誰も居ない『神狩屋』でわたしは今日も作業をする。  
 もうメモ帳も何も無しでこなせる仕事。蒼衣さん達のおかげで。彼等が泡禍を抹消したおかげ。  
 命を、賭けて。  
 もう一年近く泡禍は確認されていない。普通の生活を手に入れた。けど、もうここには笑い声も尖った声も何もない。  
「夢見子ちゃん」  
 ただ唯一変わらないのはこの子だけ。ずっとやっぱりこのまま。  
「ご飯ですよー」  
 笑いかけても反応はない。でも逆に安心する。反応した時はいつも予言だから。  
 そう―――  
「!!」  
 これも預言。  
「…!?」  
 もうずっと感じることのなかった気配。あの嫌な空気。消滅した筈の泡禍の。  
 それがそこに、居る。  
 本を開く白い手。それと目が合った瞬間に、すっと消えた。  
「………」  
 今までに類を見ない、日本の昔話の本。それが落ちている。  
 わたしは選ばれた。預言を託された。  
「………」  
 まだ消えていない。泡禍はこの世に残っている。  
「…わたしも、戦わなくちゃ」  
 今まではみんなが守ってくれた。だから今度はわたしが守る。  
 雪乃さんの遺したゴスロリで身を纏い、カッターナイフを手にする。そして唯一遺された断章へ呼びかける。  
「行きましょう」  
『えぇ、行きましょう。追憶者は追憶しなくちゃ』  
 雪乃さんが遺した風乃さんと共に、わたしは行く。  
『一片の淀み無く己が道を貫く。簡単なことで何と難しいことよ』  
 ふと雪乃さんが言う。  
『田上颯姫…貴女ははこれから何もかも危険になっていく今の世で生き、追憶者をどこまで貫けるかしら?』  
「無論、死ぬまで」  
 わたしはもう忘れない。  
 

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