雪乃はベッドに座って部屋の窓に目を向けていた。  
 いつものようにゴシックロリータを身に纏って、髪はリボンでまとめている。  
 窓から見える空は厚く雲が覆い、先ほどから雪が降って来ている。雪乃はその様子をぼんやりと眺めていた。  
 
「見て、雪乃さん。雪がきれいだよ」  
 蒼衣は窓を開けて住宅街の夜景に目をやっていた。積もり始めた雪が街灯を反射して街を仄かに蒼く染めている。  
 雪乃は窓を、そして枠の中で微笑む蒼衣の顔を見る。蒼衣は雪乃の方に向き直り穏やかな笑みを浮かべていた。  
 少し安心するのと同時に、棘の刺さったような苛つきを覚える。  
 どうしてそんな顔ができるのか、止めてほしいと思うこともある。  
 分かっている。蒼衣はそういう人間だ。そんな苛つき自体が嫌になり、雪乃は蒼衣から目をそらし首を振る。  
「寒いから、閉めて」  
「うん」  
 蒼衣は残念そうな様子を見せる事なく窓を閉めた。  
 また少し胸が痛んだ。素直に隣に行っていればよかった。  
 やはり蒼衣は気にしていないだろう。だからよけいにつらい。  
 雪乃の向ける敵意や棘を蒼衣は全て受け止めてくれる。ゆえにその棘はそのまま雪乃の中に戻り、雪乃をさいなむ。  
 
 二人は雪乃の自室にいる。雪乃があまり部屋から出ないので、結果として蒼衣もここにいる時間が多かった。  
「何か暖かい飲みものでも持ってこようか?」  
「ええ、お願い」  
「うん、少し待ってて」  
 蒼衣は時間の許す限り雪乃の傍にいて雪乃の世話をしている。  
 世話といっても特に何をするということでもなく、話をする事もそう多くはない。  
 それでも、蒼衣はただいつも雪乃の傍にいた。  
 蒼衣に依存している。自覚はある。結局、自分は蒼衣の優しさに甘えているのだ。  
 でも、分かっていてもどうしようもなかった。今まで自分を支えていたものは恐ろしく脆くて頼りないものだったと実感してしまったから。  
 どうしたらいいのか、自分ではもう分からなかった。  
 
 この街で起こった泡禍によって風乃は消え、雪乃は断章を失った。  
 生きる意味そのものを失った雪乃は自暴自棄になり、蒼衣はそんな雪乃を献身的に世話してきた。  
 そのおかげか、今ではだいぶ落ち着いている。  
 いや、諦観しているだけなのかもしれないと蒼衣は思う。  
 正直複雑な気分だ。雪乃が普通に生きていけるようになった事は嬉しい。しかし、同時に雪乃は生きてる意味を見失っている。  
 蒼衣は未だ断章を持っている。雪乃が失ってしまった力を。  
 その事が雪乃を傷つけているのが悲しい。それを意識するたびに雪乃はやり場の無い憤りを感じているように思う。  
 自分を憎む事が活力になるならそれもいいと蒼衣は思っている。しかし雪乃はそうはしないだろう。  
 怒りも憎しみも、雪乃はいつも自分自身に向ける。  
 そんな、自分には何も出来ない歯がゆさを感じながらも、蒼衣はせめていつも雪乃と共にあろうと思っている。  
 
 蒼衣と雪乃は今、ロッジから離れてふたりで静かに過ごしている。幸い、生活に困る事は無い。  
 蒼衣はこの生活を気に入っている。雪乃さんはどうだろうな、と苦笑しつつも。  
 何も無いが、なにがある訳でもない平穏。満たされている、と思う。例えつかの間のものだとしてもだ。  
「どう、暖まった?」  
「ええ。ありがとう」  
紅茶を飲み終えた雪乃に尋ねる。特に何か話す訳でもないし雪乃の答えもそっけないが、蒼衣は何かある度に雪乃に話しかけている。  
 雪乃の心をひっかいてしまう事があると分かっているが、そうした方がいいと蒼衣は思っている。  
 
