あの、パーム鉱山での一件からひと月あまり。  
 『バース鉄道を世界中に広げるぞ!』と言って町長とスターブルは頑張っている。  
 それが叶えば、この世界の復興も今よりずっと楽になるはずだ。そっちに関してはあのふたりに任せておけば安心できる。  
 ボクはと言うと、以前のようにメンテナンスショップで働いている。  
 と言っても、スターブルはいないわけだから、今はボクひとりなんだけどね。  
 機械に関してだいたいの知識は持ってるつもりだから、そのことに関してはあまり不安はないんだけれど。  
 
「暇ねー」  
 
 隣に座っているモニカに目をやると、言葉どおりいかにも暇といったふうにぐったりと机に突っ伏していた。  
 そんなモニカに、そうだね、と相槌を打つ。  
 そう、モニカ。  
 彼女とはゼルマイト鉱石を探している途中で再会を果たしたんだ。  
 びっくりしたよ。突然だったし、もう会えないと思っていたくらいなんだから。  
 でも嬉しかったな。もう一度モニカに会えたんだから。  
 それに、正直、鉱石探しはボクひとりでは無理だったかもしれなかったし。  
 鉱石を見つけたあとも、モニカは未来に帰ることもなくこの時代にとどまっていた。  
 ボクひとりじゃ不安だ、とか言ってこの店の手伝いをしてくれているんだ。  
 
「たまにはこんな日もあるよ」  
「ユリスはのんきね。そんなこと言って、お店が潰れちゃったらどうするの?」  
「う、それは……」  
 
 手伝いと言っても、彼女に出来ることはあまりないから日がな一日退屈そうにしていることが多いけど。  
 モニカは接客を担当しているから、人が来なければ暇なのだろう。  
 
「あ〜あ、なにか面白いことないかしらねー」  
 
 両手を頭の後ろに回し、椅子をぶらぶらとさせているモニカを眺めながら、それでもボクは退屈はしていなかった。  
 むしろ楽しいとさえ言ってもいいかもしれない。  
 こんな平和な時間をモニカと一緒に過ごせる日が来るなんて思っていなかったから。  
 しかし、平和だからこそ、満ち足りているからこそ、逆にこんなことを考えてしまうんだろうか。  
 ボクの心にはひとつ、不安があったんだ。  
 そして、これだけは絶対にうやむやにはできないことなんだ──  
 
 客の来る気配は全くなく、ボクたちは他愛ない雑談をして過ごした。  
 まあ、こんな日もあるさ。それに、それはそれでいいことなのかもしれない。機械が壊れて困っている人がいないということだし。  
 そんなことをモニカに話したら、笑いながらたしなめられた。確かにおかしな考えだったかもしれない。ボクも「そうだね」と笑って応えた。  
 終始和やかな雰囲気のまま、その日は暮れていった。  
 
 店を閉める時間が近づいてきた頃、ボクは以前よりの懸念をモニカにぶつける決心をした。  
 いつまでもこのままではいられないかもしれないんだ。  
 ボクは隣の座っているモニカにむく。  
「ねえ、モニカ」  
「なあに?」  
 モニカは顔だけをこちらに向けてきた。ボクを見るその瞳は眠たげに揺れている。相変わらず退屈そうだ。  
 彼女のその返答にはボクは気勢を削がれそうになったが、それでもあとを続ける。  
「モニカが来てからもう結構経つよね」  
「そうかしら? うーん、そんな気はしないけど」  
「それでさ、モニカはいつまでここにいるつもりなの」  
「え?」  
「だから、モニカは自分の時代に戻らないのかな、と思ってさ」  
 カタリ、と椅子の足が音を立てた。  
 モニカが身体ごとこちらに向き直る。  
 先ほどまで緩んでいた瞳が、みるみる意志の力を帯びていく。それも、こちらを睨むように。  
「……なによ、ユリス。私がいちゃ迷惑なの?」  
「え? 違うよ。ボクはただ──」  
「いつまでいるのか、戻らないのかって、そう言ったじゃない」  
「そうだけど、でもそうじゃないんだよ。違うんだ、モニカ」  
「違わないじゃない。他にどういう意味があるっていうのよ!」  
 
 語気荒く、モニカは椅子を蹴飛ばすようにして立ち上がる。  
「モニカ、聞いてよ。そういう意味じゃないんだよ」  
 モニカはなにか勘違いをしている。そのことをきちんと伝えようとしたが、彼女はボクの声を聞いていないようだった。  
 ボクを見る目にさらに力がこもったように思える。  
「……わかったわよ。ユリスがそんなふうに思ってるのなら」  
 震える声でそうつぶやくと、モニカは入り口へと足早に駆けていった。そして、扉を開け放つとそのまま外へと姿を消した。  
 一瞬ちらりと見えた彼女の瞳には、はっきりと怒りの色が浮かんでいたように思えた。  
 いや、怒りだけではない。どこか悲しそうな色も含んでいたようだった。  
 ボクは呆然と、ただ呆然とモニカを見送るしかなかった。  
 
