───ちぇっ、めんどうな事になったなあ…。
長い耳・大きな目をした小さな野獣は、月花宮殿という美しい城の庭に居た。
いつも近くで見てみたいと思っていた…宮殿のたくさんの花達。
それを見る為に、うまく忍び込んだはずだったのに…見つかっちまうなんて。
はぁ、ツイてないなぁ。
…おまけに、城の花の世話係だって?人生最悪の日だ。
その時、背後から声が聞こえた。
「 世話係さん、ちゃんとお仕事しているの?」
…来た来た。ここの宮殿の女王様。
ボクを花の世話係なんかに任命した、張本人だ。
名前は"アンドレア"…。
初めて宮殿の花を見つけた時…彼女もその花と同じく、手の届かない場所に居た。
美しい、彼女と花達…。
いまは、手を伸ばせば届く距離に在るのに。
「 …ふん、女王様のお出ましかよ!なんだよ、ちょっとくらい休んでたっていいだろ!」
「 あら、だってどの花を見ても水滴がついてないわよ。」
アンドレアがそう言うと、野獣の少年はぐ…っと言葉につまる。
「 ちょっと休むどころか、ぜんぜんお仕事してないじゃないの〜?」
悪気も無さそうに、からかうようにアンドレアがそう言うと、
野獣の少年は「ちっ」と舌打ちをして、横になっていた体制を起こす。
「 はいはい、分かった分かった。分かりましたよ、女王様。」 ガサッ
少年はそう言うと、ぶすくさった顔でジョウロの水を花達に与え始めた。
「 よろしい!」
アンドレアはハリのある声で、嬉しそうにそう言った。
広い庭にそよ風が吹く。──なんと心地よい事だろう。
生命である水を与えられて花達は、よりいっそう輝きを増しているように見える。
ボクの横に居る、彼女も……──
「 ?なあに?」
「 !!っ、な、なんでも無いよ…!」
少年は無意識のうちに、アンドレアを見ていた。目が合ったので、急いで反らす。
「 ……………… 」
少年はとりあえず、見える範囲の花達に水をやり終えた。
「 ……なんでずっとソコに居るんだよ。」
さっきここへ来てから、ずっと同じ場所で花達を見つめていたアンドレアに、少年が問う。
「 あら、私は天気のいい日はずっと庭に居るわよ。」
…それは知っていた。時々庭を影から見ると、いつも彼女は居た。
「 ……女王なのに仕事しないで花なんか見てていいのか?」
「 あははっ、何言ってるの。女王と社長は違うのよ?」
「 …………… 」
するとアンドレアは空を見つめたまま、少し無言になると、こう呟く。
「 昔から変わらない…この庭が大好きなの。いつまでも、このままであってほしい。」
さっきより、少し声のトーンが落ちたアンドレアを、不思議に思う少年。
──…なんだよ、いきなり暗くなって……。……何か、あったのかな?
そう思い、少年が口を開こうとすると……。
「 ねぇ、サン!!!」
いきなり、アンドレアが少年に向かって叫ぶ。
『サン』…それは、ボクがアンドレアにつけてもらった名前。
花の世話係だから、花に必要な『太陽』にかけて『サン』……だってさ。
「 な、なんだよいきなり。」
ジョウロを持ったままアンドレアの前に立っていたサンが、驚いて少し後ずさる。
「 サンには、『好きな人』、いる?」
「 ──……はぁ?」
サンが疑問の表情をすると、アンドレアは切ない笑顔になり、
そのまましゃがんで水滴を帯びた花に触れる。
「 私には、『居た』わ。好きな人…ってより、恋人だった…。」
……『居た』って事は、別れたんだな。なんだよ、失恋話でも聞かせる気か?