「もう一杯飲む?」  
「いいわ、平気よ」  
 言って、雪乃はカップを置く。  
「そっか、分かった」  
 雪乃はテーブルの上に腕を置いて物憂げにしている。  
 このところ落ち着いているとはいえ、雪乃の表情が晴れる事は無かった。  
 表明上は平静を装っているが、やはり蒼衣も気を揉んでいた。  
 いつまでもこのままではいけない。そう思いながらも現状維持を優先してしまう。  
 自分が満足ならそれでいいのか、と自己嫌悪を感じる。  
 そんな考えが顔に出ていたのか、雪乃が心なしか心配そうな顔を見せる。  
 逆に自分が心配させてしまってはどうしようもない。自分の役割は雪乃を守る事だといい聞かせ、表情を整える。  
「なんでもないよ。心配そうな顔しないで?」  
「別に、心配なんて……」  
 少しためらいつつも、蒼衣はそっと雪乃の手を取った。  
「あ……」  
 少しだけ雪乃は面食らったようだが抵抗は無い。おずおずといったように握り返してくる。  
 繋いだ手はそのままに蒼衣はベッドに座る雪乃の隣に寄り添う。  
 自分でも動作が鈍いのが分かる。きっと顔も赤くなっているのだろう。  
 
 蒼衣は自己が男女関係に奥手だということは理解している。今の関係は心地よいし、この関係が変わるのも怖い。  
 だから今まで直接の触れ合いは避けてきたし、今も内心では少し後悔していた。  
 それでも雪乃がぎこちなくはにかむのを見て、少しだけ救われた気がした。  
 
「ねえ、蒼衣」  
 蒼衣の肩にもたれたまま雪乃が問いかける。恋人になってからは蒼衣を名前で呼ぶようになった。  
 しかしそれ以上の進展はあまり無い。こうしてより添う事すら稀だった。  
「どうしたの?」  
 肩に手を回した蒼衣が答える。互いの髪が擦れるのが少しむずかゆい。  
 触れ合う事もあまり無く、ともすれば興味がない態度をとってしまうが、本当は蒼衣に触れているこの感覚が好きだった。  
 
 今なら少しは素直になれるだろうか。そう思い、雰囲気のままに口を開く。  
「ねえ、蒼衣。私は今幸せだと思う?」  
 言って後悔した。何て問いだろう。蒼衣に聞いても困らせるだけだ。  
 それに雪乃自身にも分かっているのではないか。そんなはずは無いと。  
 蒼衣の気配が固くなる。雪乃は失言を悔いたが、蒼衣の答えは予想外のものだった。  
「雪乃さんは、幸せだよ。少なくとも前の雪乃さんよりは。今、雪乃さんが幸福を感じているかどうかは別だけど」  
 戸惑いながら言う蒼衣だが、語調には迷いは無い。  
 蒼衣の言葉に雪乃は驚く。思わず蒼衣の肩から身を離して答える。  
「そんなことは無いわ。……私は、<騎士>であった頃の方が幸せだった。蒼衣にとっては違う事は分かっているけど、それは確かよ」  
 どうかしていると思う。  
 幸せだって言って欲しくて聞いたのではなかったのか。そう思いながらも雪乃は止まれない。  
「<騎士>としての私が、私の全てだった。それ以外の私になって、幸せになれる訳無いじゃない!」  
 激情を向けながら心の中では後悔が渦巻く。出来るものなら泣いてしまいたかった。  
 しかしプライドがそれを許さずに行き場を無くした想いをどうしたらいいか分からなくなる。  
 
 これ以上蒼衣の前に居られない。そうして逃げ出そうとした雪乃を、蒼衣が抱き止めた。  
「それは違うよ。確かに、雪乃さんの決めた雪乃さんの生きる理由は無くなってしまった。でも、それで幸せになれなくなった訳じゃない」  
 雪乃を抱きしめながら蒼衣は言う。雪乃はそれに抵抗はしなかった。  
 自分が蒼衣を必要として、逃げ出そうとして、でも引き止めてもらった。なのにまた逃げたら、ただの馬鹿だ。  
 自己嫌悪で死にそうになるけれど、蒼衣の好意を素直に嬉く思う。  
 雪乃は蒼衣に身を預けると、背中に手を回した。  
 
