銀が風邪をひいた――と、猫が言った。  
 
まず最初に浮かんだ感情は、面倒くさい、だった。  
黄が銀の看病などする筈もないし、マオは猫である。  
必然的にお鉢は自分に回ってくる。全くいい迷惑だ。  
しかしドールが使えない状態では、任務に支障がでる。溜息をついて黒はのっそりと立ち上がった。  
 
適当に食材を買い込み、煙草屋へ向かう。  
「…銀。俺だ、入るぞ」  
低く声をかけ、木造の戸を開けて足を踏み入れる。  
殺風景な畳の部屋の中央に、無造作に敷かれた布団。  
そこに銀の髪の少女が横たわっていた。相変わらず、ミスマッチな風景だ。  
「具合はどうだ。熱はあるのか」  
問いかけながら、枕元に腰を下ろす。  
銀は声のした方へ虚ろな視線を向けた。普段は透きとおるように白い頬が、うっすら赤く染まっている。  
「…わからない。でも体が熱い」  
「起きなくていい。眠っていろ」  
ふらふらと身を起こそうとするのを止める。  
額に手をあてると、かなり熱い。大分熱があるようだ。呼吸も少し荒い。  
赤く染まった頬に、銀色の髪が一筋流れている。  
普段ひとつに結い上げられている髪は、今はおろされていた。  
身に纏っているのは、白いレースのほどこされた綿のネグリジェのようだ。…黄の趣味か。  
思って眉を寄せる。ぞっとしない。  
「栄養をとったほうがいい。御粥でも作る。食べられそうか」  
立ち上がりながら尋ねると、枕の上で、こくり、と小さな頭が揺れた。  
 
鍋に水を張り、火にかける。炊き上がった白米を鍋に入れ蓋をする。  
生卵を割りかきまぜる。葱を刻む。  
黒のアパートと大して変わらない、狭い台所。普段、銀は使っているのだろうかとふと思う。  
日常生活に必要な行動はインプットされている、と黄は言っていたが、  
料理はその範疇だろうか。銀は食事をどうやってとっているのか。  
思えば、銀について、全くといっていいほど知らないことに気付く。  
銀だけではなく、猫や、黄についても。  
そもそも興味がなかった。知る必要などないと思っていた。必要なのは、任務を遂行することだけ。そう思っていた。  
今は、どうだろう。…分からない。けれど、自分の中で何かが少しずつ変わりつつあるという、自覚はある。  
「仲間だ」と、自ら口にしたあの時から。  
 
「起きろ、銀」  
ぐったりした背と敷布団の間に腕を差し込み、身を起こさせる。  
が、ぐにゃりと銀の体が傾いだ。黒の胸元に上半身が寄りかかる形になる。首筋にかかる吐息が熱い。  
これでは銀ひとりで食事を済ませることなど到底無理そうだ。  
軽く嘆息し、御粥ののった盆をひきよせる。レンゲで一口分掬い上げ、銀の口元まで運ぶ。  
このままでは熱いか、と気付き、軽く息を吹きかけ冷ます。  
「銀、口を開けろ」  
黒の声に、銀がのろのろと顔を上げた。鼻先にあるレンゲに、くん、と鼻を鳴らす。  
「…いいにおい」  
「いいから食べろ」  
位置を教えるためにレンゲで銀の唇をつつく。突然の刺激に、微かに銀が体を震わせた。  
体を黒に預けたまま、小さな口を開ける。赤い舌がちらりと覗いた。  
何となく、見なかったことにしたい心持ちになりながら、唇の間にレンゲを差し入れる。  
こくりこくりと嚥下する度に、白い喉が小さく上下した。  
空になったレンゲを唇から離すと、なにやら俯いて口をむにむにとさせている。  
そして右手の人差し指を唇の端にあて、口角を押し上げた。  
「…おいしい」  
「……。そうか」  
誰から教わったのか、最近銀はこの仕草をよくする。どうやら、笑顔を作っているつもりらしい。  
ドールには心など存在しない筈だが、このところの銀は、僅かながらも明らかに意思や感情を覗かせるようになっている。  
過去を共にした者の差し出す手を拒み、過去の名ではなく、銀という名を選んだ。  
黒の名を呼び、見えない瞳で黒を見つめて。  
あの時、自分は何を思っただろうか。  
そして今、何を思っているのだろうか。この銀色の少女に。  
 
