ここからanother  
 
真っ暗だ。それに上下の感覚もない。  
雪乃の断章は間違いなくその先に吸い込まれ神様の夢に還っていただろう。  
それを見届けた風乃はここを漂っていた。  
風乃自身は泡渦として神の悪夢に還ることはできなかった。  
現実でも異界でも自分は異端なのだろうと諦観し、雪乃はどうなったのどうと思いをめぐらす。  
愛しい雪乃と可愛いアリス。  
あの後二人はどうなったのだろうか?ひょっとしてそのまま・・・・・・・・  
そこまで考え嬉しいような悲しいようなで身悶えする。  
どうせここには自分しか居ないのだからと「あー―――」と奇声を発し身体を捩り大げさに悶える。  
 
「何をしてるの?」  
「ひえっ!?」  
突如声をかけられ慌てて身なりを正す。  
茶髪がかった小柄な少女がいた。  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
二人の間に沈黙が流れる。  
年下に見える彼女に対して威厳を保ち問う。  
「あなたこそ何?」  
ここに居ることからとても人には思えなかった。  
う〜んと可愛らしく頭を傾ける。  
「影の人にはトランプですらないって言われたわ」  
的外れな答えに流石の風乃も辟易する。  
「たしかにトランプには見えないわね」  
「ところで何をしていたの?」  
最初の質問を再び投げかけられる。  
「妹の幸せを願ってたわ」  
特に隠す事なく正直に答える。  
 
「神野さん。彼女の望みは叶いそう?」  
トランプではない少女は風乃の後ろの闇に声をかけた。  
「魔女よ。彼女はすでに望みを叶えここにいるのだよ」  
くつくつと嗤いながら闇が答える。  
突如、人の形をした闇の気配が生まれる。  
驚き振り向くと闇の中に夜色の外套を纏った魔人がそこにいた。  
ふと私に似ていると思った。  
より悪夢の根源に近い私?いや、根源そのもの?  
風乃は一瞬で何かを感じ取った。  
神野と呼ばれた闇は嬉々とした瞳で風乃を覗き込む。  
「ほう。魔女にも摩津方にも私にも似ていないが魔女にも摩津方にも私にも近い。  
 強い望みを持ち、それでも自身で望みは叶えられず、末子のために果実となったか」  
「だが収穫される果実ではない。  
 神の供物にも成り損ねたか」  
いつの間にやら顔を顰め首を吊った魔術師が現れていた。  
「望みを持った悪夢の残滓か」  
首をくくった老人の動かない口から声が漏れる。  
風乃は、何なのこれは?と思う一方で何であるかも理解している自分がいた。  
 
魔女と呼ばれた少女は口を尖らせて言う。  
「小難しい事はどうだっていいじゃない。彼女は彼女なんだから」  
むーと頬を膨らませる。  
ぱっと明るい表情に変わりさらに続ける。  
「きっと影の人と神隠しの子も驚くと思うなあ」  
神野はくつくつと笑い魔術師は顔を顰めた。  
 
そんな様子を見ながら風乃は一人感慨にふけっていた。  
もうなんだか無茶苦茶ね。  
 
「ねぇ。貴女は何なの?」  
魔女が風乃に話題を振る。  
「トランプで無いのは確かだわ」  
素っ気ない答え。  
それでも魔女は満足したようで満面の笑みを見せる。  
「これからどうするの?一緒に来ない?」  
その笑顔のまま続ける。  
魔女と魔人と魔術師の視線が集まる。  
 
「そうね―――――――  
 私は――――――――――」  
 
 
終わり。  
 

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