 
 あたりはすっかり暗くなり、空には一面の星と今ではひとつになった大きな月が輝いている。  
 街灯と月明りに照らされ、水面に写ったそれは、風が吹くとゆらゆらと揺れていた。  
 ダック先生の診療所からは灯りは漏れていない。もう寝てしまったのだろうか?  
 視線を別の場所へ移す。と、ベンチに誰か座っているのが目に入る。  
 モニカだ。  
 僕と同じように湖を見つめている。まだボクが来たことには気づいていないみたいだ。  
 モニカのもとへと急ぐ。  
 そう、ボクはパームブリンクスにある湖に来ていた。  
 
 あれからすぐに店を閉めると、ボクはモニカを探してあちこち駆け回った。  
 やはりと言うべきか家には帰っておらず、モニカがどこへ行ったか見当もつかなかった。  
 夜も深まり、途方に暮れていたその時、モニカを見たという町の人に出会った。その人は彼女を記念碑の近くで見たという。  
 話を聞いたボクは、急いでそこへむかった。  
 そして、湖のほとりのベンチに腰を下ろしているモニカを見つけたというわけだ。  
   
「モニカ」  
 水面を見つめる彼女に近づき声をかける。びくりと身体を震わせるのがわかった。  
「……ユリス」  
 ぼんやりとした街灯に照らされたその顔はどこか寂しげな感じがした。  
 誤解を招くような物言いをして、モニカにこんな表情をさせてしまった自分が情けなく思えた。  
「どうしたのよ、こんなところで。夜の散歩?」  
 わかっているのにそんなことを訊いてくる。  
「モニカを迎えにきたんだよ。さあ、一緒に帰ろう」  
「帰るってどこに?」  
「家にさ。さあ」  
「……いいよ、別に。気を遣わなくても。町のみんなはやさしいし、そうだ、ミレーネさんの妹さんのところにでも泊めてもらおうかな」  
「モニカ……」  
「あっ、そうだ」  
 突然、なにかを思いついたように声のトーンがあがる。そして、自嘲を含んだ声音で言ってくる。  
「未来に帰るってのもあるわね」  
「モニカ──っ!」  
 ──未来。  
 その言葉を聞いた途端、ボクは自分でも信じられないくらい大きな声を出していた。  
「ふざけてないで、さあ、帰ろう!」  
「ユ、ユリス……? どうしたのよいったい……」  
 ボクは唖然とするモニカの腕を掴むと、それこそ引きずるような勢いで無理矢理にでも家へと連れ帰った。  
 
 ボクは客室の扉の前に立っていた。  
 このむこうにはモニカがいるはずだ。普段は使われていない客室のひとつが今の彼女の部屋になっていた。  
 ノックをし声をかける。部屋の中からモニカの声がすると、ボクは扉を開けて中に入った。  
 モニカはベッドに腰掛けてこちらを見ている。普段着ではなく、寝間着だった。湯浴みをして着替えたのだろう。  
「ちょっといいかな」  
「あは、おかしなユリス。ここはあなたのお家でしょ。なに遠慮してんのよ」  
「そうだけど、でも、女の子の部屋なわけだし」  
「まあいいわ。こっちにおいでよ」  
 モニカは自分の隣をさす。ボクはモニカの隣に腰をおろした。  
「で、なんなの、ユリス」  
「うん、昼間のことなんだけど」  
 そう言うと、モニカは顔を伏せた。やっぱり誤解してる。そのことをきちんと話さなければいけない。  
「モニカ、聞いてほしいんだ。ボクが訊いたのはなにもモニカにいなくなってほしいとかそういう意味じゃないんだよ」  
「……じゃあ、どういう意味だっていうの」  
「その、不安だったんだ」  
「不安?」  
「うん。モニカがいつか自分の時代に、未来に帰っちゃうんじゃないかって。最近ではずっとそのことばかり考えちゃうんだ」  
 
 
 以前からずっと不安だったこと。  
 モニカがいつか未来に帰ってしまうのではということ。  
 ボクとモニカは生きてきた時代が違う。それは動かすことのできない事実で、だからこそどうしようもないことのように思えた。  
 モニカもいつか自分の生きてきた時代に帰ってしまうのではないか。  
 なんの前触れもなく。  
 突然。  
 ──そう、母さんがいなくなったあの時のように。  
 
 ボクは今までずっと考えていたことをモニカにつげた。モニカはなぜか黙ったまま口を開こうとはしなかった。  
「あの最後の戦いのあと、一度は別れたよね。すごく悲しかったけど、なんとか耐えることができたんだ。でも……」  
「でも?」  
「でもそのあとにボクたちはこうして会えた。うん、会えたんだよ。こうして会えたのに、また別れなきゃならないなんて、もう嫌だよ。またモニカと会えなくなるかもしれないなんて、考えるだけでも嫌なんだ。もう、母さんの時のような思いはしたくない」  
「ユリス……あなた、そんな」  
 モニカが大きく目を見開く。  
「モニカ、聞いてほしいんだ」  
 ボクはモニカを正面に見据え、決意を固めた。  
「ボクはモニカのことが好きなんだ。一緒に旅をして、一緒に戦って、一緒にいろいろなことをした。ボクはモニカと一緒にいる時が一番好きなんだよ。モニカのことが好きなんだよ」  
 