椀はすぐ空になった。どうやら食欲はあるようだ。この分なら快復までさほど時間はかからないだろう。  
「桃、食べるか」  
頷く。  
大した食欲だ。少しばかり可笑しい気持ちになりながら、ガラスの器に切り分け盛られた桃に右手を伸ばす。  
左腕は、銀を支えるため彼女の背に回したままだ。  
フォークも爪楊枝も見つからなかったので、指で桃をつまむ。手はきっちり洗ってあるのでまあ大事無いだろう。  
果汁で指先がべたつくが仕方ない。  
「ほら」  
声をかけて、桃を小さな唇にあてる。銀は顔を上げると、ぱくりと果肉をくわえた。  
じゅわり、と果汁が溢れ出す。甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。  
濡れた唇が、いつもより紅く見える。熱で染まった頬も、宙をさまよう瞳も、紅い。  
つぅ、と透明な雫が唇の端から流れ出た。  
頬から顎へとつたい、白い首筋へ、  
ああ、零れ落ちる―――  
 
思った瞬間、柔肌に唇を寄せ舐めあげていた。  
 
腕の中でびくり、と銀が大きく震えた。  
はっと我に返り体を離す。自分は今何を。  
銀は見えない瞳を見開いて、舌を這わされた箇所を押さえている。  
「…黒、今のなに」  
「…いや、その、汚れる。桃の汁で、だから」  
何だこの片言は。  
小さく首を傾げて見上げてくる銀の顔を直視できず、口の中で舌打ちして目を逸らす。  
と、右手の指先が何か生暖かいもので包まれた。思わず小さく息を飲む。  
「…っ!何を…」  
「黒の手も、汚れてる」  
果汁に濡れた指先を、小さな舌がたどたどしく這う。  
指を舐めあげる柔らかい感触に、ぞくり、と微かに肌が粟立った。  
甘い香り。桃色の舌先に目を奪われる。  
頭の芯が鈍く痺れるようなこの香りは、桃の香りか、それともこの少女のものか。  
自分は契約者で、この少女はドールだ。それだけで表せる筈の関係。  
では、今自分が彼女に抱いている感情は何だ。  
愛おしいなどという感情はとうの昔に無くした筈だ。  
きっと、この香りに惑わされているだけだ、ただそれだけだ。  
 
――それだけの、筈なのだ。  
自分に言い聞かせ、小さな甘い唇に自らのそれをゆっくりと寄せた。  
 
柔らかな唇をゆっくりとふさぐと、びくりと銀の体が強張った。  
それをほぐすように、指先でそっと白い頬をなで、啄ばむような口付けを幾度も落とす。唇に、額に、頬に。  
大きく見開かれた瞳は揺れていた。そこにあるのは、驚きか戸惑いか、それとも別の何かか。  
「…黒…?」  
小さく、掠れたような声が響く。問いかけ。けれど拒絶の色は感じられなかった。  
いや、自分が感じ取りたくなかっただけかもしれない。  
「…目を、閉じろ」  
囁き、角度を変えながら、ゆっくりと、何度も唇を重ねる。  
繰り返すたびに、少しずつ、深く、長く。  
湿った唇から、僅かに苦しげに吐息が漏れる。熱い。  
細い体を支えるために背に回した左手で髪を梳き、右手を首筋から背中にかけて這わせ、さする。  
下唇に軽く歯を立て甘噛みし、舌先で、溶かすように唇をなぞる。  
銀が堪え切れなくなったように、大きく息を吐いた。開かれた唇に、そのまま舌を滑り込ませる。  
「…っ」  
再び銀の体が強張った。構わず唾液を送り込み、歯列の裏側をなぞり、奥で縮こまる舌を絡めとる。  
微かに、甘い桃の味。それを味わうように、咥内を侵す。  
細い指が、縋り付くようにぎゅっと黒のシャツを掴んだ。応えるように抱き締め返す。  
逃げようとする舌を搦めとり、吸い上げ、擦り合せ、何度も絡ませる。  
「…は、ぁ…」  
しばらくして、ようやく唇を離すと、喘ぐように銀が息を吸い込んだ。  
小さな唇の端から、飲み切れなかった唾液が伝い落ちる。それも舐めとると、腕の中の体がふるりとわなないた。  
 
