「ねえ!ちょっと!」
静まりかえった城の廊下。レオナがマァムの腕を掴んだ。
まさかこんな夜中に誰にも逢うことはないだろうと思っていたマァムは驚いて上手く言い訳も出来ずに居た。
「――この部屋に何の用なの?」
レオナは厳しい口調で問いかける。
「…ポップと…話を…。」
「――こんな真夜中に何を話すっていうの?」
やっと出た言葉さえ、簡単に遮ってレオナはマァムから手を離す。
「あなた…あたしが何にも知らないって思ってるの?…夜毎にポップ君の部屋に入り込んで…何をしてるの!?」
マァムは俯いた。
まさか、――煽情的で、焦燥と孤独を感じながら、不条理なセックスをしているなんて、云えやしない。
「…ホント、何にもないから…。」
それだけを云うのが精一杯だった。
レオナは、はぁ、と溜め息を吐いた。――全部知っているのに、という感じで。
「…あのねぇ…どうしてオンナが損しなきゃあいけないのよ?そこまで傷付かなきゃだめな必要でもあるの?」
髪を掻き上げ、少々苛ついた言い方でレオナは眉間に皺を寄せた。
「とにかくねぇ!ホントいい加減どーにかなさい!理不尽だわっ!」
仕上げに指をびしっと刺し、レオナはその場から立ち去った。
マァムはこれからしようとしていることと、レオナの言葉が入り混じって軽く眩暈がした。
――でも、あたしには…これしか出来ないの――
ごめんなさい、と消え行く背中にお詫びをし、目前の扉をすんなりと開けた。
「…んあっ、あ…あっ…。」
湿った声が部屋に響いた。
「…良いんだろ?なぁ?何とか言えよ!」
――乱暴な口調で彼女を犯す。
「…ん、ぁ、き、もち、いぃぃ…っ。」
彼の下で両方の腕を掴まれながら、マァムは身体をいやらしくひくつかせた。
ポップはそれを見て、更に腰を早めた。
「あぁぁ!?や、やぁ!あああああん!」
震える花弁が蜜が噴き出て、燃える茎を濡らした。
ポップはそれがたまらず、ぐりぐり、と茎を壁に擦り付け、白濁液を膣に打ち込んだ。
「…ほら、出てんだろ…俺の…。」
「…あぁ、は、出て、る…」
繋がったままの、マァムの入口からぼととっ、と液体が零れた。
―――本当は、
もう、こんなの嫌だ…。
でも。
突然マァムの眼から涙が零れ、ポップの背筋がびくりと凍った。
「…なんだよ…」
「…なんでも…ない…」
そう云ったら、心の隅っこで、なんて嘘吐き、とレオナがそっぽを向いた気がした。
違う、あたし、嘘なんか吐いてない――打ち消そうとすればする程、涙が止まらない。
「…そんな、嫌かよ!?何でそんな嫌なら毎晩…!」
拳を壁に叩き付けた、ポップの苛立つ声が痛い。
「…あたし、もぅ、わかんない…」
好きなのに、こんなぬかるみに脚をとられるような行為ばかりを繰り返して、好きなのに、犯されるように抱かれて、どんどん『あたし』が削られていくみたいで―――。
好きなのに、
好きなのに、
―――愛している筈なのに。
汚された身体を抱えて、マァムは溢れる涙を止めることが、出来なかった。
こんな傷付け合うばかりで…良いことなんて、無い。
―――知ってるよ。わかってる。
「…マァム…」
今まで俺は、どれだけ自分勝手で酷いことをしてきたんだろう?
ポップは、胸が酷く痛むのを感じながら、マァムをそっと抱き締めた。
「…なんだ、俺、自分ばっかで…おまえのこと…ちゃんと考えてやれなかった…」
こんなに温かいのか、柔らかい身体がこんなに気持ちの良いものだなんて。
今、初めて知ったよ――。
ポップは彼女の体温にうっとりとして、眼を瞑った。
――ごめん、
泣かせたりしたくは無かったのに。
結局、俺ばっかり、俺さえ良ければ良いってどっかで思ってたから――。
ポップは自分の身勝手さに涙が出た。
ぽたり、とマァムの頬にそれが垂れ落ちて、彼女は驚いて自分の涙を止めた。
「…ポップ?」
「…ごめん、…ごめんな…?おまえのこと、あんなふうにして…」
背中に回した腕がより強く彼女を抱き締める。
―――熱い雨が肩に降り注いだ。
マァムも手を伸ばして、そっと背中を抱いた。
「…もっと、いろいろ話をしましょ…?他愛無いことでもいいの…。あたしたち…きっと言葉足らずだったわ…」
―――そうでしょう?
「…あぁ…そうだな…。もっと…。」
涙声のまま、そっとポップが呟いた。
酷いこと、しないって云ったのにな。
―――嘘吐きでごめん。
今度からは、もう、しない。
幼い愛を破り棄てて、ふたりは傷を癒すように唇を重ねた。
もう二度と、悲しい行為を繰り返さないように。