 ずっと前から言おうとしていたんだけど、いざそう言うとなるとやっぱり恥ずかしいし、照れくさいかった。  
 だけど、ボクはもう決めたんだ。あんな哀しみはもう嫌だって。中途半端なままでいたくはないって。  
 
「じゃ、じゃあ、ボクはそろそろ行くね。それじゃあモニカ、おやす」  
 恥ずかしさから声が裏返りそうになるのを必死に抑える。  
 とりあえずは自分の気持ちを、言わなければいけないことはきちんとつげることができた。  
 そう言って立ち上がろうとした時、モニカが両手を広げてボクの背中に回してきた。そして、身体をこちらにもたせかけてくる。  
「モ、モニカ? どうしたのさ」  
「……ユリス、ありがとう。とっても……とっても、嬉しいよ……」  
 急なことにボクが慌てていると、モニカがぽそりと言ってきた。  
 モニカのその声は途切れ途切れで少し震えていた。声だけじゃない、身体も同じように震えている。  
 ボクはモニカの肩に手を置いて、落ち着かせようとした。モニカはなんでもないというように首を横に振った。  
「なんでもない。なんでもないよ、ユリス。ただ、嬉しかっただけだから……」  
「そ、そう、よかった。そ、それじゃあ、言うことも言ったし、ボクはこれで」  
 モニカはいまだボクの身体に腕を回したままだ。その腕を解こうとボクは身じろぎした。けれど、全然動かない。  
 と、モニカがうるんだ瞳をむけてきた。  
「ユリス、私、とっても嬉しいよ。ユリスが私を好きでいてくれたことが。それをちゃんと伝えてくれたことが」  
 モニカの顔がすぐ目の前にあった。こんなに近くでモニカと接したことはほとんどなかった。ボクは鼓動が早くなるのを感じた。  
「でも、言葉だけじゃいや。もっと別のことでそれを証明して見せてほしいの」  
「別の……こと?」  
「そう。別の」  
 そこでモニカの言葉は途切れた。モニカの顔がさっきよりも近くなったように感じた。いや、目の前に。すぐ、そこに。  
 回された腕に力がこもり、ぎゅっと引き寄せられた。  
 ボクは目をぱちぱちとさせた。なにが起きたのかよくわからなかった。  
 腕の力が緩み、モニカが離れる。ボクを見つめてにっこりと笑っている。  
 そうしてからボクはようやく理解した。唇に、さっきまではなかった暖かい感触があった。キスされたんだと、そう思った。  
 回された腕にさきほどよりも強い力がこもる。  
「ユリス、さっきの言葉、信じるからね?」  
 そう言うとモニカは、ゆっくりと目蓋を伏した。  
 
 
 モニカはボクを突き飛ばすようにしてベッドへと倒れこませた。  
 そして、ボクの両頬に手を当てると唇を重ねてきた。  
 急なことに目を白黒させていると、なにかが口の中に侵入してくるのがわかった。  
「……ッ…………っっ」  
 舌だ、と気づいたけれどボクはそれを素直に受け入れていた。  
 一応知識としてそういう行為があることは知っている。しかし、したこともないしされたこともあるわけない。どんなものかなんて実際にやってみなければわからないから。いつかはそういうことをする時が来るだろうとは思っていたけれど、こんなに早くとは予想外だった。  
 そんなことを考えていると、モニカと目が合った。  
 すでに唇を離し、こちらを見ていた。こころなしか怒っているように見えるのは気のせいだろうか?  
「んもう、ユリス、集中してよね。私がキスしてんのに上の空なんて失礼だと思わないの?」  
「ご、ごめん。いきなりだったから。それに……」  
 とっさに謝ってしまったが、どうしてこんなことになっているのかいまいちよくわからなかった。  
 多少混乱していたが、はっきりしていることもあった。なぜか身体が火照っていた。息も少しあがっている。  
「いったいどうしたっていうのさ、モニカ。急に、こんな」  
「見たらわかるじゃない。キスしてるのよ。私と、ユリスが」  
「だ、だから、どうしてキスするの? わけが……」  
「なーに、ユリスは私とキスするのがいやなわけ? 私のこと好きだって言ってくれたじゃない」  
「い、言ったよ。言ったさ。だけど」  
「つべこべ言わないの! で、いやなの? いやじゃないの?」  
「え? いやじゃないさ。いやじゃないけど」  
「だったら変なこと言わずに集中しなさいよ。ほら、目、閉じる!」  
 