「 失恋話なら、花にでも向かって話せよな。」
不満そうにサンがアンドレアに向かってそう言うが、アンドレアはそのままこう言った。
「 サンと同じくらいだったかな──……。」
「?何が?」
そして、アンドレアがサンの方を向く。優しい表情だ。
「 サンと同じくらいの年齢の男の子だったの。私の恋人!!」
「 ………えぇ?!」
いきなりのアンドレアの発言に、まず、何から言っていいか戸惑うサン。
「ちょ、ちょっと待てよ。ボクの年齢分かってるのか?いくらなんでも、
あんたとじゃ離れすぎて───………。」
「 もちろん!分かってるわよ?愛に年の差は関係ないでしょ〜?」
「 ……はは…。」
重大な事のように感じるのに、あまりにもアッケラカンとしたアンドレアの態度に、気が抜けるサン。
「 この事言ったの、サンがはじめてよ。他の誰にも言ってないの。」
「そりゃそうだよな。女王様がそんなシュミだなんて事、知れ渡ったら大騒ぎだ。」
呆れたように両手を広げ、そう言うサン。アンドレアと少し離れた所に座る。
「 シュミって…失礼ね、ちゃんと両想いだったし、『少年』じゃなく『その子』自体が好きだったのよ。」
アンドレアはそう言うと少し頬をふくらます。
「…はいはい分かったよ。」
サンは、女王を怒らせたら面倒な事になるな、と思ったので、軽くなだめる。
「 将来、王様になるって言ってたのよ。わたしの夫って事は、そうでしょ?」
……少年が、大の大人相手に『ケッコン』ねぇ…。
「 それで、月日は流れて、その恋は実らなかったんだろ。当然だよ、障害多すぎだろ。」
サンは、軽い気持ちでそう言ったつもりだったが、アンドレアの表情は曇ってしまった。
…怒るかな?…これだから女の扱いは難しいんだ。
怒られると思ってサンが身構えていると、アンドレアは動かずこう言った。
「 ……そうね……。」
アンドレアの声が少し震えていた。
……こういう時、女にとってドレが禁句でドレが励ましの言葉なのか全くの謎だ。
「 …ハァ…。…もう失恋話、聞いたからいいだろ。残ってる花に水やったら、
ボクは小屋に戻る。」
小屋とは、宮殿の庭番のための生活小屋だ。サンに与えられた家でもある。
「 あ…待って。宮殿の中を案内するわ。その為に来たんだから。」
そう言うとアンドレアは立ち上がった。
「え?宮殿の中?ボクなんかが入っていいのか?」
「 クツのドロを落としてからね。」
そうして、サンはアンドレアに連れられ、月花宮殿の中へ。
エントランスと呼ばれる、最初に足を踏み入れる広間に出た。
「 うわぁ…。」
サンが言葉も出ないで居ると、アンドレアは階段を少し上がって振り向く。
「 こっちよ。来て、サン!」
いそいそと、広い階段を上がってアンドレアを追い掛けるサン。
もっと凄いものがあるのかも…。そういった好奇心が、サンの足を動かしていた。
「 ……凄いところに住んでるんだな、あんた…。」
「わたしの名前は知ってるでしょ?『あんた』はよして。…さあ、ここのドア開けてみて。」
長い廊下が終わり、大きなドアに辿り着いた。
「 ……?ボクが開けるのか??まさか、びっくりさせたりするんじゃ…。」
「そんな事しな〜い!」
しぶしぶと、サンがドアを開ける。
そこに在ったのは、美しい栽培園だった。
庭で育てる事の出来ない繊細な花達が、美しく栽培されている。
「 キレイでしょ。いつも、誰かに見せたいな〜って思ってたのよ。ふふん。」
自慢げにそういうアンドレアをしり目に、栽培園にみとれるサン。
