決戦前夜。エイミの件の告白がなかったお陰で、ドロドロの展開がなし。  
落ち込んでいたポップは何も知らないマァムに「明日、一緒に頑張ろう。私怖いけど貴方と戦えるなら平気よ」と、男なら誰でも自惚れてしまうような嬉しい発言をされる。  
勿論マァムに深い意味はなかった。しかしそのせいでポップの印は光り輝き、めでたしめでたし。ダイも良い夢を見てるようだし、万全の体制で決戦に望めそう。そんなとき  
 
コンコン  
「誰だ」  
もうすぐ次の日になろうとした深夜、酒を呑み、部屋の椅子に腰掛けていたロン・ベルクの部屋に来訪があった。  
「…マァムです…あの…」  
意外な人物。明日に備えて寝ていなくていいのか?まあ俺に用があるなら大抵は想像がつくが。  
とにかくマァムを部屋に入れた。気配からして、何者かが化けた様子もない。  
 
「で、武器について聞きにきたのか?」  
そう言ってテーブルの上のワインボトルを逆さにする。が、もう一滴しか残っていない。  
「ちっ」  
マァムは軽く舌打ちをしているロン・ベルクをじっと見つめた。  
「あの…部屋で魔甲拳の装備をしてきたんですけど」  
マァムが口を開いた。そういえば装備が付いてるな、思った。  
「む…胸が…全然入らないんです…」  
恥ずかしそうにマァムが答えると、なぜかその場がシーンと静まってしまった。それに気付いたのかマァムは  
「えっと……あ、もういいです。すみません、せっかく作ってもらったのに」  
伝説の名工になんちゅうことを言うんだ自分は、と言い聞かせんばかりにマァムは大きくお辞儀をした。  
しかし彼女は気付いてなかったがロン・ベルクの視線は、じぃと装備を付けたマァムの胸に向かっていた。そういえば右胸が大きくはみ出している。なら見えない左胸も苦しいだろう。  
「いや、悪かったな。フリーサイズだからあまり気にしていなかったもんで。ちょっと見ていいか?そのままでいいからな」  
「は、はいっ…」  
 
マァムは真っ直ぐ立ち、魔甲を付けたその胸の周辺をロンがマジマジと触ってくる。  
「ふむ、これは一度解除してからの方がいいな。戻してもらえるか?」  
「は、はい。わかり…わかり…んん」  
「?……お、おい」  
ふら〜、バタッ  
いきなりマァムがその場で倒れてしまった。気絶しているのか?と、ロンの後ろで時計の音がなる。  
「どうした?」  
心配そうに顔を覗き込むと、マァムはスヤスヤと吐息を立てて眠ってしまっている。  
 
一時間前、彼女、明日のことで緊張して目が冴えていた。それでメルルに「眠りの実はダイさんにあげてしまったのでこれは少し効力が落ちるけど、  
どんな人にもちゃんと12時には眠りに付けるんですよ」と、とあるアイテムを貰っていたのだ。で、装備してサイズが合わないと判ったのがこの一時間の間。予定通りたった今、睡魔が襲ったのだ。  
「…まあ子供だからなあ。明日に備えて無理に起こさない方が良いか…」  
メルルのアイテムのことは知らないはずなのに妙に優しい。何だかんだで女子供には優しいのかもしれない。。  
「しかしまいったな。胸当ては……無理やり詰めてみるか。作り直すのも面倒だし」  
そういって無理に胸ガードの中に余った胸を詰め込もうとする。マァムの胸はひたすら柔らかい。  
「悪く思うなよ。お前のためだぞ」  
 
「全く。12時なんかに寝られるわけねえじゃんか。」  
印も光り、マァムと恋人同士になり(と本人は思っている)、ご機嫌のポップは眠れなかった。  
まあ元々夜が遅い彼は、他の連中と違い、この時間に起きていることに抵抗はなかった。  
「ふんふ〜ん」  
城の周りを散歩する。そしてふとまだ明かりの点いている部屋の窓に目が行く。  
「あ、ロン・ベルクだ。あいつまだ起きてんのか?ん?んん!?」  
ポップの目が窓に釘付けになる。  
「マァム…!?って、あの野郎何してやがんだよ!」  
ポップが窓に向かって突進する。無理もない。仰向けになった自分の恋人が他の男に嫌らしいことをされているのだ。  
「はあ、柔らかくて持ちやすいが、どうしてもまだハミ出るな」  
ロン・ベルクが一呼吸置く。本人真面目に言ってるが、この光景、中年の男が眠っている十代の少女の胸を揉みまくっているしか見えないかった。案の定、誤解した奴が大きく窓を開けた。  
「こらああ!!おっさん、てめえ何やってやがる!」  
「ん、ジャンクの息子どうした?」  
ポップにただならぬ殺気を感じたが、流石に場数を踏んでいる武人だけあり、冷静に事をつづける。  
「うるさい。『それ』はなあ、オレのおっぱ……ふご!!」  
オレのおっぱい……そう応えようとしたとき、眠っているはずのマァムの肘鉄がポップの弁慶の泣き所にヒット。  
マァムはまだスヤスヤと眠っているのに……  
 