 モニカの迫力に気圧されボクは素直に従った。唇に柔らかな感触が重なる。  
 ボクはモニカとキスしてるんだ。そう思うと鼓動がどんどん早くなっていくような気がした。いや、実際そうなんだろう。  
 と、先程と同じようにモニカの舌がボクの口の中へと入ってきた。今度はボクも同じように舌を出していた。  
 モニカの舌と絡み合い、水音のようなぴちゃぴちゃという音がする。息をすることも忘れてお互いその行為に夢中になっていた。  
 さすがに息苦しさを感じたボクはモニカから唇を離した。モニカは少し抵抗する素振りを見せたが、それでも同じように唇を離してくれた。  
「はぁ、はぁ、はぁ……」  
「あはは、はは……」  
 空気を求めて喘いでいるボクを見てモニカはおかしそうに笑った。笑っているその顔は真っ赤に染まっている。  
 モニカの呼吸も少し荒そうだった。  
「あは、ユリス、顔真っ赤だよ?」  
 ボクは頬に手を当てた。確かに熱い。どうやらボクの顔もモニカに負けず劣らず赤くなっているようだ。  
「ユリス、キスするの初めて?」  
 もちろんそうだ。けど、突然そんなことを訊かれ、ボクの顔はさらに赤くなったかもしれない。  
 それを見て取ったらしいモニカが嬉しそうに顔をほころばせるのがわかった。  
「やっぱりそうなんだ。あはは」  
「な、なんで笑うのさ。したことないに決まってるだろ」  
「私も初めてだよ」  
「え?」  
「なによ、まさか違うと思ってたわけ?」  
 モニカが眉間にしわを寄せてこちらを睨んでくる。  
 ボクは首を振って慌てて繕った。  
「そうじゃないよ、そういうことじゃないよ」  
「今のが私とユリスのファーストキス。ユリスの初めてが私で、私の初めてがユリスなんだよ」  
 確かにそうだ。しかし、改めてそうはっきりと言われると妙に照れくさい。  
 なんだかモニカのことをちゃんと見れなくなってしまうんじゃないかというような気がした。  
 
「ユリス、かわいい!」  
 ボクが視線をそらして顔をうつむかせていると、モニカがいきなり抱きついてきた。  
 そして、頬を合わせるようにして首を左右に振ってくる。  
「うわ! どうしたのさ急に」  
「だってユリスったらとってもかわいいんだもの」  
「く、苦しいよ、モニカぁ」  
 と、モニカはボクを解放すると、  
「さ、次にいくわよ」  
 そう言ってきた。  
「次? 次って」  
「もう、ユリス鈍いわね。ほら、さっさと服脱いでよ」  
「え? ええ!?」  
 そう言うと、モニカは背を向けると着ているものを脱ぎ始めた。  
「な、なに見てるのよ! 恥ずかしいんだからうしろむいててよ! ユリスも早く脱ぎなさいよっ」  
 慌ててうしろを向く。モニカの素肌が見えてボクはどきどきした。  
「で、でも、なにするのさ。服なんか脱いで」  
「そんなこと女の子に言わせないでよ! わかるでしょ」  
 そう言うモニカの声は少し裏返っていた。ボクは必死に考えた。  
 抱き合って、キスをして、お互い裸になる。それも、ベッドの上で。しかもこれで終わりではなく、これからもなにかあるという。  
 ボクは頭の中をフル回転させた。  
 そして、導き出された結論はひとつ──  
 
「え──えええええェェーっ!?」  
 それに思い至ると、我知らず大声を上げていた。  
 まさか、そんな。でも、しかし。いや、だけど。  
「ユリス」  
 ボクが頭の中にいろいろな想像を浮かべていると、背後からモニカの声がした。  
 振り向くと、両手で前を隠したモニカがこちらを見つめていた。  
「わあぁぁっ」  
 それを見て反射的に背を向けてしまう。うしろにいるモニカにも聞こえてしまうのではないかというくらい心臓の鼓動が速さを増していく。  
「まだ脱いでなかったの。さ、早く」  
「も、モニカ。さすがにそれはまだ早すぎるんじゃないかな。ほ、ほら、ボクらまだ子供なんだし」  
 声が上擦るのをとめられない。それくらいボクは緊張していた。  
「そんなこと関係ないわよ。なによ、ユリスってそんな意気地なしだったの?」  
「…………!」  
 モニカにそう言われ、ボクは顔を上げた。  
 モニカがここまでしてるんだ。ボクがこんなことでは、ボクにそこまでしてくれる彼女に申し訳ないじゃないか!  
 ボクは覚悟を決めると、着ている服に手をかけた。  
 
 
「モニカ、本当にいいの?」  
「いいよ、ユリス。きて……」  
「う、うん」  
 モニカが下に、ボクが上にという体勢でベッドに倒れ込む。  
 今度はボクからモニカにキスをした。さっきとは立場が逆転していた。ボクは舌でモニカの口の中を犯してゆく。  
「はふぅ、あむ……っむ……」  
 合わせた唇の端からそんな声が漏れてくる。  
 ボクはそうしながらも、頭の中は忙しく回転していた。乏しい知識を総動員して、これからすべきことを順に浮かべていく。  
(まずは胸……かな?)  
 唇を離すとモニカと目が合った。しかしその瞳はぼんやりとしていてうまく焦点を結べていないように見えた。  
 ボクは視線を下へと向けた。  
 女の子の肌をまじまじと見る機会などなかったわけで、あらためて見てみるとすごく滑らかですべすべしているんだなと思った。  
 瞳、鼻、唇、あご、首、鎖骨。そして──  
「これがモニカの胸……」  
 知らず声が漏れてしまっていた。それが聞こえたのだろう。モニカがわずかに身じろぎするのが感じられた。  
 普段日に晒されないためか驚くほど白いその素肌に、ボクは指を伸ばした。  
「柔らかいよ……モニカ」  
 少し汗ばんでいるのか、掌全体に吸い付くような感触だった。  
 ふにふにと掌の中で形を変えるそれを、ボクはゆっくりと揉みしだいてゆく。  
「んっ……ユリス、くすぐったいよ……」  
 頭の上からモニカの声が耳に届く。ボクは夢中で指を動かし続けていた。  
「……あ、はっ……んむぅ、んん! ……ユ、ユリス、い、痛いよ……」  
 はっとして指をとめる。モニカの顔が痛みに歪んでいた。  
「ごめんっ、モニカ。大丈夫?」  
「うん。けど、もう少しやさしくお願い……」  
 いつの間にか力が入っていたらしい。  
 モニカのことを考えずに自分だけ夢中になっていたことにボクは自分が情けなくなってしまった。  
(自分だけじゃない、モニカのこともちゃんと考えなきゃ)  
 そのことを頭に刻み込んだ。  
 