 雪乃が落ち着いたのを感じて、蒼衣は話し始める。  
「以前の雪乃さんの生きる意味は確かに雪乃さんが決めたものだ。それを貫こうと思うのは分かる。でも、その思いは雪乃さんが<断章>を持った事で生まれたものだ」  
「ええ……そうよ」  
「僕の勝手な理想だけど、雪乃さんは<断章>を抱えなければ僕よりずっと普通に生きられたんじゃないかと思うんだ」  
 雪乃は答えない。そうなのかもしれないが、過程の話に意味は無いと思う。  
 蒼衣は続ける。  
「本当はこんなこと、僕が言っちゃいけないんだけど……。周りの環境は僕らの意思に反して変化する。雪乃さんが<断章>を持ったのも<断章>を失ったのも、雪乃さんの意思の外の話だ。だから」  
 蒼衣の言葉を遮って雪乃は言う。顔を上げると蒼衣の顔がすぐ近くにあった。  
「だから私に、変われと言うの?また、私が<騎士>になった時のように、どうしようもなく変わってしまえと言うの?」  
 そんなのは耐えられないと、目で訴える。  
「それに、卑怯よ。貴方がそれを言うのは」  
「そうだね、分かってる」  
 蒼衣の言った言葉はそのまま蒼衣自身にもあてはまる。それに気付いていないはずは無い。  
 蒼衣は、変わろうとしているのだろうか。  
 
 雪乃は再び蒼衣の胸に顔を埋めて言う。  
「ねえ、蒼衣、貴方はどうして私を抱かないの?」  
「えっ……」  
 突然の問いに蒼衣は戸惑うが、雪乃は体を離す事なく続ける。  
「貴方が好きだって言ってくれて、私も受け入れた。そして今までずっと一緒にいたのに、ほとんどキスもしてくれないのはどうして?」  
 自分こそ卑怯だと思う。  
 蒼衣が善意で言った言を逆手に取って抱いてもらおうとしている。しかも、自分の事はうやむやにして。  
「ねえ、蒼衣……」  
 目を合わせる。声が艶をおびている。  
 変わっていないなんて嘘だ。自分はこんなに変わってしまった。自分は強くない人間だと知ってしまった。  
 自分を支えるものを失い、それを蒼衣に求めている。  
 プライドもなにも全て捨てて言ってしまったが、少しすっきりとした。  
 
 しばらく驚いていた蒼衣だったが、決心がついたのか雪乃を強く抱き寄せて、言った。  
「うん、分かった、いいよ」  
 
「んっ…………」  
 蒼衣は雪乃を抱いたまま口づけをする。お互いに目を閉じ、触れ合わせるだけのキス。  
「はあ……ん……」  
 ついばむような浅いキスをくり返す。蒼衣が離れても、また雪乃が唇を合わせてくる。  
 その積極性に蒼衣は驚く。  
「雪乃さん……」  
「んっ……蒼衣っ…」  
 求め合う心は行為を加速させ、唇が離れている時間は短くなっていく。  
 次第に口づけは激しいものになり、互いの口を吸い合うものになる。  
 呼吸が苦しくなり、蒼衣も次第に冷静さを欠いてくる。  
 雪乃を犯したい、自分のものにしたい。今まで考えないようにしていたそんな思いが心を支配していく。  
「ちゅ……くぅ……ん…んんっ……はぁ……」  
「…んぁ…んっ……ちゅ……んぅ……くちゅ…」  
 舌を絡ませ合う。初めての事なのでおぼつかない。しかし衝動のままに相手の口に侵入し、舐め回し、互いの舌を絡ませ合う。  
 呼吸よりキスする事を優先する。蒼衣はこのまま息が止まるまで雪乃の唇を吸っていようと思った。  
 
