「シラノ!お前はもらってないよな!」
朝の教室。蒼衣が自分の席で本を読んでいると、敷島は会うなりこう言ってきた。が、何のことかわからない。
「えっと……何を?」
「バレンタインだよ!」
「あー……今日14日だっけ。いや、貰ってないよ」
「ああ、やはりお前は親友だ、シラノ。俺だけ貰えなかったらどうしようかと」「普通は貰えないよ」
そう。チョコなど貰えないのが『普通』である。貰えたら嬉しいが、それで目立つのは少し困るので、蒼衣は心配していない。敷島は心配しているが。
「そうでもない。白野、お前に義理のクッキーが来ている。二つもな」
佐和野がやってきて蒼衣の机に手作りクッキーの袋を置いた。……が、奇妙な点が一つ。
「これ、二つとも同じやつだよね」
蒼衣が貰えたことへのショックで悶えていた敷島も気づく。
「ホントじゃん、てか佐和野も同じのを持ってるな。なんでだ」
「これはな、朝に一人の女子が、『佐和野君と、佐和野君と一緒にいるお友達に』と言って渡してきた。つまり」
「つまり?」
「俺と一緒にいる友達は白野しかいないので白野に二つ渡したという訳だ」
「俺は!?それ一つは俺のだろ!」
「白野。敷島とかいう知らんやつに奪われる前に食べてしまえ」
「やめてくれシラノー!」
「ははは……」
バレンタインという『特別』が来ても、敷島は『普通』に佐和野にいじられるのだった。