 ボクは今度は、形よく膨らんだ両の乳房の中心のピンク色の突起に目をやった。白い肌の上に色づくそれを見て、ボクは気持ちがさらに高揚するのを感じた。  
 そうっと、なでるように触ってみる。  
「──きゃっ」  
 と、モニカの身体がピクリと跳ねた。  
「な、なんでもないよ。続けていいよ、ユリス」  
 見やると、頬を上気させたモニカがそう言ってくる。  
 痛がっているわけではなさそうだ。その言葉を聞き、ボクはゆっくりと視線を戻した。  
 つまんだり指で押し潰したり。わずかに力を加えるだけでも壊れてしまいそうなそれをボクは丁寧になでてゆく。  
 その度にモニカの身体はピクリピクリとし、口の端から声が漏れていた。  
「きゃうっ──ッ」  
 モニカがそう一段と高い声を上げた時、ボクは胸の突起に唇を触れさせていた。  
 舌を使い、その上で転がすように愛撫する。  
 モニカの短く喘ぐような声を聞き、ボクはその行為に没頭した。  
「あは、っあふぅ──ユリス、んぅ、赤ちゃんのおしゃぶりみたい」  
 そう言われて唇を離すと、モニカが笑っているのが目に入った。  
 ボクは憮然として唇を尖らせた。  
「い、いいだろ。別に」  
「ごめん。でもユリスって上手ね。どこでそんなこと覚えたのよ」  
「お、覚えたとかそういうんじゃないよ。自然にさ……」  
 口ごもっていると、モニカはおかしそうにこちらを見つめてきていた。  
 なんだか馬鹿にされているような感じがして、ボクはそっぽをむいた。  
「ごめんってば。ユリスがあんまり上手いんでちょっとからかっただけよ。本当にごめん」  
「いいよ。謝らなくても」  
 お互い本気ではない。わざわざ怒るのも馬鹿馬鹿しく思えて、ボクは気を取り直した。  
 
 モニカは全身を上下させ息を整えている。  
 と、先程までは白かった肌がうっすらと赤く染まっていることに気づいた。頬の赤みもさらに深くなったように思える。  
 ──モニカがボクの行為で感じてくれているんだ。  
 そう思うと無性に嬉しくなった。そしてさらにモニカを気持ちよくさせてあげたい。そんな思いが湧いてきた。  
 
 ボクは顔をついにモニカの下腹部へとむけた。  
 そこにはうっすらと、モニカの髪と同じ色もの淡淡と茂っているのが目に入ってきた。  
 ごくり、と唾を飲み込む。モニカがこくり、とうなずくのが見えた。  
 ボクは身体を下へ下へとさげていった。  
(これが……女の子の……)  
 モニカのももとももの間に顔を近づけると、ボクはそんなことを思っていた。  
 身体の縦に割れ目が入り、ひくひくと痙攣のように動いている。ボクはしばしそれに見入ってしまった。  
「ユリス……恥ずかしいからあんまり見ないで」  
 頭の上からモニカの消え入りそうな声が聞こえてきた。しかし、その声は耳には届いても頭までは届かなかった。  
 ボクはそれに触ってみたいと思った。  
 おずおずと指を伸ばし、触れてみる。  
(これがモニカの……。ここにボクのが入るのかな……)  
 湿り気を帯びていたそこを、両手を使って押し広げてみた。ピンク色の肉の襞のようなものが目に飛び込んできた。  
(うわぁ……)  
 さっきから驚いてばっかりだ。ボクはそう思いながらも、モニカのそこを食い入るように見つめた。  
「モニカ……なんて言うか……きれいだよ」  
「ば、馬鹿っ。そんなこと言わなくていいよ……」  
 思わず口をついて出たその言葉に、モニカは羞恥からか両手で顔を覆ってしまった。そしてそれは、ボクの目にどうしようもなく可愛らしいものに映った。  
 ボクは指を這わせ全体をなでるように愛撫し始めた。モニカがくぐもったような声を発しだした。  
 さらに奥を覗こうと押し広げる指に力を込める。と、  
「──っいッ!」  
 モニカの引きつったような叫び声がした。見ると、突然の痛みに顔を歪めているのがようだった。  
(指じゃ刺激が強すぎるのかな。……だったら)  
 
