鹿狩雅孝は苦悩していた。
ここ数日、新しく神狩屋ロッジに預かることになった少女――時槻雪乃の処遇について、四野田笑美と連日議論を重ねている。
大筋では共通の見解に至ったのだが、ある一点でなかなか意見が妥結しないのだ。
「だからね」
笑美は言いつのった。
「“痛み”がトリガーなのが問題なのよ」
断章の暴発を防ぎ、出来れば雪乃を日常に戻す――そのために《断章詩》と『服装』で二重の安全装置を設定する――そこまでは二人の世話役の意見は完全に一致していた。
しかし。
「雪乃ちゃんだって、いずれ恋をするかもしれない。恋をすれば、当然そういうことも起こりうるわ。そのときに、相手を焼き殺しちゃったら、雪乃ちゃんは今度こそ耐えきれないわ」
笑美曰く。
破瓜の痛みで、思わず安全装置が外れることも考えられる。日常へ還る最終段階とも言える恋愛で却って傷口が大きくなれば、雪乃は日常から完全に逸脱する可能性が高い。
だから雪乃が混乱している今のうちに、手を打っておくべきだ、と。
「だからといって、なぜ僕が……」
人によっては、役得と考えられる者もいるのかもしれない。
だが、神狩屋にとってはなるべく避けたい展開だ。
渋る神狩屋に、笑美は笑ってこう言った。
「だって、断章という不幸を背負った子供がちゃんと大人になるように導くのが、私たち世話人の役目じゃない」
「何で私がこんな目に逢わなきゃいけないの?」
ベッドに両手を繋がれた雪乃は、目に大粒の涙を浮かべて叫んだ。
叫びたい気持ちは痛いほど解る。
姉に浮かんだ泡禍によって父母を、家族を喪い、そして、処女をこんな形で喪うなんて、納得など出来る訳がない。
「君のためなんだ」
神狩屋にはそう呟くことしか出来ない。
焼かれても死ぬことのない神狩屋が雪乃の処女を奪い、その後颯姫の食害を用いて破瓜の記憶を消す――
それが雪乃のためだと笑美に説得されて、渋々ながらも承諾したのは、『所詮男には破瓜の痛みが解らないから、だからそんな楽観出来るんだわ』との笑美の台詞に反論出来なかったからだ。
あえてゴシックロリータの衣装は着せたまま、服の上から胸をまさぐる。
「やだ……っ。神狩屋さん……やめて……っ」
雪乃は激しく抵抗するが、所詮は大人の男と少女。力の差は歴然で、のしかかった神狩屋をはね返すことはできない。
「……あまり暴れると、手首が傷付くよ」
やんわりとたしなめるが、手首が傷付くことも実は計算のうちだ。
なるべく痕が残らないよう幅広の布で縛ってはいるが、抵抗すれば痛みは少なからず手首に残る。
痛みを手首に記憶させ、手首以外への刺激での暴発をなるべく抑制する――これも笑美と二人で考えた、安全装置の一つだった。
「なるべく痛くないようにするから」
今の神狩屋の役目は、雪乃を快楽に染めること。
破瓜の痛みを軽減し、かつセックスの快感を身体に覚え込ませる――これは雪乃の将来のために、世話役として“やるべきこと”だ。
性具も色々と用意してある。むしろ神狩屋自身も、雪乃を悦ばせるための道具に過ぎない。
そう思わないと、やっていられなかった。
しばらくは雪乃の抵抗は激しかったが、だんだん疲れてきたのか、少しずつ身体から力が抜けてきた。
勿論、抵抗を受けながらも神狩屋が胸への愛撫をやめなかったせいもあるだろう。
「……んっ」
雪乃の唇から、くぐもった吐息が漏れ始めた。
雪乃の反応を確認しながら、神狩屋はローターのスイッチを入れ、雪乃の胸に押し当てた。
膨らみの周辺から頂点へ、円を描くようにゆっくりと刺激を与え続ける。
「………っ」
雪乃は吐息を噛み殺すが、小さな粒が徐々に尖ってきたのが、服の上からでもはっきりと解るようになった。
神狩屋はなおも執拗に、しかし慎重にローターで乳首を責める。もう一方の乳首には、神狩屋自身の指で、そして歯で刺激を与える。