「黒…何…?」  
見上げてくる虚ろな桃色の瞳は、濡れたように潤んでいた。  
少しでも両腕に力を込めたら、容易く折れてしまいそうな、華奢な肢体。  
このかよわく柔らかい少女を、守りたい、慈しみたいという感情と同時に、  
けれど胸の内から、正反対の薄暗い衝動が湧き上がるのを感じる。  
あの夜、銀色の月の光を一身に浴びながら、流れる筈のない涙を流した少女。  
 
―――…泣かせたい。  
 
あの透き通るような涙を、もう一度、今度はこの手で。この腕の中で。  
白い肌を紅く染め上げ、痕を刻みつけ、喘がせ、壊れるほどに。  
「黒……ぁっ…」  
問いかける声に答えず、耳元に唇を寄せ熱い息を吹き込めば、微かに吐息が漏れる。  
そのまま耳朶に舌を這わせれば、小さく体が跳ね上がる。  
逐一返される反応に、歪んだ愉悦がぞくりと全身を包み込んだ。  
微かに漂う甘い残り香に、じくじくと理性が溶け出していく。触れ合う肌は、燃えるように熱い。  
銀は熱を出しているのだと、頭の片隅で声が響く。けれどそんなもの一瞬で押し流された。  
突き動かされるように、白い首筋に唇を強く押し付ける。  
小さく零れる声も、震える睫毛も、もはや更に熱を煽るものでしかなかった。  
 
唇を肌に押し付けたまま、首筋をゆっくりと這い下りる。  
仰向けに押し倒された少女は、未知の刺激に喘ぐことしかできない。  
自分の身に何が起こっているのか分からないまま、ただ翻弄されてゆく。  
両腕はいつの間にかしがみつくように黒の首に回されていた。  
鎖骨に口付けを落としながら寝巻きを肌蹴させていくと、真っ白な胸が露わになる。  
なだらかな線を描いたふくらみは、黒の掌に簡単に収まってしまうほど慎ましい。  
白くなめらかな乳房と淡く染まった先端が、少し乱れた呼吸に合わせて上下している。  
熱のせいか、しっとりと汗ばむ柔らかなそれを、両の手の平で、裾野から突起へ絞るように揉みあげる。  
「…小さいな」  
思わず呟くと、一瞬細い指先に力が入り、軽く爪をたてられた。  
意外な反応に、知らず喉の奥で小さく笑う。低く、そっと囁く。  
「気にしてるのか」  
「…知らな、――っ…」  
掠めるように突起を唇で挟めば、十八番の台詞は途中で甘い吐息に変わった。  
そのまま口に含み、舌先を尖らせ先端をなぞる。  
「あ…、…ぁ…」  
舌と指先で左右を責められ、銀が切なげに身を捩じらせる。  
普段、黒い衣服で隠されている真っ白な身体が快感に震える様に、身勝手な欲望がまた駆り立てられる。  
零れ落ちる声に誘われるように、白い肌に吸い付き、痕を残していく。  
寝巻きと下着を剥ぎ取り、両脚の間に身体を割り入れ、ほっそりとした太腿に手をすべらせ撫で上げる。  
更にその奥へ指を伸ばすと、小さく銀が息を飲んだ。構わず指先でなぞる。  
「あっ」  
人差し指がぬるりと滑り、微かに中へ潜った。びくりと華奢な身体が跳ね上がる。  
ぬめりを塗りつけるように指先を行き来させると、唇から細い声がもれる。  
潤んだ瞳に微かに怯えが走ったように見えた。奥底に潜んでいた嗜虐心に火が灯る。  
更に追い詰めるように、敏感な突起を指で軽く押し込んだ。  
「あぁっ…!」  
一際高い声をあげて、銀がきつくのけぞった。  
逃れようともがく身体を押さえつけるように覆いかぶさる。  
胸の先端を再び舌で転がしながら、下の突起をぬるぬるとこねあげる。  
泣くような、甘えるようなか細い声が響き渡る。  
上気した頬。蕩けたような表情。火照った肌。荒い呼吸。乱れた銀色の髪。  
普段からは想像もつかないその姿に、意識が紅く染められてゆく。  
「ぁ…あぁっ…」  
嬌声に、切羽詰ったような色が混ざり始めた。湿った水音が大きさを増す。  
こぼれる声を吸い込むかのように乱暴に唇を奪う。  
「んっ…」  
唇をこじあけ、無理矢理に舌を差し込む。銀が目を見開いた。  
思い切り舌を吸い上げるのと同時に、きゅうっと突起をつまみあげる。  
「――――…っ!!」  
腕の中で小さな身体が跳ね上がり、昇りつめたかのように痙攣した。  
 
