「ふんふん〜♪」  
エコバッグを片手に、颯姫は商店街を歩いていた。  
目指すは今日の特売品!白菜を売っている八百屋さん。  
 
この町は颯姫にとって居心地のいい町だ。  
「あら?颯姫ちゃんこんにちは。今日は天気がいいねぇ」  
手押し車を押したおばあさんがにこやかにあいさつをしてきた。  
誰だかわからないけれど、元気よく答える。  
「こんにちは!今日は天気いいですね♪」  
答えてから、考える。  
……昨日、晴れてたかな?曇りだったかな?  
私、おかしな返事してないよね?  
 
固まって考え出した颯姫に、老婆は動じずに言った。  
「今日は晴れてる。それで十分」  
颯姫は大きく頷いた。  
「ところで颯姫ちゃん、今日の買い物はなんだい?」  
「えっと、最初は八百屋さんです!白菜を買います!」  
首から下げた手帳を確認する。  
「私も八百屋に行くところだから、一緒に行こうかね」  
「はい!」  
老婆は、手押し車をUターンさせ、颯姫と一緒に歩き出した。  
 
 
「ありゃ?あの婆さんさっき八百屋でリンゴ買ってなかったかい?」  
魚屋の店先で男が呟く。  
「あぁ、アンタ最近越して来たんだったね。ありゃあれでいいんだよ!」  
サンマを包みながら魚屋の店主が答えた。  
「あの女の子、颯姫ちゃんは事故で記憶障害があるんだよ。でも明るくて元気で、老人ばかりのこの商店街の天使さ!」  
 
 
全てを忘れてしまう颯姫は知らない。  
この町が颯姫に優しいのは、颯姫がそれ以上の幸せを商店街の皆に与えているから。  
 
今日も明日も、颯姫は元気にお使いにいく。  
 

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