「凄い…奇麗だ。こんな花、見た事無いよ。」
「 それは蓮の花よ。水上じゃないとダメなの。」
サンは、さっきのアンドレアの言葉を思い出す。
「 誰にも見せた事無いのか?ここ。」
「 …恋人には見せたわ。いつもここで会っていたもの。」
それを聞いたサンは、またじめじめした失恋話を聞くのは嫌だと思い、話を変える。
「 あんた…いや、アンドレアさんがコレ全部世話してるのか?」
サンがそう言いながら正面のイスに座る。
「 彼といっしょに世話してた…。」
「 …………… 」
──……おいおい、ここに居たらどんな話ししても失恋話じゃないかよ…。
サンが、言う言葉につまっていると、アンドレアがサンの横のイスに座った。
「 ……実は彼も、宮殿の花の世話係だったの。」
「は?」
サンはアンドレアの顔を見たが、冗談では無さそうだ。
「 冗談ならもっとうまく言ってくれよ。女王が、宮殿の庭番なんかと結婚出来るわけ──…。」
サンが気付いたときにはもう、既にアンドレアは泣いていた。
「 げっ、おっ、おい泣くなよ!悪かったよ…。」 ガタン
焦ったサンはイスから立ち、座っているアンドレアの前に来てなだめる。
「 ……サン……。」
アンドレアの泣き顔が見えたと思ったら、声を出す暇も無く、サンはアンドレアの腕の中へ居た。
そう、アンドレアはサンを抱き締めていた。
「 ……お、おい!何してんだよっ!」
さすがに照れくさいのか、自分より背の高いアンドレアの腕から逃れようとするサン。
しかしサンは、アンドレアの様子が何かヘンだ、と考える。
アンドレアはなぜか、抱いているサンの体を、自分の体の方へ押し付けた。
「 っ…?!く、苦しいって…!アンドレアさん!」
するとアンドレアは少し力を緩め、体を離すと、サンの顔を見た。
「 …彼が…忘れられないの。」
「だからって、ボクに言われても困るって!」
「 …だからお願い、サン…。」 ぱさ…っ
サンは、一瞬目を疑った。
……アンドレアが、自分のドレスをほどき、乳房を露出させたからだった。
「 ……?…… 」
「 私の……恋人になって。……サン。」
サンは、絶望の表情でアンドレアから目が離せないでいる。
アンドレアは美しい…。初めて見たときからそう思っていた。
しかし、彼女の体など見たいとも思っていなかった。
「 ……や……やめろ…っ!やめろよ!!!気持ち悪い!!!」 タタタッ
「あ……サン…!!待って……。」 バタンッ
サンは、無我夢中で逃げ出した。
あのままあの部屋に居たら、アンドレアは服をすべて脱いでしまいそうな気がしたからだ。
気付いたらサンは、宮殿の庭に戻って来ていた。
あの美しい彼女があんな事するなんて…何かの間違いじゃないのか。
誰よりも清いと思っていたのに…。
彼氏と……ボクくらいの年の人間の男と、ああいう事してたのかよ……。
とっさに出た『気持ち悪い』という言葉…。
それは、アンドレアの体に対してでは無く、彼氏と何をしていたかに対して出たサンの言葉だった。
白い肌…美しい体だった。
「 ……アンドレアのアホ…ッ。何がなんだか訳わかんねえよ……。」
サンは泣き顔で、ため息をついて座り込んだ。
時刻はもう夕刻になっており、太陽はオレンジ色に輝いて見える。
草花や木の多い庭のあちこちから、鈴虫の声が聞こえて来た。
サンは、息は落ち着いていたが、心臓のドキドキがまだ消えていなかった。
──……ボクは、なんで逃げたんだ…?好きな女性に告白されたってのに……。
……違う!あれは告白なんかじゃ無い!服を脱ぐなんて、おかしい…!!