 いつしか思考は途切れ、めまいがするまで相手をしゃぶり、互いに限界になって初めて顔を離した。  
「んんっ!あぁっ、はあっ!」  
 悲鳴のような声を上げる雪乃。空の胸に空気を入れようとして、体を支えきれずにベッドに倒れ込んだ。  
 蒼衣も雪乃に引き倒されるようにして倒れ、雪乃の上に覆い被る。  
 しばらく、二人とも荒い呼吸を整えながら見つめ合う。  
「はぁ、はぁ、はぁ、っぁ、はぁ、」  
「はぁっ、はぁ、っはぁはぁ、はぁ、はぁ、」  
 雪乃の頬は真っ赤に上気し、口の周りは唾液にまみれて怪しく光っている。  
 荒い息を吐き続けるその姿は蠱惑的で、未だ回り切らぬ思考に淫靡なものが満ちていくのを蒼衣は自覚する。  
「……驚いた。雪乃さんがこんなに積極的だとは思ってなかった」  
 息を整えながら言う。雪乃は恥ずかしそうに目を反らしながら答えた。  
「蒼衣だって、同じよ……。それに、変われって言ったのは貴方よ……」  
 蒼衣は虚をつかれて、う、と口ごもる。確かに言う通りだし、自分の痴態を思い出して恥ずかしくなる。  
「そうだね……。偉そうなこと言える立場じゃなかった……んっ」  
 言い終わらないうちに、その口を再び雪乃が塞いだ。  
 
「蒼衣、電気…消して」  
「うん」  
 照明を落とすと部屋は窓から入る仄蒼い雪の明かりに満たされる。  
 そういえば今日は雪だったと今更ながら思い出す。  
 ベッドに横たわる雪乃は薄明かりの中おぼろげな蒼衣の顔を見る。こんな時でもあまり緊張していないらしい蒼衣を少し憎たらしく思った。  
 こっちは緊張しているなんてものではないのに。  
 普段のように感情を押し隠す事もできず体がこわばり、蒼衣が少し肩に触れただけでびくりと反応してしまう。  
「………………」  
 蒼衣は安心させるように額にキスし雪乃の髪を梳く。  
 雪乃も蒼衣のその腕を軽く握り、髪留めを外し髪を流す。  
 だいぶ長くなってきたのだから、せっかくなら色気を演出したい。そう思う自分に少し驚くが、不思議と悪い気はしなかった。  
「綺麗だよ。雪乃さん……」  
 その髪を指に絡ませながら蒼衣が語りかける。  
「…………」  
 本当はとても嬉しかったのだが喉に引っかかって言葉にならない。  
 素直になれない。  
 そんな様子が伝わったのか蒼衣がくすりと笑う。悔しかったが雪乃には睨むみつけることしか出来なかった。  
「服、脱がすね」  
「……ええ」  
 蒼衣は雪乃の体を起こすと複雑な造りのゴシックロリータを脱がしにかかる。  
 リボンを解き、背中のジッパーを下ろす。更にいくつかの結びを外し下へおろすと、言葉を挟む間もなく雪乃の肩があらわになる。  
「……蒼衣、貴方慣れすぎているわ……」  
 思わず正直な気持ちが口をついて出た。いくら蒼衣が器用だとはいってもこの複雑な服をこうも簡単に脱がすことが出来るとは思えない。  
 いぶかしんでいると蒼衣は何でもないように答えた。  
「それは、最初の頃は雪乃さんの着替えを手伝ってたりもしたわけで……」  
 思い出し赤面する雪乃。確かに無気力だった最初の頃は、蒼衣に色々と生活の面倒を見てもらっていた。  
「だから雪乃さんの裸を見るのも実は初めてじゃ……」  
「うるさい……殺すわよ」  
「……ごめん」  
 羞恥からか、思った以上に黒い声が出てしまった。  
 雪乃は思いきり顔を反らしながら慌てて続ける。  
「つ、続けて」  
「あ、うん……」  
 蒼衣は雪乃を再び横たえるとその体を愛撫をし始めた。  
 
 上半身は既に下着だけで、整った曲線が夜の光に浮かんでいる。  
 蒼衣は雪乃の首筋や肩にキスしていく。  
 跡がつくほど強くせず、軽く吸いつく。そして雪乃を味わいながらそのなめらかな肌に指を這わせる。  
「んっ……ああっ……あんっ…っん…っ」  
 その度に雪乃は細く声を上げ、蒼衣の官能を刺激する。  
 雪乃の着ているものはワンピースドレスで、上着部分も未だ腰のあたりにとどまっている。  
 その姿は髪を下ろした事も合わて、えも言われぬ艶をかもし出していた。  
 知らず、蒼衣は息を飲む。  
「雪乃さん……」  
 彼女をもっと見たい。そんな欲望が蒼衣に満ちていく。  
 
