窓ガラスに群れる鳩に似たカラスの群れ。それが何が為にここへ現れたのかは解らない。
ただ梢枝はにやりと笑っていた。楽しげに歪んだ口元を開く。
「解るわよ、匂い…死の匂いが。お腹を空かせた死…私を殺しにきたんでしょう? 食べに来たんでしょう?」
くくっ、と付け足すように笑う。それは幾らか、いや、かなり変人のようだった。
カラスは鳴く。それに呼応するようにそれぞれが鳴きざわめき、一気に騒々しくなる。
「だけど…殺すにはやや数が足りない。殺すつもりだとしたら、甘い考えね」
そう言って取り出した釘バットを手にガラス戸を開きベランダへと飛び出した。
「唸れ釘バットォォオ!!」
中略
「うっ………」
蒼衣その光景に思わず口を押さえてよろめいた。部屋の中には沢山のカラスの死骸が転がっていたからだ。
その中央には一人の女性―――恐らく梢枝と呼ばれる―――が左手を腰に、右手は人差し指を天に向けた状態で仁王立ちをしている。そして、
「目指すは東方不敗!」
と、高らかに宣言したのだった。
後日、梢枝は<撲殺天使(エシカリボルグ)>という名前で騎士団に入り、笑美や雪乃の記録を思いっきり凌駕する活躍を見せてその名を世界に轟かせた。