──……でも、彼女を見るたびに、あの肌に触れたいとも思っていたじゃないか。
サンの中で、正反対の考えが口論しあう。
最も、サンがこんなに悩むのは、アンドレアを好きだからであろう…。
サンは、またアンドレアがここへ来るかもしれないと考えると怖くなり、立ち上がる。
「 ……小屋に居たら、来ちゃうよな…。城の外を歩いて、気を落ち着かせて来よう…。」
耳も垂れ垂れで、しょぼんとしながらサンは、城の門の方へ歩いていく。
門には、一人の門番がついていた。
サンが最初、庭に忍び込んだときにサンの身を拘束した男である。力では勝てない。
「 …困ったな、これじゃ出るに出られないや。」 ポスッ
木の影に座り込むサン。一応隠れているつもりらしい。
その時……
「 おーい、開門しろ!!」
門の外側から、別の男の声が聞こえた。
内側に居たあの門番が、急いで開門する。
隠れていたサンは、身をもっと隠し、その様子を影から見る。
「 何だ?どうしたんだろう。でもちょうどいいや、門が開いてるスキに、なんとか出られないかな?」
サンがそんな事を思っていると、門が開いて間もなく、複数の馬のひづめの音がゆっくり聞こえて来た。
ヒヒーン…パカラッ…パカラッ
馬のひづめの音の他にも、金属っぽい音がする。
隠れているサンは、もっと耳をすます。
パカラッ…ガシャン
そうこうしているうちに、門番の声が聞こえた。姿はまだ見えない。
「 これは…!ギルトーニ様、お越しであればお迎えを送りましたのに…!!」
馬の集団と門番2人が、中へ入って来た。
ギルトーニと呼ばれたその男は、厚い鎧を身にまとい、大きな剣を腰に刺し、まるで戦士のような格好をしていた。
彼の後ろには、同じく厳重武装した戦士達が鋭い表情で居る。
「 うわぁ…。なんだ、アイツ?これから戦争にでも行く気かよ、あの格好…。」
影で見ているサンは、ギルトーニと言う男の姿を見て絶句する。(小声)
「 迎え?そんなものは要らぬ。我が隊は最強故に…。」
ギルトーニが門番に、見下すようにそう言う。
するとすぐに後ろの戦士が、門番に向かって怒鳴る。
「 無駄話しは必要無い!アンドレア女王は何処だ!」
その声に驚いた門番が、すぐに棒のようにピンと立ち敬礼すると、焦ったようにこう言う。
「 っも、申し訳ありません!女王様は宮殿のご自室かと…。」
隠れているサンは会話を聞いていたが、ふと、ある事に気付く。
──今なら、門番2人が門を離れてる…!いちかばちか…今がチャンスだ…!
「 ギルトーニ様、馬は私達にお任せを…!」
「馬鹿者、大事な馬をお前達に任せられ等出来ん!」
門番と、ギルトーニの部下らしき戦士が話しあう中、サンはスキを見て門へ走る。 ガサ…ッ
「 良い。兎に角、中へ入らせてもらう…ぞ…………。……?………。」
後ろに居る門番に話し掛ける為に後ろを振り向いたギルトーニは、門を出て行くサンの後ろ姿を見た。
「ギルトーニ様、如何なされました…?!」
ギルトーニのようすを不思議に思った戦士が問う。
しかしギルトーニは、片手を少し払うように挙げると、宮殿の方向へ草の上を馬で踏み歩き始める。
そして戦士も後を続く。
門番はそれを見ると、ホッと胸を撫で下ろし、自分のいつもの配置についた。門は開いたままである。
──いっぽう、宮殿の中のアンドレア──
栽培園からトボトボと自室に戻ったアンドレアは、軽装のイブニングドレスに着替えていた。
「 ふぅ……。」 ギシッ
落ち込んだ顔つきで、広いベッドに座る。
コンコン
その時、部屋のノッカーを叩く音が聞こえた。
アンドレアはびっくりして立ち上がると、すぐに返事をした。
「 は、はーい!」
するとドアの向こうから、聞き慣れた召し使いの女の声が聞こえた。
「 女王様、ギルトーニ様がお見えで御座います。」
それを聞いたアンドレアは、あたふたと上着を羽織り、ドアを開く。 ガチャ…ッ
「 ……ほう、夜のドレス姿は初めて見ますな。」 カチャン
腕を組んで立っているギルトーニが、アンドレアに対してそう言った。
彼が少し動く度に、身につけている重金属達が音を立てる。
「 …な、何の御用でしょうか、ギルトーニ様。」
ギルトーニが自分をじっと見るので、少し動揺して問うアンドレア。