 背中に手を差し込み、ブラのホックを外す。今度は少し手間どる。  
「ぁ……ゃあ、……」  
「ごめん、雪乃さん。でも、隠さないで……」  
 ブラを抜き取ると形のいい胸が蒼衣の目の前に晒される。  
 大きさはそれほど大きい訳ではないが、上向きの美しい形をしている。その胸に蒼衣は目を奪われた。  
 みとれていると、雪乃がうらめしそうに睨み付けて来る。苦笑して愛撫を再開する。  
「どう、痛くない?」  
 胸を軽く揉みながら聞く。弾力のある双丘を指が包み、少し形が変わる程度に優しく揉む。  
「……平気、んっ、……もっと強くしても」  
 蒼衣は自分も上を脱ぐと胸への愛撫を続ける。  
 乳房に指が沈み込み、ピンク色をした乳首が様々な方向に向きを変える。  
痛くしないようにと思いながらも蒼衣はこの感触にのめり込む。  
 想像していたより張りの強い乳房は形を変えながらも指を押し返し、揉み込む度に雪乃は甘く嬌声を上げる。  
「ぁっ……んっ……や、だめ…あんっ!……あっ、んんっ……」  
 快感よりも痛みの色が強いように思う時もあるが、それでも蒼衣は手を止められない。  
 次第に少しづつ力は増していき、胸の形がぐにぐにと変わる。  
「やっ……くぅっ…んっ…はぁっ、ぁ……つっ!」  
 声に痛みの色が強くなり我に帰る。  
「ごめん……雪乃さん。痛かった?」  
「…ん…平気。少し痛いけど、気持ちいいわ。それに、痛みには慣れているし」  
「……そっか」  
 複雑な気分になるが、今はその言葉に甘えたいと思う。  
 もう一度髪を撫でてキスをすると雪乃は嬉しそうに目を細めた。  
 
「雪乃さん、足上げて」  
「え、ええ……」  
 蒼衣は服を足の方から抜き取り、ソックスも下ろす。  
 雪乃の見に付けているものはショーツと、腕に巻いている包帯だけになる。  
「触るよ?」  
「…………うん」  
 返事は弱々しく、不安がこもっていた。  
 まだ他人が触れた事の無い雪乃の秘部に手を伸ばす。  
 下着越しに触れるとすでに少し湿っていた。  
「っ!あ、あぁ、いやぁ……」  
 初めての感覚に身をよじる。蒼衣はあまり刺激しすぎないように慎重に、丹念にまさぐる。  
 少しずつ上下になぞっていくと少しずつ湿り気を増す。そして雪乃の声も段々と切なげになってくる。  
「はぁぁ……んうぅ……あっ、あんっ………っはぁん…」  
 焦れているのだと分かると蒼衣の表情に愉悦が混じる。  
「気持ちいい?」  
「気持ち、いいわ……」  
 しばらくそのまま続け、下着の染みが濃くなっていく。  
 蒼衣も下着のみとなり、時折胸を揉んだり吸いついたりと刺激を加える。  
「あっ……蒼衣っ、私…もうっ……。そろそろ……」  
「……うん。……分かった」  
 言うと、蒼衣は手を止めて雪乃の下着に手をかける。  
 羞恥に震え、目を閉じている雪乃からショーツを引き下ろす。そして足を上げて抜き取った。  
 薄く毛の浮いた雪乃の性器、それがむきだしになる。  
 蒼衣が直接手を触れると雪乃は声にならない声を上げてびくりと体を弾ませる。  
 その手を離さないまま、蒼衣は聞いた。  
「あのさ……雪乃さん」  
 最後にもう一つ、残っているものがあった。  
「っ、どうしたの……?」  
 蒼衣は言いにくそうに雪乃の包帯を指差し、  
「これも、外すよ」  
と、言って手をかけた。  
 