「んふ……っ……やぁっ」
雪乃が弱々しくかぶりを振る。
「や……ん………嫌っ………あ……ふ…っ」
少しずつ弱くなる抵抗。
神狩屋は、雪乃のスカートを捲り上げた。
「……嫌!赦して、神狩屋さんっ!」
我に返った雪乃が、足をバタつかせたが、構わずにドロワーズとパンティを剥ぎ取る。
そのまま強引に太ももを押し上げると、雪乃の秘められた部分が露になった。
まだ男に散らされるには少し早い、幼さを残した泌部が、湿り気を帯びている。
「……処女だし、これくらい濡れてたら上出来かな」
あえて卑猥な言葉をかけると、雪乃の全身が固まり、すすり泣きが聞こえてきた。
「………もう……やめて……神狩屋さん……っ。……お願……い………」
しかし神狩屋は雪乃の懇願を無視して、回転を続けるローターを雪乃の泌部に近づける。
「んっ……ふ……っ、あんっ!!」
敏感な豆に刺激を与えて転がすと、雪乃の口から抑えきれない嬌声が漏れ始めた。
「あ、あっ……やっ」
雪乃の全身が跳ね上がる。
「や、いや……っ」
拒絶の声にも、艶っぽく色めいた気配が混ざりこんでゆく。
「……あっ、ああっ……ん……や………も……っ」
雪乃の身体が、小刻みに揺れる。限界が近いようだ。
「あっ!やぁぁ……っ!」
一際高い嬌声が上がった。
神狩屋はローターのスイッチをオフにした。
「………ふ……っ」
雪乃はただぐったりとして、荒い息を吐き続けている。
意識が朦朧としているらしく、目の焦点が全く合っていない。
初めての刺激は、まだ中学生の少女には少々強すぎたようだ。
「………ごめんね」
神狩屋は、呟いた。
「でも、ここでやめる訳には、いかないんだ」
そして、細身のバイブレータを手にとる。
「せめて、少しずつ慣らすから」
――そんなことで許される筈はないけれど、言わずにはいられなかった。
雪乃の肢体は、神狩屋が喪った『生』そのものだったから。
雪乃は、自身の身に起きていることが未だに信じられなかった。
姉が起こした事件で茫然自失だった雪乃を保護し、今は唯一頼れる存在だと思っていた神狩屋が、自分の身体を弄んでいる。
それが雪乃のためだといくら説明されたところで、納得など、到底出来る筈がなかった。
しかし、身体は雪乃自身の意思とは裏腹に、与えられる快楽を素直に覚えてゆく。
「……もぅ、や……赦して………っ」
いつか本当に好きな人とするものだと信じて疑わなかった行為を、つい最近知り合ったばかりの『世話役』としている現実。
心を裏切って、快感を得る身体。
褪めていく心。
「……やだ……っ!」
雪乃は、全身がカッと熱くなるのを感じた。
「………っ?!」
涙が頬を伝う感触で、雪乃は目が覚めた。
「あ、良かった。目が覚めた」
タオルを片手に雪乃の顔を覗き込んでいた少女――確か颯姫という名前だったはず――は、ホッとした様子で微笑んだ。
「神狩屋さーん!雪乃さん、目が覚めましたよー♪」
嬉しさを全く隠さない声で、颯姫が叫ぶ。
ほどなく部屋のドアが開いて、先日から世話になっているこのロッジの世話役である鹿狩雅孝が顔を覗かせた。
「……目覚めたんだね」
優しげな笑みを浮かべて神狩屋が近づいてくる。
初めて会った時と同じ笑み。しかし、何となく感じる、違和感。
雪乃は身を起こし、その違和感の原因を考えてみようとしたが、靄がかかったような感触しか思い出せない。
「……もう大丈夫かな?」
神狩屋が雪乃の額に手を当てようとした瞬間、雪乃の身体がビクッと震えた。
――この人は、信用できない。
それは、確信。
神狩屋だけではない。颯姫も、誰も、信用など、してはいけない。
『……やっと本当に“目醒めた”のね、愛しい妹。……うふふ』
背後から、両親を殺し自らの命を絶ったはずの、姉・風乃の声が聞こえた。
〜FIN〜