるから、寝言は寝て言え」  
 
『信用して貰えたかしら、教祖さん』  
私は彼女の握手に応えた。  
人間からは無いと言われる、精一杯の心を込めて。  
『私のことはアルマでいいよ・・・我が儘を呑んで貰って済まないね、アンバー』  
彼女は、握手の次に笑顔を振る舞ってくれた。  
『これから宜しくね、アルマ。EPRの同士として』  
 
でも、どうして彼女なの?  
 
『私に化けたほうが、彼、もっと素直で優しいのにさ』  
可愛らしい眉に皺を寄せて、頬をぷぅと膨らせた  
 
―――本当に、ほっとする。  
素地を曝した契約者が、顔も語調も、こんなにも感情豊かに喋るなんて。  
 
『・・・どうしても知りたかったんだ。最低最悪の契約者でも、優しくしてくれる人間が本当にいるのか』  
 
『私が選んだ人だもの。当然でしょ?』  
 
にひひ。  
 
彼女の笑顔。  
彼女の仕草。  
それを見るたびに、契約者も人間なのだと、そう言い聞かせることができる。  
他人にも自分にも。  
 
それに、もう一つ。  
 
―――最低最悪の契約者でも、人の子なのだ。  
 
『可愛らしい所があるんだね。あの赤毛のお嬢ちゃんも』  
勘のいい彼女は、すぐに気づいた。  
『まさかあなた・・・中も、写せるの?』  
 
そうさ。  
精神感応。  
外も中も、成り変わる。  
――――あれは、私じゃあないよ。  
 
『まあね。対価も大きくなるけど。・・・でも、決して高くは無かったよ』  
 
「いい夢みさせて貰ったから。十分に」  
 
「・・・本当にいいのか?」  
炎髪の男は、私に再度尋ねた。  
「あの男はアンバーが絡むと見境がなくなるらしい。逆上してあんたを縊り殺すかもしれんぞ」  
 
―――話すどころじゃない。元から命を狙われているのに。  
 
「なのに、思い残すことも無いから、もうほっとけと?」  
「ああ。残りのドールは、いつもの場所に。・・・アンバーによろしくね、雨霧」  
 
―――もう、これ以上言っても無駄か・・・致し方ない。  
 
「彼女の旧友を置いて去るのは、俺も忍びないんだがな・・・」  
男は、軽く溜め息をついた。  
「では、これでお別れだ。ご老体」  
「・・・最後まで失礼な男だね。少しはあの坊やを見習いな」  
 
こんな皺くちゃな見てくれでも、あんたより年下なんだよ?  
 
信者も同士もいなくなった部屋は、本当に静かだった。  
誰も、誰もいない。  
あの時と同じだ。  
家族も友人も、すべてを失ったあの時と。  
私が契約者だと、皆に知れてしまっただけのあの時と。  
 
―――でも、彼は来てくれる。  
 
「最期に見せてくれるのは、一体どんな夢・・・?」  
誰に聞かせるでもなく、私は呟く。  
 
死神に看取られる者は幸福だという。  
迷うことなく、堕ちることなく、神の御許に逝けるのだから。  
 
カツン。  
 
―――彼だ。  
 
さあ、見せてちょうだい。最期の夢を・・・  
 
 

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