荒い息遣いが狭い部屋に響く。  
男に組み敷かれた状態で、少女はぐったりと身体を弛緩させていた。  
あれから幾度も指で解され高められ、意識が溶けてしまったのか、  
瞳も唇も半開きのまま、浅い呼吸を繰り返すばかり。  
しかし息をつかせる暇も与えず、黒は熱く溶けきったそこに張り詰めたものをあてがった。  
そのまま一気に腰を押し進める。  
「………ッ!!」  
突然の衝撃と痛みに、銀が声にならない悲鳴をあげた。  
「…はっ…」  
きつい。侵入を拒むかのように締め付けられ、図らずも熱い息がもれた。  
意識ごともっていかれてしまいそうな感覚に歯を食いしばる。  
華奢な腰を抱えなおし最奥へと分け入ると、銀は縋り付くものを探すように両手を泳がせ、  
黒の背中にしがみつき爪をたてた。  
背に感じるその微かな痛みすら、熱を孕み欲情となって膨れ上がる。  
それに押されるままに、小さな体に楔を幾度も打ち込むと、細い悲鳴があがった。  
「あぁ…あっやっ…ぁ」  
苦痛を滲ませた声が意識を痺れさせていく。  
隙間なく繋がった部分から何かが熱く溶け出して全身を回る。  
貪るように柔らかな肌に唇を這わせる。  
汗で張り付くシャツの感触だけが不快で、そういえば脱いでいなかったことに今更気付いた。  
…抑制を欠いている。  
任務上、女を抱くことも度々あったが、自分を見失うようなことは一度もなかった。それなのに今は。  
 
「…っ、…黒……っ」  
不意に名を呼ばれ、思わず息を飲んだ。  
無意識の産物だったのだろう、銀の口から漏れるのは意味を成さない喘ぎ声ばかりだ。  
任務で接触する女たちとは、黒としてではなく、中国人留学生、李舜生として触れ合う。  
故に情事中も、彼女たちが口にするのは李の名だ。  
黒、と呼んだのは今までにひとりだけだった。愛おしむように、幾度も幾度も呼ばれた。  
 