するとギルトーニが少し微笑み、こう答える。
「このような時間の訪問、申し訳ありません…。少々、あなたにお話しがありましてね…。」 カチャン チャリッ
それを聞いたアンドレアは、横に居た召し使いの女に『下がりなさい』の合図をした。
しかしすぐにギルトーニが喋る。
「 ああ、良いのですよ。誰が居ても構いません。…わたしはね。」
だがアンドレアは少し考えると、部屋から一歩出てこう言う。
「 客室があります。そこへ向かいましょう。」
ギルトーニに向かってそう言うと、後ろ手でドアを閉めた。 パタン
アンドレアは先に、ギルトーニは後に廊下を歩く。
廊下の所々には、召し使いが頭を下げて立って居る。
カチャン…ガシャン!チャリ…ッ
アンドレアの後ろから、威圧感を思わせる程の金属音が聞こえる。
「 ……ギルトーニ様、毎日毎時間そんな重いものを身につけていて、疲れませんの?」
前を歩きながらアンドレアが後ろへ問う。
「 わたしは曲がりなりにも将軍ですので…気は抜けないのですよ。ご心配には及びません。」 カチャン
するとちょうど、客室らしき部屋のドアの前まで着いた。
アンドレアがドアを開く。 ガチャッ
金や銀に光るインテリアの他、きらびやかな家具達が凛と置かれた広間が見えた。客室…らしい。
アンドレアが奥に行き振り向くと、ギルトーニが中に入り部屋のドアを閉めた。 パタン
そしてすぐにアンドレアが口を開く。
「 ……さあ、ここなら誰も話を聞く者は居ません。軍事についてのお話しですか?それとも交易?」
しっかりとした口調で、すらすらと喋るアンドレア。
しかしギルトーニは、また少し微笑むと、カチャン、と音を立て腕を組み、こう言う。
「 あなたのような美しい女性とこんな時刻に、難しい話しをする為に来る馬鹿者が居たら…
この目で見てみたいものですね。」 カチャン
それを聞いたアンドレアは、少しピクッとする。
なおもギルトーニは喋る。
「 …以前もお話しましたが…敢えて又、言わせてもらいます。…まだ『お返事』は貰えませんかねぇ。」
するとアンドレアは、脅えたように目を反らし下を向いて黙ってしまう。
アンドレアのその様子を見たギルトーニは、片方の口角を上げ少し微笑むと、こう言う。
「 …『黙認』は『賛成』ととって宜しいでしょうか?」 カチャン
「 ち…っ、違います…!」
少し顔を赤くしたアンドレアが、ギルトーニに向かって叫ぶ。
しかし顔を上に上げた途端、アンドレアのすぐ近くまでギルトーニが来ていた事に気付き、
急いで後ずさろうとするアンドレアだったが、すぐにギルトーニに肩をつかまれる。
カチャン ザ…ッ
「!!きゃ…っ!!」
ギルトーニは、脅えて逃げようとしているアンドレアを逃がさないように軽く掴み、眼前でこう囁く。
「 アンドレア…。わたしは一体いつまで待てば良いのです?わたしが貴女に『プロポーズ』してから、
もう数週間経っているように感じるのですが。」
しかしアンドレアは目を背け、ギルトーニの腕から逃げようとしながらこう答える。
「 は…っ、離して下さい、ギルトーニ様…!」 カチャン
だがギルトーニはそんな言葉も聞かず、今度は片手でアンドレアのアゴを掴み、自分の方へ向かせる。
「 なぜ目を反らすのです?こちらを向いて、その美しいお顔をお見せ下さいよ。」
ギルトーニと言う男もまた、整った顔だちをした美形な男であった。
しかしアンドレアは、力一杯ギルトーニを撥ね除けようとする。
「 離して…!怒りますよ、ギルトーニ様…!」
アンドレアが余りにももがくので、ギルトーニはアゴを持っていた手を離す。
するとアンドレアはすぐに離れた。
「 ……まだお返事は貰えませんか。…ふぅ、まあいいでしょう。ごゆっくりお考え下さい。
……まあ、もう答えは分かっていますがね……。」
そう言われると、アンドレアは自分の胸の前に置いてある右手の拳を握り、深刻な表情をする。
「 …………… 」
ギルトーニは、そんなアンドレアを見つめると、ゆっくりと近寄って行く。 …カチャン、ガシャン
それに気付いたアンドレアはハッとなって後ろに下がろうとするが、次の瞬間、
ギルトーニが目前で片足をひざまづいたため、足を止める。
するとギルトーニは、そのままアンドレアの左手を取り、手にキスをした。