「え……、あっ……」  
 下着を脱がされる時以上にうろたえているように見えるが、蒼衣は無視して包帯をほどく。  
 未だ治らない傷跡が露になる。この傷を受け入れる。その意思故の行動だった。裏目に出るかもしれないが、覚悟している。  
 一糸纏わぬ姿となった姿となり、困惑する雪乃に蒼衣は言う。  
「ごめんね……でも、とても綺麗だよ、雪乃さん」  
 それを聞いた雪乃は真っ赤になってつぶやいた。  
「……馬鹿……こんな時に真顔で、そんなこと……」  
 聞いて、蒼衣は困ったように笑う。  
 
「なんか、んっ、変な感じ……」  
 蒼衣は雪乃の傷跡に舌を這わせる。優しくなぞるように。  
 セックスの中で行う行為ではないだろう。快感も無い。  
 背徳的なものさえ感じさせるこの行為は何処かしら儀式じみたもので。  
 それでも雪乃は安堵していた。何か、心につかえていた枷が外れるようだった。  
 傷跡をなぞる舌の動きに合わせて蒼衣が秘所を刺激してくる。指を差し込み、慣らしていく。  
 先ほどから雪乃は何度も絶頂を迎えそうになっている。既に軽く達しているのかもしれない。  
「んっ、あぁ、蒼衣、もうっ……早くぅ……」  
 声を抑えられない。蒼衣は頷いて自分も下着を脱ぐ。  
「え?……それ……」  
 そり反った男性器を間のあたりにした雪乃の顔に、驚きと興味の色が浮かぶ。  
 よく見てみたいと思うが、すぐに蒼衣はそれを雪乃にあてがった。  
 雪乃同様に、蒼衣も抑えがきかないようだ。  
 
「入れるよ、雪乃さん」  
「…大丈夫、いいわ……」  
 恐怖を覚えるが、押し込める。  
 覚悟は出来ている。それに、痛みなら慣れっこだった。  
「……いくよ」  
 蒼衣がゆっくりと入ってくる。膣を押し広げる感覚に雪乃は苦悶の息を漏らす。  
 久しく忘れていた身を裂く痛みが襲うが、雪乃はそのまま痛みに身を任せる。  
 蒼衣は一息に押し進め、そのまま雪乃の処女を貫いた。  
 ぞぶり、と一層激しい痛みが体を走り、雪乃の中が蒼衣のもので満たされた。  
「雪乃さん、入ったよ……」  
「はぁっ、ええ、……分かって、る……んっ」  
 痛みに顔を歪ませながら雪乃は言う。  
「動いても、平気。……さっき、あれだけ慣らしてもらったから……」  
 それでも戸惑う蒼衣に雪乃は重ねて言う。  
「それならこうしましょう。<私の痛みよ蒼衣を焼け>」  
「……それは、勘弁して欲しいかな」  
 平気だというニュアンスが伝わったのか。蒼衣はゆっくりと動き始める。  
 実際には激痛はおさまらない。強がっていても痛みに意識が焼ける。  
 だけど、雪乃はこの痛みを味わいたいと思った。痛みと闘争の世界との決別の印として。  
 蒼衣にも余裕は無さそうだった。激しく腰を打ちつけてくる。  
 痛みに混じって快感の波が打ち寄せる。すぐに限界は訪れた。  
「もうっ、無理…イキそうっ」  
 蒼衣が堪えきれずに射精すると、雪乃もそれに合わせ絶頂を迎え、  
「あっ、んんっ、っ、あっ、あぁ、んっ…はあぁぁぁぁんっ!!」  
 
 そのまましばらく、二人で裸のまま語らい、抱き合った。  
 腕の中で眠る雪乃を見て蒼衣は思う。  
 一線を越えてしまった事に後悔は無い。だが、これから二人とも変わらないといけないことに不安がある。  
 しかし、雪乃が変わろうとしているのだ。自分ばかりが臆してはいられない。  
 雪乃のために自分も変わらなければならないのなら、覚悟を決めようと思う。  
「……君の好きにすればいい。誰も君の姿を縛ってはいない。……変われ、変われよ」  
 
 窓の外を見ると、もう雪は止んでいた。  
 
 
――はつかねずみがやってきた、  
――はなしは、おしまい。  
 
 
 

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