「なるほどね。わかった」  
何とか誤解が解けたようで、スネを擦りながらポップは納得した。  
「とりあえず胸はフリーサイズはやめてEカップくらいにしてみるか」  
そう言って、ロン・ベルクはマァムの魔甲を外しにかかる。  
「は?何言ってんの?こいつはFカップだよ。適当なサイズ付けて胸が小さくなったらどうしてくれるんだよ。いいか、因みにスリーサイズは……」  
長々とマァムの身体のことを語るポップ。足のサイズから視力まで。成る程。女の身体は複雑なんだな、と妙に納得してポップの説教?を聞き終えたロン。  
「とりあえず、この胸当ては俺が外すから、今言ったサイズ作ってくれよ」  
偉そうにポップがロンに命令して、ぐいっとマァムの腕を引っ張り自分の方に寄せる。  
「いや、魔法使いのお前の腕力では無理だ。力づくで外すんだからな」  
ロンがマァムのもう片方の腕を引っ張り、ポップから離す。  
「だあぁぁぁ、このエロ魔族が。いいか、こいつは俺の『恋人』なの。こういうことをするなら窓口である俺を通…ごああ」  
今度はスヤスヤと眠るマァムの裏拳がポップの鼻にヒット。……こいつ寝てるんだよな。本当に…  
 
「あ、てめぇ」  
ポップが鼻を擦っているすきに、ロンがガコッと力づくで胸当てを外す。  
窮屈なプロテクターから解放され、服の上からプルルンと揺れる胸に名残惜しみながら、ポップの視線は下へ行く。  
そこにはいつもの艶かしい脚が!脚がない!  
「なんじゃこりゃああ!」  
マァムの下半身、下腹部から足の爪先まで鎧で囲まれている(硬い鉄の長ズボン?を履いたような感じ)。  
「鎧だから全身ガードせねばならんだろ」  
ロンが少しムッとする。当たり前だ。伝説の名工が、せっかく作った武具をけなされたのだ。  
「マァムは武道家だぞ、スピードが命なんだぞ。こんなの付けたら動きにくいだろが!!」  
一般人なら嘘付け、と言いたいが、ロンは意外と鈍かった。  
「心配するな。スピードは落ちない。材質も軽い」  
「い、いや、そうじゃなくてなあ。え、ええっと…あ、こいつ、実は汗かきなんだ」  
 
「汗かき?」  
ロンが目を丸くする。そういえば鎧シリーズには保温効果はあっても吸水効果はないなあとロンは思った。  
「こいつ女だろ。先刻も清汗スプレー持っていこうとか色々気にしてたんだ」  
う〜ん、確かに熱いと汗をかく上、汗を残したままだと風邪をひくからなあ。しかし…  
「しかし脚には魔法防御は必要だぞ」  
「じゃ、じゃあ片足、片足だけにしよう」  
「確かに全身防御より半身防御の方が強かった奴がかつていたなあ。名前はええっと…」  
名前なんてどうでもいいが、取りあえず片足防御なら、太ももの付け根辺りまでだな、とポップは言った。  
「わかった、じゃあお前の言うとおりにしよう。じゃあそっちを引っ張ってくれ。脱がすぞ」  
ロンが右足、ポップが左足を引っ張り、マァムの脚の鎧を脱がせた。今度こそ、今度こそマァムの色っぽい生脚が、武道着のスリットから伸びる。  
「う…ん」  
マァムの脚をマジマジ見つめ、ロンがまた深刻な顔をする。ポップはまだ何かあるのかと聞いた。  
「いや、このスカートみたいなのの下に付けるとな、見栄えはあまりよくないなと」  
「うん、成る程ね。マァムも嫌がるだろうね。うんうん。いっそのこと捲くっちまおう」  
これはマァムのためだと言わんばかりの顔で、ポップはマァムのスカートの裾を捲り上げた。  
心の中ではこれとないくらいニヤケてたのは言うまでもない。  
「そういえば、この髪飾りのリボンは長すぎるな、いっそポニーテールにするか」  
「うん、うん。良い良い」  
その夜、すぐ側で男達によってこのようなやり取りが行われていたとは、スヤスヤ眠るマァムに知る由はなかった。  
 
「ロン・ベルクさんとミストバーンだ」  
「互角だ、あのミストバーンと」  
「(くそお、何で俺がこいつと戦わなきゃならんのだ、このメンバーだとこいつと戦えるの俺しかいないじゃん、早く寝かせろ、徹夜なんだぞ)」  
 
「貴女を倒すわ!」  
「ああ!!それはロン・ベルクの!」  
「そう、これはロン・ベルクさんが作った、ヒュンケルの鎧と…(あれ、昨日のとかなり変わってるなあ)」  
 
「ミストバーンがバーンパレスに帰ったぞ」  
「(やった、眠れる)」  
「くそお、見とれよ」  
「超魔ゾンビだと!!」  
 
「父さん、剣を借ります」  
「(良くわからんが、さっさとやっつけろ)」  
「あああ!!ノヴァ」  
「(くそお、また俺が相手かよ)」  
                 おしまい  
 

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