「 …ご無礼を…。アンドレア様。こんな時間に美しい貴女を見たらつい…触れたくなりまして。」
その行為が優しかったので、アンドレアはギルトーニに手を取られたまま無言で居た。
しかし次の瞬間、ギルトーニはアンドレアの手を持ったまま立ち上がる。 カチャン
そしてギルトーニは間もなくアンドレアの手を引き、後頭部を固定してキスをする。
「 んむ………ッ!!??」 ガタン
余りにも力の強いキスの為、アンドレアがよろける。
ギルトーニは、アンドレアの腰と後頭部を固定しているので、アンドレアが抜け出せない。
しかしその時、なぜかギルトーニの顔が歪み、アンドレアが軽く離される。 ガタ…ッ
「 ……ッ、ハァッ、ハァッ、ハァ……ッ」
息も荒く、自分の唇を手の甲で拭くアンドレア。
「 …………ふっ。」
ギルトーニも、自分の唇を手の甲で拭くと、その甲に血がついたのを見て鼻で笑う。
どうやらギルトーニは、アンドレアに唇を噛まれたようだ。
「 流石は一国の女王だ。気性が荒い程、良い…。……アンドレア様。今日はこれで失敬します。」 カチャン
ギルトーニが、後ろのドアの方を向き、歩いて行く。 ガシャン、カチャ
アンドレアがホッとしていると、ギルトーニがドアの目前で足を止め、後ろを見ずこう言った。
「 …そうそう、わたしの口づけで、女王様を『興奮』させてしまったようで…とんだご無礼を。」
その言葉がよく理解出来ないアンドレアは、少し考える。
……アンドレアはふと気付き、自分の胸元を見るとドレスの上からでも分かるほど、乳首が立っていた。
「 ……あ……ッ!?」
恥ずかしさで顔を真っ赤にするアンドレアを後目に、ギルトーニはまた鼻で笑い、こう言う。
「 宜しければ、いつでも喜んで『お相手』しますよ。」
ギルトーニはそう捨て台詞を残し、部屋を出ていった。 バタン!
残されたアンドレアは、少し時間を置いて曇った表情で部屋を出、どこかへ向かった。
アンドレアが向かった先は、庭の小屋…。そう、サンの居るはずの小屋である。
庭にはもう、ギルトーニ達の姿は無かった。 ガチャッ
アンドレアが飛び込むように小屋のドアを開けるが、狭い小屋の中には生物の気配は無く、
ランプがゆらゆら灯っているだけだった。
するとアンドレアは、その場にしゃがみ込み、震えながら涙を流す。
「 う…ッ、うぅッ、ひくッ…。…サン…!サン、どこ〜…?!ひくッ、えッ………。」
泣き声も空しく、部屋に響くだけだった。
アンドレアはしばらく泣くと、泣き疲れたのか小屋のベッドで寝てしまった。
──いっぽう、外に飛び出し街を歩くサンは──
時刻はもう夜にまわっており、空には一面の黒に浮かぶ星たちが見えた。
「 ……へ………へ……へ〜〜〜っくしょい!!!!!!」
ポテポテと歩いていると、サンがいきなりくしゃみをした。
「 ズッ、あれ?カゼひいたのかな。はぁ、もうそろそろ帰るか〜…。」
夜の街を歩いて気が落ち着いたのか、サンは月花宮殿に向かっていく。
そして、とある屋台の横を通り過ぎた時…。
「 おい、小僧! 」
屋台の店主に話し掛けられるサン。
「 ?! 」
「 オレだよ、覚えてるだろ?今までどこ行ってたんだ。」
その屋台の店主は、40代くらいの、無精ヒゲを生やした体格の良い中年男(人間)だった。
どうやらサンの浮浪仲間だったらしい。
「なんだよ、びびった、おっちゃんかよ。」
「キレイな格好してるじゃねえか。家は見つかったのか?」
中年男は屋台の横に出て、サンに近付く。
「うん。宮殿の庭師の仕事を貰った。おもったより女王が脳天気でさ。」
するとそれを聞いた中年男は、驚いた顔をしてこう言う。
「 宮殿?!そりゃまたオマエ、凄い所に…。そういや確か、アンドレア女王は結婚が近いとか?」
「 ……けっこん?!女王が?」
「聞いてないのか?」
中年男からの思わぬ情報に、言葉が出ないサン。
「数週間前から、話題になってるんだぞ。なんでも、相手は隣の大国の『国王』だとか。名前は、確か……
"ギルトーニ"とか、言ったかな。」
それを聞いたサンは、咄嗟にあの時の門番たちの会話を思い出す。
『 これは…!ギルトーニ様、お越しであればお迎えを送りましたのに…!!』
──………あの時の男だ…!!