 ボクは指を引っ込めると、割れ目に顔を近づけた。内ももをつかむと顔の横にくるように押し開けた。  
「ユ、ユリス、なに──きゃっ」  
 ボクの舌がモニカの女の子の部分に触れた。そして、痛くないように、やさしく、それを心がけると上下に動かし始めた。  
「や、あ、やぁ……んっ」  
 モニカが途切れ途切れに喘ぐ声が耳に入る。さっきのような痛みが混じった声ではない。  
 これなら大丈夫。そう思うとボクは、一層せわしなく舌を動かした。  
 モニカの声が途切れなく聞こえ、そして、唾液ではない、別の湿り気が強くなってくるのがわかった。  
 モニカが両手を僕の頭に当てそこから離そうと押してくるけど、その手にはほとんど力が入っていなかった。  
 次第にとろりとした粘性の液体がにじみ出てきた。舌ですくって口の中に流し込むと、今までに味わったことのないなんともいえない味がした。  
「ユ、ユリ、だめ、いや、なにか、く、くるよ……っ」  
 切羽詰ったような声音でそう言ってくるのが耳に入るけど、ボクはそのまま続けることにした。  
 口ではそう言っているけど、嫌ではない。そんなことがわかるようになってきていた。  
 と、  
「んんんっ────ぅぅぅッ!」  
 押し殺したような叫びをあげて、モニカの身体が弓なりにしなる。と同時にモニカのあそこから粘性の液体が溢れ出してきた。  
「──んっ、はぁはぁ、はぁ……」  
「モニカ?」  
 顔を上げると、モニカは全身を弛緩させて肩で息をしていた。身体中にうっすらと汗をかいているようだった。  
「モニカ、大丈夫?」  
「……うん、平気だよ」  
 息を整えていたモニカが、そう言うと急に身体を起こした。  
 そしてボクの下半身へと目をむける。  
 
「私ばっかり気持ちよくなっちゃったんじゃ悪いわ。ユリスもこんなになってるんだし」  
 モニカがボクの股の間へと手を伸ばしてくる。そして、今までの行為ですっかり硬く大きくなったボクのものを両手で包み込んできた。  
「うっ」  
 ボクはそんな情けない声を上げると思わず腰を引いてしまった。びっくりしたのもあったけど、モニカに握られて身体にビリっとなにかが走ったような気がしたんだ。  
 モニカはそれでも握った手を離さず、ゆるゆると上下させ始めた。  
「モ、モニカっ……やめ……っ」  
「だーめ。ユリスだってしたんだから、私にだってさせてくれなきゃ不公平でしょ?」  
「でも……」  
「へー、ユリスのってこんなふうになってたんだ。けっこうかわいいわね」  
 僕の言葉に全く耳を貸さず、モニカはボクのものを両手で弄び続ける。  
(うあぁ……)  
 口をついて出そうになる呻きをなんとか喉の奥で押しとどめる。しかし、股間から伝わってくる快感は抗いがたいものだった。それも、モニカがそれをしてくれていると思うと、気分は否応なしに高ぶっていった。  
「モニカ、だめだよ……もう、出ちゃうよ」  
「え、そうなの? ま、まだ駄目よっ」  
 なにが駄目なのかよくわからなかったが、ともあれモニカはボクのものから手を離す。  
 ボクは安堵を覚えるとともになにか残念なような複雑なものを感じていた。  
「──ユリス」  
 そう言ってモニカはベッドに横たわった。そして、じっとこちらを見つめている。  
(…………)  
 さすがにボクでもこれからなにをするのか、しなければならないのかくらいわかる。  
 モニカの上に覆い被さるように身を横たえると、ボクもモニカの瞳を見つめかえした。  
 
「モニカ、いくよ」  
「……キスして、ユリス」  
 請われてボクはモニカとキスを交わした。唇が触れ合うだけの軽いものだったが、胸の高鳴りは最高潮に達しようとしていた。  
 ボクは自分のものに手をあてがうと、慎重に位置を探る。  
「んっくぅ──」  
 しっかりと位置を定め、腰を前進させる。  
 先端を中へと埋めようとすると、モニカが苦しそうな声を漏らした。  
「モニカ?」  
「な、なんでもないよ。続けていいよ」  
 そうは言うものの、モニカは両目をぎゅっと瞑り必死になにかに耐えようとしているのが見て取れる。  
(女の子は初めての時はすごく痛いって言うけど)  
「モニカ、ちょっとの間我慢してね。どうしても無理だって言うならやめるからさ」  
「ううん、大丈夫だよ。ユリスにしてほしいから」  
「モニカ……。わかったよ」  
 普段は勝気な態度なせいか、こういうしおらしい姿は新鮮に思える。そう言ってくれるモニカに胸が熱くなるのを感じた。  
 その想いに応えようとボクは一気にモニカの中に潜り込ませた。  
「んんぅっっ────……あぁっ!」  
 わずかに押し返すような抵抗があったものの、ボクのものは根元までモニカの中へと埋め込まれた。  
 モニカの中からはすごく温かくぬるぬるしていて、ぴったりと吸い付くかのような感触が伝わってくる。  
 ボクはすぐにでも果ててしまいそうになるのを堪えるのに必死だった。  
「モニカ、入ったよ」  
「そ、そう……? んく、よ、よかった」  
 モニカは顔には笑みを浮かべているが、破瓜の痛みに耐えているのが手に取るようにわかった。  
 それを見たボクは胸にチクリとする感覚を覚えた。  
「モニカ、やっぱりやめようか? すごくつらそうだし」  
「いやっ。お願い、やめないで。このまま続けて!」  
(……モニカ……)  
 顔を歪ませながらも健気にそう言ってくるモニカのその想いが嬉しかった。  
 
