「うっ……あっ……」
薄暗い室内に艶かしい少女の声が木霊する。
塔のように積み重ねられた無数の本が埋め尽くす、書庫のような奇妙な部屋。
何千、何万冊という本に囲まれた、部屋のほぼ中央に置かれた肘掛け椅子の上で、
少女は一人身悶えていた。
「こ、これは、少、し、マズイかもしれないです……」
漆黒の衣装を身に纏った、陶磁のように白い肌をもった人形のように美しい少女。
しかし、幾層ものレースとフリルでゆったりと膨らんだその衣装も半ば肌蹴け、
腰まで伸びる漆黒の長い髪は乱れて、同じくらい黒い瞳もどこか陶酔しきったように潤んでいる。
「この幻書の力を、ちょっ……と……うっ……甘く、みてましたか」
頬は赤らみ、吐息は激しく、まるで熱を出した病人のような状態だ。
少女は自分で自分を抱きかかえるようにしながら、必死に何かに耐えていた。
その胸元には一冊の古ぼけた本がある。
豪華な黄金色の装飾が施された、革表紙の本。
その表面には――“楽園に至る快楽の書”と本の題が記されている。
「まさ、か、この私にまで、ここまでの影響を……あっ……くんっ」
“楽園に至る快楽の書”はそれを読んだ人間に、無尽蔵の快楽を与えるという。
その昔、権力の果てにこの世の楽園(ハーレム)を作り出そうとした異国の王が、
ありとあらゆる快楽を追求し、探求した果てに、そのノウハウを書き記した書物。
それが“楽園に至る快楽の書”だと言われる。
その王の欲望は底が無く、女に限らず男、年齢を問わず幼子から老人まで、
また人にすら限らず獣とまでまぐわい尽くしたとされる。
「こんな下衆な本……とっとと……処分してやればよかったのです……」
愛書狂(ビブリオマニア)として興味本位で開いてしまったのが、運のツキ。
少女は“楽園に至る快楽の書”が与える、未体験の快楽に耐えていた。
直に触れていなくても、少女の未成熟な蕾は潤いを持ち、
既に漆黒の衣装の下のドロワーズはびしょびしょに濡れていた。
「ぜ、全然、気持ちよくなんて、ないのです……こんなの、全然……うはっ!」
抵抗する少女の精神を食い散らすかのように、どんどんと勢いを増す快楽が脳髄を痺れさせる。
やがて何か得たいのしれない目に見えない腕のようなものが、自分の身体に纏わり付いているかのような錯覚が襲ってくる。
その腕が少女の敏感な部分を撫で回し、抓り、優しく愛撫していく。
少女の精神に限界が近づいてきていた。
「あ、ひゃああああ! ど、どこを触っているんですか! だ、ダメです。ダメ……!」
少女の蕾の上で膨らむ快楽の先端部分に腕が触れる。それで決壊だった。
「う……うっ……ああああああああああ!!!!」
体験したことのない感覚――絶頂が少女を襲った。
まともに呼吸をすることすら出来ない。
ひゅーひゅーと咽喉を鳴らし、朦朧とした意識を繋ぎ止める。
「わ、私が、こんな……屈辱……忌々しい本です……」
ようやく悪態を吐けるまでに意識が回復したのは、それからしばらく経った後だった。
少女は衣装をめくり上げ、ドロワーズを確認すると、怒りと羞恥が混ざり合ったような複雑な表情を見せた。
「ダリアン? なんか凄い叫び声が聞こえたけど、どうしたんだ?」
部屋の外へと続く扉から、男の声が聞こえた。
ダリアンと呼ばれた少女は一瞬で我に返り、扉に向かって叫んだ。
「な、ヒュ、ヒューイ! 今入ってきてはダメなのです! 絶対に入ってきたらダメです!」
しかし叫びもむなしく、今まさに扉は開こうとしていた。