「うそだろ…アイツ、戦士か将軍じゃないのか?」
サンにとっての『国王』のイメージは、アンドレアや前国王(アンドレアの父)のような、威厳のある姿だった。
しかしギルトーニの容姿はというと、あまりにも戦いの装備が多すぎたため、いまいち国王だと信じられないようだ。
すぐに中年男が口を開く。
「 『国王』そして『将軍』。まあ、この大陸じゃギルトーニ国王が最強だと言われている。国の戦力もな。
で、アンドレア女王とギルトーニ国王が結婚すれば、オレたちのこの国は、隣の国の藩属国となる…って訳だ。」
それを聞いたサンは、アンドレアの行動を思い出す。
「 …アンドレア女王に、好きな人が居たとしたら……?」
自分で言ってみるのも恥ずかしかったが、サンは動揺を隠して中年男にそう訪ねた。
すると中年男はケラケラと笑い、こう答えた。
「ハハハ!!小僧、お前ギルトーニ国王の姿、見た事無いのか?あのツラで、あの強さ!ギルトーニ国王は有名で、
ほかの大陸の王女や姫からの結婚話しも多いってのは、かなり有名だろが。」
「 …じゃあ、アンドレアは…いや、女王は、あの男と結婚するって言うのか?」
「そうだろ。断るなんて考えられん。」
──……じゃあ、なんでボクに告白したんだよ…。ちょっとでも期待したボクが馬鹿だったのか…?
「おっと、客だ。らっしゃい!………小僧、何ポーっとしてんだ??」 コツン
中年男に頭を叩かれ、ふと我に返るサン。
「 …あっ、ボ、ボクもう帰るよ。じゃあな!」
「おう、元気でな!」
サンは、中年男と別れると、走って宮殿に向かった。
──あの男と結婚?じゃあ、さっきあの男が宮殿へ来たのは、結婚の話しをするため…?
サンが門の前につくと、門が閉まっていた。
「 ……あー!しまった、帰る時の事考えて無かった。……どうしよう?」
サンが策を考えながら、宮殿の門の近くをウロウロしていると、外側の門番に気付かれた。
「 ……おい!!そこのお前?どこかで見た顔だな。」
「(ビクゥッ)…っは、ははは、そう…実はさっき、門から出たんだ。」
「やっぱり庭師の坊主か。さっき?……あぁ、ギルトーニ様達が居た時か…。あの人達の周りをヘタに横切ると、
剣で斬られるぞ。死にたくなかったら、外出許可を取ってから普通に門を出ろ。」
門番はそう言うと、内側の門番に叫ぶ。
「 おーい!半分開門!!」
間もなく門が半分開き、内側に居た門番がサンの顔を見て怒鳴る。
「 ……あッ!おまえ〜!いつの間に…!?今度勝手に抜け出したら、追い出すぞ!」
「分かった、分かったって。」 タタタッ
説教を後目に、サンは自分の小屋へ向かった。 ガチャッ
「 わッ!!」
部屋に入るなり目についたのは、サンのベッドで寝る女王・アンドレアだった。
思わずサンは、小屋を出る。 バタン!