 繋がったままボクはモニカを両腕で抱き寄せると、強引に口づけた。モニカが愛しくてたまらなかった。  
 しばらくそのままで口づけを交し合っていると、モニカの表情が緩みだした。  
「ユリス、もう大丈夫。動いても、平気だよ」  
「わかったよ」  
 ボクはゆっくりと埋まっていたものを引き抜いた。モニカのなかはゆるゆると動いていてボクのものを離すまいとしているように感じられた。  
 そしてまた中へと潜りこませる。  
「痛っ……うっ、あう、はぅ……っ」  
 大丈夫とは言うものの、やはりまだ痛いのだろう。  
 ゆっくりとなるべく苦痛を与えないようにと心がけてはいたものの、モニカの中は想像以上に気持ちよく、ボクはいつしか夢中で腰を振っていた。  
「モニカ、モニカ、モニカぁっ」  
 腰を打ち付けるたびに肉のぶつかる乾いた音が響く。それに混じって、なにかをこねくり回すようなぐちゃぐちゃという音が結合部分から聞こえてきた。  
「いっ、ああぁっ……あふぅ、んんっ、はあっ」  
 モニカの声色がだんだん変化してきている。苦痛を訴えるような鋭く高い声ではなく、切なさの混じった甘い声音へと。  
 ──ボクだけじゃなくてモニカも感じてくれているんだ。  
 そう思うと、ボクはもっとモニカを気持ちよくしてあげようとして動きを激しくした。  
「ん、はあ、ユリス……ユリスっ、ああっ!」  
 モニカはボクの名を呼ぶと、両手を背中に回してきた。  
 
「ユリス、いいよっ……ユリスぅ」  
「モニカ、モニカぁ──」  
「……っは、ふ、あん……」  
 モニカの甘い声が強くなっていく。  
 しかし、ボクはそろそろ限界を迎えようとしていた。モニカをもっと気持ちよくさせてあげようとするが、もう保ちそうになかった。  
「モ、モニカ……もう、だめ……っ」  
「──え? ユリス……だったら、中に。中にお願いっ」  
「そ、それは……駄目だよモニカ。中に出したら」  
「いいか、らっ! そのまま、お願いよユリス……!」  
 モニカがそう言うのを聞いて、ボクの中の張り詰めていた糸がプツリと切れるような音を聞いた気がした。  
「ううぅ、モニカぁッ!」  
「ユリスぅっ」  
 ボクはモニカをきつく抱き締めると、白い迸りを勢いよくモニカの中に放っていた。  
 モニカもボクに抱きつくと、閉じた目蓋をふるふるとさせてボクの迸りを必死に受けとめていた。  
 
 
 ことが終わるとボクたちはベッドの上で仰向けに寝そべっていた。  
 お互い荒くなっていた息を整える。と、モニカがこんなことを聞いてきた。  
「ねえ、ユリス、どうだった?」  
「え……き、気持ちよかったよ」  
 面と向かってそんなことを聞かれ、恥ずかしさも手伝って尻すぼみになってしまう。  
「そう。私は……すっごく痛かった」  
「ご、ごめん。ちゃんとできなかったみたいで……」  
「ううん。だけど嬉しいっていうほうが大きいよ。ユリスとこうなれて私はすごく満足してるよ。ユリスはどう?」  
「ボクだってそうさ。モニカとこうなれてよかった」  
「うふふ、ありがとう」  
 と、突然モニカはぽろぽろと涙をこぼし始めた。  
「ど、どうしたの?」  
「なんでもないよ……なんでも……。本当に、嬉しくって」  
「モニカ?」  
「ユリス言ってくれたよね。私のこと好きだって。一緒にいたいって。離れたくないって」  
「う、うん。言ったよ」  
「私もそうだよ。ユリスのことが好き。一緒にいたい。離れたくない」  
 モニカはボクの首に腕を絡めて身体をあずけてきた。  
「ホント言うとね。私もう未来に戻るつもりないんだ。星の砂時計ももう持ってないし」  
「ええ!?」  
「だからね、ユリスに戻らないのかって言われてすごく不安になっちゃって。ユリスにそんなふうに言われたら私がここにいる理由がなくなっちゃうって思えたんだ。馬鹿だね私。早とちりしちゃって。ユリスに変な心配かけちゃって」  
「モニカ……」  
「ユリスはちゃんと私のこと好きでいてくれてるっていうのに。私、恥ずかしいな」  
 気丈な口ぶりではあるけど身体がわずかに震えているのはその時の気持ちを思い出したからかもしれない。  
 ボクはモニカを抱き寄せた。  
「大丈夫だよ。モニカを不安になんかさせるもんか。これからもずっと一緒だよ」  
「うん。うん。……ユリスぅ」  
 
