反吐が出る。  
契約者なんて己の利益しか考えない最低の生き物だ。  
 
「…はっ…」  
薄暗い、じわりとぬるく湿った部屋に、荒い息が響く。  
畳の上には、絡まりあうふたつの影。  
 
何に対しても反応を示さない、自我を持たない銀色の髪の少女。  
どんなに手を伸ばそうと、声を掛けようと、その瞳は虚空を見つめるだけ。  
けれど彼女もこの時ばかりは、透き通るような白い肌を淡い桃色に染める。  
「ぁ…っ…」  
律動に合わせて小さく声をあげる。  
触れる指先に、びくりと体を震わせる。  
何も映さない瞳が潤むように見えるのは気のせいか。  
小さく浅く喘ぎ声をもらし続ける様は、まるで壊れた人形のようだ。  
知らず、細い体を強く抱きしめる。触れ合う肌が熱い。  
「…黒って、呼べ」  
かすれた声で耳元に囁くと、一瞬呆けたように吐息が止み、  
「……黒……。へイ……へ…い…」  
暗闇の中、水音の合間を縫うようにかぼそい声が響く。うわごとのようにそればかり繰り返す。  
 
一体何をしているんだ。  
こんなことをしても彼女は自分を見ることはない。  
虚ろな瞳には何も映さない。  
こんな行為は無意味な自己満足だ。彼女が返すのは単なる生理的反応だ。  
それでも、薄く染まる頬を、甘く火照る体を、すがるように伸ばされる腕を自分のものにしたくて、  
夜毎行為を繰り返す。  
そんな自分に―――――…反吐が出る。  
 
喘ぐように、何かを求めるように自分の名を呼び続ける声がなぜか痛くて、  
吐息ごと閉じ込めるようにその小さな唇を塞いだ。  
 
 

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