心臓をドキドキさせながら、小屋の外の壁に寄り掛かるサン。
「 な、なんで居るんだ、びっくりした…。……はっ、そうだ、もっと堂々としないとな…。
そして、結婚の事聞かなきゃ。」 ガチャ…
今度はゆっくりと小屋のドアを開けるサン。
サンは、中に入り、ドアをゆっくりと閉めた。
いつもより薄い服装のアンドレアが、寝息を立てている。
「 ……おい。アンドレアさん!アンドレアさんってば!!!!」
少し離れた所でサンが叫ぶと、アンドレアの体が動き、目がゆっくりと開いた。
「 あの……。まず、なんでこんな所で寝てんだよ……。」
サンを見たアンドレアは、寝ぼけ眼でゆっくり半身を起こす。
「 ……サン…やっと帰って来たのね。どこに居たの…?ふぁ〜あ…。」 ギシッ
アンドレアが、ベッドに座ったままあくびをして背伸びをしている。
「 えっ、うーん、ちょっと…探険というか。……あのさ、アンドレアさん…。さっきは…その、ゴメン。」
「 ?え…?」
「えっと、あの…『気持ち悪い』なんて言って、ゴメン。あんたはキレイだよ…。」
照れくさそうに、目を反らして言うサン。
「ま、まあそれだけ。…それで、怒りに来たのならもう帰ってくれよな。謝っただろ…!」
それを聞いたアンドレアは、驚いた表情をすると、少し微笑んで立ち上がり、サンに近付く。
「 ……私も…あんな事してご免為さい。すごく、寂しかったの…。」 スッ
「 …ッ!アンドレアさ…!」
またもやサンを抱き締めるアンドレア。しかし、とても優しい力だった。
アンドレアは、サンの耳もとでこう囁く。
「 あとちょっとだけ、こうさせて…。サンって、柔らかくて暖かいの…。」
──もしかして、アンドレアはボクを家族みたいに思ってるのかな?
サンは、緊張感が解けたのか、力を抜いてアンドレアに寄り掛かった。
するとアンドレアは、そのまま(サンを抱いたまま)ベッドに座る。
「 ……あ………。」
アンドレアが座った事で、サンの手がアンドレアの胸についたため、サンが体を少し離す。
柔らかい、アンドレアの胸…。
動揺しているサンに、アンドレアは少し微笑むとこう言った。
「 …いいよ、触って…。」
暗いランプの灯りが、2人の気分をムーディックにする。
サンは、何も考えられないまま、頭の中を混乱させつつ、片手でアンドレアの胸の谷間辺りに触れる。
そのまま手を下に下げると、もっと柔らかい肉の感触を感じた。
アンドレアは、自分の手でサンの手を掴み、もっと服の中へ入れる。
途中、サンの手の一部が、何か固いものに触れた。
その瞬間、アンドレアの体がビクッと反応する。
「 ……?アンドレアさ……。」
「 いいの…!もっと、触って…。見て、もう一度…。」 シュルッ
アンドレアは服をずらし、また、胸を露出させる。今度は間近だ。
白く、柔らかそうな乳房。それとは裏腹に、固そうに尖るピンクの乳首。
サンはまるで、果物のように思った。
乳首に興味を持ったサンは、ゆっくりそれに触れてみる。
「 ……あッ…!」
さっきと同じく、ビクッと反応するアンドレア。アンドレアの顔を見ると、頬を赤らめていて苦しそうだった。
「 ……アンドレアさん…?痛いの…?」
そのサンの言葉にアンドレアはハッとなり、優しく微笑んでこう言う。
「 ううん、痛くない…。気持ち……良い……。」
「 ……気持ち良いの??」
サンは、それを期に、今度は両手で、両乳首に触れた。 スッ
「 ……ッ!!はッ、あん…ッ!」 ギシッ
思わず、仰け反るアンドレア。
そのアンドレアの反応が面白くて、どんどん乳首を触るサン。いやらしい気持ちじゃなく、興味からの行動だった。
そしてアンドレアは、息が荒くなり始めると、こう囁いた。
「 はぁ…っ、手じゃ…痛いわ、舐めて…サン。」