 モニカは瞳を潤ませるとボクの胸に顔を埋めてきた。モニカを抱く手に力を込める。ボクはそんなモニカがかわいくてたまらなかった。  
 モニカの体温を直に感じる。モニカを落ち着かせようと背中をさすりながら、ボクはこうしていられることに言いようのない安堵を覚えた。  
 泣きやんだモニカは、それに、とおどけた笑みを浮かべて言ってきた。  
「ユリスってとってもかわいいんだもの。ほかの誰かにとられる前に私のものにしときたかったんだ」  
「な、なんだよそれ」  
「自分で気づいてないの? 私がいなかったらクレアさんなんかと仲良くなってたかもね」  
「クレアさん? クレアさんは町長の娘さんだし、そりゃあ綺麗だし小さい頃からよくしてもらったけど」  
「もう、ユリスったら。こんな時にほかの女の人を褒めるなんて無神経ね!」  
「モ、モニカがおかしなこと言うのが悪いんじゃないか……」  
「ま、それは冗談として」  
 と、  
「あ……ユリス」  
「え?」  
 突然モニカの視線が下へと移る。  
 ボクもつられてそちらへ目をやる。そこには……  
「ユリスの、またおっきくなってる」  
「わっ、わっ、ごめん!」  
「いいよ、ユリスがそうしたいのなら。だけど、今度はちゃんと私も気持ちよくさせてくれなきゃいやだからね」  
「……う、うん。頑張ってみる」  
 裸で抱き合っていたためか、いつの間にか反応してしまった正直すぎる自分の分身を憎らしく思うとともに、モニカの期待に応えなければという思いが湧いてくる。  
「あはは、期待してるよ、ユリス──」  
 
        ●        ●         ●  
 
「あはははは、ほら、ユリスも来なさいよ〜!」  
 モニカの楽しそうな声が聞こえる。  
 顔を上げると、ぱしゃぱしゃと海面を蹴立てながらはしゃぐモニカがこちらを手招きしていた。  
 砂浜に横になっているうちに、うとうとしてしまったみたいだ。  
「う、うん。今行くよー」  
 ボクは寝ぼけ眼をこすりながら身を起こす。  
 少しはっきりした顔から手を退けると、先ほどまで海にいたはずのモニカが、いつのまにか目の前に立っていた。  
「んもう〜、せっかくペニーティオの海岸まで来たんだから、遊ばなきゃ損なんだからね!」  
「ごめん。寝ちゃってたみたいだ……って、うわぁ!」  
「ん? どうかしたの?」  
 モニカがボクの顔を覗き込んでくる。  
 ボクはしばし呆気に取られていた。  
「なになに? 急に大きな声出したりして」  
「な、なんでもないよ」  
 ボクはモニカから視線を逸らした。  
 モニカは腰に手を当て、ちょっと怒ったように、前かがみ気味に僕の顔を覗き込んできている。  
 水着からこぼれ落ちそうな彼女の胸が、目の前にあったんだ。  
 そう、水着だ。海に来ているんだからボクもモニカも水着なんだけど、モニカの方はというと、豹柄の、それも肌を覆う面積の少ないビキニタイプの水着だったんだ。  
 
「ユリス、顔が赤いわよ。どうしたの?」  
「え?」  
 頬に手を当てる。確かに熱い。  
 でも、モニカに見惚れてたなんて、とてもじゃないけど言えないよな……。  
「はは〜ん。ユリス、あなた……」  
「どうしたの」  
「えい!」  
 モニカが小悪魔的な笑みを浮かべたかと思うと、ボクの腕を両手で抱き込んできた。  
 彼女の柔らかな胸の感触が腕を通して伝わってくる。  
「な、なにするんだよ!?」  
「へへ〜。ユリスも男の子なんだなーと思って」  
「なんだよそれ。男じゃなかったらなんだって言うのさ」  
「そうだけど、私たちもう恋人同士なんだからこれぐらいで驚いてるような情けないことじゃ駄目なんだからね」  
「こ、恋人!? ……えーと、確かにそう言われればそうかもしれないけど」  
「なによ。その曖昧な態度! まさか違うって言うの?」  
「い、いや、違わない、違わないよ。その通りだよ」  
「……まあいいわ。それよりも、遊ぶわよ! ほら、来なさい、早く!」  
「わかった、わかったから!」  
 
 
 
 
 あれ以来、モニカはすごく楽しそうだ。そんな彼女を見ているとボクも自然と笑顔がこぼれた。  
 ボクらが急に仲良くなったことにスターブルは首をかしげていたけど、ボクらは気にせず振る舞っていた。  
 そう言えば、スターブルがもうすぐバース鉄道が大陸中に行き渡るって言ってたっけ。町長はその時のための演説の原稿を必死で考えているとか。  
 やっとふたりの夢が叶うんだ。  
 
 
 
 
 世界はいまだ元の姿を取り戻したとは言えない。  
 だけど、それでも努力すればいつかは完全に元通りにすることができるだろう。  
 そのためにボクに、いや、ボクたちにやれることをしていこうと思う。  
 モニカとふたりなら、どんなことでもできるような気がするから。  
 
 
 
 
 終  
 

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