…琥珀色の瞳を持った女。  
 
瞬間、どくり、と中のものが張り詰めた。  
「あっ…」  
銀が声をあげ身体を震わせる。自分で自分の身体の反応が信じられず、黒は顔を歪めた。  
突き上げるたびに、散らばる長い髪。絡みつく腕。名を呼ぶ声。  
目の前の少女とは全く違うものの筈なのに、重なって見える。見えてしまう。  
残像を振り払うかのように、律動を激しくさせる。荒々しく揺さぶられ、一層高い声があがる。  
「んっ…」  
これ以上名を呼ばせないように、開いた唇を自分のそれで塞いで閉じ込めた。  
何も聞きたくない。見たくない。  
こみ上げてくる苦い感情とは逆に、快感はふくれあがり体中を駆け巡る。  
塞がれ、出口を失った熱は、更に大きくなって意識を焼いた。  
苦しげな声が、口の中でこだまする。まるで傷つけるかのように、乱暴に打ちつける。  
中も外も何もかもが熱くて、一体それがどちらのものなのか分からなかった。  
腕の中の身体は、どこまでも柔らかく細い。  
この身体を壊れるまで貫いて、このまま絡みあって溶け合って消えてしまえれば。  
「…っ」  
もう限界だというように、銀が黒にすがりついた。紅く染まった意識の中、少女に目を落とす。  
ぎゅっと固く閉じられた瞼から、流れ落ちる一筋の涙が見えた。  
同時に、快感が迫りあがり、真っ白に爆ぜる。  
――その瞬間、体中を包み込んだのは、ただ罪悪感のみだった。  
 
「…すまない」  
互いの息が整った頃、重い体を横にずらしながら呟くと、ゆっくりと右手が頬にのびてきた。  
何かを辿るように、細い指先が頬をすべる。  
「黒、泣いてるの」  
泣いていたのはそっちだろう、と思い、また罪悪感で視線をそらした。  
頬にそえられた右手をつかんで、戻す。  
「…どうしてそう思う」  
「…わからない。そんな気がしたから」  
両の目はいつもと変わらず乾いていた。  
もうずっと、泣いたことなどない。涙の流し方など忘れてしまった。  
妹を失ったとき、あの女に裏切られたとき、自分は泣いていただろうか。  
もう、それすら覚えていない。  
 
「…あのひとが、言ってた」  
ぽつり、と銀が呟いた。あのひと。その単語に、身体が強張る。  
鋭い眼差しで睨みつける黒に構わず、銀は淡々と言葉を紡ぐ。  
今のこの自分が聞いてはいけない言葉のような気がした。  
息が詰まる。聞きたくない。  
「一度だけ、見たって」  
聞きたくない―――。  
「一度だけ見た黒の笑顔は、とびきり、ぬけるような笑顔だったって」  
 
…瞬間、あらゆる感情が身体中を逆流した。視界が白く焼ききれるような錯覚。  
怒りなのか悲しみなのか喜びなのか憎しみなのか、もう判別がつかない。  
いつだって分からない、あの女に対しては。愛しいのか憎いのか、殺したいのか抱き締めたいのか。  
何か叫びだしてしまいそうな衝動を必死に噛み殺す。身を起こして堪える様に両手で顔を覆う。  
そうでもしないと自分でも訳の分からないまま銀を殴ってしまいそうだった。  
契約者でありながら、自分の感情を制御できない。あの女に関しても、そして、この少女に関しても。  
伸ばされた手を、反射的に強く払いのける。  
「黒」  
「…触るな」  
「黒」  
「うるさい」  
「黒」  
「黙れ!」  
 
「わたしも、黒の笑顔、見たい」  
 
衝かれたように横を見やると、何も映さない紅い瞳がこちらを見つめていた。  
小さな両手で、頬をそっと挟まれる。普段ならば冷たいその手は、未だ熱を帯びたまま。  
頬から伝わるぬくもりが、何かを少しずつ溶かしていく。  
「黒…?」  
両手を掴んでひきよせ、細い身体を抱き締めるように、黒は顔を華奢な肩に埋めた。  
「…銀」  
目を閉じ、ほとんど聞き取れないだろう声で、名を呟く。  
応えるように、そろそろと小さな手が背中をぎこちなく撫で上げる。  
 
…もしかしたら、自分は今泣いているのかもしれない。そう思った。  
 
 
 

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